第七十三話 一回戦開始
俺達はあれから十分後に【ユートピア】があるシミュレーター室にやって来てそれに横たわり、仮想現実の世界にダイブしていた。
フィールドは市街地だ。空は晴天である。
俺達は始まるのを待っていたら、通信が入る。
≪おい! お前、天聖と言ったな⁉ 我々に舐めた言葉を吐いてくれるな⁉≫
「何の事だ? って、いうか、お前は誰だ?」
≪あたしは凰可愛! 今は第八学園に所属する中国の専用機持ちだ!≫
「天聖雪菜だ。で、俺がお前を舐めているって? そんな積りはないが……」
可愛とやらは、俺の言葉を聞いて激怒した。
≪ふざけるな! 先程決勝で会おうと言っていただろう! あのロシアの専用機持ちと!≫
ああ。そういう事か。
「別にお前達を舐めてはいない。あいつの仲間に俺のライバルがいた。それだけだ」
≪くう~! 馬鹿にしているのか! 絶対、お前だけはあたしが倒す!≫
可愛が宣言した時、別の声が入る。
≪可愛お嬢。もういいだろう。済まなかったな? 天聖とやら≫
「お前は?」
≪王軍。中国の専用機持ちで、可愛お嬢様の護衛だ。天聖雪菜とやら、あまり我々を舐めないで貰いたい≫
別に舐めた積りはなかったのだが……。
「分かった」
一応、そう言った。これ以上刺激しては駄目だろうという判断だ。
≪では、また会おう≫
ここで通信はぷつりと切れる。
今ここにいるのは、俺、ファラエル、リーナ、さっちゃん、ヴェロニカだ。
ここで俺は、
「何で知らない奴を舐める事になるんだ?」
誰となく、疑問を投げ掛ける。
ここで――見掛けは『明星壱号機』と変わらない――『明星参号機』を纏ったファラエルが口を開く。
「雪菜。己が知らない間に、相手を傷付ける事はよくある事。恐らく彼等は決勝戦しか見ていない雪菜に腹を立てた」
う~む。要するに自分達を障害としか見ていない事に腹を立てた。って、事か?
「ライバル視して欲しかったって事かな?」
「違う。雪菜。彼等は恐らく戦士としての誇りを傷付けられたと思っている」
「なら、その事で謝罪をすれば――」
俺の声はファラエルに遮られる。
「いや、雪菜。それは逆効果。だから雪菜の『力』を先程の二人に見せつければいい。それがあの二人にとって、最高の礼節になる」
「でも、この一回戦では雪菜の『力』は見せない事にしてたわよね? それが使主教官の作戦だったわ」
リーナの言葉に、さっちゃんは俺に向く。
「チームリーダーは、ユッキー。判断は任せるわ」
俺の導き出した答えは、
「よし! 散弾炎までのランクAまでを使おう!」
即答する事にした。
「いいのか? ユキナ。貴方は少なくとも決勝戦まで温存するのが、作戦だった筈」
ヴェロニカの問いに、
「いいんだ。ヴェロニカ。使主教官に怒られても、俺が叱責されるだけだから。何せ俺が破ったんだからな?」
俺は再び即答した。
「……分かった。ユキナの判断を尊重しよう。で、ワタクシはどうする? 当初の作戦ではワタクシだけで相手する筈だったが……」
「ヴェロニカは他の四人を相手してくれ。残りの二名は俺が相手をする。皆は手を出さないでくれ」
「「「「「了解!」」」」」
こうして、ヴェロニカは前方に向かい、他の四人は後方に下がっていった。