SS 9話 【セリカ視点】パジャマパーティー
海水浴に出る前のお話です!
旅行に行った女性達が集まる事と言えば……。
ロミック様の計らいで、ルゾイエンに赴いた宿で部屋を3つ借りている内の一部屋。
私は同じパーティーメンバーであるミレイユとエレーナ、同行しているBランクパーティー【ディープストライク】のフィリナさんとエルニさんらと同じ部屋に泊まっている。
「それにしても6人部屋とは言え、結構広いお部屋ですね」
「そこへ5人で泊まっているんだから、余計に広く感じるのよね~。快適だから良いけど」
フィリナさんと言葉を交わしながら見ている私達の部屋は、女性5人で過ごすには充分過ぎるくらいに広く清潔だった。
ロミック様が仕事で今いるルゾイエンに護衛として同行してきたものの、それは建前と言っていい事であるのが後に判明し、ご厚意でかなり上等な宿泊施設に泊めてもらえる事になり、そこにはトーマさんやクルス、【ディープストライク】のリーダー格であるケインさんや同メンバーのニコラスさんも宿泊している。
お金を出してもらうにしても格安の宿でも良かったのにと言うのが本音だけど……。
「それにしても色々と凄いよね~ロミック様。もといエレーナのお父さんって……」
「え?」
「財力にしても、領地を治める力にしても、本当に凄い手腕やカリスマ性があるって感じてならないのよ。冒険者に対して手駒のように扱う貴族はまだまだいるけど、ロミック様はそんな事全然感じさせないし、正しき権力者って思うのよね」
「確かに、イントミスの一件を思い返せばね……」
ミレイユが発したエレーナの実父であるロミック様の凄さが話に出ていた。
ビュレガンセには貴族の肩書を持つ家系が大なり小なりの領地を持っており、複数の貴族がそれぞれ領主として管轄の土地を治めている。
私達が拠点にしているティリルはロミック様が治めている領土の中にある街の一つだ。
ロミック様は有能な人格者としてその名が通っており、一目置いている他の貴族も多く、手を取り合ってくれる同士も多い。
一方、貴族の中でも怠慢な者、横暴な者、そして名声や領土拡大のためならばどんな事だってしようとする者も当然いる。
隠れて悪事を働いては国に裁かれた貴族も歴史を追っていけばその数も相当だ。
それだけに、ハイレンド伯爵家の当主であるロミック様がミレイユの言うように正しい権力者と言うイメージを確かなモノにしている。
(あれほど立派な方の愛情を受けて育ったエレーナを見ていれば、納得だわ……)
「セリカさん?どうされましたか?」
「え?いや、何でも!さ~てお風呂お風呂~」
「?」
不意にエレーナから声をかけられたけど、私は部屋にあるお風呂に入る準備を整える。
6人部屋なだけあって浴槽は女性3人が入っても適度な隙間があったのでゆったりお湯に浸かる事ができた。
最初にフィリナさんとエルニさんの二人に入っていただいた後に私はミレイユとエレーナと一緒に入った。
「ふぅ~、良いお湯だった」
「最高最高!」
「清潔感も満点でしたよ!」
「あら!上がったのかしら!?」
私、ミレイユ、エレーナの順でお風呂場から出ると、フィリナさんとエルニさんは私達の方に顔を向けた。
「セリカとミレイユはともかくだけど、エレーナはやっぱりお嬢様って再認識させてくれるわね~」
「ですね……」
「?」
((おっしゃる通りだと思います!))
寝間着についてはそれぞれ準備しており、私は黄緑を基調にしたノースリーブのサロペットにハーフパンツとカジュアルな格好に、ミレイユはオレンジ色を基調にした半袖のミニスカートのワンピースタイプだ。
一方のエレーナは薄いピンク色のふんわりとした素材で作られたであろうガウンに身を包んでおり、纏う気品もあってか、異彩を放っていると言う表現は大袈裟だと思うが、改めて彼女が伯爵家の貴族出身である事を再認識させた。
フィリナさんは白いタンクトップに薄い青色のゆったりとしたショートパンツであり、鍛え引き締まった両腕と両脚がスラリと伸びていて、スタイルの良さを際立たせている。
エルニさんはベージュ色のゆったりとしたワンピースタイプであり、エレーナには及ばないけど、お淑やかさを感じさせた。
フィリナさんは素の身長もトーマさんくらい高くてスタイルが抜群で、エルニさんも普段は慎ましい印象も相まって、可愛らしくも見えた。
「もちろん、二人も可愛いよ!セリカだって脚長くてスタイル良いし!」
「ミレイユさんも似合いますよ」
「本当ですか!ずっと前から着ているんですよ」
「最近こう言うのも良いなって思いまして……」
それから私達はルームサービスで用意したワイン等のお酒を楽しみながら、まずは寝間着や食べ物とかの話で盛り上がった。
つい最近、【トラストフォース】の女性陣と【ディープストライク】の女性陣に加えて、【ブリリアントロード】と言うBランクパーティーで親交がとっても深いウィーネスさんとリエナさんを交えた女子会をして日は浅いけど、まぁ良しとしよう。
それから少しして……。
「それで最近のクルスったら~」
「ハイハイ。それもクエストで生存率を高めさせるための一手でしょ」
「自分の身を守るための手段はあるに越した事はございませんからね~」
「聞いている限りにしてもクルスは本当によく周りを見ていてフォローするのが上手いわね~!」
「クルスさんは物静かそうに見えて時に大胆って感じがしますよね」
「実はそうなんですよ~。トーマさんもですけど!」
「それを言うならウチのケインやニコラスだって……」
それから私達は、互いのパーティーの近況報告や最近の流行について語り合った。
