第134話 【チェルシア視点】望んでいた再会①
とある貴族令嬢が視点のお話です!
グリナムから少し離れた場所に一つのお屋敷がある。
街にある家屋の数倍はあろう大きく頑丈であり、貴族らしい荘厳さを感じさせるような壁で囲まれたような外観だ。
庭も走り回れるくらいに広く、美しい花がところどころに咲いている。
そんなお屋敷の窓に一筋の朝日が差し込み、わたくしはお抱えのメイド数名に身支度を整えてもらっています。
「チェルシア様。朝起きてからとてもご機嫌がよろしいですね」
「えぇ。天気が良いから……だけならここまでじゃないのよ」
「そう言えば、例の方達が午前中にいらっしゃるんですよね……?」
「そうよ。彼らが泊まっている宿のオーナーからそれを聞いた時はお父様と一緒に是非にって言うメッセージを送り、そして快諾してくれたのよ!」
「それは嬉しゅう事でございますね」
「お嬢様、お食事の用意が整いました」
「ありがとう。すぐに向かうわ」
メイドの一人と会話をしながら身支度を整えると、執事の一人が朝食の準備が出来た事を伝えられ、私はその場所へ向かいました。
「お父様、お母様、おはようございます……」
「おはよう、チェルシア」
「良いお天気ですね。彼らを出迎えるにはこれ以上ない天候と思うわ……」
「はい。仰る通りでございます」
長テーブルの先にはヒライト子爵家の現当主であるアスバン・ヒライトと、その子爵婦人であるミクラ・ヒライトがいます。
わたくしの実の両親です。
それからはお抱えのシェフが調理した朝食をいただきました。
「チェルシア、随分とご機嫌だな……」
「ハイ!トーマさん達とまたお会いできるのですから、今から楽しみです!」
「そうね……。私としても、もう一度彼らと会えればって思っているから……」
お父様はわたくしがトーマさん達と再会できる喜びを見抜いており、お母様はもう一度会ってみたいと言う願いを表情に現しています。
それから朝食を終えて数時間後……。
「お嬢様、トーマ様達がお見えでございます」
「ありがとう!すぐに行くわ!」
執事の一人がそう告げると、わたくしは足早に玄関へと向かいました。
とは言え流行る気持ちを悪戯に前面へ押し出すのは貴族令嬢としては少々はしたないため、わたくしは少し深呼吸をした。
そして従者が玄関の扉を開けると……。
「チェルシア様……」
「皆様……。この度はご足労いただき、誠にありがとうございます」
「我々も嬉しく存じます。今回はお会いする機会を頂けて、本当に感謝しています」
目の前には冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】に所属するCランクパーティー【トラストフォース】の皆様です。
最初に挨拶をしてきたのは、パーティーのリーダー的存在であるトーマさんです。
トーマさん達はかつて病床の身であったお母様を救うべく、特効薬となる素材の採取を引き受けて下さった事があり、見事にそれを達成してくれました。
お陰でお母様の病気は完治しましたので、言うなればトーマさん達はわたくし達ヒライト家にとっては命の恩人と言える方々なのです。
その後も存分に活躍されてはグリナムにもその名前を時々聞く事もございますので、その度にわたくしやお父様、お母様を嬉しくさせてくれています。
そのような皆様と再会できる日を夢に見ていましたので、嬉しさが込み上げてなりませんでした。
「皆様もお元気そうでなによりでございます!」
「私も再会できて嬉しいですよ!」
「ご無沙汰しております!」
「チェルシア様もお変わりないようで!」
再会を喜んでくれている二人の女性はセリカさんとミレイユさんであり、一人の男性はクルスさんです。
わたくしと同年代でありながら、トーマさんと共に活躍している冒険者達です。
それからすぐ、もう一人の冒険者らしき女性の姿が見え、その顔には以前から面識がございました。
「お久しゅうございます。エレーナ嬢。この度はトーマさん達と共に再会できました事を心より嬉しく存じます」
