表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

聖女は愛される存在である、と教典には書いてあった。

名前を似せたのはわざとです。

 秋の終わりの頃。冷たい風が吹き始めた、十三歳の誕生日。辺境地の平民だったアリアは天啓を受けて『聖女』となった。


 春になったら迎えに来ますと、神官は足早に王都へ帰って行った。


 辺境地から王都まで、二月以上掛かる道のりだった。寒くなれば、雪で動けなくなるから。


 王にこの喜ばしい知らせを一刻も早く届けたいから、と。



 『聖女は愛される存在である』。それは、この国の民なら皆知っている言い伝えだった。


 アリアの暮らしている村の皆も、もちろん知っていた。


 そしてもう一つ、皆が知っている言い伝えがあった。『聖女が双子で生まれた場合、選ばれなかった方は一年以内に死ぬ』。


 アリアは、双子だった。妹はマリア。アリアとマリアは、容姿以外、正反対だった。


 アリアは内向的で、マリアは外向的。


 家の中ならアリアは本を読み、マリアは家族とおしゃべりする。


 外に出たなら、アリアは花に水をやり、マリアは友人と鬼ごっこをするなどした。


 だから、アリアが聖女だと知らせを受けて、皆悲しんだ。


 マリアが一年以内に死ぬと、皆そう思ったから。


 それまで皆、アリアのことは嫌いではなかった。見目はマリアと同じで可愛らしいし、控えめだが優しく親切な子だったから。


 アリアは『聖女』であることを祝ってもらえなかった。その日を境に、皆アリアに冷たくなった。


 食事の量が減らされた訳でも、寒くなったからと薪を与えなかった訳でもない。以前と同じ。


 ただ、同じ部屋にいると間違えてしまうからと、アリアの部屋に篭るように言われただけ。


 ただ、皆がマリアを優先しただけ。


 ただ、アリアではなくマリアを選んだだけ。


『アリアはどうせ誰かに愛されるのだから』


『マリアは一年以内に死んでしまうのだから』


 皆口々にそう言って、マリアの側に集まった。


 マリアは、村の皆や家族から別れを惜しむように愛を与えられた。


 アリアはその様子を、独りで、陰から見ていた。


 ある晩冬の朝のことだった。春の姿が見え始めた頃だった。


 暖かい日も多くあったのに、その日はひどく吹雪く日だった。


 居間の大きな暖炉で火を焚いても、歯の根が鳴るほど寒い日だった。あまりにも寒くて、寒くて。


「そういえば、アリアは?」


 ふと気づいて、マリアはつぶやいた。あまりにも寒いので、さすがに部屋で一人は寒いだろうと思ったからだ。


 マリアはアリアの部屋を訪ねた。まるで、火を焚いていないように寒い部屋だった。


 いや、火は焚かれていなかった。暖炉には、灰の山しかなかった。ずっと前からそうだったように灰は硬くなっていて、少し埃が被っていた。


「アリア?」


 寒さに震えながら、マリアは寝台に近づいた。


 寝台に居たアリアは青白い顔で、虚ろに薄目を開けたまま、二度と動かなくなっていた。



 春になり、神官が戻った。


「ああ、やはりそうなりましたか」


 残念そうに、そう溢した。


「『聖女』は、愛が無いと生きられないのです。愛されなければ、一年以内に死んでしまう。だから愛される存在でなければならないのです」


「同じ姿なのに、自分の方が愛されているのに、神があなたを『聖女』に選ばなかった理由が知りたいのですか?」


「今のご自身を見ればわかるでしょう?」


「アリア様と似ているからと、成りすまし、私を騙そうとする浅ましさ。それだけで十分な理由でしょう」


 そう告げて、神官は去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