第一話 決闘
〇九五〇時。円形の闘技場に近しい形をした――第一アリーナは盛況だ。
観客席は結構埋まっている。
もしかして全クラスの奴らが集まっているのか? それにVIP席には教官達や母さんまでいるし……。
俺の機体は純国産の第八世代量産型MSA――『霧風』。
姿形は甲冑のようであるが、その安定した性能は月基地等の宇宙で活動する日本軍では今も主力として扱われている。もっともこれは、地球に滞在する中央軍のお古だが……。おっと俺の機体は赤色だ。
固定武装は刀型近接ブレードとMSA用のアサルトライフル。
そしてリーナの機体はアメリカの第九世代先行量産型MSA『ペネトレイション』。
姿形は中世の鎧といった感じだ。
固定武装は剣型近接ブレードとMSA用の対物ライフル。
MSA用の対物ライフルは宇宙戦艦の装甲版をも易々と撃ち抜く威力がある。
リーナの機体も勿論赤。
赤服には機体を赤にカラーリングする権利がある為だ。因みに主力兵器であるMSAの顔には装甲が無い。戦場で誰なのかを認識させる為の措置らしい。
そして仮想敵である宗谷と久糊の機体は、『霧風』だが、カラーリングは本来の緑色。
よし。後はあの二人のデータは、と。
俺は思考して宗谷と久糊の機体を『見る』。
すると直ぐに二機のデータが視界に浮かび上がった。脳波を読み取る機能がMSAにある為、可能とする芸当だ。
宗谷は力天使ベリアルと契約しており、追加武装はビームガトリングガン(3)と重装甲(1)。
【腹黒機】――魔力値8500――
久糊はご存知、大天使ファミラエルと契約しており、追加武装はビームライフル(1)と重装甲(1)だ。
【大寺機】――魔力値3000――
そして最後にリーナを『観察』。
リーナは熾天使ぺイモンと契約しており、追加武装はビームライフル(5)と軽装甲(1)。
【ヴラウン機】――魔力値27000――
因みに俺の魔力値は1000。『堕天使』と契約していない人間としては魔力が突出しているが、大天使と契約している久糊の三分の一である。
そしてビームライフルだが、これは未だ開発されていない。各国はトライアル段階であるが、宇宙戦艦に搭載されているビーム砲は五〇年前に開発された。しかし、MSA用のビームライフルは五〇年も掛かっても未だに開発されていない。ビームを生み出す機器がどうしても小型化出来ないというのがその理由だ。だからビーム兵器は契約時の追加武装で生み出すしかないのだが……。
これはホントの本気を出すしかないな……。
「リーナ。俺に剣型近接ブレードを貸してくれないか?」
「ユッキー。それではワタシが近付かれた時、戦えない」
「大丈夫だ。リーナには俺が近付けさせないから。な?」
「でも……」
リーナが渋るので、
「俺を信じてくれ……! 頼む!」
俺は両手を合わせてお願いする。
リーナは溜息を吐いてから、
「分かったわ……」
俺の願いを了承し、剣型近接ブレードを渡してくれた。
俺はリーナから剣型近接ブレードを受け取る。
それを見た久糊が、
「ぎゃははは! 二刀流とは笑えるっすよ! そんな事をする奴は、格好をつけたがる奴だけっす!」
俺を盛大に馬鹿にする。
宗谷も、
「確かに。雪菜。お前、気でも触れたか?」
俺に対して侮蔑の言葉を投げ掛けた。
「ゴリラ男と扇動男は五月蠅いわね?」
リーナの言う扇動男とは、勿論宗谷の事である。
今度はリーナの言い草に、久糊と宗谷が鼻白む。
話は変わるが、恐らく追加武装の3や1は威力や耐久力を現しているのだろう。
≪私語は慎みなさい……!≫
俺達のやり取りに我慢が出来ないのか、使主教官はAピット内部から注意する。
≪そろそろ時間だ……!≫
3……2……1……開始の鐘が鳴る!
鐘の開始音と同時に久糊と宗谷は俺に対し、集中砲火を浴びせる。
俺はそれを回避しながら、まずは久糊にアサルトライフルで攻撃。
久糊に対する攻撃は殆ど中る。
だが、久糊のデータを見ると、余り魔力値は減っていない。
くっ! さすが重装甲! 通常弾ではあまり効いていない! こうなったら……!