その中、私服モードではカジュアルで飾りっ気がないフィリナさんが最近になって女性らしい格好をしてみようかどうか悩んでいる事やエルニさんが少し攻めたような服装を着てみようか悩んでいる話を聞いていると、私にとっては先達の冒険者達であるのは事実だとしても、その前に一人の女性なんだと改めて思うのだった。
かく言う私も同じだけど……。
「フィリナさんやエルニさんもケインさんやニコラスさんとの事、どう思っているんですか?」
「「え?」」
酔いもあってか、思わずそんな問いを投げかける。
今となっては調子に乗ったと後悔していたのは事実だった。
しかし、フィリナさんが口を開いた。
「冒険に出る事やクエストを受ける事はともかく……。その……。本当に頼りになる存在よ……。二人には何度も助けられたし……」
「私もケインさんとニコラスさんには救われていますね……。日常生活でも頼り甲斐がありますので……」
「それは素晴らしい事ですね」
「二人共努力家で凝り性なのよ」
「それが良いところなんです」
続くエルニさんもケインさんとニコラスさんの事について語っている。
Bランクパーティー【ディープストライク】はケインさんとフィリナさんが最古参メンバーであり、結成して数年後にニコラスさんとエルニさんが加入し、その付き合いも10年近くにもなっている。
大怪我による障害が残ってしまう事による引退、方向性の違いから来る擦れ違い等が原因で冒険者パーティーの解散やメンバーの脱退は珍しい話ではない。
ましてや囮にして置き去りにする事や不当な扱いを日頃から行うのは論外だ。
それが発覚すれば規則違反や犯罪行為から来る法的な裁きにより、冒険者の引退どころか一生を棒に振ってしまう。
10年経って尚同じメンバーでいる冒険者パーティーだから、それだけ絆も深く互いをしっかり理解し合っているからこそ、今の関係が続いている。
実際にケインさんやフィリナさん、ニコラスさんやエルニさんは冒険者としての実力も人間性もギルド内だけでなく、冒険者でない人達からの人望も厚く彼らを目標にしている駆け出しの冒険者も多い。
「アタシらから見ても、セリカとミレイユとエレーナも超仲良しに見えるよ!」
「同世代の女子達ですから!ね?エレーナ!」
「はい。セリカさんやミレイユさんには助けられていますから!」
「いやいやそれを言っちゃえばエレーナこそ……」
私がいるパーティーで同じ女性のミレイユとエレーナとも付き合いが深くなってきた。
ミレイユは私が本格的にパーティーを組んで初めての女性メンバーだ。
私が近接戦、ミレイユは中遠距離戦と明確に役割分担ができたお陰で、戦い方に幅が広がるようになって、モンスターの討伐が一層捗るようになった。
行商人の娘として育てられただけに、アイテムに詳しく頭が良い。
その知識や知恵には幾度も助けられたし、魔法のセンスもあって頼りになる存在だ。
エレーナはハイレンド伯爵家の当主であるロミック様の提案で開かれた選考会で出会い、彼女の意向で私達のパーティーに所属する事となった。
出会った当初はいかにも貴族令嬢ってイメージだったけど、いざ一緒にいるとお嬢様口調はそのままでも、礼節や常識をしっかり弁えられて心優しい人格者だった。
先のダンジョン攻略に参加し、修行を付けたAランクパーティー【ノーブルウィング】のウルミナさんらの指導で冒険者として基礎的な心構えや知識を叩き込まれ、【聖属性魔法】を習得してからは聖教国家レリーチャに渡ってそこでも修行したお陰で、確かな実力を持つに至った。
女性の私から見てもエレーナは本当に美人だし、実力も人間性も優れているだけでなく、ビュレガンセにおける貴族同士の関係にも詳しい。
ハッキリ言って、羨ましい限りだ。
今の状況で冒険者生活を続けられるのはエレーナのお陰と言っても過言ではない。
ミレイユとエレーナは大切な仲間であり親友と言っていい存在だ。
「二人には私もトーマさんもクルスも助けられています……。自慢の仲間です……」
「「?」」
お酒の酔いもあってか、私は思わずミレイユとエレーナへの気持ちを打ち明けており、二人は一瞬だけ固まった。
「ちょっとセリカ~!何を不意討ちにそんな嬉しい事言うの?私にとってもセリカもエレーナも大事な仲間であり親友よ~!」
「セリカさん……」
(わたくしの方こそ……。セリカさん達は大切な存在ですよ……)
エレーナは感動した様子で見つめるのを他所に、ミレイユは私を抱きしめてきたけど、嬉しい気分も込み上げた。
フィリナさんとエルニさんも微笑ましそうに見守っている。
「こうして見ると、メンバーって言うよりどこにでもいる親友同士よね~」
「そうですね。それを言うなれば、フィリナさんもケインさんと随分な仲だと思いますけど……」
「ちょっとエルニ!」
「え?ケインさんとフィリナさんがどうかされました?」
「え?あ?ケインとの事って……」
フィリナさんはエルニさんにしれっとケインさんの名前を出されてトギマキしており、エレーナが突っ込んで来た。
かく言う私やミレイユも気になっている。
冒険者であろうと、普通に生きている人であろうと、恋バナってつい気になるのよね~。
「アタシも言わなきゃね。その……ケインとの出会いとか。その代わり……」
フィリナさんがコホンと咳払いをした後、少しだけ真剣な表情をした。
「あんまり周囲に言わない事は約束してね……」
「「「はい……」」」
極力、他言無用にしない事を条件にフィリナさんがケインさんの事について語り始めた。
そして、内心ではそれを楽しみに聞こうとする私達だった。
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