第四十話 援軍
未だ戦闘継続するヴィクトルを見て、
「どういう事だ⁉ 何故、貴国の訓練生が同じ国の訓練生を奇襲し、尚且つ未だ戦闘を続けているのだ⁉」
混乱した起動要塞の将官達の一人は、フィアダールに喰って掛かる。
「分からぬ。本当だ。いや、待て。まさか……!」
何かに気付くフィアダール。それに続いて美火得も思い付いたので、インカムのスイッチをOFFにした。
「確か、スミルノフ上級大将閣下。貴国の専用機持ちを暗殺する者がいたのですよね? もしかすると、ストロエフ訓練生がそうなのでは?」
「いや、しかし、暗殺された専用機持ちは、正規兵も含まれる。ストロエフ訓練生が敵の工作員の可能性は著しく低い……。それにストロエフ訓練生には専用機持ちになる際に多重チェックしている。その際には自白剤を投薬までしているのだ。あり得ん。ミセス天聖」
「恐らく自白剤に強い体を構築したのでしょう。もしくは軍内部に敵の工作員が既にいたのでは?
スミルノフ上級大将閣下」
「何故言い切れる? ミセス天聖」
ここでOFFにしたインカムをONにする。
「私の勘という事にして貰えませんか? スミルノフ上級大将閣下」
「……分かった。貴女を信じよう。ミセス天聖」
「では、あの機体は破壊しても構いませんね? スミルノフ上級大将閣下」
「いや、出来れば破壊するのは避けて戴きたいのですが? ミセス天聖」
「生け捕りは難しいでしょう。スミルノフ上級大将閣下。それは貴方が一番理解している事なのでは?」
フィアダールは一旦目を閉じてから、瞼を開ける。
「ストロエフ訓練生が暗殺者だと何故思うのです? ミセス天聖」
「火星出身者という事ですわ。火星撤退戦で恐らく入れ替わったのでしょう」
フィアダールは、それを聞いて首を縦に振る。
「分かりました。破壊を了承しましょう。ミセス天聖」
「ありがとうございます。スミルノフ上級大将閣下。使主大尉、聞いていましたよね? この事を天聖訓練生達に伝えなさい。協力して暗殺者を撃破せよと」
≪外の援軍はどうします? 天聖学園長≫
「そうですね。綾部訓練生に行って貰いましょう。直ぐに通達してください。それと使主大尉。このアリーナのバリアは陽電子砲に耐えられますか?」
そう、インカムを通して美火得は聞く。
≪三度なら耐えられます。ですが、天聖訓練生の特殊能力に対しては、分かりません。あの特殊能力は未知数ですから……≫
「先日に全てのアリーナのバリアは強化された筈でしょう? 使主大尉」
≪はい。ですが、あの特殊能力は先程も言った通り、未知数です。耐えられる保証何て何処にもありません≫
「分かりました。なるべくあの特殊能力は使わない方向でいきましょう。使主大尉」
≪了解です。天聖学園長≫
こうして、インカムのスイッチを美火得はOFFにした。
一方その頃、リーナと静江はアルバートとシャーニックの二人と戦っていた。
「くそ! 学園長の話では、グリード先輩だけではなかったのか⁉」
ロシアのMP隊が斃されて以降、静江とリーナはずっと戦いっぱなしだ。愚痴るのも無理はない。
「愚痴っても仕方が無いでしょ⁉ 静江! 相手は主席のグリード先輩と次席のティミッド先輩なのだから、口より手を動かしなさい!」
リーナの叱責により、静江は野太刀(5)を握りしめ、シャーニックを攻撃する。
シャーニックとアルバートの機体は、リーナと同じく、『ペネトレイション』だ。勿論、カラーリングは赤。
先の戦闘でシャーニックのMSA用対物ライフルを破壊したので、シャーニックも剣型近接ブレードを装備している。
シャーニックの追加武装はビームライフル(4)とビームサーベル(1)に軽装甲(1)だが、既に魔力をかなり消費しているので使えない。
シャーニックの魔力値は後、2000だ。
対して静江の魔力値はまだ12000である。