「わたくしも嬉しく存じます。チェルシア嬢」
その方のお名前はエレーナ・ハイレンド。
ハイレンド伯爵家の現当主であるロミック・ハイレンドの実の娘でありながら、『付与術士』のギフトを授かり冒険者として活動しており、わたくしと同じ貴族令嬢だ。
彼女とは幼少の頃の社交の場で数度出会って以来の再会です。
『付与術士』と言うギフトそのものは、冒険者として活動するにも向いています。
エレーナ嬢に限った話ではございませんが、ビュレガンセ国内、いえ、世界を見回しても爵位を持った貴族の子息や令嬢でありながら冒険者として活動しているケースは多くありません。
ですが、ゼロに近いと言うほどの少なさでもないのです。
貴族階級の人間が仮に冒険者向けのギフトを『職授の儀』で授かったとしても、身を守るための術として捕えて有効活用している方も当然います。
ただ、親交のある方が冒険者として活動すると聞いた際はわたくしも驚きを隠せませんでした。
それもそのはず、エレーナ嬢の父であり、お父様とも親交があるロミック様が主催する選考会まで開催したくらいでしたから。
そして加入を決めたパーティーが恩のあるトーマさん達【トラストフォース】と聞いた時には、驚天動地のような衝撃を覚えました。
エレーナ嬢は正式に冒険者として活動するようになってから、時々その名前を耳にするようにもなり、今では心から凄いと思いながら応援しています。
「皆様、お父様とお母様がお待ちしているお部屋までご案内致します……」
わたくしはトーマさん達と共にお父様とお母様が待っているお部屋へと先導する形でご案内しました。
トーマさん達が初めてわたくし住んでいるお屋敷にいらっしゃった時は、やはり未体験だったのか、若干戸惑う様子で歩いていましたが、今では少し緊張しつつも堂々と廊下を歩いていました。
伯爵家のご令嬢であるエレーナ嬢は、言うまでもなくでした。
そうしてお父様とお母様が待っているお部屋の扉まで着きました。
「お父様、お母様、トーマさん達をお連れしました」
「通しなさい」
「皆様、どうぞ」
「ありがとうございます……」
そしてトーマさん達が部屋に入っていきました。
「おぉ!トーマ殿!よく来てくれた!」
「アスバン様……。ご無沙汰しております」
お父様はトーマさん達を見るなり、友好的な姿勢をお見せしました。
同時にお母様も歓迎するような微笑みも見せていました。
「皆様、こうして再会できた事を心より嬉しく思います。お陰様で私もこのように元気になりました」
「いえ、完治されたようで何よりでございます!」
お母様は改めて、自分の病気を治すのに貢献してくれたトーマさん達に感謝の意を表した。
お父様もお母様も、一般の方はもちろん、下の爵位を持っている貴族階級の方々にも誠実さと実直さを決して忘れる事のない素晴らしい人格者なのです。
だからこそ、お父様が領主として治める領民の皆様から確かな信頼を得ているのです。
それからお父様はエレーナ嬢のお姿を見て歩み寄った。
「それからエレーナ様。冒険者として活躍されている噂は常々存じております。最後に拝見した時から一層お美しく凛々しくなられて……」
「ロミック様。お気になさらないで下さい。全てはわたくしの意志で行っている事ですので……」
お父様はエレーナ嬢に深々と下げているものの、彼女は気にも留める事無く落ち着かせている。
友好的な関係と言っても、お父様は子爵でロミック様は伯爵の爵位を授かっている身です。
お父様がエレーナ嬢にどうしても低姿勢になるのは予想出来ていましたが、彼女の性格を考えれば問題なしと見ています。
実際にエレーナ嬢は本当に良く出来た貴族令嬢ですから。
「立ち話も難だ。皆様、お掛けになって下さい……」
「はい。お言葉に甘えて……」
そうして短い時間ながら、お母様を救って下さったトーマさん達との細やかな時間が始まるのでした。
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