第131話 新たに分かった冒険者事情
冒険者全員が野心を持っている訳ではない!
いつもの冒険者生活を送る中、最近勢いを付けている商会であるヴェヌトイル商会の不手際によって発生した追加の運搬物の調達をするための護衛に付く事となった。
目的地のウェシロスと言う街へ、Bランクパーティー【デュアルボンド】の面々と向かう事になり、その仕事を終えて帰路に着いた。
夕方・冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】受付——————
「ヴェヌトイル商会の商隊の護衛、お疲れ様です。これをもちまして、緊急クエストの完了とさせて頂きます」
「「ありがとうございます」」
イアンさんとイオンさんは受付嬢のナミネさんにクエストの完了手続きを終えていた。
「【トラストフォース】の皆、今回は本当に助かった」
「ありがとう。感謝しているよ」
「いえ、こちらこそ。本当にありがとうございます」
「機会があれば、また一緒のクエストに参加できればと思う」
「その日が来る事を楽しみにしている」
「ハイ!」
こうしてイアンさんとイオンさんが率いるBランクパーティー【デュアルボンド】の面々とのクエストは幕を閉じた。
報酬を折半し合った後に俺達とイアンさん達とその場で別れ、拠点にしている共同の邸宅に戻っていく。
「今回のクエストは色々とあったな~」
「そうですね。イアンさんとイオンさんのような先達の冒険者達とも交流が持てて、Cランクパーティー【ゴーファイターズ】の皆さんとも繋がりができて、有意義でしたね!」
「【ティア―オブテティス】のBランク冒険者達とも接点もできて、良かったです!」
セリカやクルスの言う通り、今回のウェシロスに出向くクエストは本当に有意義だった。
ウィーネスさん達と同じランクの冒険者パーティー【デュアルボンド】の面々と一緒にクエストをこなした事で繋がりを持つ事ができて、俺達と同じランクの冒険者パーティーとも知り合い、ウェシロスに拠点を置く冒険者ギルド【ティア―オブテティス】のBランクの冒険者パーティーと接点が持てた。
冒険者同士の繋がりを持つ事で、界隈の情報収集やいざという時の協力関係の構築を持ちやすくなり、時にはモンスター討伐における対象の特徴も入手できる確率も高まると言う副次的なメリットもある。
俺達は今回のクエストだけで3組もの冒険者パーティーと繋がりを持てた事になり、情報交換においての幅も広がる。
そう振り返ると、本当に有意義なクエストになったと実感できた。
「……」
「どうしましたか?ミレイユさん?」
「え?」
「ずっと無口のままでいますけど、どこか具合が悪かったりとかは……」
「ううん!大丈夫!至って健康体よ!」
「そうですか……」
ミレイユの様子を変に思ったエレーナが気に掛けるが、当の本人は取り繕っている。
そう言えばクエスト中やその後のミレイユは上の空だったりしている事が何度かあった。
過去が過去だけに思うところはやはりあったのだろう。
「じゃあさ、途中で何か美味そうなおつまみやお酒とか買ってパーッとしないか?」
「それはいいですね!」
「やりましょう!」
「ミレイユさん!そうしましょう!ね?」
「え?そうしようかな……」
俺はしめっぽい空気をどうにかしようとせんばかりに対応した。
ミレイユは行商人を生業にしていた両親の娘だった。
その両親も経営が上手くいかなかった末にミレイユを捨てて蒸発してしまった。
だからこそ、ミレイユにとっては厳しい過去を思い起こさせたのかもしれなかっただけに、今回の緊急クエストに携わるのは心情的に負担を感じたのかもしれない。
俺達は邸宅に戻ってすぐに、道中で購入した美味しそうな食べ物やお酒を飲み食いして今回のクエストで労をねぎらった。
翌日——————
「フン!」
「やぁ!」
俺はティリルから少し離れた広い草原におり、クルスと木剣で撃ち稽古をしている。
そう、鍛錬中だ。
