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ハルマゲドンの英雄譚  作者: 谷川ヒロシ
波乱の日々の幕開け編
15/186

第十四話 創造

 同日同時刻。

 ファラエルは校門の前で守衛と言い争っている。

「何故、我々を通して下さらないのですか?」

「だから、先程も言ったでしょう? 関係者以外は立ち入り禁止だと……」

 青年の守衛の言葉に、

「ですが、我々はここの学園長に来るように言われて来ました」

 ミリエルは痛い処を突く。

 しかし、伊達に齢を取っていないのか――壮年の守衛が、

「あんた達は昼に来るように言われたのだろう? なら、昼に来るべきだ。それならこんな問答をせずに済む」

 逆に痛い処を突いて来た。

 そこに、雪菜がやって来た。表情はぽかんとしている。

「どうしたんですか? ファラエルさん」

「良かった! 天聖訓練生、この人達をどうにかしてくれ! ここを通してくれないのだ!」

 ファラエルの言葉に雪菜は、守衛の説得を開始。

「守衛さん。通してあげては如何ですか?」

「君は天聖学園長の息子さんだったな? 幾ら君でも駄目だ。何故ならこれは学園長に厳命されている事なのだからね?」

 壮年の守衛の言葉に雪菜は驚き、諦めた。

「母さんに⁉ じゃあ駄目だね……。御免、ファラエルさん。そういう事だから……」

 両手を合わせる雪菜に、ファラエルは睨む。

(このマザコンが……!)

 心の中での悪態を吐いたのが効いたのか、

「う……。守衛さん? やっぱり通してあげたら? このまま返すのは忍びないよ……」

 雪菜は再び守衛の説得に掛かる。

(守衛は天聖訓練生につきっきりだ。ここは強引にでも行くか?)

 雪菜が説得し始めたその頃、ファラエルは小声で、

「どうします? ミリエル殿。強行突破しますか? 今ならターゲットがいるのは確実です」

 ミリエルに提案する。

「どうして貴女はそうなのですか? いいですか? ファラエル殿。それでターゲットに逃げられでもしたら、目も当てられません。駄目です。ここは穏便にいきましょう」

 これにはミリエルも小声で、これを否定した。

 そこに青年の守衛が、

「そこで、何をコソコソ話している。やっぱりあんた達、怪しいな?」

 疑念の目をファラエルとミリエルに向ける。

 そこに斎が現れた。

「済みません! 学園長がOKを出しました! 案内します!」

 これには守衛の二人が、

「「学園長が……⁉」」

 ハモって驚きの声を上げる。

「本当ですか⁉ 使主教官!」

「ああ。天聖君。君は一足先に学園長の下に行ってくれ」

「了解しました! 後はお願いします! 使主教官!」

 雪菜は敬礼をしてから、斎に頼む。

「分かっている。さ、天聖君。君の契約まで時間が無いよ? さっさと行って」

「はい!」

 雪菜は第一アリーナに向かって走っていくと思いきや……。

「じゃ、ファラエルさん! また後で!」

「ああ」

 ファラエルの見送りに満足したのか、雪菜はもう振り返らずに第一アリーナまで走っていった。

 それを見届けた斎は、

「さ。御二人共、此方へ……」

 二人を第一アリーナへ案内する為に歩き出す。

「天聖訓練生には言っていなかった事なのですが……」

 斎は言い難そうに言い、

「何でしょう? 使主教官殿」

 ミリエルが聞く。

 それに対し、斎は立ち止まって説明を始める。

「実はもう一組、学園長の護衛を買って出た方々がいまして……。学園長は勝った方に自分を護衛する権限を与えると言っているのですよ。蘇我ミリエル大尉」

(あの少年に我々の事を聞いているのか? ならば我等を警戒するのは当然だな……)

