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プロローグ:陽は昇らずとも群星は輝く

これは誰も知らない世界の終焉。


人類最後の砦であった8人の英傑、その終わりの話。


最後の英傑が訪れる終わりに最後まで抗い、英傑の名を以て人類の輝きを見せた物語。



~エルントン地下2000mにある施設にて~




『終末降臨まで後2時間、終末降臨まで後2時間。施設に残る職員は残された時間を悔いのないように過ごして下さい。繰り返します、終末降臨まで・・・・』



鉄の箱のような部屋に冷たく生気のないアナウンスが響き渡る。

この部屋には人が立った状態で入れるようなカプセルが4つ壁際に並んでおり、部屋の中心では4人の英傑が話をしていた。そのうち3人は顔が隠れるほどのフードを被っている。

彼らの話は、終わりを告げるアナウンスにより遮られ、部屋はただ空調を管理する機械音が鳴るだけになっていた。そんな状態の静まった部屋で少女が言葉を漏らす。


「アルクさん・・・。本当によろしいのですか?カプセルはまだ残っています。本当に・・・このまま残るのですか?」


「えぇ。・・・私はこの文明の象徴。その文明が滅亡するのなら私はここまでよ・・・。新しい文明には新しい象徴が現れるわ。私がその場に居てしまったら、きっと良くない・・・。それに・・・何万年後になるかわからないけど、新しい文明でそのカプセルを使うべき人がきっと現れると思うの。そんな時に使えないってなると、きっと大きな損害が発生するわ。」


「で、でも・・・私・・なんかより・・・。」


アルクと呼ばれた唯一フードを被らずに帯刀している女性は、その美しく腰まで伸びた赤く濃い特徴的な髪を揺らし、言葉が詰まって立ち尽くしたままの少女の前まで歩く。

少女の被るフードの上から赤い髪の女性が優しく頭撫でる。

少女は、うっ・・と声を漏らし、その頬に涙が伝う。


「泣かないでジャンヌ?かわいい顔が台無しよ?あとね、自分を下げちゃダメよ、あなたはこの時代、この文明で最後まで戦い、その炎を新しい文明の灯火として照らすことが出来るの。次、自分を卑下するようなこと言ったら私が許さないわよ?」


アルクは撫でていた手を下す。少女は言葉を受け取り、俯いたまま服の袖で目元を拭う。

そして顔を上げる。

その頬には涙の痕はあれど、眼に涙はもう浮かんでいなかった。

少女の様子を確認した赤く美しい女性は視線を少女から、既にカプセルの方に向かっていた2人の方を向ける。


「エルス?ミュー?あなた達、何か言うことないの?」


「・・・俺たちの間にもう言葉は要らないだろう?別れはさっきもう済ませた。感傷に浸る時間はこの後いくらでもある。それに君は自分の選択を決して曲げないからな。今更何を言っても変わらないのだろう?」


「ボクもエルスと同意見!これ以上、ボクたちと話していたら今度はアルクの方が泣いちゃうかもしれないでしょ?ボクは涙のお別れなんてゴメンだよ?」


エルスと呼ばれた男の言葉に乗っかるように小柄な少女が続けた。彼らにとっていつもと同じような雰囲気、テンションで言葉を交わす。その彼らの言葉を聞き、アルクはクスッと笑みを零し言葉を返した。


「もーホントに!・・・あなた達らしいわね。あなた達の様子を見ていると、日常的過ぎて今から本当に世界が滅ぶなんて考えられないわ!・・・・



ありがと。またね・・・。」



「あぁ。


「うん。


ありがとう。またね。」」




別れは「さようなら」ではなく「ありがとう、またね」。


『さようならって寂しいじゃない?だからありがとうって言いましょ?ね?・・・え?ありがとうだけだとおかしい?じゃあ・・・・・「ありがとう、またね」これにしましょう!今度こそ決定ね?』


生き残ることのできなかった仲間の声色がその場全員の脳内に過る。その時の決め事を世界が滅亡する2時間前の今でも忘れることなく交わしていた。


『まもなく第5のアースアンカー、時氷の錨、零度の棺を起動します。ジャンヌ様、エルス様、ミューリ様、棺の準備は出来ています。搭乗確認ができ次第、コールドスリープを起動させます。』


