第136話 【クルス視点】再会と決心
クルス視点のお話です!
更に、クルスにとって縁のあるあの二人が登場します!
僕達はクエストを終えてギルドに戻る道中でグリナムに立ち寄り、縁のあるヒライト子爵家当主のアスバン様とその奥方であるミクラ様、両名の一人娘であるチェルシア様と短いながら楽しい時間を過ごしていた。
僕達はアスバン様が手配した馬車でグリナムに到着し、目的地であるティリルに向けた馬車ターミナルへ来ていた。
馬車に乗れば夕暮れ前にはティリルに着く。
のだが……。
「え?一時間くらい遅れている?」
「はい。何でも僕達が乗ろうとしている馬車がトラブルに遭っているみたいで、到着が一時間ほど後ろ倒しとなったようでして……」
「嘘だろ……」
帰りに乗る予定だった馬車が遅れている事を知り、トーマさん達に報告すると、皆少し落胆している。
「じゃあ、一時間後に全員集合する形で、それまでは自由行動にしようか?回復用のアイテムとか買っておきたいし!」
「そうですね!私は前に来た時に行けなかったお店を巡りたいです!」
「良いですね!」
「賛成!」
こうして僕達は別々に行動する事となった。
僕はトーマさんと、セリカはミレイユとエレーナの3人と男女綺麗に分かれた。
それからはトーマさんと少し散策を始めた。
「こうして見ると美味そうな野菜や作物がこれでもかってくらいに売っているな~」
「ここ最近では自家栽培の農家も増えてきているらしいですよ」
「見てるだけで腹が空きそう~」
「ヒライト家のお屋敷でお菓子やクーフェ結構頂いてましたよね?」
「まぁね……」
僕は何気ない会話をしながらトーマさんと街の中を歩いている。
グリナムは僕達が拠点にしている街のティリルと比べれば自然の要素が多く詰まっている。
道の要所要所に花壇や小さな花畑があり、天然に生えている草木もあり、空気も澄んでいて美味しい。
それだけに飲食店や八百屋の他にも、日々の生活に必要な日用品や道具を扱うお店は多く、露店もあって賑やかだ。
平和な街である事は紛れもない事実である一方、その分冒険者向けの武具屋の類のお店は余り見られない。
あっても駆け出しからそれより少し質の高い武器や防具くらいしか置かれていない。
回復用のポーションや冒険に役立つ補助アイテムを扱うお店の方が多いくらいだった。
「にしても平和って感じさせてくれるよな~。グリナムって。食べ物も空気も美味いし、のどかだし!」
「高齢者が余生を過ごすには快適かもしれませんね」
「分かるわ~」
実際に道を歩いているのは子供を連れた家族連れや年配の男性や女性が比較的多く、中には夫婦らしき人達もいる。
冒険者らしき人物もいるにはいるが、僅かに目に付く程度であり、むしろ王都から派遣されている衛兵の方が多いくらいだ。
「そろそろ戻るか?」
「そうですね……。待たせるのも申し訳ないので……」
20分ほど歩いて散策した後、約束の時間が迫っているのもあって、僕とトーマさんはセリカ達と合流するために馬車ターミナルへと戻っていく。
それから数分後……。
「キャッ!」
「あ、すみません……。って、ん……?」
「「え?」」
僕は一人の女性とぶつかりそうになり、咄嗟に身を捩って躱した。
だが、その女性二名を見て驚いた。
「カズナさん……。フルカさん……」
「「クルス……」」
そう、かつての仲間だったカズナさんとフルカさんだった。
二人とは同じ冒険者パーティーのメンバーであり、カズナさんは『アーチャー』でフルカさんは『軽戦士』のギフトを持ったCランクの冒険者だった。
かつてはCランクパーティー【パワートーチャー】と言う集団で活動していたが、当時のリーダーだったドキュノさんの決定で追い出されるように出ていった過去がある。
しかし、そのドキュノさんはイントミス近辺で確認された闇ギルドの一件で当時の僕の後任であり、裏切り者だったゼルナ・ドゥーチェに嵌められて魔改造されてしまい、戦いの果てに死亡してしまった。
