SS 12話 【ウィーネス視点】思い出と気持ち
美しき女戦士、ウィーネス視点のお話です!
アタシ達Bランクパーティー【ブリリアントロード】はクエストの帰り道でルゾイエンに寄る機会があり、一泊して楽しんでから帰ろうと思って行動している中、ハイレンド伯爵家の当主であるロミック様の護衛と言う名の休暇を楽しんでいるトーマ達【トラストフォース】やケイン達【ディープストライク】の面々と合流した。
ロミック様の計らいで、一緒に海水浴や食事も楽しんだ。
「本当に綺麗な夕焼けね」
「俺も初めて見たが、想像以上だ……」
「芸術的と言ってもいいわね……」
アタシ達は今、食事を終えて夕日が沈もうとしている海岸に来ており、その情景を楽しんでいた。
そよぐ潮風も心地良く、さっきまでお酒を飲んでいたけど、風に当たっているだけで少し酔いが醒めるような感覚もしてきた。
「風が気持ちいいですね~」
「嫌な事があったら忘れさせてくれそうだ」
トクサとモレラもご満悦のようだ。
二人の表情は明らかにゆるゆるとなっているが、同感はできる。
美しい夕焼けを見ながら心地の良い潮風を肌で感じ取るのは、気持ちを良くさせるからね。
アタシは【風魔法】を習得しているからでもあるのか、風を感じてしまいたくなる性分があったりする。
「それにしても、まさかトーマ達とこんなところで再会しちゃうなんてね~」
「冒険者がクエストを通して、それぞれ様々な場所や土地を転々と巡っているんだ。そんな事もあるだろう」
「そこにケイン達もいるから尚の事よ……」
「それもそうね……」
バダックとリエナの言葉を聞いて、改めてそう認識し直した。
どこの冒険者ギルドに所属していようとも、依頼を受注したギルドの仲介を通してビュレガンセ国内を主な活動範囲としている。
冒険者ランクがDやEだと、受けられるクエストは拠点にしているギルドの周辺が多いものの、A~Cランクともなれば、活動範囲は国内の北から南にまで及んでくる。
それこそ、近隣国の国境付近だけでなく、本当に外国へ入って行くケースもある。
こう言っては何だが、アタシ達はビュレガンセにおける高位貴族の護衛として参加した経験が数度あり、お隣さんの国まで赴いた事はある。
主にモンスターや盗賊から守る役割で参加し、大変な事は多くあったが、今となってはいい思い出だ。
「冒険者の界隈って、狭いようで広いけど、広いと思えば意外と狭かったりすると思う事は偶にあるのよね~」
「「「「だな~~!」」」」
知り合い同士が冒険者であり、その日々を生きていれば、思わぬ再会だって珍しくも何ともないし、『何か縁を感じるかも』くらいには思うものである。
「縁で思い出したんだけどウィーネス……」
「ん?」
アタシは不意にリエナから一つの質問を投げかけられた。
「トーマ達の事を随分と気に掛けているじゃない。それってトーマがいるからとか、セリカがいるからとか?」
「え?」
リエナが不意に呟いた言葉にアタシは固まった。
トーマ達がウチのギルドのAランクパーティー【ノーブルウィング】と一緒にダンジョン攻略に向かう直前まで、アタシらで手解きを施した事があるのは確かだ。
ダンジョン攻略は冒険者にとっては、一度は達成したい目標でありロマンである。
だが同時に、危険がいっぱいな挑戦でもあり、本当に余程の自信がなければ2組以上のパーティーで挑む事を当たり前のように推奨される。
トーマ達が挑んだダンジョンは3組以上でやったと聞いている。
目に掛けているのは本当だけど、実力の底上げを狙って貢献に役立てればと思ってやった気持ちに嘘はない。
「ん……。見知った仲の後輩冒険者がダンジョン攻略なんて、中々イレギュラーじゃん。だから、失敗や命に関わる怪我をする確率を少しでも減らしたいから……」
「なるほど~」
リエナは悪戯っぽい表情でアタシに向かって言った。
トーマやセリカ達に目を掛けているのは紛れもない事実だけど、多方面で含めても、期待の意味で手解きしたのも本当だ。
「ウィーネスって【トラストフォース】の中でもセリカの事は特段気に掛けてるわね」
「え?」
「確かにな。同じギフト持ちの中でもセリカの事は随分と可愛がっているから、とりわけ波長が合うのか?」
「あ~、言えちゃってるかも……」
リエナとバダックの指摘から、アタシはセリカの事についてふと思った。
アタシに限った話ではないが、同じギフトを持った冒険者同士は能力やスキルを含めて何かと共通する所はいくらかある。
話が合う事も多ければ、同じ苦労をしている事は何も珍しい話ではない。