アナウンスの途中にカプセルの扉が開き、それにより部屋の温度が下がっていくのを彼らは感じていた。


別れの時が迫る。

星竜の英傑は表情を変えず、如来の英傑は笑顔で手を振り、聖賢の英傑は一度天を仰ぎ、託された使命と共に歩みを進める。

その先では、特殊な素材でできた白く金属のような光沢を放つカプセルが3人を受け入れるかのように待ち構えていた。

3人が各々のカプセルに入ると、全身を固定するように特殊なベルトや金具が自動的に装着されていく。最後に首から上にマスクのような器具が装着され、カプセルの扉が閉まる。その瞬間、空気の抜ける音と共に少しだけ冷気が漏れた。


『搭乗完了を確認。搭乗完了を確認。まもなく起動します。アルク様、非常に危険ですので部屋から退室をお願いします。』


「mk2、心配ありがとう。でも大丈夫よ。私はアークの力を使うから、そのまま気にせず起動させて頂戴。それに私も英傑よ?」


アルクに忠告を行ったAI、mk2は時間を少し置く。




『・・・わかりました。・・・・時氷の錨、抜錨。』


「抜錨」というアナウンスから告げられた合図に呼応するかのように彼らが入った3つのカプセルから強烈な冷気が放たれる。

その冷気は空気中の水蒸気を急速に凝結させ、白い霧を発生させ、カプセルの表面には薄氷が現れ始めていた。薄氷は冷気の発生源であるカプセルを覆いつくすように広がりを見せる。


「ふぅ・・・・流石に寒いわね。そろそろかしら・・・」


アルクは冷気により生まれた霧が身体の周りを覆い始めた所で両手を擦り、摩擦で温めながら呟いていた。

そして。


「・・・廻翼、展開。」


彼女がそう言葉を呟くと、うなじから背中にかけての付近から光が放ち始め、身体を覆った。光は五線譜を創り出し彼女の周りで浮遊する。そして、残る光は背中に収縮し幾何学模様の羽が形成された。

光の翼を展開させた彼女の身体は、その力により人間の限界を超えたものとなっており、もう手の摩擦などで温める必要など無くなっていた。


「これなら零度の棺の起動を最後まで見届けられるわね。」


その間も部屋の温度は下がり続けていた。既にカプセルだけでなく部屋の至る所に氷が張り、霧となった水分すらも凍り始めていた。そして、あらゆる水分が凍り、部屋すべてが凍りつきそうになった時、カプセルの下にあったハッチが開き、カプセルが格納されていった。

カプセルが格納されて数分後、部屋の温度も徐々に戻り始め、コールドスリープの起動を見届けた者が光翼を解いた時、アナウンスが鳴る。


『時氷の錨、零度の棺が目的の地下8000m地点に到達いたしました。』


報告のみを告げ、AIによるアナウンスは消える。残されたのは1つカプセルとワインのように濃い赤髪の女性のみ。


「・・・・ごめんなさい。」


頬の氷を払い、身が少し軽くなった最後の英傑は部屋を後にして地上に向かう高速エレベーターに乗り込む。

誰もいなくなった部屋には1つのカプセルと・・・・女性が魅せた翼の模様とよく似た鍔が施されている刀が残されていた。



アルクが向かう地上の施設は、地下と変わらず鉄の箱のような造りをした施設であり、エルントンの街の最北に建っていた。

街には残された人類の住む住居が多くあり、街の外辺は一軒家からアパート、中に向かうと彼らが使えるように建てられた施設が多く存在していた。その中心にはとても広い広場があった。



地上に到着したエレベーターの扉が開く。開いた扉の先には、施設に残っていた十数人の職員が地下から帰還するアルクのことを出迎えするために待ち構えていた。彼女がエレベーター降りると職員たちから「お見送りお疲れ様でした。」などと声が飛び交う。


アルクは出迎えをする彼らを見て複雑な表情をした。


「あなた達・・・出迎えありがとう。最後の時くらい仕事場にいなくていいのよ?こんな鉄の監獄のような場所にいたら寂しいわ。時間は少ないけど、好きなところに行って、好きなことをしなさい?」