カズナさんとフルカさんもそのゼルナと手を組んでいたビデロスと言う男によって、身体に大きな障害が残る程の重傷を受けた事で冒険者を引退せざるを得なくなり、今では実家の家業を手伝っている……と僕が知っている限りの情報だ。
「お二人共、どうしてここに……」
「休憩がてらであそこのカフェで近況報告しながらお茶していて、その帰り道よ……」
「クルスにトーマさんもどうしてグリナムへ……?」
「ティリルから結構離れた距離までクエストに出向いていたんだ。それで道中でグリナムがあって宿泊して、少し散策してからギルドへ戻るところだ」
「そうなんですね……」
僕とカズナさんやフルカさんの間に流れた重い空気の中、トーマさんが説明してくれた。
すると二人は理解したように落ち着いた。
「クルス……。聞いたよ。その……」
「……」
沈黙が続いて数秒が経った。
流石のトーマさんも、何を言えばいいか分からないような様子だった。
それから気まずそうな沈黙が続く事が数秒した。
「色々と活躍してるそうじゃない……。新しいメンバーが入ったり、ダンジョン攻略に関わったりでさ……」
「その、何と言うか……。クルス、逞しくなったんじゃない?」
「そうですか……?」
「そうよ!少なくとも、初めて出会った頃と比べれば、ずっと男らしいって言うか……」
「うん……」
カズナさんとフルカさんは何とか会話の話題を探すかのように話しているが、気まずい雰囲気がダダ洩れになっている。
「そう言う二人は今、冒険者時代の頃とは随分と雰囲気変わりましたね。どちらも実家のお店を手伝うってところまでは覚えているんですけど……」
「そうよ」
「カズナと同じく……」
僕が話を切り出すと、二人は現状を簡潔に話してくれた。
カズナさんはピンク色の髪をポニーテールに纏め、腕まくりした白のブラウスに土の色をイメージしたスカートとかなり落ち着いた格好だった。
フルカさんは白いシャツに薄い青のパンツと清潔さを重視したような格好をしている。
冒険者時代とは打って変わって、どこにでもいる普通の人間の装いだ。
カズナさんは左腕、フルカさんは左脚に障害はまだ残っているものの、リハビリを継続したお陰でいくらか元通りになっているとの事だ。
「クルス……。アタシらが手の届かない場所にドンドン行っちゃうのね……」
「カズナさん……」
「正直に言うと、羨ましいよ……。クルスも……。トーマさん達も……」
「フルカさん……」
「……」
カズナさんとフルカさんは憂いと羨望が入り混じったような表情をしながら僕とトーマさんを見ている。
トーマさんも口を挟む事無く、見守っている。
「僕一人の力じゃないですよ……。トーマさんがいて、セリカがいて、ミレイユがいて、エレーナがいるから僕も前へと進んでいるんです。だからこそ、僕はもっともっと努力していきますよ」
「クルス……」
「もう一度言いますよ。新しい道を進んでいく事を、決して諦めないで欲しいです!」
僕はそう言い切った。
「クルス……。本当に変わったわね……」
「アタシ達の想像も追い付かないような冒険者になっちゃうかも……」
「僕もまだまだですよ」
カズナさんとフルカさんは僕を認めているようだった。
僕は二人に手酷い仕打ちを受けた事はあったが、紆余曲折を経て、最後は赦した。
「もう時間ですね……。トーマさん!」
「もういいのか?」
「ハイ!お二人共、では!」
僕は集合時間に間に合わせるために、カズナさんとフルカさんに向かってお辞儀をして歩いて行き、トーマさんも付いて来る。
すると……。
「「クルス!」」
「!?」
カズナさんとフルカさんは僕を呼び止めた。
それから数秒して……。
「「頑張れ!」」
「……」
二人からエールを送られた。
僕は後ろ向きで手を振った。
『ありがとう』の意味を込めて……。
そして僕とトーマさんは歩き出していった。
「クルス、良かったな……」
「はい……」
歩いている中でトーマさんから励まされた。
二人が新しい道を進んでいるなら、僕も前に進み続けていく。
大好きな仲間達と共に……。
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