静江が押してはいる。しかし、シャーニックはれっきとした人類であった。
「静江! ティミッド先輩はずっと地球にいたから天使ではないわ! MSAを停止させるだけでいいのよ!」
「そうは言うが、リーナ! ティミッド先輩が何故、天使であるグリード先輩と共に我々を攻撃してくるのだ!」
静江は攻めきれないでいた。野太刀(5)では威力があり過ぎて、MSAを破壊しかねないからだ。
そこで静江は説得を試みる。
「ティミッド先輩! 止めてください! 我々は敵ではない!」
「五月蠅い! この堕天使が……! 不浄な輩め!」
しあkし、シャーニックはこんな調子だ。これでは説得もままならない。
(おかしい。ティミッド先輩が天使という事は有り得ない……。まさか、洗脳されている……⁉)
そう考えたリーナはすぐさま声を出す。
「ティミッド先輩! 貴方が天使だというなら、何故地球にずっといたのですか⁉」
「何を言っている? 堕天使の娘。私は天使なのだから……あれ? 何故天界の記憶がないのだ?」
シャーニックは記憶を辿るが、あるのは地球で暮らして来た記憶ばかり。
「そんな……馬鹿な! 私は天使の筈! 不浄な者達とは違う筈だ……!」
狼狽えるシャーニックを見て、リーナはピンときた。
「静江! ティミッド先輩は、洗脳を受けている!」
その瞬間、アルバートは舌打ちをする。
「何をしている! シャーニック! 不浄な者達を攻撃するのだ! それでも貴様は誉ある天使か!」
アルバートの叱責を受けて、シャーニックは立ち直る。
シャーニックは剣型近接ブレードを手に、静江に襲い掛かった。
「せい!」
しかし、動揺していたシャーニックでは静江に敵う筈もなく、攻撃を避けられて逆に一太刀浴びて魔力が尽きる。
シャーニックの『ペネトレイション』は、ダウンする。
「ふん! やはり所詮は不浄な者か……!」
アルバートはビームライフル(4)をシャーニックに向ける。
そこでピンときたリーナは、すぐさまビームライフル(5)をすかさず装備。
アルバートが撃った瞬間、リーナは彼の放ったビームを相殺する。
「ちっ!」
舌打ちしたアルバートはシャーニックの始末を諦めて、狙いをリーナに定めた。
撃ちまくるアルバートのビームをリーナは悉くビームで相殺する。
ビームライフルでの戦いは不利と悟ったアルバートは、接近戦に持ち込むべくリーナに対して強襲加速を掛けた。
左手にはいつの間にか、ビームサーベル(1)が握られている。
リーナは咄嗟に、剣型近接ブレードを取り出し、それで防御する。
リーナの剣型近接ブレードは、ビームサーベル(1)の攻撃により斬られたものの、リーナに対する攻撃自体は防いだ。
「くっ⁉」
静江はリーナを守るべく、野太刀(5)を握りしめてアルバートに接近する。
それに気付いたアルバートは、ビームサーベル(1)で静江の渾身の一撃を防ぐ。
だが、静江は諦めない。
天理神明流剣術七連撃技『柳襲』をアルバートに向かって使う。
二撃程喰らったアルバートは、己の魔力値を見る。
【自機】――魔力値15200――
重装甲(1)でなければ、魔力値はもっと減っていた事だろう。その事に怒りを覚えたアルバートは、本気で静江を潰しに掛かった。
「よくもオレの機体に傷を付けてくれたな……!」
アルバートは連続攻撃で静江を追い詰めていく。
静江の魔力値が5200になった処で、リーナのビームライフル(5)による援護射撃がアルバートの肩に中る。
アルバートは静江からリーナに狙いを定める。
強襲加速したアルバートは、零距離からのビームライフル(4)で攻撃。リーナはアリーナの出入り口付近まで吹き飛ぶ。そしてリーナの魔力値は4000まで減じていた。
元々、魔力値がビームライフル(5)の使用によって減っていた為である。