彼女の言葉を聞き彼らはキョトンとしていた。

少し間が空き、一人の黒人女性が手を上げ、敬礼し発言する。


「私たちは、人類最後の部隊であることを誇りとし、文明が終わるその時まで最前線に居続けることを望んだのです。アルク様やエルス様が、あの凶悪な使徒たちと戦い、ここまで世界を紡いできたことのサポートができたことは今生の幸せでございます。どうか最後まで傍に居させてください。」


演説のような彼女の発言に賛同するように「そうだ!」「そのとおりです!」と全員が声を上げる。地下で凍っていたはずのアルクの瞳は潤いを見せていた。アルクは指で自身の涙を拾い、まだ喧騒が止まない彼らに対して笑みを見せた。


「・・・ありがとう。分かったわ。・・・・皆、私が奏者の英傑の前に元々歌手だったことは知っているわよね?」


アルクの言葉に対し各方向から「はい!」「もちろんでございます!」「ファンでした!」「サインください!」「僕たちのスーパースター!」と声が上がる。


「私ね・・・最後はステージの上って決めてるの。付いてきてくれるかしら?奏者の英傑、その本気を見せてあげる。」


言葉を聞いた彼らの盛り上がりは最高潮になり、アルクを先頭に施設の外に出る。

外は太陽が等に沈み、雪が降り、人のひざ下まで積もっているため、街の整備された道などは見えなくなっていた。


しかし、進み続ける彼らにはそのような要因は関係はなかった。


アルクは地下の時と同じく光翼を展開した。外気の寒さで誰も置いて行かれないように光の五線譜から音を奏で、施設のある街の最北から中心にある広場に向かい歩き、歌を歌う。


昔、彼女の親友は言った。


『アルクは、ステージで歌っていないの。彼女が歌っている場所がステージなの。』


その言葉通り、終わりを待つだけだった暗い夜の街がアルクを中心に明かりが灯される。

彼女は持っている力を最大まで行使する。


どこまでも、この声が世界のどこまでも届くように。


寒さに凍えないように。


暑さに焼かれないように。


誰も寂しくならないように。


この先待っている、先に旅立った同士に届くように。


すると、誰一人居なかった外の世界に、一人、また一人と家や物陰から現れ、アルクを先頭とした集団に付いていく。

終わりの恐怖に怯え、愛する者たちと泣いていた人。

自暴自棄になり荒れ狂う人。

絶望に打ちひしがれて自ら命を絶とうとしていた人。

彼女の声が届くすべての人が、彼女の元へ集まりだす。


奏者の英傑がエルントンの中心にたどり着いた時には十数人から始まったステージがエルントンの街すべてを飲み込み、数えきれない人数が集まっていた。


そして、アルクの歌う声色一つ一つに街全体が割れんばかりの歓声で沸く。アルクの仕草一つに人々が熱狂する。アルクの美しい赤髪が揺れるたびに人々が声を上げる。アルクの光の五線譜から放たれ奏でられる音に感じるものすべてが溺れていく。

これが終わりゆく世界の最後とは思えないほど、人々の心の熱は上昇していく。



これは私の最後のステージ。

寂しくなんて終わらせないわ。誰も置いてきぼりになんてしない。

この世界が負けたのは事実。でも・・・だからと言って終わりが暗いってのは決まっていないわ。

決して美しくなかった世界だけど、いま、私の眼下に広がる景色はこんなにも美しい。人々が魅せる命の輝きはこんなにもきれいなの。

だから、怖がったまま、怯えたまま、絶望したまま終わるなんてもったいない!!



でも・・・・・・ごめんね、エルス、ミュー、ジャンヌ。

あなた達にあんな辛い計画を押し付けてしまった。

あなた達には「象徴」だからっていったけど本当は違うの。私は・・・もう戦いに疲れちゃったのよ。もう楽になりたかった、向こうに世界で待つあの子達の元に行きたかった。

・・・レリアに会いたくなったの。きっと彼女は怒ると思うけど、必死に謝るつもりよ。うん、許してもらえるまでね。


・・・そのためにも、今は歌い続けるわ。文字通り、言葉通り、この命すべてをかけ、私のため、残された数少ない人類のために。私の歌は痛みを和らげる麻酔なんかじゃないけど人の心を動かし、沸騰させることが出来る。


怯えたままの最後なんて許さない。


恐怖に支配された最後なんて許さない。


絶望の最後なんて許さない。


そんなこと、奏者の英傑が許していいはずがない。

えぇ、私が許さない、許してたまるか!皆、皆、皆、連れて行く。

この世界も最後は悪くなかったって思わせてやる!このステージは終わらせないわ!



