第八十四話 頼み事
一一四〇時。俺達はシミュレーター室で目覚めた。
すると、スペイン人の将官が入って来て、
「貴様、何故アレを使わなかった!」
ダビドに向かって叱責する。
アレって何だ?
俺はつい、少将の階級章を付けたスペイン人の将官に、
「アレって何ですか? 少将閣下」
聞いてみる。
「あ、いや、その……」
軍事機密なのか――自分の失言を悟ったスペイン人の将官は戸惑う。
俺は首を傾げる。
ここでMP隊がシミュレーター室に入って来て、車多達を拘束する。
「どういう事だ⁉ 俺達は将官や上級将校の子息だぞ!」
車多の脅しに、MP隊の隊長らしき男性は、
「黙れ! この軍の恥さらしめ! 貴様らは拘束させて貰う! MSAも没収だ!」
車多達に沙汰を言い渡す。
ぷ。ざまあみろ。
と、こんな事をしている場合ではない!
急がなくちゃ!
「もう一つの準決勝は、第二アリーナだったな!」
俺は急ぎ第二アリーナに向かう為、ドアに手を掛ける。
「「「「「待って!」」」」」
ファラエル、静江、リーナ、さっちゃん、ヴェロニカの五名は、俺に付いてくるのだった。
第二アリーナに到着したのは、一一四五時。
第二アリーナは座る所が無い程、盛況だ。
仕方ない。立って観戦するか……。
アリーナの中央にある巨大ディスプレイには、第十学園と第二学園の戦いが映し出されていた。
既に準決勝第二試合の戦いは始まっていた。
アウグストには第二学園の訓練生が二人。
残りはイギリスの専用機持ちと共に、森羅達と対峙していた。
なるほど。読めたぞ。
第二学園は、アウグストに対して、時間稼ぎをする作戦だな?
恐らく、森羅が分隊長と仮定しての作戦だろうが、アウグストだったらどうするんだろうか?
それにしても……。
森羅の奴とイギリスの専用機持ちの武装神装の様だが、何か違う様な気がする。
ではなんだ? と問われれば、答えられないのだが……。
そこにファラエルは目を丸くして、
「あれはまさか、ネームド・ウエポン⁉」
森羅とイギリスの専用機持ち――双方が持つ武装の正体を明かす。
「ねーむど・うえぽん?」
俺はオウム返しに、ファラエルに聞き返す。
ファラエルの弁によると、伝説の武器等を想像してその武器を創造するのだそうだ。威力は使い方にっよっては神装よりも上らしい。但し、特殊能力が使えない事がネックだそうだ。
「お義姉ちゃんによれば、失敗しやすいらしいのだけど……」
「でも、ファラエル。森羅とイギリスの専用機持ちの二人共、成功しているじゃないか」
俺の更なる問いにファラエルは驚きを隠せていない。
「ええ。だから驚いているの。わたし以外にも持っている者がいる事が……」
「え? ファラエルも持っているの?」
「うん。【レーヴァテイン】を、ね?」
そうか! ファラエルの場合、神器――レーヴァテインを持っているから、創造しやすいのか!
見本があれば、創造しやすいもんな?
「ファラエルはアレをもう一本持っているのか⁉」
静江の問いに、ファラエルは事も無げに言う。
「うん。持っているよ? 但し、コピー品だから、本物よりも威力は劣るけどね?」
ここでファラエルはもじもじする。
「だから雪菜。二本の剣での戦い方を教えて欲しい……」
くう。ファラエルの仕草が何ともいじらしいぜ!
俺が了承する前に静江が、
「駄目だ! ファラエル! 二刀流は師範に教えて貰うと良い!」
ファラエルの指導者を勝手に決める。
「おい! いいのか⁉ 静江! お前の親父さん忙しいだろ!」
「ユッキーは父上より上手く教えられる自信があるのか?」
「うぐ⁉ それは……」
ここで静江は、ファラエルの肩にぽんと手を置く。
「安心しろ。ファラエル。私が直に父上に頼んでやる」
「静江。わたしは雪菜に頼んでいる」
「それは駄目なのだ。ファラエル。ユッキーが『月華』を訓練で使ったから、彼には罰が待っている。故にユッキーは教える事が出来ないのだ。だから私の父上に教えて貰うと良い」
確かに実戦以外は禁じ手の『月華』をファラエルに訓練で使った。
それをチクったのか⁉ 静江は……⁉
これは……地獄の特訓が待っているかもしれない。
俺の苦悩を余所に、ファラエルは了承する。
「うん。分かった。静江。貴女のお父さんに頼んでおいて」
こうして、ファラエルは天理神明流の門下生となる事となった。