アタシとセリカのギフトは『軽戦士』であり、スピードやテクニカルな立ち回りを活かした戦い方が特徴的だ。
男でもアタシと同じギフトを持っている者は世界を見渡せば大勢いるし、女性でもいる。
でもセリカの事は駆け出し辺りから見知った仲なだけに尚更だ。
「何だろうね……。バダックの言う通り、波長が合うのか、相性が良いのか……」
アタシはセリカの事を考え始めると、ふと思い出していた。
セリカと初めて出会った時を……。
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回想・3年前———————
「へ~。この子がアンタの妹さんなのかい?トーゴ」
「あぁ、セリカって言うんだ」
「は、初めまして……。セリカです。『軽戦士』のギフトを授かりました!」
「しっかりしてる子ね~。アタシは【ブリリアントロード】のウィーネス・ルーラインって言うの!アタシも『軽戦士』のギフトを授かったのよ!よろしくね!」
Bランクになってしばらくして、初めて出会った頃のセリカは17歳で、彼女の今は亡き兄であるトーゴの妹であり、同じギフトを持った駆け出しの冒険者として見ていた。
アタシはトーゴを通してセリカとは何度か顔を合わしている内に、彼女に親近感を抱くようになっていった。
あるコロニー殲滅でアタシ達とトーゴ達のパーティーでアライアンスを組んで大規模なコロニー殲滅に赴いた事があり、そこにはセリカもいた。
「ウィーネスさん凄いです!さっきの【風魔法】と【剣戟】スキルを組み合わせたあの……。えっと……」
「【風魔法LV.3】&【剣戟LV.3】『ディストームブレード』?」
「そうです!数回剣を振り回すだけで、何十体のモンスターを倒していって……」
「アタシの得意技の一つよ!」
セリカはアタシ達がコロニー殲滅をしていく姿を見て感動を覚えてくれた。
それからセリカがアタシに一層懐いてくるようになったのはその頃からだった。
「剣や魔法を教えて欲しい?」
「ハイ!兄からも剣は教わってきましたが、私と同じギフトを持ったウィーネスさんから是非とも教えて頂きたいのです!少しでも強くなりたいんです!」
「ん~。確かにトーゴのパーティーは『重戦士』、『魔術師』、『僧侶』、『アーチャー』だから『軽戦士』は一人もいないわね……」
セリカはアタシに戦い方を教授して欲しいとお願いされた。
同じギフトを持った先輩の冒険者から教わるのは効率が良くて非常に有意義な事だ。
人となりを見ても真面目で誠実で正義感の強い女の子なのは分かり切っているつもりだけど、自分でいいのかなとも思っている。
「もっと努力して、兄やウィーネスさんみたいな冒険者になりたいんです!お時間がある時で一向に問題ないので、ご指導をどうかよろしくお願いします!」
「……」
アタシはセリカが真剣なのを見ていてすぐに理解した。
そしてアタシは口を開いた。
「明日時間ある?」
「え?あ、あります……」
「じゃあ決まり!アタシ達も明日はクエストに行かないから、ティリルから少し離れた草原で稽古を付けてあげる!」
「本当ですか?ありがとうございます!」
アタシはセリカの修行に付き合う事を決めた。
よっぽど嬉しいのか、セリカは満面の笑顔だった。
翌日————————
「もっと強く打ち込んで!」
「やぁああ!」
「そうそう!【風魔法】は空気を掴んで形作る感覚でやるの!そこから刃や槍等をイメージしながら生成していきなさい!」
「ハイ!」
セリカは宣言通り一生懸命に励んだ。
木剣による打ち込み稽古や【風魔法】の特訓、モンスターとの立ち回りや冒険の心得まで教えていった。
それからクエストの合間を縫ってはセリカの修行に付き合った。
「ふん!はぁああ!」
「イイ感じになってきたじゃない!」
セリカはアタシが見ていない時でも基礎トレーニングを欠かさずやっていたようで、剣術や魔法の基礎はしっかりと身に付いていた。
「いい?剣を始めとする接近戦の武器は切っ先だけを見て反射神経で躱すのには必ず限界が見えるわ」
「切っ先以外を見れば先読みできるって事でしょうか?」
「そうよ!目線や肩とかを見て、初動を掴んでいくの!」
「なるほど!もう一回お手合わせよろしいでしょうか?」
「いいわよ!」
セリカはメキメキと成長していった。
気付けばアタシも夢中になって修行に付き合い、時間が合った時は食事や買い物をするくらいに親しくなっていった。
気付けばセリカの事を妹のように可愛がるようになって、セリカはアタシの事を姉のように慕ってくれた。
「あら、セリカ。その髪型は……」
「ハイ!ウィーネスさんの髪型に倣ってやってみました!」
