第108話 辺境伯爵との邂逅
新たな貴族が突然登場します!
ベカトルブと言う街に赴いてダンジョン攻略を達成した俺達。
ダンジョン攻略を達成した翌日—————
(緊張するな~)
俺達はベカトルブに拠点を構える冒険者ギルド【アンビシャノブアレス】に赴いている。
本来ならば馬車に乗って帰る予定だったのだが、ウルミナさんがダンジョン攻略を達成した俺達に是非とも会ってみたいと知らされて再度来る事になった。
「うお~。凄い立派な馬車だ……」
「そりゃ辺境伯爵家が使う馬車ですから……」
俺達は感心しながらギルドの中に入っていこうとすると、門の近くには貴族が使う専用の馬車が停まっており、その外観も立派だった。
俺が驚いているとセリカに突っ込まれた。
進んでいくと、ダンジョン攻略に臨む際、一緒に同行してくれたAランクパーティーである【飢狼団】のガイキさんらが出迎えてくれた。
「悪いな。今日の午前中には出る予定だったのに調整してくれて……」
「大丈夫よ。【アテナズスピリッツ】には成功の報告はしているので、帰りの時間そのものは多少前後しても問題ないわ……」
「他の皆も時間を取ってくれて感謝する!ギルドマスターの執務室にブレジール辺境伯爵家の当主がいらっしゃってる」
俺達はガイキさん達の案内で【アンビシャノブアレス】のギルドマスターであるヴァラガンさんの執務室まで通された。
「マスター。全員揃っています」
「お通ししなさい」
「失礼します……」
ガイキさんがノックして声を発すると、ヴァラガンさんが通す事を許可した。
来客の相手も相手なのか、いつもの豪快な雰囲気ではなく、低い声でいながらも丁寧な言い方をしている。
ガイキさん達に続いて俺達が後に続いて入っていく。
「やあ。来てもらって申し訳ない……。例のダンジョン攻略を達成したと聞いたよ……」
部屋のソファに座っているのは、薄い灰色の髪を短髪にした髪型に青がかかった黒を基調にした立派な貴族服に身を包んだ中年の男性がおり、その纏う空気も、まるで熟練された戦士のようにも感じ取れる。
しわが少し目立つものの、年齢よりも少なからず若く見えそうだった。
その側に立つそれぞれが『剣士』や『魔術師』と思しき護衛2名も歴戦の猛者を思わせる風格も漂わせており、一緒にダンジョンに潜ったガイキさんらにも引けを取らない。
「初めましての方もいるから自己紹介をさせてもらおう。私はブレジール辺境伯爵家の当主を務めているベルゲン・ブレジールと申す。今回はベカトルブ近郊に現れたダンジョンの達成に関係する話の為に時間を取っていただき感謝する」
「あ、頭を上げて下さい!こちらこそご足労いただき誠に感謝しております!」
(ヴァラガンさんが平身低頭になってる!)
深々とお辞儀をするベルゲン様と丁寧に接しているヴァラガンさん。
普段は豪快な親分肌の印象が強いヴァラガンさんがちゃんとした言葉遣いで会話しているのを聞いて、意外と礼節を弁えられる人なんだなと思った。
貴族相手に普段通りの気軽な振る舞いをしようものなら、トラブルの種になる事は貴族でない平民でも思い至るからね……。
「オホン!では、本題に入らせてもらおう!まずはダンジョンの発見から達成までの概ねの経緯及び成果を聞かせてもらいたい」
「承知しました」
今回のダンジョン攻略に関係する報告会のような話し合いが始まった。
各パーティーの代表2名ずつが残り、それ以外は別室で待機する事になった。
【アテナズスピリッツ】の【トラストフォース】からは俺とエレーナ、【ノーブルウィング】からはウルミナさんとルエミさん、【アンビシャノブアレス】の【飢狼団】からはガイキさんとジニックさんが担う事になった。
ベルゲン様が座る向かいにはエレーナとウルミナさん、ガイキさんがそれぞれソファに腰掛けており、俺とルエミさん、ジニックさんがすぐ後ろで立って見守る状態だ。
それからはガイキさんが中心となってダンジョンの発見から達成した経緯を伝え、そこにウルミナさんとエレーナが補足しているような感じで進んだ。
「以上がダンジョンの発見からボスモンスターである“デッドガーゴイル”の討伐による攻略までの経緯でございます」
「なるほど……。エレーナ殿が持っている【聖属性魔法】による効果とウルミナ殿の相棒であるルエミ殿の【付与魔法】、そしてトーマ殿のユニークスキルによって、手詰まりだった最奥の扉をこじ開け、ダンジョンのボスである“デッドガーゴイル”を倒すに至ったと……」
「特に【トラストフォース】のトーマやエレーナ達が持っていたパージフルードと言うアンデッド系のモンスターに極めて有効なアイテムを持っている事が成功の要因の一つと見ております……」
