第94話 細やかな宴席
ベカトルブに辿り着く前日譚のようなお話です!
ギルドマスターであるカルヴァリオさんのお願いでベトカルブと言う街に赴いて欲しいと言うクエストを受ける流れになった。
Aランクパーティーの【ノーブルウィング】と顔合わせと打ち合わせを終えた俺達は準備を済ませてベカトルブへと向かっていた。
「「「「「「「「「乾杯~!」」」」」」」」」
「あ~美味いね!ここの酒場のエールは!」
「本当だ!いつも飲むエールよりコクがありつつ飲みやすい……」
「この町を何日か拠点にする時はほぼ毎回ここのお店を利用しているんですよ」
「エールもですけど、おつまみも美味しい!」
「本当だ!」
「気に入ってもらえたようで良かったわ!」
「数も数なだけに賑やかですね……」
「まぁ、そうだな……」
俺達は宿泊する事になった町の酒場で飲んでいる。
【ノーブルウィング】がベカトルブやその近辺で何日か滞在する事が分かれば、ほぼ毎回この店を利用するほど気に入っている様子であり、実際に食事は美味しいし何よりエールがティリルで飲んでいる時のモノよりも本当に美味しかった。
「この近辺の山から流れるお水は美味しいと評判なんですよ。それに加えて店主こだわりの素材を使ったエールが飲みたいために遠くからこぞって来るお客さんも多いってお話ですよ。かく言う私も好きですけど……」
ルエミさんがそう解説すると、改めて今飲んでいるエールが美味しいと思った。
「ルエミさんに質問なんですけど……」
「何でしょう?」
「エレーナが【ノーブルウィング】でお世話になった時、ルエミさんには特にお世話になったって聞いたんですけど、実際のエレーナはどんな感じだったのでしょうか……?」
「それ、私も聞いてみたいです」
「あ、私も!」
「僕も興味あります!」
俺はエレーナと同じギフトを持っているルエミさんにそれとなく質問すると、聞いていたセリカやミレイユ、クルスも食い付いてきた
するとルエミさんは色々と思い出したかのように口を開いた。
「そうですね……。一言で表すならば、本当に努力家で素晴らしい方ですね……」
ルエミさんの一言はシンプルだけど、その表情には確信を持っている様子だった。
エレーナは16歳で冒険者ランクEを取った後、ウルミナさん達【ノーブルウィング】はロミック様直々の指名で指南役と保護役を担った。
理由は既にAランクパーティーである事やエレーナと同じ『付与術士』のギフトを持つルエミさんからの指導が受けられるメリットを感じたからだ。
エレーナは同行するようになって以降、ルエミさんを中心に【付与魔法】を始めとする魔法スキルや冒険者としての心構え、戦術や立ち回りなどの多くの事を教え説かれてきた。
ウルミナさんを始め、メンバーは伯爵令嬢を預かっている身として教示しながら守るようなスタンスで臨んでいたため、エレーナが分からない事を聞いて来た時は分かる範囲で答えたが、一定の距離を置いていた。
「エレーナさ……エレーナは自分が貴族である事をほとんど鼻にかけなかったんですよ……。それどころか、私達の事を思って行動してくれた事の方が多かった……」
エレーナは俺、いや、大抵の人が思うだろう「貴族は偉そうで自分の事しか考えていない」と言うマイナスなイメージを抱かせるような人物ではなかった。
ルエミさんから教わった【付与魔法】を中心に会得したスキルでモンスターとの戦闘でも貢献しようと努めていた。
ジーナさんが手傷を負った時は【回復魔法】で癒してくれた。
ランディーさんが自主練習後には、疲労回復に効く紅茶を差し入れていた。
冒険やクエストのノウハウをウルミナさんから沢山教わり、実戦で反復していった。
【ノーブルウィング】のメンバー達は、エレーナが冒険者を志している事を本気で思うようになり、気付けばチームの一員として目に掛け、共に笑顔で過ごすようになった。
ウルミナさん達からの薫陶を受けたエレーナはドンドン成長していった時だった……。
「エレーナが19歳の時に修行を付けている中、不思議なモノが現れたんですよ……」
「それって、もしかして……?」
「はい……。【聖属性魔法】です……」
19歳だったエレーナに突如として、純白に金色が混じったような不思議な魔力を感じたウルミナさんはそれが【聖属性魔法】を会得しかけているのを見抜いたのだ。
エレーナが何度も使用して、それが事実へと昇華していった。
クエストの合間を縫って、ウルミナさん達はロミック様の下へ戻り、それを報告すると大層驚かれたらしい。
それも当然。【聖属性魔法】と言うスキルを一介の冒険者が身に付けられるのは非常にレアなケースであるとの話だ。
それを知ったロミック様はエレーナにビュレガンセから海を隔てて離れた場所に位置する聖教国家『レリーチャ』に約一年の留学を提案し、【聖属性魔法】に関係する情報やノウハウが詰まっている機関へ最終的に留学を決めた。
そして留学期間を終えてビュレガンセへ、そして実家へと戻る事になって、ロミック様主催の選考会を経て、俺達【トラストフォース】の仲間になって現在に至る。
「それでも、Cランクの冒険者パーティーである【トラストフォース】を選んだのがエレーナの意志であるならば、いたずらに止めるのも不躾と思ったのです……う……。そして、こんなにも立派な冒険者になられて……。指南役として鼻が高いです……」
「ルエミさんは酔うと感激しやすくなるんですよ」
「そうなんですね……」
経緯を話した後のルエミさんは心なしか、泣きそうな様子だった。
