第121話 【カルヴァリオ視点】ギルドマスター会議①
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一台の馬車に揺られながら、俺はビュレガンセの王都ファランテスを訪れている。
王都と言う名前の通り、ビュレガンセにおける中心の都市であり、国の象徴として全国民に認知されている。
行政や司法を含めた政治機関や商会を束ねる経済機関、高位貴族が所有するカントリーハウスやタウンハウスが連なる貴族街等、正にビュレガンセの中心地である。
俺はある目的のためにそのファランテスに赴いた。
諸々の手続きを済ませ、ファランテスに通じる門を抜けて少しした後、馬車ターミナルに辿り着き、別の馬車に乗り換えて再び出発する。
「カルヴァリオさん、着きましたよ」
「あぁ。降りるぞ」
到着した事を知らせたのは、俺がギルドマスターを務める冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】のAランクパーティー【ノーブルウィング】のリーダー格であるウルミナだ。
当然、ウルミナだけでなく、パーティーのサブリーダー的存在のルエミや同メンバーであるジーナ、ランディー、ラルフも同行している。
理由は護衛の為であり、ウチのギルドのBランクパーティーである【ディープストライク】や【ブリリアントロード】が担った事は数度あるものの、今回は当面の間中長期に渡るクエストがないウルミナ達へお願いする事となった。
俺達が馬車から降りた瞬間、一つの大きな石造りの建物が目に飛び込んだ。
(半年ぶりに来たな……)
そう、ビュレガンセの王都ファランテスに拠点を置いている、ビュレガンセ冒険者連盟本部だ。
ビュレガンセ各地にある冒険者ギルドの統制及び管理をしており、各ギルドの協力クエストの仲介や記録、実績の保管等も担っており、他国のギルドとの折衝や渉外、各ギルドのトップであるギルドマスターを誰にするかを決める決定権も持っている。
正にビュレガンセを中心に活動している冒険者達の総本山と言っても過言ではなく、冒険者を名乗るならば決して無視できない機関である。
「なぁ、あれってAランク冒険者のウルミナ・トレクルスじゃねぇか?」
「隣にいるのはその相棒的存在のルエミ・ジェイレンだろ?」
「て事は、Aランクパーティー【ノーブルウィング】って事だろ?」
「【アテナズスピリッツ】の冒険者達じゃねぇか!」
「それじゃ、中心にいるのはそこのギルドマスターであるカルヴァリオさんだろ?生で見ると風格あるよな……」
「ほら、確かこの時期ってビュレガンセ各地のギルドマスターが介するあれがあるだろ?」
「それでか……。護衛に【ノーブルウィング】が付くとか半端ねぇ」
(まぁ、そうなるわな……)
ロビーに入ってギルドマスター会議に出席する手続きをしている中、冒険者や職員の方達にウルミナらを注目している。
ウルミナ達【ノーブルウィング】はAランクの冒険者パーティーとして名を馳せているため、国内だけでなく、近くの国にもその実力と名声が知れ渡っている。
多くの冒険者やその管理をしている連盟本部の職員がいる状況でウルミナ達の姿が目に入れば、注目の的になるのは自明の理と言ってもおかしい話ではない。
だが、当の本人達はどこ吹く風のような様子だから、深刻に心配する必要はない。
「冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】のギルドマスター様。お待ちしておりました。ご案内致します」
「ありがとう」
俺達は受付を担当した女性職員に誘われる形で建物の中へ通された。
ファランテスに拠点を置く冒険者ギルド連盟の本部なだけに、歩く廊下も長く広く、加えて高級感を感じさせるほどに洗練された空間になっている。
途中で擦れ違うギルド職員数名から歩きながら会釈されており、その立ち振る舞いにも隙が無く、教育が行き届いているのは見ていて分かる。
ここはビュレガンセ冒険者連盟本部と言うのもあるが、模範的でいようとする意識も末端の職員までしっかり持っているのは流石だと思った。
それから数分歩き、一つの一室に案内された。
「ギルドマスター会議の時間まで、こちらのお部屋でお待ちください。お時間になりましたらお呼び致します」
「ありがとう」
通された部屋には6人が過ごすには少し贅沢過ぎるようにも感じさせる広さと内観だった。
置かれている家具も3人掛けのソファがある応接セットに丸いテーブルに椅子が数脚とシンプルだが、一目で貴族を始めとする富裕層が愛用するだろうクオリティであるのは一目で分かった。
俺もここに初めて来た時には驚いたが、回数を重ねれば慣れてくるモノだ。
「ふぅ……。まずは皆、馬車での旅、お疲れ様だな……。今回は護衛を担ってくれて本当にありがとう」
「いえ、こちらこそ……」
俺はソファに腰掛けると、ウルミナ達に同行してくれた礼の言葉を伝えたが、彼女達は当然のように答えた。
ウルミナ達も王都ファランテスやその近くの土地にクエストで赴く事は何度かあるものの、冒険者連盟本部の部屋まで入った事があるのは片手あれば足りる程の回数だ。
それでも、必要以上に気負っている様子がないのは流石と言ったところだ。
「今回のギルドマスター会議ですが、議論する事が多いと思われますね……」
「そうだな。あの闇ギルドの事件が起きたのは前回のギルドマスター会議が終わってしばらくした後だったからな……。加えてベカトルブ近辺で発見されたダンジョン攻略、今回は大変そうだな」
「後に他の冒険者ギルドのマスターとの折衝を交えた交流会への参加、お疲れ様です」
「大事な事であるからそれほど気にしてはいないよ……」
ウルミナとルエミが気に掛けてくれているものの、俺はその場を取り繕った。
ギルドマスターとして、不必要な心配を抱かせるのは本意でないからだ。
それから少しの時間、近況を聞いていた時だった。
「失礼します。カルヴァリオ様。残り10分で会議が始まります。お部屋に向かって頂けますでしょうか?」
「すぐに向かう。では、ウルミナ。一緒に来てもらうよ」
「承知しました」
俺は呼びに来た職員へ直ちに向かう事を伝え、ウルミナを同行させて部屋を出る。
ギルドマスター会議にはマスターの補佐役として一人だけ会議に参加させられるルールがあり、今回はウルミナにその役を請うた。
キャリアも豊富であり、何より先のダンジョン攻略の中心人物である事から、それに関連する話題が出た時は彼女の方がより詳しく説明させられると判断したからだ。
会議が開かれる部屋の扉の前まで来ると……。
「久しぶりだな、カルヴァリオ……」
「ん?」
俺は聞きなれた豪放な声に向かって顔を向けると、ベカトルブを拠点としている冒険者ギルド【アンビシャノブアレス】のギルドマスターであるヴァラガンがおり、同行人にはAランクパーティー【飢狼団】のリーダー格であるガイキもいる。
ダンジョン攻略では大いに力になってくれた男達だ。
「実際に再開するのは半年ぶりだな!元気してたか?」
「あぁ!先のダンジョン攻略の一件、本当にありがとうな!お前には一つ借りができちまったよ!」
「困った時はお互い様だろ?そんなに言うなら今夜高い酒でも振舞ってくれや!」
「おいおい!それって……。別に良しだけどな!」
「よ!太っ腹!」
((仲良しだな……))
俺はヴァラガンと再会を喜び合った。
ヴァラガンとは現役時代に別の冒険者ギルドに身を置きつつも、切磋琢磨したライバル同士でもあり、飲み仲間でもある。
会話もそこそこに、俺達は気持ちを切り替えた。
「じゃあ、入るか……」
「そうだな」
そして、閉じられた会議室の扉を開けて入って行く。
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