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鼻穴が勝手に⋯

ヨッシーのショートshort「鼻穴が勝手に…」


小生、

今朝から、鼻穴の奥に意味知らぬ違和感を覚えていた。

鼻穴に栓をされたというか、鼻穴の中が詰まっているというか、とにかく空気が上手く吸い込めない状態であった。

鼻こよりをしてみたり、綿棒でつ突いてみたりしてみたが、一考に違和感は取れない。

書生や細君にも相談してみたが、皆目検討がつかない。

業を煮やした小生は、とうとう医院に行くことにした。


「あ〜これは、副鼻腔炎ですね」

「はあ」

「鼻腔の中が炎症を起こし、腫れて空気の流通が不自由になっているんです」

「まあ、いわゆるアレルギー性鼻炎ですね。点鼻薬を出しておきましょう。ここまでひどい状態だと、しばらくかかります」

遠慮したい、

小生は薬が苦手だった。

「まず、使い方をお教えします」

先生は、戸棚から小さな器具を取り出した。そして、小生の鼻穴に突っ込んだ。

シュルッ、

クリクリクリ、クリ、シュッ、

タラ、

温かい水が鼻穴内に噴出した。

シューン、

あっ、という間に違和感が取れた。

多分、薬によって腫れていた鼻穴の炎症が治ったのだろう。小生、少々安堵した。

程よくガーゼで鼻穴を洗浄し、施術は無事終了した。

「そうそう、まれに副作用がありますが、のちに治まりますよ」

と、先生は言い残した。

「副作用か」

ただ少し、

看護婦のスカートが揺れたのが気になっていた…


帰り道のバスの中、

数人の乗客が乗っている。

小生、また、意味知らぬ違和感を覚えてきた。

「苦しい、」

おもむろに袋から点鼻薬を取り出し、鼻穴に突っ込んだ。

シュルッ、

クリクリクリ、クリ、シュッ、

タラ、

温かい水が鼻穴内に噴出した。

シューン、

突然、鼻穴から空気が飛び出した。

まるで、空気鉄砲でも撃ったかのように勢いよく空気が飛び出した。

ふわり、

近くに座っていた紳士の帽子が、吹き飛んだ。

「おっと、失礼」

紳士は、すぐさま帽子を拾い被り直した。

何が起きたんだ?

小生、この不可思議な現象を理解することが出来なかった。

これは、どうしたものか。

落ち着つけ、落ち着つけ、

小生、何度も自分に言い聞かせ、事態を冷静に分析した。

点鼻薬をして、

鼻穴が通り、

鼻穴から空気が飛び出して、

紳士の帽子が床に落ちた。

さするに、小生の鼻穴が原因?

すると、

シューン、シューン、

再び、鼻穴から空気が飛び出した。

今度は二発、連続に飛び出した。

かなり勢いが強い、向かいの席の夫人のスカートが捲り上がった。

「きゃー」

慌ててスカートを押さえる夫人。

キョロ、キョロ、

辺りを伺うが、空いている窓はない。夫人は、不思議にそうに思うが、再び平素に座り直した。

すると、

シューーン、

再び、鼻穴から空気が飛び出した。

今度のは、かなり大きい空気だった。

「きゃーー」

再び、スカートを押さえる夫人。さっきより大きく捲り上がっていた。

夫人、再びキョロキョロと辺りを伺うが、やはり開いている窓はない。狐につままれた様な顔をし、前方へと席を移動した。

これは、点鼻薬の副作用なのか?

