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僕たちの学校です  作者: 笠原ヤナ
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1章 Actions speak louder than words

「痛っ!」

突然足に伝わる疼痛に跳ね起きる。

「やっと起きた?」

女医だろうか、気怠気な白衣姿の女が足をつつきながら答える。

「痛い!痛いですってさっきから!」

「そりゃぁ折れてるからねぇ、足。」

女医風の女は机に向き直し書類に目をやる。

「あの、ここどこですか?」

「そりゃ、あなたがいるのはベッドの上でしょう。」

「いや、そうじゃなくてどこの!」

「あなたが通う私立嶺賢高校の保健室よ。そして、私が保健医の白川、よろしく。」

辺りを見渡すと医薬品だろうか、薬品棚やベッド、身体測定で使うような器具も目に入る。

窓に目をやると外が薄らとか暗くなっている。ここからでは時計は読めないがこの時期だと18時半くらいか。

「そんなことよりもさっきからもっと気になることがあるんじゃないの?」

白川がまた僕に向き直りながら尋ねる。

ドキッとしながら押し黙る。あれが現実な訳ない、そんなことあって良いはずがない。そう思っていた。

「じゃあ、こっちから聞いてあげる。1年C組の○○○○君。君はなぜあそこにいたの?どこまで見たの?そして、あなたは今”なに”?」

――何を言っているのだ?僕が”なに”かだって?

「言っている意味がわからない?じゃあこれでどう?」

白川が折れている足を思い切り叩く。

「何、痛!…く、え?」

折れていたはずの足、骨折での痛みどころか叩かれた痛みさえ感じない。

「は?…え…?」

「流石に覚醒すると治りが早いようね。」

ありえない、骨折した足がこんな早く治る訳がない。普通の人間ならばー

「どうなっ…て、なんで…。意味がわからない…。なんで…なんでなんで」

「落ち着きなさい。のまれるわよ、狂気に。」

今までふざけていた言動が嘘のように真面目に告げる。

「あなたはもう人じゃないわ。諦めなさい。」

嘘だと言って欲しい。さっきまでの悪ふざけの延長線だと。

「まあ、未だに人の形ではあるし理解ができないのも無理はないでしょうね。」

未だ真面目に白川は続ける。

嘘ではないのだろう。そう思うほど自分の中の何かが崩れていく、深い闇に落ちていく。

「これ飲みなさい。多少は落ち着くわよ。」

白川は薬品棚から薬剤を取り出し、部屋の一角にある妙に生活感のあるキッチンらしき場所から水を汲みそそれぞれと手渡してくる。

「どうも…」

それを受け取り一気に呷る。それと同時に不思議と気分が落ち着いてきた。

「あの、僕は一体なんなんでしょうか。」

「それを説明するにはあの場所から説明する必要があるでしょうね。」

「あの場所、あなたが見たであろうあの場所は救済機関の儀式場ね。

救済機関ってのは人間をあなたのような存在に変えて人類を限られた命から救済するためなんて、ご立派な信念掲げてる団体よ。」

「儀式場もといえば聞こえはいいけど、要はあいつらの人体実験場ね。」

聞くと同時にあの時の光景がフラッシュバックする。

血と薬品との混ざったような臭い。赤黒く汚れた何かの骨で作られた台座らしきもの。

台座に置かれたかつてクラスメイトであったもの。ガラス越しのに覗く白衣の人間。

「う…うぇ…」

吐き気が込み上げてくる。あそこはおおよそ人が-少なくとも一高校生が1足を踏み入れるような場所ではなかった。

「ちょっと、ここで吐かないでよね。」

白川は冷たく言い放す。

「はあ…で、あなたはそこで人間ではないものに変えられたの。あいつらはあなたみたいなのをGift from the Abyss、GA対象なんて呼んでるわね。」

「Gift from theAbyss…、深淵からの贈り物…?」

「まあ、私たちは深淵の淵に立つ者、淵人と勝手に呼んでるけどね。」

「私”たち”?」

そう言った直後、部屋の扉を叩く音がする。

「失礼します。」

入ってきたのは肩から鞄を掛けた、淡く茶色髪を二つに結ぶ小さな少女であった。

体格に見合わず顔は強気そうだ。

「白川先生、先程の彼は…。ああ、起きてるのね。」

白川に尋ねかけ、途中で気付いたのかこちらのベッドまでか近づいてくる。

「ちょうど良かった。紹介するわ、あなたも入学式で見たことあるでしょ?この学校の現生徒会長の市村緋色よ。」

「よろしく。先生、どこまで説明を?」

手近な椅子を手繰り寄せベッドの近くに座る。

「彼の状態を話してちょうど私たちの話をしようとしたところ。」

「そうですか。じゃあ私から説明します。」

彼女はこちらを真っ直ぐに見つめ、真剣な顔持ちで話し始める。

「私たちは淵人にされた者たちで救済機関に対抗しながら人に戻る方法を探るための組織。名前を、人たるための互助組織、『MAOBAP』と言います。率直に言います。あなたを勧誘に来ました。」

人に戻る…、その言葉を聞いてやはり自分が人ではなくなったと言う事実を思い知らされる。

「人に…戻れるんですか?」

「さあね?でも、私は戻る。絶対に。」

彼女の表情から強い信念のようなものを感じる。しかし、そんなことができるのか?あんな理解できないような奴らに対抗して…。

「無理ですよ…。こんな人智の及ばないようなことに対して!」

「無理と言っていればできないわ。」

「そんな、言うだけならいくらでも…!」

「あら、いいこと言うのね。」

彼女は立ち上がりながら告げる。

「Actions speak louder than wordsだから私たちは行動します。何よりも自分のために。」

「人に戻りたければ、何より覚悟があればそれにサインして部屋に来なさい。私たちは歓迎する。」

同時にカバンから2枚の紙を手渡す。一枚は校舎の地図、その中のに一室に印がつけられている。もう一枚は契約書のようなものだった。

「それではこれで失礼します。」

彼女が退出すると同時に白川がタバコに火をつけ煙を燻らせる。

「来るも来ないも自由だけど選ばなかった方を後悔しないようにね。

さあ、今日はもう帰りなさい。あなたの荷物は扉の近くに置いてあるわ。」

「…はい。」

ベッドから立ち上がり、自分の荷物を掴み帰途につく。


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