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第148話 【マーカス視点】便利な道具と言う名の存在(前編)

マーカス目線のお話であり、彼の過去が語られます。

俺の名前はマーカス・クレヴァン。

ビュレガンセの西方にあるウェシロスと言う街に拠点としている冒険者ギルド【ティア―オブテティス】に所属しているBランク冒険者だ。

普段は冒険者として活動するための動きやすくも重厚感のある鎧に身を包んでいる俺だが、今は部屋に一人でいるため、タンクトップにゆったりしたパンツ姿だ。

そして現在、貴族が住んでいるような大きな屋敷の一室にあるベッドの上で力なく横たわっている。

俺が今いる屋敷は実家……。ではなく、正確には定期的に赴いた際に利用する宿くらいの頻度しか訪れているだけの場所でしかない。

義父や義兄とは


「俺はいつまで……。こんな生き方をしなければならないのか……?」

(そして、ヴェヌトイル商会と言う名の鎖に縛られ続けなければならないのか……?)


窓から差し込んでくる夜闇を輝かすような月を見ながら、俺は思い起こしていた。


自らが歩んできた人生の歴史を……。


□■□■□■□■□■□■□■□■□


回想・マーカス幼少期~現在まで———————


俺は冒険者向けの武具やアイテムを扱う、一つの商店を経営している両親の下に生まれた。

物心がついた頃には、冒険者達を相手に笑顔で仕事をしている両親の働きぶりをずっと見るようになった。

当時はよく分からなかったが、生活そのものはそれなりに恵まれていたと思っている。

衣食住に関しては少なくとも不自由しなかったから、幸せだと感じていた記憶はある。

裕福な生活は望まないから細やかで穏やかな一生でも構わない、両親と共に願っていた。

しかし……。


「君の両親は亡くなった。だから、ウチに来なさい」

「え?」


俺が9歳の頃、両親は強盗によって殺害された。

本来ならば孤児院で15歳になるまで生きていくはずだったのだが、一人の親戚が引き取る事が決まり、一緒に暮らす事になった。

その相手こそ、ゲルグオ・ヴェヌトイル。

現在のヴェヌトイル商会の会長であり、現在の俺の義父に当たる。

当時の商会はまだ中小規模の部類ではあったが、顧客からの評判は良く、年々の業績は右肩上がり傾向だった。

そのため、義父には既に一人息子であり義兄となるギゼオロ義兄様がいるものの、二人の子供を養うだけの経済的余力はあり、引き取る事を申し出たのだ。

恵まれない環境に晒されやすい孤児院ではなく、お金にはそれなりに恵まれている家庭に引き取られたのは本当に幸運だった。

新しい生活を悪くない環境で再スタートを切れると思えば、不安はなかった。

だが、現実は厳しかった。


「マーカス!お前は裏で商品の在庫整理でもしてろよ!後、俺の部屋も綺麗にしとけよ!」

「は、はい……」

「俺と違って学がないんだから、体力仕事で頑張ってもらうぜ!」

「う……はい……」


引き取られて早々、俺は4歳年上のギゼオロ義兄様に酷い仕打ちを受ける羽目になった。

義父の実子にして一人息子であるギゼオロ義兄様は頭も顔も良いため、義父から溺愛されているのはもちろん、周囲からも愛想のよさを活かして可愛がられていた。

本当は虐げられている事を伝えたかったが、引き取って育ててくれた手前、周囲に打ち明けてしまうのが逆に恐く思って伝えられなかった。

俺が11歳で義兄が15歳になった頃、義兄様が『職授の儀』で授かったギフトは『調香師』だった。

冒険や戦闘には向いていないが、日常生活は勿論、戦闘を交える場面で活かせるアイテムを作るのに役立てやすい、生産や商売に向いたギフトであった。

義父がそれを知った時、自分が手掛ける商売に義兄を参画させ、今度はアイテムの製造にも力を注ぐようになり、事業もどんどん拡大させていった。

それからは……。


「ギゼオロ。お前のお陰で我々の商会も覚えが良くなっている。感謝するぞ」

「当然だよ!今までは武具しか扱えてなかったところに俺が戦闘や冒険の補助、お金に余力のあるお客様に刺さるアイテムを作れるようになったんだから!」

「そうだな。マーカスもギフト次第では分からんが、そうなって欲しいな!そうだろ?」

「は、はい……。ギフトは授かり物ですが、そうなれば良いかと……」

「ちゃんと思い通りのギフトを授かれよ!な?」

「は、はい……」


義父と義兄は軌道に乗り、収益を出し始めた事で増長気味になっていた。

上手く行った時に決起集会をしていた記憶はあるのだが、その時は祝い酒のような様相であり、俺としては楽しむ余裕も無かった。

商売は上手く行くのに比例して、義父と義兄は少しずつ、確実に傲慢になろうとしていた。

扱いの悪さはそのままで、俺が15歳になった。


「何?お前が授かったギフトは『重戦士』!?」

「はい、そのようでして……」

「ほう……」


俺が15歳になり、『職授の儀』で授かったギフトは『重戦士』だった。

商売に向いているギフトではなく、冒険に向いたギフトであった。

義父と義兄様からは、出来損ない扱いされる覚悟を心の中でしてきたが……。

数年した後に……。


「マーカス!この武器でも使えばどうだね?」

「え?」

「父上がこう言っている!そうすべきだ!」

「え?はぁ……?」


ギフトを授かった当初は色々と言われていたが、義父と義兄も俺に様々な武具を与えては勧めてきた。

俺には商人よりも冒険者としての才能があると分かったからだ。

ウェシロスに拠点を置いている冒険者ギルド【ティア―オブテティス】に所属し、クエストをこなし、活躍してきたお陰で冒険者ランクも上げていけた。


「私が用意した武具なのだ!これくらい出来て当然だ!」

「父上に感謝しろよ」

「はい、ありがとうございます……」


当時は武具やアイテムを中心に冒険者向けの道具を中心に商売していたため、界隈ではちょっとした有名店から名の知れた商売人として有名になっていった。

それに比例するかのように、義父も義兄も俺に対する目も変わっていった。

引き取られた時よりも少しだけ優しさを見せるようになった。

だが、それは……。


「マーカス!お前が活躍すればする分だけ我々の商会のブランドを高めていけるのだ!下手を打ってしまうなよ!」

「冒険者に向いたギフトを授かったのだ。冒険やクエストによって成果を出していくのがお前の存在意義である事を忘れるな!」

「はい、心得ております……」


家族としてではなく、自分達が経営する商会の評判を広めるための道具としてだった。

冒険者として活躍して、成果を出せているのは義父や義兄のお陰なのは確かであり、その点について感謝している事に嘘はない。

だが、上等な武器や防具よりも、本当の優しさや愛情を心のどこかで求めずにいられなくなった自分がいる事にも気付いてしまった。

そんな中……。


「今日のクエストも頑張ったな~、俺達!」

「本当に疲れたわ!早くギルドに戻ろう!」

「だな!」

「……」


今の仲間であるジゲラが率いる冒険者パーティー【スターレック】がCランクパーティーだった頃、俺達は一つのクエストを終えてギルドに戻る道中の事だった。


「おら!積み荷をもらうぜ!おっさんよ!」

「うわぁあ!止めてくれ!」

「「「「ん?」」」」


積み荷を乗せた一台の馬車が盗賊団に襲われる現場を目撃した。

それを見た俺達は助けに向かった。


「おい!あの輩達を倒しに行くぞ!」

「分かった!」


だが、この時の俺は知る由もなかった。


俺が更なる束縛に苦しめられてしまう羽目になる事を……。


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