「そうですか。了解しました。使主教官殿」

「おい! ミリエル殿!」

「何だ! その口の利き方は⁉ 天道中尉!」

 ミリエルの言に、ファラエルは斎の訝しげな目に気が付いて、

「済みません! 蘇我大尉殿!」

 彼に対し、言い直す。

 ミリエルは、

「これは自分が決めた事だ! 貴様は口を挟むな!」

 これ以上、ボロが出ない様――ファラエルに口を挟まないように言う。

「申し訳ありません。使主教官殿。それで、相手は何人なのですか?」

「非常に心苦しい事なのですが、三名なのです。蘇我大尉殿」

 本当に心苦しそうに言う斎は、ミリエルに向く。

「う~ん。三名ですか……。まあ、いいでしょう。護衛を買って出るのですから、我々はその位のハンデがあっても良いでしょう?」

 余裕ぶるミリエルに、斎は申し訳なく言う。

「済みません。蘇我大尉殿。相手は月基地のエース。ベルゲン=ウェイスター少佐殿と、その部下達なのです」

「ま、まあ、いいでしょう……。此方が護衛を買って出るのですから……」

 一応、動揺している様に見せるミリエル。

 だが、斎はミリエルの言葉の裏を見抜いていた。

(蘇我大尉。やはり学園長の言う通り、彼等が暗殺しようとしているのかも知れんな……。月基地のエースの名を出しても、引き下がらないとは……)

 ベルゲン=ウェイスター少佐は、確かに優秀な兵士だが同時に上官にも苛烈な態度を見せる事で有名な問題児でもある。それは正規の軍人なら誰でも知っている事だった。

 斎は嘆息する。

(学園長も酷い事をする……。天聖君のあの態度……あれは天道ファラエル中尉に恋をしている証だ。あの二人も災難だな……。いや、これでいいのか? 何故、あんな鈍感でお馬鹿な天聖君を好いているのかは知らないが……)

 あの二人とは、リーナに静江の事だ。

 どう見てもあの二人は、雪菜に恋心を抱いている。

 斎は溜息を吐くしかなかった。


 ***


「う~! 俺も見に行きたい!」

 一〇〇〇時。第一アリーナ――そのピットに俺達はいた。

 ここにいるのは、俺、リーナ、静江、学園長である美火得だけだ。

 俺とリーナ。そして静江はMSA用のスーツである。

 MSA用スーツじゃ体にフィットするので、体のラインがくっきりと出るのだ。その為、リーナと静江は恥ずかしがっている。

 ピット内には俺の専用機である中世の鎧の様なMSA――『明星一号機』がある。カラーリングは黄金色。ピット内にはその金色のMSAと、ピットの中央には魔法陣がある。

 俺は待機状態の『霧風』のブレスレットを外し、『明星一号機』に背中を預け、現在は関節最適化フィッティングを開始していた。関節最適化をしているのは、勿論俺の母親であり、『明星一号機』を開発した美火得だ。

「何て速さなの……!」

「そうだな……。驚異的な速さだ……」

 リーナと静江が驚くのも無理はない。あれから五分も経っていないのに、既に関節最適化は九割方終了しているのだ。

「よし、最適化終了よ」

 はやっ! 我が母親ながら、超速い……! 通常は十分は掛かるのに……⁉

 母さんが言っていたが、武装は大型荷電粒子砲とプラズマライフル。それと電磁投射小銃――これは第十世代型の武装。それと高周波ブレードが二本に、アサルトライフルが一丁。模擬弾じゃなく全て実弾との事。

 ここでいう実弾とは通常弾ではなく、魔刻弾まこくだんの事だ。弾丸に特別な紋様を入れた特殊な弾で、天使の張る結界を破る事が可能だ。

「じゃあ、天聖訓練生。次は魔法陣を描かれている台座に上がりなさい」

「え? このままで? 母さん」

 そう言うと、俺はぐうで殴られた。顔は微笑んだままで……。

「違うわよ? 天聖学園長でしょ? 天聖訓練生♪」

「いってえ~!」

「早くしなさい。天聖訓練生」

 暴力に屈した俺は魔法陣を注視した。

 通常――というか、この前の魔法陣とは所々読めない文字がある。

 ごくり。

 俺は祈るような気持ちで、魔法陣の中に入った。

{私は大天使長ルシフェル。我が半身よ。私と共に在れ}

 十二枚の翼を持った『堕天使』が顕現する。

 は? 大天使長ルシフェル? 何だか聞き覚えがある名だな?