「そうか……。パーティーの総合力の高さだけでは叶わなかった成功と言う訳だな……」
ガイキさんとウルミナさんは淡々とかつ正確に経緯を報告した。
要点をしっかり抑えた内容にベルゲン様も納得した様子だった。
「ありがとう。話を聞いている限りでも、【飢狼団】はもちろん、【アテナズスピリッツ】に所属しているパーティーのレベルの高さが大体把握できたよ」
「「恐縮です」」
ベルゲン様は俺達に賞賛の言葉を送り、エレーナとウルミナさんは謙虚に返答した。
「確か【飢狼団】と【ノーブルウィング】はAランクパーティーであるのは把握しているが、【トラストフォース】はCランクパーティーと伺っているが、ダンジョンの攻略に付いていけるとは大したモノだな……。その上達成にも貢献するとは……」
「今回は本当に運が良かったと思っております……。パージフルード数本をエレーナの進言で購入しておいたのがその代表と言っても差し支えないほどです」
「わたくしのした事なんて些細な事ですよ。あの謎の武器を手にする事ができたのはトーマさんのお陰です!」
「ん?謎のアイテム……?」
ベルゲン様が不意に俺達【トラストフォース】を褒める言葉を出し、俺とエレーナは謙遜したが、彼女はダンジョンの最奥の部屋で見つけた謎の武器について口にした。
そこにベルゲン様が食い付いたような素振りを見せてきた。
「ダンジョン攻略についての報告が終わった後にお話するおつもりだったのですが、ここでお話しましょう……」
ヴァラガンさんは少し困惑した表情をしているが、残りは先ほど突然出てきた謎の武器に関連するお話だけだからか、すぐに切り替えた。
そして謎のアイテムをベルゲン様の前に差し出した。
「これがダンジョンの奥で発見した武器です」
「ほう、これが例の……」
見るや否や、ベルゲン様の目の色が変わった。
俺も無意識に表情が強張りつつあった。
「握ってみてもよいか?」
「どうぞ」
「ふ~む。何も感じない……」
ベルゲン様が握ってもやはり何の反応も示さず、試しに護衛2名にも握らせて魔力を込めても変化はなかった。
「そして、『何でも屋』と言う稀有なギフトを持っているそちらのトーマ殿が使うと……」
「はい。ご覧になった方が早いかと……」
(来た!)
出番が来ると思っていたが、案の定来た。
ガイキさんからも「軽くやってみろ」と言う旨の視線を俺に送った。
そして俺は例のアイテムを握り、ガイキさんはデモンストレーションの相手を買って出てくれた。
「行きます!【武術LV.1】『ライダーキック(手加減バージョン)』!」
キィイン!
「!?」
俺はガイキさんに向かって【武術LV.1】『ライダーキック』を手加減した上で放つと、一呼吸で剣のような形から膝より下を覆う甲冑のような形に変わった。
威力を抑えた蹴りはガイキさんのウォーハンマーの柄を捕らえたが、その場から動じなかった。
いくら体格が良いガイキさんでも怪我を負わせる事はしたくないから。
「【回復魔法LV.1】『ショートヒール』!」
キィイン!
「オォオ!また姿を変えた!」
ガイキさんを少しでも回復させようと思い、【回復魔法LV.1】『ショートヒール』を発動させると、天使をかたどったような彫り物のタイプをした1メートル半ほどの長さのロッドに変化した。
その様相を見ていたベルゲン様や護衛達は驚きでいっぱいの表情をしている。
「様々なタイプの武具を見る機会は幾度もあったが、このようなモノは私も初めてだ。こう言っては何だが、連れて来ている護衛2名も実力も魔力もかなり高いと思うのだが……」
「念のためにトーマ以外の人物にも使わせてみましたが、ご覧になった通り彼以外でこの武器を使えないのです。同時に未知の部分も多くございます」
「なるほど、確かにな……。う~む……」
ウルミナさんがフォローするような形で説明すると、ベルゲン様は納得したような様子を見せている。
それからベルゲン様が思案する事、数十秒——————。
「ウルミナ殿が言うように、確かに未知の領域と言うよりも不明瞭な部分がまだ多くあるのは事実だ。そこでだな……」
ベルゲン様が何かを思い付いたようにその表情に活き活きとした力が見え隠れし始める。
そして言葉を発した。
「ダンジョンで見付けたこのアイテムなのだが、一旦の間、王都ファランテスにある冒険者ギルド連盟本部に預けてみるのはいかがかな?」
「え?」
俺達は思わぬ提案と王都の名前が出た事に驚きを禁じ得ない表情となった。
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