第六十五話 協力
再度戦闘開始から三分後、第一アリーナのバリアが破壊されて、直ぐに『毘沙門天』は攻撃態勢に入った。
目標は勿論、美火得だ。
野太刀(5)を振りかぶる。
その時、割って入った人物がいた。ファラエルだ。
ファラエルは金色のMSAを展開させ、『毘沙門天』の攻撃を防ぐ。
「お義姉ちゃんは殺させやしない!」
気合の言葉と共に、ファラエルは『毘沙門天』を押し返す。
そこに雪菜が追い付く。
「助かった! ファラエル! ありがとう!」
「どういたしまして。……里見はフォローをお願い!」
「了解や!」
里見はMSAを展開。神装である薙刀(5)を装備する。
「ファラエル! 『毘沙門天』をVIP席から引き離すぞ!」
「了解よ! 雪菜!」
ファラエルはレーヴァテインの連続攻撃を仕掛けるが、
「【革命】」
通常の三倍のスピードで躱されてしまう。
更に『毘沙門天』は強襲加速を発動し、約五倍のスピードで雪菜を襲う。
殺人的なスピードに、雪菜は対処する処ではなかった。それどころか翻弄されてしまう。
その為、『毘沙門天』の持つ野太刀(5)での攻撃を避け切れず、真面に受ける。
そして装甲の薄い所にダメージを負ってしまい、魔力値が大幅に失ってしまう。
既に雪菜の魔力値は七割を切っている。
(くっ⁉ このままでは……⁉)
雪菜は焦りを覚えながらも、態勢を立て直そうと冷静に分析を試みる事にした。
どうやら『毘沙門天』は攻撃と機動に特化した機体の様だ。
厄介ではあるが、倒せない相手ではない。
時間はそれなりに掛かりそうではあるが……。
取り敢えず、雪菜は『毘沙門天』をVIP席から追い出す事にした。
雪菜は『毘沙門天』の前方に現れる。
「散弾炎!」
Aランク――支流の特殊能力で、VIP席から引き剥がす!
散弾炎は一発も中らなかったが、VIP席から引き剥がす事には成功した。
現在『毘沙門天』は、第一アリーナの中央である。
そこにリーナが背後から、ビームライフル(5)からビームを放つ。
ビームは『毘沙門天』の背中に命中。
ここで『毘沙門天』は、陽電子砲をVIP席に向ける。
だが、その瞬間を狙ってリーナは『毘沙門天』の前に立つ。
「【イージス】! 吸収!」
何とリーナの持つ楯――【イージス】は、陽電子砲のエネルギーを吸収し、
「【イージス】! 拡散砲!」
小さな幾つものレンズからレーザーを照射。
『クリエイション』は自動追尾システムと、多重ロックオンシステムが搭載されている。
レーザーが『毘沙門天』を追尾。
だが、『毘沙門天』はこれを【革命】と強襲加速の合わせ技で難なく回避した。
「くっ⁉ 何て速さなの……!」
さすがのリーナもあの速さには脱帽らしい。
だが、『毘沙門天』の方もこれは想定外の事だったらしく、まずはリーナに照準を合わせる。
使う武装は電磁投射小銃。
物理攻撃なら吸収は困難と、搭載されたAIが判断した事だった。
『毘沙門天』が電磁投射小銃を撃ちまくる。
そこへ、リーナの前に【アイアス】の楯が現れた。
【アイアス】の楯は、電磁投射小銃の弾を全て防ぐ。
「リーナ。一つ貸しよ?」
ヴェロニカの言葉を聞いたリーナは直ぐに、攻勢を行う。
ビームライフル(5)を撃ちまくり、『毘沙門天』を更に後ろへ追いやる。
だが、『毘沙門天』はすぐさま反撃。
プラズマライフルとビームライフルを召喚。
リーナに向かって撃ちまくる。
「【プラズマディフェンサー】!」
『毘沙門天』の攻撃を全て無効化するリーナ。
「今度はこっちからよ!」
ヴェロニカは多目的誘導ミサイルと腹部高出力プラズマ砲。更にビームマシンガン二丁で飽和攻撃をする。
今度は『毘沙門天』がプラズマフィールドで、ある程度攻撃を無効化するが、全てとはいかなかった。
『毘沙門天』の魔力消費は相当なものになる。
だが、未だ決定打にはなっていなかった。
〇九二〇時。第一アリーナのVIP席で、太蔵は――不謹慎ではあるが――静江に感心していた。
何故なら『毘沙門天』の性能を完全に活かしきっているからだ。
最大限にその性能を引き出す場合、通常の五倍という『毘沙門天』の殺人的なスピードを操縦者は出す事が出来ない。それが生み出すGに肉体が耐えられないからだ。
だが、現に女性ながら目の前の静江という少女はそのGに耐えている。例えこれが洗脳されていても、だ。
(これはとんでもない拾い物をしたわい……!)
そんな事を思っていた太蔵に美火得は、
「険道博士。あの機体に弱点は無いのですか⁉」
焦っている様に機体の弱点を太蔵に聞いてくる。
「いや、欠点らしきものは無いわい。強いて言えば、操縦者を選ぶぐらいじゃ。何せこのわしが心血を注いで作った最高傑作の機体じゃからの?」
自慢げに言う太蔵に、その場全員が思った。
駄目だ、こりゃ――と。
だが、海外の司令官達は直ぐに思い直して、
「しかし、人の作るものに完璧はない」
「例えば、あの機体が持つスピードを発揮する機能――魔力消費は如何か?」
フィアダールとシュミットが改めて、太蔵に欠点を聞いてくる。
「魔力消費は500です。ですが、あの天理訓練生の契約『堕天使』は熾天使級……魔力を全て使い切る前に、あの三機を倒し、天聖大将を殺害してしまうでしょう」
既にアリーナのバリアは再展開されている。だが静江の持つ特殊能力はEXである。
アリーナのバリアなぞ紙切れ同然だ。
「已む得ぬな……」
「仕方無い」
フィアダールとシュミットは、
「「天聖訓練生と協力して、制圧する様に言ってくれ」」
ハモって美火得に言い、互いに睨み合う。
美火得は苦笑するも、
「ヴラウン訓練生、アレクサンドロフ訓練生は天聖訓練生と協力して『毘沙門天』を制圧しなさい。これは命令です」
リーナとヴェロニカに指示する。
≪≪了解!≫≫
こうして三機が連携して、『毘沙門天』を制圧する事となった。