「屈辱だ! この智天使ガキエルが堕天使如きに、ここまでダメージを負わされるのは……!」
アルバート……いや、ガキエルは己の魔力値を凝視する。
残りの魔力値は9800。
さすがは(5)の威力という事か――リーナの一撃は、6000以上のダメージを与えていた。
だが、ガキエルの怒りは増すばかりである。
「二人共、絶対に殺す!」
ガキエルがビームライフル(4)を構えたその時、
「二人じゃあらへんで!」
里見がアサルトライフルを撃ちまくりながら、やって来た。
勿論アサルトライフルの弾丸は、魔刻弾である。
「二人共、加勢に来たで!」
里見のセリフに、リーナと静江は異口同音に、
「ユッキーは来ないの?」「ユッキーは来ないのか?」
何となく嫌そうな顔をした。
それに憤慨した里見は、
「二人共、失礼やな! そない嫌そうな顔せんとってなぁ! 使主教官に言われて急遽こっちに来たんで⁉」
地団駄を踏む。
「ごめんなさい。里見」
「済まん。里見」
リーナと静江は里見に謝罪する。
「ユッキーは来れへん! 今、ヴィクトルと戦っているんや!」
「試合を中断すればいいのではないか? 里見」
「静江はん。今やっているのは模擬戦やあらへん。実戦や……!」
里見の言葉にリーナはピンときた。
「ヴィクトルは、天使だったの? 里見」
「そや。リーナはん。ヴィクトルは天使だった上に、ディストーション先輩殺害の下手人だったんや……!」
「「なっ⁉」」
驚愕するリーナと静江に対し、ガキエルは呆れた声で言う。
「おいおい。オレがいる事を忘れているのか?」
対物ライフルを里見に向かって放つ。
だが、里見はこれを避ける訳にはいかない。後ろには第一アリーナがあり、観客である同じ釜の飯を食う仲間がいる為だ。
ダメージを受けた里見は、
「済まへんなぁ? 影が薄いから忘れ取ったわ」
軽口を叩く。
「それにしても、腑に落ちへんなあ? グリード先輩」
「何がだ?」
里見はガキエルに質問をぶつける。
「あんた達天使でも、今は人間。どうやって連絡を取り合ったんや? アメリカ人とロシア人のあんた達が会って話でもすれば、うちの情報網に引っかからない筈はないんやけどなぁ。もしかして、念話?」
「答える義務はないが……。まあいい。答えてやろう。ぶつかったあの時に、ヤツの電話番号を書いた紙片を受け取っただけだ。念話とやらではない」
ガキエルの返答に静江とリーナは、
「「あの時か……」」
食堂の事を思い出しながら呟く。
ガキエルは対物ライフルとビームライフル(4)を静江に向けながら、
「お喋りはここまでだ。死んで貰う」
攻撃を再開する。
今度はそれらを静江が野太刀(5)で斬る。
静江は、
「そこの将校殿! もうすぐこの戦いが終わるので、その事を学園長に報せてくれませんか⁉ それとMP隊を下がらせてください!」
ロシア人のMP隊の隊長格に言う。
隊長格の男性士官は、
「それは出来ない。我々はあの者を捕縛する様に厳命されているのだ」
静江の言葉を拒否する。
だが静江は、
「では、この場にいる総指揮官殿にこの事を報せ、一時的に退避してください!」
諦めずに説得を試みる。
「しかし……それは……」
猶も渋る隊長格の男性士官にリーナは、
「貴方達はハッキリ言って邪魔よ! いいから退避しなさい! これでは捕まえられるものも捕まえられないわ! それとも貴方が捕まえてくれるの⁉」
ハッキリと告げる。
これには隊長格の男性士官が激昂する。
「貴様、上官に向かってなんだ! その言い草は!」
そこへ、先程美火得達の下へ訪れた男性将校が現れ、隊長格の男性士官に耳打ちする。
「くっ! 全員、退避だ!」
その場のMP隊が第一アリーナの中へ入っていく。
それを確認した静江は、
「では、第二ラウンドといこうか?」
凄絶な笑みを浮かべるのだった。