第三十四話 事件発生
朝――雪菜、ファラエル、静江、リーナ、里見、ヴェロニカ、ヴィクトルの七名が学園に登校した時に、第一アリーナに人垣がある事に気が付いた。
「なんだ?」
雪菜が気が付いて立ち止まり、里見が真っ先に人垣に突っ込み、情報を仕入れに行く。
「どうしたの? 雪菜。行こうよ?」
ファラエルが進む様に促すが、
「いや、ちょっと気になって……」
雪菜はそれをやんわりと拒否。
其処に里見がやって来て、
「分かったで! 三年生のディストーション先輩が殺されたらしいんや!」
雪菜達に驚愕の事実を告げる。
其処に、アルバートとシャーニックがやって来た。
「よう。この暗殺者」
アルバートがヴェロニカを見て、悪態を吐く。
「なんだと? このアメ公が……」
ヴェロニカもアルバートに憎まれ口を言う。
そこで、シャーニックが金切り声で言いながら、
「ボクは見たぞ! この女が深夜に第一アリーナから出て行く処を!」
ヴェロニカを指差す。
それに対してヴェロニカは、
「ふざけるな! 嘘を吐くんじゃない! このアメ公が……!」
憤慨して、シャーニックを睨む。
「ひっ……⁉」
睨まれたシャーニックは驚いて、アルバートの後ろに隠れる。
そこで雪菜が、ヴェロニカの前へ出る。
「ティミッド先輩の証言以外に証拠はあるんですか? グリード先輩」
「それは……」
アルバートが言葉に詰まると、アメリカ人のMPがやって来る。
「このロシア人の少女が、ディストーション嬢を殺害したのは、間違いないみたいです! このロシア人の少女と同じ髪形をしたMSA乗りが、第一アリーナから去っていく処が監視カメラに記録されていました! そして深夜にその少女以外の者は被害者以外映っていません!」
「そうか。ご苦労」
MPから報告を聞いたアルバートは、その兵士を労う。
「では、決まりみたいだな? この暗殺者」
アルバートは笑みを浮かべる。
「では、こちらに来て貰おうか?」
MPの隊長格らしき者がヴェロニカに告げる。
だがヴェロニカは、
「ワタクシはやっていない! 本当だ!」
それを拒否する。
それを見たMP達は、ヴェロニカを取り囲もうとする。
それで雪菜はヴェロニカを庇う様に前へ出る。
「ちょっと待ってください。ここは日本の軍施設ですよ? 学園長の許可は取ったのですか?」
「それは……」
MPの隊長格の兵士が怯む。
「おい! 天聖訓練生! 邪魔をするな! 貴様はアカの手先か⁉ 違うだろ⁉ 大人しく見ていろ!
早くそこの暗殺者を捕らえろ!」
アルバートの怒鳴り声で、MP達がヴェロニカを捕らえるべく動き出す。
其処に、日本人のMPを引き連れた美火得が、
「これは何事ですか⁉ グリード訓練生!」
アルバートに問う。
「学園長。これはティスを暗殺した犯人を逮捕する処ですよ」
「ここは日本の軍施設です! 勝手な事は許しません! 即刻そちらのMPには帰って貰いなさい!
グリード訓練生!」
「いや、しかし学園長――」
「もし拒否をするなら貴方を退学処分とします! いいですね⁉」
美火得の言葉にアルバートは、
「………………分かりました」
了承するしかなかった。
***
〇八三五時。学園長室で俺、ファラエル、静江、リーナ、さっちゃん、ヴェロニカ、ヴィクトルはいた。
そこで俺の母――美火得は、
「いいですか? 今から言う事は他言無用です。言えば貴方達は査問員会で審議された後、裁判が待っています。良いですね?」
脅してきた。
そこで俺は言う。
「今から言うそれって、そんなに重要な事なのか? 母さん」
ここで母さん――美火得は、俺の脳天にチョップを喰らわす。
「天聖学園長でしょ? 天聖訓練生」
「はい……。天聖学園長」
ここでヴェロニカが、前へ出る。
「で、テンセイ学園長。それで?」
「ええ。実はグリード訓練生は、天使側の工作員なのです」
「「「「「⁉」」」」」
「何を言っているんだ? 母さん。グリード先輩が天使だなんて……そんな事がある訳が――」
ここで俺は母さん――美火得からまたしてもチョップを喰らわされた。
「天聖学園長でしょ? 天聖訓練生?」
「はい。天聖学園長」
いってえ~。
俺は頭を摩った。
それを余所に、俺の母――美火得は話を続ける。
「昨晩、月基地から連絡がありました。アルバート=グリードは智天使級の天使だと……」
「発言宜しいですか? テンセイ学園長」
「何ですか? ストロエフ訓練生」
「その情報源は何ですか?」
ヴィクトルに問われ、母さん――美火得は、少し迷ってから言う。
「……………………この事も他言無用ですよ? 元第二艦隊司令のウェルトー中将が、実は智天使級の天使だったのです」
「ウェルトー中将……確か、故ベルゲン大佐殿の上司でしたね?」
「その通りです。ヴラウン訓練生。どうやら、火星撤退戦の折に、天使が紛れ込んでいたようです」
俺の母――美火得は、一旦目を閉じてから、
「ここからが本題。アルバート=グリードを内密に処理する為に、貴方達に協力して欲しいのです」
今後の方針をこの場全員に聞かせる。
「具体的には、どうするのですか?」
ヴィクトルの問いに、俺の母――美火得は言う。
「貴方達の何れかに嫌がらせがあった場合、その事を報告して欲しいのです。良いですね? 決して先走らないように」
『了解しました!』
全員が了承――敬礼をする。
「話はこれでお終い。そろそろ授業開始の鐘が鳴ります。退室しても構いませんよ?」
俺の母――美火得の言葉に、その場全員が退室しようとすると、
「ああ。アレクサンドロフ訓練生は残る様に」
ヴェロニカに残る様に言うのだった。