第1章 5-2
「おばあちゃん、ちょっと相談したいことがあるつたいね…」
「刹那、申し訳ないけど、ばあちゃん、今から病院に行ってこんといかんようになった…」
「えっ?」
「何か、じいちゃん、熱中症だけでなく、脳梗塞も引き起こしたみたいで、今から緊急手術をする…って連絡があった。万が一のこともあるかもしれんから、至急病院へ来いって言われてね…」
何てこったい…。ただの熱中症ではなかったのか? 熱中症と脳梗塞では全然病気の重さが違うし…。検査入院から一転して「今夜が山だ!」状態になった。祖母はただオロオロしている。
「おばあちゃん、私も行く!」
「そうね。それなら、一緒に行こうかね」
この状態の祖母を一人にする訳にはいかない。刹那は祖母の代わりにタクシーを家に呼んで、そのまま二人でタクシーに乗り込んだ。病院に着くと、看護士から簡単な説明があった。母は気が動転して全く聞いていないようだった。
刹那が代わりにしっかりと聞こうとしたが、やはり気が動転していて全く耳に入らない…。また、手術が終わってから、再度先生から説明があるので手術室前でただ待機する。そっと、祖母の手を握る。そう言えば、長いこと祖母の手を握っていなかったな…。しわしわで小さくなった祖母の手…。子どもの時に握った時はまだつるつるして張りもあったのに…。
日付が変わる頃、手術室前にある「手術中」の赤ランプが消えた。二人は顔を見合わせる。しばらくすると、祖父がベッドに乗せられたまま病室へと運ばれて行く。またしても、先ほどの看護士が現れて、
「手術は成功しました。ご主人様は、集中治療室へと運ばれましたのでご安心下さい。今から十五分後の零時二〇分より、先生より今回の手術について説明致しますので、こちらへお越し下さいませ」
…と案内される。二人は言われるがまま、看護士から案内された部屋へと入る。どうやら、診察室のようである。訳の分からない二人はただ座って待つ事しかできなかった。
「とりあえず、手術が成功してよかったね〜」
「本当に良かった。刹那、一緒に来てくれてありがとう。ばあちゃん一人だったら、もう不安で押しつぶされとったかもしれん…」
いつも殊勝な祖母が、珍しく弱気な事を言うではないか…。刹那はそのことに驚く。祖父も祖母もすでに七〇代後半を迎え、いつ何が起きてもおかしくない。それが今起こってしまった…。今回は何とか助かったから良かったものの、もし祖父が帰らぬ人となっていたらゾッとする。