第三十三話 発覚
深夜――月基地にある艦隊司令長官室。
「失礼します! 天聖元帥閣下!」
英雄の副官である光男が艦隊司令長官室に入って来た。
「どうした名瀬大佐。そんなに慌てて……。もう夜中の十二時過ぎだぞ?」
「大変です! 天聖元帥閣下! これを……!」
光男が一枚の書類を手渡す。
「これは……ウェルトー元中将に対する尋問調書かね?」
ウェルトー元中将は現在自白剤を投与して、尋問が続けられている。
その為、この書類には人の名前が綴られていた。
そしてその中に、知った名前がある事に英雄は気付く。
「なっ⁉ グリード元帥の子息が智天使だと……⁉」
英雄の動揺を察した光男は、
「ご心配なく。既に天聖少将閣下には伝えてあります」
英雄に落ち着く様に言う。
「そうか。感謝する。名瀬大佐。それでグリード元帥は大丈夫なのだろうな?」
「はい。シロです。グリード元帥閣下自身は、人間でした。天聖元帥閣下」
「それが何故、グリード元帥の子息が智天使なのだ? 名瀬大佐」
「ウェルトー元中将が言うには、火星撤退戦の折に入れ替わっていたと……。グリード元帥の御子息は、その時期にはどうやら火星に住んでいたようです」
それを聞いた英雄は苦い顔をする。
「一度、火星撤退戦に参加した将兵や将官――また科学者や一般人を洗い出す必要性があるかもしれんな? 名瀬大佐」
落ち着きを取り戻した英雄は、光男に聞く。
「そうですな」
光男もそれに同意する。
「では、名瀬大佐。リストが出来次第、本土に送る用意をしたまえ。アメリカと日本に」
「アメリカはともかく、我が国にですか? 天聖元帥閣下」
「ああ。そうだ。アメリカの高官の中にも天使がいる可能性は高い。握り潰される可能性は否定できない」
「了解しました!」
光男は敬礼しながら言う。
それを聞いた英雄は、話題を変える。
「処で、名瀬大佐。一週間後にある妻の学園で行われるクラス対抗戦は、月基地を代表して君が行くそうではないか?」
「はい。今から胃が痛くなる思いです……」
「名瀬大佐。今からそれでは身が持たないぞ?」
「ですが天聖元帥閣下……。何故、MSA乗りではない私が行かねばならないのですか?」
通常はMSA乗りが行くものだ。
「仕方あるまい。名瀬大佐。この基地の日本人の誰かが行かねばならないのだからな?」
「それはそうですが、それではMSA乗りの誰かが行けば良いではないですか?」
光男の愚痴に英雄は、笑いながらも言う。
「はっはっは! 仕方があるまい。今現在天使の大規模出現が頻発しているのだから、MSA乗りの手は一人でも欲しいのだからな?」
「それは理解出来ますが……」
「ともかく、名瀬大佐。しっかり見てきたまえ。特に故ウェイスター大佐を追い詰めた――妻の妹の実力を、な?」
「は? ご子息ではなくて……ですか?」
光男の言い分に、英雄は理由を話す。
「あいつがここにいては我輩と比べられてしまうだろう? それを嫌がると思うのだ。まあ、あいつが望めば我輩はそれに全力で応えるが……」
その言葉に光男は、にこりとする。
「天聖元帥閣下。ご子息はそんな事を気にするとは、私には思えませんが?」
「そうか? 名瀬大佐」
「はい。では、私は失礼します。天聖元帥閣下」
「ああ。ちょっと待ちたまえ。名瀬大佐」
「何でしょう?」
英雄の言葉に光男は立ち止まる。
「まあ、何というか、その……あいつの事も宜しく言っておいてくれ」
「了解しました。天聖元帥閣下」
光男は司令長官室を出て行く。
光男はドアを閉めて、その場を立ち去ろうとする。
「ふう……」
「ミスターナゼ!」
声のする方に光男が見るとそこにはイヴァンがいた。
「アレクサンドロフ上級大将閣下⁉」
光男は驚きながらも敬礼をする。
それを見たイヴァンも敬礼し、
「ミスターナゼ。君に伝言を頼みたいのだ」
そう言ってきた。