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ハルマゲドンの英雄譚  作者: 谷川ヒロシ
【毘沙門天事件編】
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第五十話 シミュレーター

 二時限目に雪菜、ファラエル、静江、リーナ、里見、ヴェロニカの六名は、シミュレーター室にやって来た。

 広い室内には見た目は四角い箱――VRMMOゲームの機器とベッドを一体化させ、MSA訓練用に開発された【ユートピア】が十二機。

 この機械は使用者を完全な仮想世界へとダイブさせる上に、自信のMSAの性能と特殊能力をも再現させる事も出来る。また、この仮想世界で新たに特殊能力を獲得する事も出来るという優れものである。

 そのシミュレーター室には美火得が待っていた。

「遅いわよ。天聖訓練生」

「しょうがないじゃないか! 母さん! シミュレーター室には来た事がないんだから!」

 ゴス!

 美火得のチョップが雪菜の脳天に炸裂する。

「天聖学園長でしょ? 天聖訓練生?」

「はい。天聖学園長……」

 雪菜が言い直した事により、

「では、早速始めるわよ?」

 美火得は、【ユートピア】を雪菜達に使う様に指示を出す。

 そこへヴェロニカが、

「待ってください。テンセイ学園長殿。【ユートピア】の数はたったこれだけなのですか? 我がロシアの士官学校では百機はあったのですが……」

 美火得に質問をぶつけた。

「ええ。そうです。アレクサンドロフ訓練生。我が学園では今はこれだけなのです」

「我が学園では? どういう意味ですか?」

 耳聡いヴェロニカの疑念の言葉に、

「明星計画を進めるにあたって、予算を其処に殆ど使ってしまったのです」

 美火得は内情を吐露する。

「ですがテンセイ学園長殿。MSAの開発費は莫大な金額を要します。開発費と学園の運営費は別なのでは?」

「ロシアでも開発費は割り当てられるでしょ? アレクサンドロフ訓練生。その開発費で割り当てられる金額があたしの場合、中の上程度だったのよ。国防大臣閣下と四名の元帥閣下の内三名が随分頑張ったのだけど、その金額が精一杯だったの。そんな訳もあって、学園の運営費を回さなければならなかったのよ」

 ヴェロニカの問いに対する答えと共に、美火得は溜息を吐く。

「何だよそれ……!」

 美火得の言葉に怒りを覚えたのは、美火得の息子である雪菜。

 だが、その怒りも美火得の手を叩く音によってさえぎられる。

「はい。お喋りはここまでよ。全員、【ユートピア】に横たわって」

「待ってください。天聖学園長。【ユートピア】使用は、三年生からなのでは?」

「天理訓練生。これは彼方達だけ特別にあたしが許可したのです。ここにいるメンバーは三年生も赤服にも劣るものではないですし、訓練生の中で最も信頼しているからです」

「我々が確実に天使ではないからですか? 天聖学園長」

「そうです。このメンバーなら洗脳でもしない限り、大丈夫だと思っています。天理訓練生。他に質問は無いですね? はい、全員【ユートピア】に横たわるように」

 雪菜は何か言いたげな表情をしていたが、美火得に睨まれて渋々他の者にならって【ユートピア】に横たわった。


 ***


 【ユートピア】で俺達全員が仮想世界にダイブした先は、闇が支配する宇宙空間だった。周りにはデブリが多い。

「うお⁉」

 俺は、行き成りの宇宙空間に驚きを隠せないでいた。

「宇宙ステージか……」

 俺が呟くと、

≪そうよ≫

 俺の母――美火得が通信で言う。

≪まずはそのデブリを一斉に突破してみなさい。他の者を妨害する行為と武器の使用は禁止よ≫

 全員がスタートの構えを取る。そこに、俺の母――美火得が、

≪そうそう。デブリに衝突すると魔力が減るから気を付ける事。そして魔力がゼロになった者にはペナルティーが待っているから。それと一位になった者にはご褒美があるから頑張りなさい≫

 全員を煽ってくる。

 視界に数字が浮かぶ。3……2……1……と。

 そしてゼロになった瞬間――俺達は一斉にスラスターを全開にする。

 まずは俺とファラエル。そして次にヴェロニカとリーナ。更に後方には静江とさっちゃん。

 横に並ぶファラエルを観察すると、俺の『明星壱号機』によく似た機体だった。

 どうやら、あれが『明星参号機』のようだ。

 俺が『明星参号機』を観察していると、ファラエルが回避行動を取る。右に大きく迂回するようだ。

 ん? 回避行動?

