第十五話 再会
ピットで雪菜が剣の創造を始めるニ十分前、『ペネトレイション』を装備したベルゲン、イノセンス、オーダートの三人と、『霧風』を装備したファラエル、ミリエルの二人は、第一アリーナで対峙していた。
第一アリーナ内では大盛況で、席は完全に埋まっている。
それ処か、立って見ている者までいるのだ。この一戦がどれ程注目されているのか、知れるというものだった。
それも無理はない。何処からか聞き付け、月基地のエースが来ているとの情報をキャッチした訓練生達が集まっているのだ。
オッズはベルゲン達が1,1で、自称呉基地のMSA乗り二人が8.9である。
はっきり言って月基地のエースであるベルゲン達が有利だと、殆どの者がそう思っている。大穴扱いにしている自称呉基地のMSA乗り二人組に賭けるのは、美少女と美青年の為に目が眩んだ大馬鹿者だけだった。
≪では、これより急遽、メインイベントを始める! Aピット側からは天道中尉と蘇我大尉組! Bピット側からはウェイスター少佐殿とデザイスター中尉兄弟の二対三!≫
Aピットから斎がアナウンスする。
すると歓声が上がった。
「すげえ! マジに本物の月基地のエースだよ!」
「それにしても、本当にいるとは……!」
「来てよかった!」
「それにしても、月基地のエースが相手なのに、あの二人組余程自信があるのか?」
ベルゲンはミリエルに質問する。
「最初に問う事がある。お前達天使だな?」
「いいえ。違いますよ?」
だが、ミリエルの答えは素っ気ないものだ。
しかし、ベルゲンは更に問う。
「では、その識別コードは何だ? 何故、お前達の機体から地球軌道守護艦隊のコードが発進されている?」
驚くミリエルとファラエルの顔を見て、ベルゲンは確信した。
(どうやら、ビンゴのようだな?)
開始の合図の鐘が鳴る。
「音を遮断せよ!」
絶空!
ミリエルが音を遮断する結界をアリーナの中央にある戦闘領域内に張った。
完全防音の魔法を使い、そしてファラエルがアサルトライフルで先制攻撃を始める。
ファラエルとミリエルの機体は、『霧風』だ。
ファラエルの放つ弾丸が、ベルゲンを襲った。
ベルゲンは自分の魔力値を見て、苦々しく思う。
ここは戦場だ。これは訓練ではない。この失態は自分にある。
(やってくれたな……!)
ベルゲンは心の中で吠えると、部下の二人に指示を出す。
「イノセンスとオーダートは男を押さえろ! 女はオレが殺る!」
「「了解!」」
ベルゲンはファラエルの魔力値を測る。
【テンドウ機】――魔力値22000――
敵――ファラエルはいつの間にか手に、朱い長剣を握っていた。
MSA用に大きくしたレーヴァテインだ。
だがそんな事を知らないベルゲンは、
(神装か聖装の類か……?)
そう結論づける。
自分が今持っているのは、聖装である聖剣だ。
通常の攻撃では魔力で編んでいる以上、相手の方が装備は格上でも壊れる事は無い。
それがMSA同士の戦いだ。
だが、双方の剣同士が交錯すると、ベルゲンの聖剣が粉々に砕け散った。
神器――レーヴァテインの威力が遥かに上回っていた結果である。
「何ぃ⁉」
ベルゲンは驚き、隙が生じた。
そこにファラエルはレーヴァテインで一撃を加える。
レーヴァテインは、ベルゲンの機体である『ペネトレイション』の結界フィールドを切り裂き、生命維持シールドを発生させる。
ベルゲンは自分の魔力値を確認して、驚愕する。
(何⁉ ダメージが一万を超えるだと……⁉ 一体、あの長剣は何だ……⁉)
ベルゲンはアサルトライフルを装備。フルオートで至近距離から放つ。
だが、ファラエルは距離を取ってそれらを回避――或いはレーヴァテインで弾く。
(何だ……こいつは……⁉ 何なのだ……⁉)
今まで始末してきた智天使とは訳が違う。ベルゲンは戦慄を覚え、そう感じた。
「オーダート! 男の方はイノセンスに任せて、こっちを手伝え! 二対一でいくぞ!」
彼等の方を見ると、あちらは戦闘すらしていない。
「…………」
そしてオーダートは、ビームライフル(4)を無言でベルゲンに向けてきた。いや、オーダートだけではない。イノセンスもビームライフル(4)を向けてくる。
双方のビームは、ベルゲンに命中。
ベルゲンは魔力値を見てまだ余裕がある事を確認してから、
「貴様ら、何の真似だ! 上官を攻撃するとは……⁉」
オーダートとイノセンスに問う。
それに対し、オーダートは肩を竦めた。
「それを貴方が言いますか? 平気で上官に突っかかったり、喧嘩を売ったりする貴方が。なあ、イノセンス。いや、座天使ファラキアル」
「そうだな。オーダート。いや、座天使ベルキアル」
「なっ……⁉」
ベルゲンは信じられないものを見た表情になる。
(こいつらは……まさか……天使⁉)
オーダートとイノセンス……いや、ベルキアルとファラキアルがビームライフル(4)を、未だに立ち直れないベルゲンに向かって撃ちまくる。
(これ以上は……不味い!)