タイムリミットを知らせるサイレンが街に鳴り響く。


しかし、それを聞く人なんていなかった。

熱は収まることを知らず、人々の興奮は最高を更新し続ける。


その中心には、命を燃やし最後まで人々のために戦い、歌う女性がいた。

太陽が沈み、堕ちていた人々に夜空の星々による光があることを歌い続ける女性がいた。

英傑として授かった名の意味を示すため歌う女性がいた。

未来を託された仲間のために歌う女性がいた。

・・・親友への謝罪のために歌う女性がいた。


これが人類を守るために戦った英傑たち、その最後の一人が魅せる生き様。


光翼から放たれる力を行使し続け、遂に彼女の声が音が光が地球を覆い、熱に満たされた時、終わらない歌が始まる。




そして


「世界のみんな!!!誰も置いていかないから、安心して付いてきてね!さぁ、いくわよ!」




文明は**された。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




数万年後


ユーラシア大陸連邦旧モンゴル地区






崩落した建物、燃える木々、纏わりつくような黒い霧、その中を若い男が息を切らしながら走っている。


戦場に向かう戦士たちの波の波をかき分け。


瓦礫の山を飛び越え。


街を燃やす炎を潜り抜け男が走り抜けていく。


そして作戦本部に駆け込み、スキンヘッドで筋骨隆々の大男の元へ滑り込むようたどり着いた彼は敬礼を行った。


「ガラナ上位隊長!報告します!人民救助に当たっていた下位12番小隊の新人隊員が全滅です!」


ガラナと呼ばれた大男は空仰ぎ、若い男に尋ねる。


「はぁ・・・。堕ちてしまったか。・・・その戦場はどうなっている。」


「現場に居た小隊の中位隊員が人民救助を続行。下位12番隊隊長が新人隊員だった堕者と星壊の獣を相手に戦闘を行っています。」


「クソッ!協会からの増援はまだか!」


大男が転がっていた缶に怒りをぶつける。その直後、彼の後方にて機械に囲まれヘッドセットをした少女から言葉が飛ぶ。


「ガラナ隊長!協会からの増援連絡です!」


「やっとか!それで、誰がくる?」


「フィア様です!」


「よし!それまで何としても耐えるのだ!ミア!フィアはいつ来る?」


少女は大男の問いに慌てて確認を行う。そして信じられないような表情をし立ち尽くしてしまっていた。


「どうしたミア?」


「もう・・・この上空にいます。」


「な、なにぃ!?相変わらず規格外すぎる!全隊員に大至急伝えろ!物陰に隠れるんだ!!!」


一方そのころ、戦場を見渡すことが出来るほどの高度の上空では金髪の少女が戦場を見下ろしていた。黒い靄が広がりを見せる街は至る所が破壊され、火が上がっているのを確認することが出来た。


少女は腰に帯刀している変わった模様の鍔をした刀を抜き、峰を自身側にし刃を下に向けた状態で胸元まで運んだ。まるで祈りを捧げるかのように目を瞑り、両手で柄を握る。


そして、少女は遠い昔の英傑たちと同じ言葉を呟く。


人々を護るために。



「・・・廻翼、展開。」

初めまして、のーこといいます。

初投稿作品です。仕事の合間でマイペースにやって行こうと思います。

面白ければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


いわゆる前日譚ってやつ。

第一話:記憶への切望

仕事次第では明日更新予定です。


登場キャラ紹介

    名:アルク・ペランサ

   性別:女性

   加護:音

   権能:???


好きなもの:美しいもの全て

嫌いなもの:辛い食べ物

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして! 滅び行く文明の描写から始まるエピローグが良いですね。 現実世界の終わりもこんなものかな、と少し思いました。 しかし終焉があれば、始まりもあるわけで この作品がここから物語をど…
[良い点] 最高に面白かったです! [一言] これからも追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!!!
2023/07/09 16:04 退会済み
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