 急いで前方を見ると、俺の眼前には超巨大なデブリがある。

「うおう⁉」

 俺は急いで左側に回避行動を取ろうとするが、デブリが肩の方に当たった。

 嫌な音を立てて、俺の魔力値がデブリによって削られる。

 お陰で魔力が5000程減った。

「くっ……!」

 今ので減速し、ヴェロニカとリーナに抜かれる。

「「お先に!」」

 二人の美少女は俺に目もくれずに、突き進んでいく。

 俺はスラスターを再び最大まで点火し、突き進む。

 だが、デブリの数が多くて、前の三人に中々追いつけないでいた。

「お先!」「お先に!」

 異口同音に言った静江とさっちゃんは、あっさりと俺を追い抜く。

 くそ!

 俺は闘志に火が付き、必ず全員を追い抜こうとほぼ直進する。

 お陰でデブリに当たりまくり、魔力値がかなり減らされた。

 レーダーを見ると二機停止いる。その画像にはファラエルとヴェロニカは既に止まっていた。恐らくデブリ帯を抜けたのだろう。

 くそ!

 俺は焦りながらも突き進む。

 前を見ると、静江とさっちゃんが画像で確認出来た。

「よし! 捉えた!」

{雪案。直進し過ぎです。デブリを迂回しながら進んだ方が早く目的地に着けます}

 アドバイスしてくる。

 確かに機体はボロボロ。魔力値も相当減っている。

 仕方なく俺は迂回しながら突き進む。

 すると、さっちゃんを先ず追い抜き、次に静江を追い抜いた。

 このままリーナを追い抜こうとしたが、リーナには及ばず――四位という結果になる。

 ファラエルやヴェロニカに負けるのはともかく、現在愛機が第九世代機のリーナに負けるのはショックだった。

 其処に追い打ち掛ける様に、

≪遅いわよ! 天聖訓練生! スペック上では壱号機が一番上よ!≫

 大声で俺の母――美火得が叱責。

 全通信だった為か、その場全員が耳を押さえている。

≪義姉さん。声が大きいわ≫

≪テンセイ学園長殿。もっと小さい声でお願いします≫

≪学園長。声が大きいです≫

≪おば様。全通信になっています≫

≪大声はやめてぇな? 敵わんよ≫

 ファラエル、ヴェロニカ、リーナ、静江、さっちゃんの女性陣全員が非難の声を上げる。

 特にファラエルと静江は素で言ったのに、母さん――美火得は怒る事もせずに、

≪ごめんなさい。プライベートチャンネルにするのを忘れていたわ≫

 素直に謝罪した。

≪おほん≫

 母さん――美火得はワザとらしく咳をしてから、

≪では、次にいきましょう。時間が無いからペアはあたしが決めます≫

 模擬戦闘訓練を宣言する。

≪次は三対三のチーム戦です≫

「ちょっと、待ってよ。母さん」

≪天聖訓練生! 何度言えば解かるのですか⁉ 天聖学園長でしょ⁉≫

「ぐあ⁉」≪≪≪≪≪きゃ!≫≫≫≫≫

 またしても母さん――美火得の大声に全員が耳を塞ぎ、身悶えした。

≪ごめんなさい。また、プライベートチャンネルにするのを忘れていました≫

 うう。鼓膜がキーンと鳴っている感じがする。

≪では、チームを発表します。A班――天聖訓練生、ヴラウン訓練生、綾部訓練生。B班は天道訓練生、アレクサンドロフ訓練生、天理訓練生。以上です≫

≪≪≪ちょっと、待ってください!≫≫≫

 B班であるファラエル、ヴェロニカ、静江から苦情の声が上がる。

≪天聖学園長。雪菜と一緒が良い≫

≪ワタクシもです≫

≪私でもです! 天聖学園長!≫

 だが、母さん――美火得は、

≪これはバランスを考慮しての班分けです。苦情は聞きません。命令です。良いですね?≫

 苦情を取り合わない。

≪では、始めますよ? 良いですね?≫

 俺の母――美火得の言葉に、

「待ってください! 天聖学園長!」

 今度は俺が待ったを掛ける。

「魔力値が減っているのですが……」

≪そのままで戦いなさい。実戦では魔力値は自然に回復しないのだから……。これは実戦形式の訓練です。故に特殊能力も使っても構いません≫

 俺の母――美火得の宣言に、俺は闘志を燃やす。

≪では、皆さん規定の位置――百メートル程、離れなさい≫

 母さん――美火得の指示でA班とB班に別れ、約百メートル離れる。

 そこでゼロになり、戦闘が開始された。

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