ランディーさんによると普段は慎ましいが、酔うと泣きやすいとの事だ。
それにしてもエレーナは本当に凄い努力家で高潔な精神を持っている事をルエミさんの話から聞いて改めて感じ取った。
同時にエレーナの事も守っていかなければならないと思う俺であり、それはセリカ達も同じ気持ちだろう。
「そう言えば、【ノーブルウィング】って5人組のパーティーですよね?もう一人は……」
「あぁ、ラルフの事……?」
「そのラルフさんと言う方が5人目のメンバーって事なんでしょうか?」
「そうよ。彼も冒険者ランクAの『シーフ』よ」
「ランクAの『シーフ』!」
俺がウルミナさん達のパーティーにおける今は一人現地付近にて、情報収集で滞在している5人目のメンバーについて聞いてみると、何と例に漏れず冒険者ランクはAであり、ギフトは『シーフ』との事だ。
クルスから見れば大先輩と言う事になる。
当然、クルスも関心度が高まっているような表情をしている。
「俺とほぼ同時期に【ノーブルウィング】へ入ってな……。二人で活動しているところにウルミナさんからスカウトされたんだ。攻撃的な前衛がもう一人欲しいのと情報収集及び隠密行動に長けた『シーフ』などが欲っしていたのが理由だったな……」
「そーそ!その上剣術にも体術にも長けているのよ!そして今回のダンジョン攻略の要となる男よ!」
「そうなんですか……?是非ともお会いしてみたいですね……」
「明日合流するから紹介してあげる!」
ランディーさんとラルフさんが二人組で行動しているところでウルミナさんから誘われてパーティーに入った事を知り、ジーナさんからも補足事項の意味で鷹揚に説明された。
クルスも会う事を心待ちにしているようだ。
それにしても『シーフ』を始めとする後方支援系は成長が遅いパターンは多いけど、ランクAの『シーフ』まで駆け上がるとは純粋に凄いと思い、相当努力してきた事がイメージできた。
クルスも努力家なんだけどね……。
エレーナやそのラルフさんについてのお話の後には冒険談議に華を咲かせて宴席は進んでいった。
「ミレイユ!ほら!しっかり!」
「えへへへ~」
「ミレイユはお酒好きだけどよく酔うんですよ!」
「あらあら」
「可愛いじゃない!」
「酒は飲まれないようにしないと厄介だぞ」
クルスが酔ったミレイユを介抱し、セリカが説明すると、ルエミさんとジーナさんは微笑ましく達観した様子であり、ランディーさんは後ろを付いて歩いている。
「個性豊かね~。【トラストフォース】は……」
「あははは……」
ウルミナもやれやれと言った言葉と表情に俺は苦笑いしている。
「でも……。興味深いわ……。面白いパーティーに入ったわね……。エレーナ」
「ハイ!素晴らしいチームです!」
「明日も早いからもう宿に戻りましょう!」
「そうですね……」
そうして俺達は宿へと帰路に着いた。
「ふう~。さっぱりした~!」
「おじさんみたいな言い方ですね!」
「なっはっはっは!なんちゃって!」
「これで全員シャワーを浴びたわね……」
ウルミナさん、ルエミさん、ジーナさんが泊まる部屋にはシャワーを浴び終えた3名がいる。
ジーナさんは黒いタンクトップに茶色いジャージのような格好と非常にラフでゆったりとした服装であり、そこらの男性冒険者よりもガッシリした筋肉質な腕が逞しい。
一方でウルミナさんはラベンダー色の、ルエミさんはベージュ色の淑女を思わせるようなガウンに身を包んでおり、ふわふわしたような生地だから着心地が良さそうだ。
「ウルミナ、町に着く前で遭遇した“ギガヴォルグ”二体と【トラストフォース】を見たと思われたけど、どうだった?」
「そうね……」
ルエミさんは俺達が道中で出くわした“ギガヴォルグ“との戦闘についてウルミナに問いかけていた。
「とても見どころがあるわよ。チームワークも抜群で個々の実力も高いしまだまだ伸びるって思ったわ。エレーナのサポートを上手く活かしていただけではなく、一人一人がそれぞれの役割をしっかり理解しながら合理的に立ち回っていた。私の見立てだと、Cランクパーティーの中でも上位に入っているわね……。少し甘く見ても、ポテンシャル的にはBランクも視野に入りそうかも……」
「あら本当?アタシも見てみたかったわ~」
「ウルミナがそこまで言うとは……」
ウルミナの感想に対し、ジーナさんは陽気に、ルエミさんは感嘆したような様子で応えた。
特にルエミさんはウルミナさんとはパーティー内で一番付き合いが長いため、その言葉は本物であると直感していた。
「ウチのギルドには優秀なBランクパーティーが数組いるけど、【トラストフォース】……。目が離せなくなりそうね……」
ウルミナさんは窓から美しい光を照らす満月を見ながらそう呟くのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
ブックマーク&評価をお待ちしております!
評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】をタップして頂ければ幸いです。
『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直な感想で構いません。
ブックマークもしていただければ、とても嬉しく思います!
是非ともよろしくお願いします!最後までお読みいただきありがとうございます。
面白いエピソードを投稿できるように頑張っていきます!