小生、特殊な経験に驚きを隠せなかった。

そうだ、

先生も言っていた。

「まれに副作用がありますが、のちに治まりますよ」

これは単なる副作用なんだ、いずれ治まる。

小生、急いで家路へと向かった…


自宅、

小生、先程の出来事を思い出しながら、鏡で鼻穴を調べてみた。

ふがふが、

ごく普通の鼻穴だ。これといって変わった様子はない。たぶん、特別な条件の特別な時だけに症状が起きるのだろう。もう、だいぶ時間が経った。あれから、空気も飛び出さない。もう、大丈夫だろう。

しかし、

一抹の不安は拭えなかった…


午後、

所要で出版社へと出かけた。

エレベーターの中、

小生、また、意味知らぬ違和感を覚えてきた。

「苦しい、我慢ができない」

ポケットから点鼻薬を取り出し、鼻穴に突っ込んだ。

シュルッ、

クリクリクリ、クリ、シュッ、

タラ、

温かい水が鼻穴内に噴出した。

シューン、

再び、鼻穴から空気が飛び出した。

「きゃー」

目の前の婦人のスカートが、大きく捲れ上がった。

「何んて、ハレンチな人!」

パシン、

頬をぶたれた。

その婦人は、大きく憤慨していた。

「小生ではない。いや、小生かもしれないが不可抗力だ」

意味不明な言い訳をした、余計怪しまれた。

「何を言っているの、あなたしか居ないでしょう。しかも認めているし」

「いや、私の鼻穴が勝手に…」

シューン、

再び、鼻穴から空気が飛び出した。

「きゃー」

また目の前で、婦人のスカートが捲れ上がった。

バシッ、バシッ、

また頬をぶたれた。今度は両方だ。

他の乗客は皆、小生を軽蔑の目で見ている。


なんと恥ずかしいんだ!


チーン、ガチャ、

小生、ドアが開いたと同時に慌ててエレベーターから飛び降りた。

「小生ではないんだ、小生の鼻穴が勝手に…」

叫びながら走って行った。

何度、言い訳を言っても、

暖簾に腕押しだった…


夕刻、

結局、出版社で所要もできず帰宅した。

小生、落ち込んだ気持ちを癒すために、酒場へと出かけることにした。


「お燗を一杯もらおう」

小生、女将に注文した。カウンターに座る。

今日は、本当についてない一日だった。こんな酷い日はない。早く、この副作用が治まることを祈るしかない。

「おまたせしました」

女将が、お燗を持って来た。

シューン、

再び、鼻穴から空気が飛び出した。

すると、隣の席の女性のスカートが捲れ上がった。

「キャー」

「何するんだ、この野郎!」

女性の男らしき者が、小生に掴みかかってきた。

「小生ではない。いや、小生かもしれないが不可抗力だ」

また、意味不明な言い訳をした、余計怪しまれた。

「何を言っているんだ、お前しか居ないだろう。しかも認めているし」

「いや、小生の鼻穴が勝手に…」

シューン、

再び、鼻穴から空気が飛び出した。

「きゃー」

またまた小生の目の前で、女性のスカートが捲れ上がった。

バコッ、

殴られた。

他のお客も皆、小生を軽蔑の目で見ている。

「し、小生では…」

シューン、

再び、鼻穴から空気が飛び出した。

「きゃー」

今度は、女将の着物が捲れ上がった。

「とんでもねぇ客だ、出てってくれ!」

オヤジが怒鳴った。

なんと恥ずかしいんだ。

「小生ではないんだ、小生の鼻穴が勝手に…」

何度、言い訳を言っても、

馬の耳に念仏だった…


その晩、

小生の目には青あざがあった。

痛々しい。

なんて一日だったんだ。

結局、所要もできず酒も飲めず、最低な一日だった。

すると、

また、意味知らぬ違和感を覚えてきた。

鼻穴が詰まってきたのだ。

「苦しい、我慢ができない」

小生、ポケットから点鼻薬を取り出し鼻穴に突っ込んだ。

シュルッ、

クリクリクリ、クリ、シュッ、

タラ、

温かい水が鼻穴内に噴出した。

シューン、

再び、鼻穴から空気が飛び出した。

「きゃー」

目の前の細君の着物が、大きく捲れ上がった。

「小生ではないんだ、小生の鼻穴が勝手に…」

細君は、頬を赤くして小生を見つめた。

「…エッチなお方」


まあ、

最後は、いい一日だったかもしれない…

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