 そう思っていたらリーナが、

「大天使長ルシフェル⁉ あの⁉」

 滅茶苦茶驚いている。

 思い出した!

 大天使長ルシフェル。嘗て天の三分の一を率いて、神に弓を引いた者――つまり、堕天使側の最高位であり、全天使の長である。更に言えば、神の副官だった者。

 俺が思い出した後、静江が言う。

「もしかして、知らなかったのか? ユッキー」

 そして、それにルシフェルが反応する。

{ユッキー? それが貴方の名ですか? 変わった名ですね?}

「いや! 違うから! それ、愛称だからな⁉ 俺の名は天聖雪菜だ! ルシフェル!」

{そうですか……。では、雪菜よ。これで契約は成立した。これからは私は貴方の武器であり、鎧です。存分に私を使うと良いですよ}

 くううううううううううううう。これで俺のMSAも強化された筈だ!

{では、まず、追加武装を選んでください}

 目の前に現れた空き容量を見ると、十二もある。

 これなら……!

 俺は即断する。

「(5)の長剣が二本。(1)のビームライフルが一丁。(1)の軽装甲。以上!」

{では、そなたがその長剣二本を創造するのです}

「え?」

 後は自分の契約『堕天使』がやってくれるんじゃないの⁉

{早くしてください! 味方がやられますよ⁉}

「何⁉」

 えーと。そんな事を言ったって、気になって創造出来ねえって!

 心の中でツッコんだ俺は、

「ルシフェル! お前が創造してくれ!」

 ルシフェルに頼む。

 しかし、ルシフェルは飽く迄、

{無理です。私は飽く迄、貴方のサポートをするだけの存在です。(5)の武器、追加武装を創造出来るのは貴方達人間だけですよ?}

 冷静に事実を伝えてくる。

「そんな……⁉」

{焦らないでください。雪菜。仕方ありませんね? そこの二人の娘}

「私達の事か?」「ワタシ達の事?」

 静江とリーナが同時にルシフェルに問う。

{そうです。貴女達から熾天使級の『力』を感じる。だから貴女達が加勢をしてきてください。そして雪菜が創造出来る時間を稼いで貰えませんか?}

「待て。何故、私があの三人に力を貸さなければならない?」

「静江。今はユッキーの為に時間を稼ぐ事が大事よ?」

「……分かった。リーナ」

 そう言って、リーナと静江の二人はMSAをそれぞれ起動させる。すると赤いブレスレットが光った。光が収まると、二人共MSAを纏っている。

「行ってくるわ。ユッキー!」「行ってくる。ユッキー」

 リーナと静江は異口同音に言って、Bピットの外に出た。


 一〇一〇時。Bピットを二人が出た後、ルシフェルは俺に言う。

{さて、雪菜。まずは心を静め、二本の長剣を創造してください}

 俺は目を閉じ、心を自分自身に語り掛け、宥めようと心がける。

 大丈夫だ……。時間はリーナ達が稼いでくれるんだからな……。

 一本ずつ剣を想像し、創造するんだ……。

「一つは黒い長剣――そしてもう一つは水色の長剣だ……」

{黒い長剣の特殊能力は?}

 ルシフェルの問いに俺は答える。

「漆黒の炎を出す剣――太陽の熱以上の炎を噴き出す長剣だ……」

{では、次です。水色の長剣の特殊能力は?}

 またしてもルシフェルの質問に俺は再び答えた。

「魔力を癒す剣――魔力回復の長剣……」

{創造は成りました。雪菜。完成です}

 俺の目の前に、黒と水色の長剣がそれぞれ現れる。

 そこに彼女――天道ファラエルさんがBピットに入って来た。

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