ベルゲンは自分の、残り少ない魔力値を見て回避行動を行う。
だが、ビームの嵐がベルゲンを未だに襲う。
回避行動を取っても、ビームの全てを避けられず、何発かは命中する。
そしてベルゲンはビームを後一発でも喰らえば、MSAは停止してしまう。
ベルゲンはアサルトライフルで、弾幕を張りながら回避する。
ファラキアルとベルキアルは回避しながらビームを撃ち続ける。
「くそったれ!」
ベルゲンが悪態を吐いた時、回避できないビームが彼に向かって突き進む。
(これまでか……⁉)
ベルゲンが己の魔力値が0になるのを覚悟した時、何かが二機程Bピットから現れ、ビームを相殺する。
(助かったのか……?)
ベルゲンが相殺したビームの軌道方向を見ると、『霧風』に乗った静江と『ペネトレイション』に乗ったリーナがいた。
ビームライフル(5)を装備したリーナを見て、
「ビームを相殺したのは、お前か。礼を言う」
ベルゲンは生まれて初めて格下の者に本気で礼を述べる。
だが直ぐに静江が、
「少佐殿! これはどういう状況なのですか⁉ 何故、味方である中尉達が貴方に攻撃をするのです⁉」
ベルゲンに状況説明を乞う。
「奴らは天使が人に化けて、我が軍に入り込んでいた工作員だ! 油断するな!」
(この二人は火星を護っていた人間だ。火星で戦死した本人とすり替わって、今まで人間に成りすましたのだろう)
そう結論を出したベルゲンは、リーナと静江に指示を出す。
「いいか! 俺は後方で指揮を執る! 魔力がないからな! ヴラウン訓練生は中距離でアタック!
もう一人のお前は、近距離でアタックだ! いいな⁉」
「了解!」
「断る! 少佐殿!」
リーナは了承したが、静江は拒否をする。
「人を見る目が無い者の言葉は聞くに値しない!」
(私はあの時の言葉を、忘れてはいないぞ!)
「ちょっと、静江! ここはウェイスター少佐殿の言う通り、連剣するのがベストよ!」
「リーナ! 少佐殿は、ユッキーを軽んじた! 理由はそれだけで十分だ! 連携はリーナとだけすればいい!」
「静江!」
リーナが静江の肩を掴むが、静江は意を介さずに敵に向かって突っ込む。
静江にとって愛する雪菜を馬鹿にされた事に、腹が立っていたのだ。
静江は己の神装である野太刀(5)を右手に装備。左手でアサルトライフルを撃ちまくる。
静江は射撃が下手だ。それも壊滅的に――。
だが、弾幕としては十分に機能する。
お陰でファラエルに近付いていく。
ファラエルは弾幕を張る事はしなかった。
そして、ファラエルが静江に向かおうとするが、
「待ってください。ファラエル。第一ターゲットの始末を優先しましょう。貴女はBピット内に侵入して、ターゲットの始末をしてください」
ミリエルは小声で、ファラエルに指示を出す。
「了解した」
ファラエルはBピット内に侵入しようとする。しかし、静江が立ちはだかる。
立ち止まるファラエル。
(折角の姉妹再開を邪魔するなよ……!)
ミリエルの思いを余所に、ファラエルは静かに言う。
「そこを退いて。でないと死ぬ事になる」
「退けるか! 馬鹿者!」
ファラエルの警告を静江は無視。彼女に向かっていく。
「はあああああああああああああああああああああ!」
神装と神器が交錯する。
「何⁉」
ベルゲンは静江の野太刀が壊れない事に驚く。
「あの野太刀は、神装なのか⁉」
聖装で破壊されたのなら、最早それしかない。静江は熾天使アシュタロスと契約しているのだ。
ベルゲンは静江の魔力値を見る。
【テンリ機】――魔力値28000――
(何だ⁉ あの静江という者の魔力値は、3000程オレより上ではないか!)
ベルゲンはリーナの魔力値を測定。
【ヴラウン機】――魔力値26950――
此方もベルゲンより上だ。静江には劣るが……。
「なっ……⁉」
ベルゲンはまたもや動揺する。月基地エースである自分より、上の者が出て来た事についてだ。
そこを自称双子の兄弟が見逃さなかった。
ファラキアルとベルキアルは、ビームを放つ。
魔力値が0になり、ベルゲンの視界には停止の二文字が表示される。
「しまった!」
「ウェイスター少佐殿⁉」
「少佐殿!」
リーナと静江が言った瞬間に、ファラキアルとベルキアルがビームを放つ。
そして――大爆発。
ここに来てようやく、ヒートアップしていた観客はおかしい事に気付く(音が聞こえなかった事には気付いていた)。
観客は大混乱となる。
「ウェイスター少佐殿!」
「少佐殿!」
リーナと静江に動揺が広がってしまう。
そこをファラエルは見逃さなかった――彼女はBピット内に侵入した。
静江が「待て!」と言い放つが、待つはずがなかった。