耳人2
ヨッシーのショートshort「耳人2」
「反対側にはな、別の耳人が住んでいるからな」
えっ!誰だろう?……
あの日以来、
私は、ずっと気になっていた。
もう一人の耳人、
いったい誰なんだろう?
ある日、
反対側の耳から耳垂れが出た。
ダラダラと垂れてくる。いろいろ対処したが、いっこうに耳垂れは止まらない。
「もうダメだ、病院へ行こう」
私は耳鼻科に行った。
「どうしました?」
「はい、耳から耳垂れが止まらないのです」
「そうですか、どれどれ」
先生は、私の耳の中を覗く。
「ははーん、」
「これは、耳人がお風呂のお湯を溢したんですね」
「耳人!」
私は驚いた。
「先生は、耳人を知っているんですか?」
「当たり前だよ、私は耳鼻科医だよ」
「それなら話が早い。こちらの耳の耳人を出してくれませんか?」
「何故?」
「一度、話がしたかったんですよ」
「ほ〜、君は耳人と話をしたことがあるのかい?」
「はい、」
「それは、珍しい。耳人は滅多に外に出てこないんだ。特に宿主とは一生話もしないんだよ。君は運がいい」
「そうですか、たまたま偶然に話をしただけですが」
「でも、難しいね。私でも出来るかどうか」
「お願いします、先生」
「解りました。何とかやってみましょう」
「ありがとうございます」
すると、先生は、棚から細長い器具を取り出した。そしてそれを、私の耳の中に差し込んだ。
「シーキューシーキュー耳人さん、耳人さん、こちら耳鼻科医。耳人さん、出てきてちょうだい!耳人さん、出てきてちょうだい!」
何だ、本当にこれで耳人が出てくるのか?
私は。不安に思った。
すると、
ガサッ、ガサガサ、ガサ
耳の中から大きな音がした。
「何ですか〜」
「何か用ですか〜」
ゴソゴソ、ポン
突然、私の耳の中から、女性の耳人が出て来た。
「おおっ、珍しい。男性の耳から女性の耳人が出て来るなんて」先生は驚いた。
「あなたが、私の耳人ですか?」
「う〜ん、そう」
女性は、気だるそうに答えた。
「あなた、お風呂のお湯を溢したでしょう?」先生が言う。
「あれ〜、バレた?ちょっとだけなんだけどなぁ〜」
「ちょっとじゃないですよ、耳垂れになりましたよ」
「ごめ〜ん」
「しかし、何故、女性のあなたが男性の耳の中にいるのですか?」
「う〜ん、雰囲気、気まぐれ」
「そんな、」
「うっそ〜」
「実は、私は耳人の王女なのです」
「王女は、男性の耳の中で4年間修行を積まなければなりません」
「そうなのですか」
「珍しい、私も知らなかった」
先生がメモをとる。
「でも、もうすぐお別れです。私は、耳人の女王になるために、国へ帰らなければなりません」
「ええっ、」
「じゃあ、その後は、誰が私の耳の中に入るのですか?」
「安心して下さい。隣の耳人が兼任で仕事を行います」
「大丈夫かな、」
「大丈夫ですよ、彼は二刀流耳人ですから、名前はオオタニ」
「そうだったのですか、それは安心です」
「よかった、よかった」先生。
その後、
耳人の王女は、耳人国に戻り戴冠式を行った。
世界各国の耳人の来賓が集まり、それは盛大に行われた。耳人国民たちは国をあげてお祝いをし、私も僭越ながら、その儀式に立ち会った。
王女は緊張しながらも無事、王冠を受け取り王位を継承した。
反対側の耳人も正装をして、私の耳の中から敬礼をしていた。
しばらくして、
反対側の耳人は、たまに耳の外に出て来るようになった。
どこか、遠くを見つめ、
誰かを思い出しているような……
そう言えば、王女の前は誰が私の耳人だっんだろう?




