第十六話 母の正体
一〇一五時。Bピットで黒と水色の長剣を持った俺は、
「ファラエルさん! 来てくれたんですね⁉」
ファラエルさんが来て喜んだ。
だが、ファラエルさんはそれ処では無かった様だ。
「姉さん⁉」
俺の母親――天聖美火得を見て、確かにそう言った。
姉さん? 姉⁉ え? 母さん、妹がいたの⁉
俺の驚きを余所に、ファラエルさんは涙ながら母さんに近付く。
「姉さん……生きていたのですね……」
だが母さんは、
「あたしに妹はいません。人違いでしょう」
ファラエルさんの言葉を否定する。
「人違いじゃない! この神聖力は間違いなく姉さんのものだ! 何故嘘を言うのです! 姉さん!」
「それは、我等天使の敵になったからですよ。ファラエル殿」
声の主を見ると、蘇我ミリエル大尉が其処にいた。いつもながらキザな奴だ……!
しかし今さっき、天使って言わなかったか?
俺はファラエルさんに問う。
「ファラエルさん? 呉基地の人じゃなかったんですか?」
「…………」
ファラエルさんは無言だ。
「ファラエルさん……! 何とか言ってくださいよ!」
俺の必死な問い掛けに、
「わたしは天使。智天使であり、其処にいる四大熾天使ミカエルの妹だ」
ファラエルさんは冷淡に答えた。
熾天使ミカエル――その名は歴史の座学で聞いた名だ。
第一次天使侵攻の総司令官にして、第二次火星防衛戦で親父に討たれた熾天使の名である。
俺の母さんが? 熾天使? 嘘だろ?
俺は母さんを見る。
「母さん? ファラエルさんの言っている事は、本当なの?」
「…………」
母さんは無言。それが正しさを表していた。
本当……なのか?
「そんな……そんな事って……」
俺は混乱した。当たり前だ。人類の敵――天使の息子だったのだから。
もしかして、当初魔法陣が反応しなかったのも、純粋な堕天使の魂を持っていなかったからか?
はっ⁉ そう言えば……!
「じゃあ、親父も天使なの⁉ 母さん!」
俺の問いに、目を反らしながら母さんは言う。
「…………父さんは人間よ。いえ、天bん士たちの言葉を借りれば、堕天使の子孫よ」
俺は一時ほっとするが、直ぐに考えを改める。
じゃあ、親父は嘘の英雄なのか⁉ 敵の総司令官を唯のMSAで斃したのは嘘で塗り固められているのか⁉
俺は怒った。怒りに任せて、
「母さん! あんた達は嘘を皆にずっと吐いていたのか⁉」
母さん――連中の言葉が正しければ、ミカエルに問う。
「そうよ。あたしは皆に嘘を吐かなければならなかった」
「何故だ! 母さん!」
俺は再度ミカエルに問う。
「あたしは貴方のお父さんに敗れた後、生きる事を望んだ……。間違っている神を正す為に……」
「神が間違っているですって⁉ 姉さん! 何て事を言うの⁉」
ファラエルさんの言葉を聞き流し、
「貴方のお父さんは言った。我輩の婚約者を返せと……」
ミカエルは当時の事を思い出したのだろう――言った。
「当時のあたしは神の言葉を信じていた。だけど、あの人の言葉に動揺し、あたしは敗れたの。神の言葉は――いえ、神のやる事にも疑念を抱いたのよ。神は本当に正しかったのかって……」
まあ、それは疑念を抱くのは普通だろう。俺はそう思った。
だが、天使側としてはそれすら許されないのだろう――ミリエルが憤怒する。
「堕天使ミカエル! それ以上の無礼は許しませんよ! それは神の冒涜だ!」
「ミリエル殿! 姉さんは堕天なぞしていない! 貴公も分かるだろう! この神霊力を……!」
銃口を向けたミリエルに対し、ファラエルさんは銃口を押さえつける。
「だが、ファラエル殿! ミカエルは人類――堕天使の味方だ! これは神への明確な裏切り! 故に堕天使扱いされてもしょうがないのではないかな⁉」
「ミリエル殿! これ以上、姉さんんを侮辱するな! 許さんぞ⁉」
ファラエルさんは、ミカエルを庇う様に立ちはだかった。
そしてミリエルは、ミカエルに向かってアサルトライフルを撃つ。それをファラエルさんは庇った。
それを見たミリエルは、厭らしく嗤う。
「おめでとう! これで貴女も立派な堕天使の仲間入りだ!」
そう言ってミリエルはファラエルさんの腹を蹴り、彼女が朱い長剣を手放した処で奪って攻撃。彼女の機体は、一万近く魔力値が減った。
ミリエルは構え直し、
「死ね! 堕天使ファラエル! そして堕天使ミカエル!」
彼は月の構えをする。
そしてファラエルさんに向かって、突進。
させるか……!
そこに俺が割り込んで、二本の長剣で突きを弾く。
「何が何だか分からないが、ファラエルさんは俺が護る!」
俺は決意表明をした!