第1章 2-3
最近は凶悪犯罪が増えているし、少年犯罪も凶悪化している。創市は刑事裁判の弁護人をしながら、この人達をどうして弁護しなくてはならないのか…と思う。本当に守られるべきは被害者であるのに…。日本では被害者が丸裸にされるのに対して、犯罪者はなぜか法律で守られる。特に未成年者は少年法によって、顔も名前もさらされる事もない。全てが「少年A」として隠されてしまう。
確かに少年法の理念も分からなくもないが、罪を犯した少年達に少年法の理念が本当に伝わっているかどうか疑問である。むしろ、その理念を逆手にとって、彼らは悪用しているのではないか…とさえ考えてしまう。それでも、創市は弁護人として被告人を守らないといけない。
事件を捜査し、裁判所に立件できるのは検察官のみだ。検察官のみが罪状をあばき、求刑することができる。それに対して、被告人を冤罪などの不当な刑罰が与えられないように守るのが弁護士のしごとである。弁護士は被告人にとって有利な情報を集め、無罪を勝ち取ったり、少しでも罪を軽くしたりするべく、法廷とか外とか関係なく動き回る。
しかし、弁護士と言えども一人の人間だ。罪に至るまでの過程を調べながら、同情をせずにはいられない事件もあれば、逆にどう頑張っても弁護したいと思えないような事件もある。それでも、仕事だから裁判中は被告人を守らないといけない。
特に国選弁護士の仕事は刑事裁判で弁護士を雇えない人に、国が代わりに弁護士を雇う制度なので、一度指名されると安い報酬でこき使われる。この場合、こちらから仕事を選ぶ事ができないのでやっかいだ。同じ仕事をするなら、私選弁護士として働いた方が実入りはいい。
創市は仕事の後に取り留めの無い事を紙に書き殴りながら、全くまとまりのない文章を振り返る。なんだこれは…。この日は父の一周忌を過ぎたばかりと言う事で、母の事についていろいろ書こうと思っていたのに…。
それなのに、結局は少年法とか少年犯罪などについて、はては弁護士と被告人、検察官の関係にまで触れている。つまり、なんだかんだ言っても仕事が好きなんだと思う。小説を書くよりも弁護士の仕事が楽しいからこそ、小説家の夢をきっぱり諦める事ができたのかもしれない。いや、正確に言うと小説家として生計を立てる事を諦めたと言うべきだろう。