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ラーニャ・バスリーは忘れることを知らない。  作者: 伊賀海栗


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第13話 早く起きた朝


 温かく程よい弾力のナニカに包まれる感覚。微かなムスクの香りが心地よくてラーニャは香りを辿るように寝返りをうつ。


 先ほどよりも少しだけ濃さを増した香りに頬を埋めると、乱れた布団が掛け直された。一層の居心地良さを求めて身体を包むナニカに足を絡めると、太ももに違和感が生じた。何か、異物が腿の下敷きになっているような気がする。


「ん……」


 せっかく気持ちよく寝ていたのに、太ももの違和感は少しずつ増していく。最初よりも、固く、大きく。


 この異物を(なら)したり、または腿の下ではないどこかへ動かせないかと足をもぞもぞと動かすのだが、目論見とは裏腹にその異物はさらに主張を強めていった。


 また別の何かが太ももに触れる。その何かは太ももをの動きを止めようとしているように思えた。


「ラーニャ、それはちょっ……くっ……」


 足をどかそうとする何かに抵抗していると、下敷きになっていた異物は当初と比べるべくもないほど固くなった。もはやラーニャも夢見心地ではいられない。異物の正体を突き止めるべく、手を下方へと伸ばした。


「ん、なにこれ……」


 手の中には棒状の異物。一般的なベッドでは触れたことのないものだ。握ってみると、頭の上から悲鳴のような声があがった。


「ラ、ラーッ!」


「え」


 次の瞬間、ラーニャはベッドの中でひっくり返された。

 仰向けになったラーニャにのしかかるようにして、カミルが真っ赤な顔で睨んでいる。少々、息も荒いようだ。


「は? 殿下? え?」


「え、じゃないよ、仔猫ちゃん。一晩死ぬ気で耐えたのに、なんてことしてくれんの」


 カーテンの隙間から差す光と薄暗い部屋。大きくて温かなベッドと、覆いかぶさるカミル。彼のパールグレーの髪が朝の光のせいかオレンジ色に煌めいた。


「きゃ……もがががが」


 自身の置かれた状況を理解したラーニャが叫び声をあげようとしたところで、カミルの大きな手が口を塞いで阻止した。


「さすがにそれはダメ。わかる?」


 うんうんと頷くラーニャに念を押して、カミルは口から手を離す。そのまま体を起こそうとしたものの、ラーニャの視線が彼の下腹部に向かうのを察したのか、彼はラーニャを抱きかかえたままベッドを降りた。


「降ろしてください!」


「ごめん、ちょーっと俺のプライドを守らせてほしいな、今は」


 じたばたするラーニャをものともせず、カミルは彼女を抱えて隣室に通じる扉を開けた。そのまま室内へと入り、前夜と同様にベッドへ彼女を放り投げて布団を被せる。


「ちょっと!」


 ラーニャが文句を言ってやろうと布団から顔を出したとき、カミルはすでに自室へと戻っていた。

 気持ち冷えた空気とひんやりしたベッドはなんとなくラーニャに孤独感を与える。


「なによ……」


 呟いてシーツを握る。が、その手に先ほどの棒状の何かの感触を思い出し、続いて息を荒げた余裕のないカミルの表情を思い出す。


「なによ!」


 ラーニャは今度こそ自分の手で布団を頭からかぶり、朝寝を決め込むことにした。


 遅く起きた朝、カミルはすでに追跡魔法を付与した魔獣を追って巣穴に出かけたと聞く。ラーニャはのんびりと城内を歩き回ったり、庭に出て潮の香りを肺いっぱいに吸い込んでむせたりして過ごした。


 昼になって簡単な食事をとりながら、午後はどのように過ごそうかと考えていたとき、カミルたち一行が慌ただしく戻って来た。

 ノックさえ鬱陶しそうに部屋へ入って来たその表情には、魔獣問題を解決したとは思えない鋭さがある。


「どうしましたか」


「魔獣は殲滅した。ラーニャの言う通り近くに獣使い(テイマー)がいたんで、事情を聞いたんだけどさ」


 もちろん穏やかな方法ではないだろう。

 微かに漂う血の香りには気づかない振りをして、ラーニャはフォークを持ったまま先を促した。


「ちょっとした隙に自死を選んだ。毒トカゲもテイムしてたみたいで、一瞬だった。くそ、注意を払ってたつもりだったのに」


「服の中に隠してたのでしょう? それはもう、相手が一枚上手だったと思うしか」


「あれだけの数の魔獣をテイムできる者が一体なんのために……」


 カミルは苛立たしさを隠そうともせず、ラーニャの対面に座る。深く大きな溜め息をついて、ラーニャの手元を指さした。


「なんですか?」


「あーん」


「は?」


「腹減った」


 口を開けて待つ彼の視線の先にはラーニャの持つフォーク。さらにその上には茹でた卵が載っている。

 仕方なく差し出したフォークにパクリと食らいつく姿が餌付けのように見え、ラーニャの記憶を刺激した。


「毒トカゲ……っておっしゃいました? まさかそれは黒と赤の縞の尾を持っていませんでしたか?」


「何か知ってる?」


「強力な即効性の毒を持ちます。ただし、すぐに変性してしまうため毒だけを抽出して持ち歩くことができません。さらに寿命が短い、人工的な孵化が難しい、給餌の際に噛みつかれるなどの理由により獣使いも滅多に手を出さないのですが……」


 カミルは姿勢を正し、ラーニャの言葉を待っている。ラーニャはフォークを置いて細く息を吐いた。


「数年前にとある暗殺ギルドで繁殖方法を確立したとの情報がありました。多頭を売りにした獣使いも所属するギルドで……ザイン殿下の配下と聞いたことが」


 椅子を倒しながらカミルが立ち上がる。


 ザインとは黄の星、第三王子である。先日のリーン妃のパーティーでは侍女が第二王子ダウワースを殺害しようとしたが、その後の状況についてラーニャは聞いていない。


「すぐ王都に戻る。ラーニャも食べたら準備し……いや、君はここに残れ」


「いえ、ご一緒に戻ります」


「でも」


「バスリーを活用なさってください」


 カミルは不服そうにしつつも頷いて、大股に部屋を出て行った。





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― 新着の感想 ―
[良い点] ξ˚⊿˚)ξすぎもんさんによるなまこへの圧倒的な風評被害w
[一言] 棒状の何かの感触も一生忘れられないんですね( ˘ω˘ )
[良い点] 想像してたのの何倍も、過激な目覚めシーンだった件w ラーニャちゃん、そのなまこは弄っちゃダメ! 内蔵吐くぞ!
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