俺はアサルトライフルを収め、刀型近接ブレードを装備する。
現在、仮想敵の宗谷と久糊の魔力値は、画面に出る様にしてあるのだ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は真正面から突撃を敢行する。
その間にも、リーナがビームライフル(5)で援護射撃をしていてくれた。
その何発かの内、一発は久糊に命中する。
おお! 凄い威力! 機体に掠っただけで2000も魔力値を減らすとは! さすがは(5)の威力だな!
ここで宗谷が前に出て来て、俺に向かってビームガトリング(3)を放つ。
俺はランダム回避と二本の剣と刀で防御するが、何発かは喰らってしまう。
俺は自分の魔力値を観察。魔力値は後500程だ。
機体は中破。だが、まだ動ける。
MSA同士の戦いは、魔力値が0になったら負けだ。
「リーナ! 宗谷を押さえておいてくれ! 久糊は俺が倒す!」
「了解よ! ユッキー!」
俺は真っ直ぐ久糊に向かって行く。
「これでも喰らえでやんす!」
久糊はビームライフル(1)で攻撃してくるが、俺には中らない。
っていうか、お前の下手糞な腕前で命中するか! ば~か!
「喰らうのはお前だ!」
俺は天理神明流二刀流術――八連撃技、『連枝』を久糊に使う。
大寺機はこれで魔力値が50となる。
これで久糊はビームライフル(1)を撃つ事は出来ない。ビームライフルは通常弾と違って、魔力を消費して撃つものだからだ。
だが、久糊は諦めていないようで、ビームライフル(1)を収めて、アサルトライフルを装備。
「くそったれっす!」
久糊はアサルトライフルを撃ちまくりながら、後退しようと心がける。
「逃すかよ!」
俺は刀型近接ブレードを収め、アサルトライフルをぶっ放す。
これで久糊の機体はダウンした。
よっしゃ! 一機ダウン!
「リーナの方は?」
俺がリーナの方を見ると、リーナは流石に宗谷を押していた。
攻撃の密度は宗谷だが、ビームガトリングは魔力を喰う。
俺は宗谷とリーナ――二人の魔力値を見る。宗谷の魔力値は残り4500だ。
対してリーナの魔力値は26500である。
さすがはリーナだ。敵のビームガトリング(3)を殆ど避けながらビームを撃ち込んでいる。
俺は援護射撃の為に、アサルトライフルを宗谷に向かって撃つ。それが全弾命中。
だが、魔力値は一桁しか減っていない。
げっ⁉ さすがは力天使といった処か! 大天使とは豪い防御力が違う。
俺はアサルトライフルを捨て、再び刀型近接ブレードを装備し、
「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
雄たけびを上げながら、宗谷に向かって突っ込む。
だが、宗谷は俺に気付いて、ビームガトリング(3)を此方に向ける。
「かかったな⁉」
どうやら宗谷は俺が向かってくるのを予想していたようだ。
宗谷はビームガトリング(3)を撃ちまくる。俺は突っ込んだ為、避けられない。
二刀で防御したが、何発かのビームガトリング(3)のビーム弾が俺の機体に命中する。
そして俺の機体は、残りの魔力値が200となった。
げっ⁉ 数発中っただけでこれかよ……! どうする……⁉
俺が口を歪ませて迷っている時、
「ユッキー! 退いて!」
リーナがビームライフル(5)を三発撃ちながら叫ぶ。
俺はすんでの処で回避。
それに対し、宗谷は全弾命中した。
よし! これで後、もうちょっとだ!
そう思って気を抜いた時に、宗谷がビームガトリング(3)を此方に向ける。
「喰らえ! 雪菜!」
宗谷のビームガトリング(3)とリーナのビームライフル(5)は同時に発射された。
俺と宗谷は同時に魔力値0に――。
そして試合終了の鐘が鳴る。
クッソ―~! 完全勝利とはいかなかったか……!
≪勝者! 天聖、ヴラウン組!≫
使主教官のアナウンスで、観客席から歓声が沸いた。
名前 天聖雪菜
機体 霧風
固定武装 アサルトライフル、刀型近接ブレード。
魔力値 1000