「可愛いじゃん!でもアタシには及ばないわよ~!」
自分の冒険も大切だけど、セリカの成長を見守る事も一つの楽しみになった。
しかし……。
「トーゴ……。何で……」
ある時一つの凶報が届いた。
セリカの兄であるトーゴが遠征先のクエストで死亡してしまった訃報だった。
葬儀が開かれた翌日、セリカの下を訪れた。
「ウィー……ネス……さん……」
「セリカ……」
「うわぁああああああん!」
セリカはアタシの顔を見るなり、その胸に飛び込み号泣した。
涙で濡れるセリカをアタシは抱きしめた。
唯一の肉親である兄を失った悲しみは計り知れない。
かけてやる言葉は見つからなかったけど、その時はただ……。側にいるくらいの事はしてあげたかったから。
回想終了———————
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(あの時も……。こんな感じの風景だったな……)
「ウィーネスってこういった景色を眺めているの好きよね。私も好きだけど……」
「心に安らぎをもたらしてくれるこの雰囲気が好きなのよ……」
アタシは今沈みかけている夕日の風景を見ながら黄昏たような気持ちになった。
それからアタシはしばらく沈黙して……。
「皆……。ありがとうね……。アタシに付いてきてくれて……」
柄にもないような事をバダックやリエナ達に打ち明けた。
聞いている皆は呆気に取られたような表情をしている。
「何なのよ急に……?」
「もしかしてまだ酔っているのか?」
「そうじゃないわよ……」
「アタシなんかと冒険してくれて……。幸せよ……」
「「「「え?!」」」」
皆は固まった。
自分でも何を言ってるんだろうって思っているくらいだけど、言わずにはいられなかった。
「何を言うかと思えば……。そんな事か……」
「え?」
不意に言った言葉に、バダックが頷き、皆もクスっと笑った。
「俺も思ってるよ。一緒に冒険をする仲間がお前で良かったって……。な?」
「僕も助けた事はあれども、それ以上にウィーネスには助けられているんだよ。これは紛れもない事実さ」
「こんな私でも常に思いやってくれる人であるのは、もう理解していますよ」
「バダック……。モレラ……。トクサ……」
バダック達の言葉にアタシの心に嬉しさが徐々に込み上げてくる感覚が込み上げてきた。
「私達、何年一緒に冒険者やってると思ってんのよ……?」
「リエナ……」
するとリエナが当たり前のような感じに問いを投げかけてくる。
「ウィーネスは私やバダックが初めてパーティーを組んだ時からの仲よ。私から見たウィーネスはさ……」
「うん……」
「自由で好奇心や食欲旺盛で時々おバカでお酒大好きで道楽的なところがある女よ!」
「ちょ、そんなに?」
「でもそれ以上に……」
リエナは中々酷な事をぶつけてきた。
アタシってそんな風に思われていたの?
でも、リエナは急に儚くも優し気な表情に変わった。
「私達や親しい人達には誰よりも優しく義理人情に厚くて、行動と言う形で感謝や気持ちを示してくれる姉御肌な女。いざという時には真剣に俯瞰的な目線で物事を見れて、その人達の誰かが傷付けられたら自分の事のように怒れて悲しめて、嬉しい事があれば自分の事のように喜べて……。そんなウィーネスだから、もっと一緒にいたいって思えるのよ……」
「リエナ……」
リエナがそう言うと、バダックやモレラ、トクサも微笑ましい表情でアタシを見ている。
自分で自分を客観的に見つめるのは想像以上に難しいだけに、急に言われた言葉に驚いた。
「少なくとも私からはこの先言う機会があるか分からないから言うよ……。私達のリーダーがウィーネスで……。心の底から良かったって思うわ……。少なくとも、私わね……」
「……」
リエナの眼を見ていても分かる。
本気で言っているって……。
数秒して……。
「何よ~!嬉しいじゃない!そんな事言われたらもうやるしかなくなるじゃん!」
「ちょっと、ウィーネス?」
「どうした?まだ酔いが残っているのか?」
「ううん!」
バダックの気遣いもそっちのけで、酔いはほぼ醒めているけど、リエナを思わず抱きしめた。
「アタシの方こそ……。ありがとうね……」
アタシはそう言った。
「嬉しい事言うな!それを言うなら俺もだぜ!」
「僕もです!」
「私もです!」
アタシ達【ブリリアントロード】は沈みかけている夕日をバックに、絆を再確認した。
もっと一緒に冒険していきたい願いを抱きながら……。
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