先日のクエストで一緒にいた【デュアルボンド】のイアンさんとイオンさんの考えに触発され、今日はクエストをお休みにして自己研鑽の時間を取った。
俺はクルス以外にセリカとも撃ち合いながら、立ち合いや動き方で気付いた事やより良いアイデアを皆で出し合って自分の成長に繋げていった。
魔法がメインとなるミレイユとエレーナもそれぞれの強みと弱みを理解し合いながらも、魔力のコントロールや戦術まで、アイデアを互いに伝え合っている。
特にミレイユは今回の鍛錬で随分と身が入っている。
「ミレイユ、気合入っているな!」
「えぇ!イアンさんとイオンさんのお言葉を聞いたら、私も頑張らなきゃって……」
「そうか……。あのさ、【炎魔法】で聞きたい事があるんだけど……」
「何ですか?」
俺もLV.1の段階であるが、【炎魔法】をギフトの恩恵で得られており、ミレイユにアドバイスを求めていた。
普段は明るく元気いっぱいなミレイユだが、魔法のセンスは高くて頭も良い。
ミレイユが俺達の仲間になってからはまるで秘めていた才能が徐々に開花するように強く成長しており、今も助けられている。
「ありがとう。助かったよ」
「トーマさん、やっぱりセンスありますね」
「ミレイユの教えが良いからだよ」
ここ最近のミレイユはどこか気落ちしているような、上の空のような面が見られていたものの、今はその心配を感じさせなかった。
それから撃ち稽古や筋トレ等を続けた。
「ふ~!ちょっと休憩しようか~?」
「そうですね。最初飛ばし過ぎたかもしれません……」
疲労が溜まってきた段階で俺達は休憩を取った。
クエストの合間を縫って基礎トレーニングはしてきているが、かと言って体力は都合よく付いてくれない。
継続は力なりと言う言葉があるように、地道に頑張る事が大切なのだ。
「こうして皆で鍛錬する時間を取るって大切な事だなって改めて思うよ。ケインさん達やウィーネスさん達、イアンさんとイオンさん達もこうしてBランクに駆け上がっていったのかな?」
「そうだと思いますよ。自分の実力に胡坐を欠いてしまわないかどうかが上のランクの冒険者になれると考えているくらいですから……」
俺が呟くと、セリカはきっぱりと答えた。
冒険者と言っても全員が全員向上心、と言うよりも上に駆け上がってやろうとする野心を持っている者ばかりではない。
冒険者はショップの店員や店長、ギルドの職員等の固定された仕事と引き換えに決められたお金をもらえる者達と比べれば、モンスター討伐や採取して欲しい素材を持ち帰る等のクエストをこなさないとお金をもらえない不安定さがある。
裏を返せば、実力次第では沢山お金を稼ぐ事が可能であるって意味だ。
一攫千金を夢見る冒険者の方が多いものの、中には程よく稼いで家族や大切な人と穏やかに生活する事を望む冒険者も一定数いる。
それは俺達が身を置いている冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】にもそのような考えをしている者も一定数おり、他の冒険者ギルドも例外ではない。
本当に人それぞれなのだ。
「実際にトーマさんくらいの年齢でDランクのままの冒険者だって珍しい話ではないですよ。そのような人の大半は上のランクを目指す野心は持たずに堅実に暮らす事を望んでいる傾向にあるので……」
「そうなんだね……」
クルスが補足すると、俺は改めて納得した。
俺の周りには向上心の高い人達が沢山いたから見落としていたけど、その考えで良いもしくは望んでいる冒険者もいると飲み込むには充分だった。
「でも、俺はもっと色んなところを冒険してみたいな~」
「私もです!」
「僕もです!」
「同じく!」
「わたくしももっと広い世界を見て味わいたいです!」
セリカ達は俺と同じ考えを持っている事を再確認するこの頃だった。
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