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ハルマゲドンの英雄譚  作者: 谷川ヒロシ
波乱の日々の幕開け編
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第十二話 計画実行

日曜日の朝〇八五〇時。誰もいない筈の薄暗いMSA整備室に訓練生達がいた。

 日本国防第四学園では、MSA開発室とMSA整備室、MSA用アリーナ等の色々な関係施設がある。しかし 、日曜日に学園に来るのは教官以外皆無であった。

 何て事は無い――三馬鹿……もとい、宗谷、久糊、焚間の三名だ。

 「忘れ物をした」と守衛を騙して校内に堂々と侵入し、MSA整備室に入り込んだのである。

 目的は唯一つ――雪菜の専用機にコンピューターウイルスを仕込む事。

 コンピューターウイルスには強力な武装を使えなくなるというプログラムが仕組まれており、これを仕組めば一ヶ月はプログラム除去が出来なくなるという訳だ(但し個人差はあり、自分達訓練生は――という意味)。

「さて。問題のブツはと……」

 宗谷はMSA整備室の明かりをつけて周囲を見廻す。既に出来上がっているという情報を斎から掴み、こうやってここまで来たのである。念を入れて指紋を残さない為、手袋も嵌める周到さだ。

 場所を間違えたという事は無い――MSA開発室は訓練生では立ち入る事は出来ないが、あそこは飽く迄MSAを開発する所だ。出来上がったのであれば、MSA整備室にしかない筈である。

「ん? お? あったっす……! こっち! こっちっす!」

 久糊の言葉に、二人は彼の下に集まる。

 二人はシートを被せたMSAらしき物体を見上げた。

 そして久糊はざらついたシートに触れ、引っぺがそうとする。

「おい待て……。二機あるぞ?」

 だが宗谷の言う通り、シートを被ったMSAは二機。シートにはそれぞれ壱と弐が書き記してある。

「どうするっすか?」

 久糊の不安そうな言葉に、

「いや、どうするって言われてもな~。どうするよ?」

 そして宗谷の行き着いた答えは、

「この壱と書かれたシートに包まれたMSAにするぞ……!」

 シートに壱と書かれたMSAを選ぶ。

「お? 分かったのか? 宗谷」

「いや。だが、あいつは数字の一が好きだ。だからこっちの筈だよ。焚間」

「…………」

「…………」

 焚間と久糊は互いを見る。

((まあ、いいか。どっちにしてもここにいたってしょうがない。誰か来ないとも限らないし……))

 二人はそう思い、宗谷に向かって無言で頷く。

 三人は壱と書かれたシートを引っ張った。


 〇九五〇時。MSA整備室を出た後、宗谷、久糊、焚間の三人は、廊下で斎と出くわした。

「おや? 三人共、どうしたのだい?」

 これには事前に決められていた通り、

「使主教官、おはようございます。久糊が忘れ物をしたので、取りに来たのですよ」

 宗谷が受け答えする。

「そうか。でも、君達が来たのは整備室の方角だよね? どうしてだい?」

「皆で、雪菜の専用機を一足先に見ていたのです」

 斎のツッコミに、宗谷は努めて冷静に説明した。

「そうだったのか……。しかし、二機あっただろ? 二つとも見たのかい? 腹黒君」

「いえ。壱と書かれた専用機だけを見ました。使主教官」

「ほう。何故それが天聖君のだと分かるのかな?」

「今年から担任になった使主教官は知らないでしょうが、あいつは数字の一が好きなのですよ」

 受け答えした宗谷は言葉巧みに、もう一機――専用機の主を聞き出そうとする。

「それより、もう一機の専用機――俺様……もとい、自分達は見ていませんが、誰の専用機なのですか?」

「う~ん。極秘事項なのだが……」

「使主教官。いいじゃないですか。どうせ、自分達は誰にも言いませんよ。極秘事項なら猶更なおさらです。だから教えてください。一体誰の専用機ですか?」

 本来――訓練生には極秘事項は隠し通すものだが、斎は壱手しまう。

「まあいいか。あれは天聖君の御父君である、天聖英雄元帥閣下の機体だよ」

 斎が言ったこの時、宗谷、久糊、焚間の三人は雷に打たれた様な衝撃を受け、額には脂汗が流れた。

(((これは不味い事をしたかも……⁉)))

 それには気付かず斎は笑いながら、

「はっはっは! 三人共、知ったからには絶対に言わない事! いいね⁉ じゃないと銃殺刑だぞ?  

 なーんちゃってね♪」

 人差し指立てて、ジョークを言う。

 だが、宗谷、久糊、焚間の三名には、冗談には聞こえなかった。額に大量の脂汗を搔く。

 何故なら、人類最大の『砦』たる月基地。その総司令官のMSAに自分達はコンピューターウイルスを仕掛けたかもしれないのだ。

(((もし間違っていたら……)))

 宗谷、久糊、焚間の三人は想像する。

 間違っていたら、悪戯では済まされない。きっと軍法会議に掛けられる。

「本件は三名とも銃殺刑とする!」

 そう軍事裁判で言い渡され、目隠しさせられた後――銃で撃たれて童貞のまま死ぬのだ。

((そんなの嫌だ……!))(そんなの嫌っす……!) 

 三名の思いは見事にシンクロする。まるでムンクの叫びの様な面持ちになるが、斎は気付いていない。

「あの……」

 焚間が何か言い掛けるが、

「…………」

 宗谷は無言でそれを手で制す。

「何かね? 馬場君」

「いえ。何でもないです。使主教官」

 そう言って焚間は目を斎から逸らした。

「……そうかね。では、僕はこれで失礼するよ?」

 そう言って、整備室方面に斎は行こうとするが、一度立ち止まって、

「三人共、余り校内をうろつかない様にね?」

 三人に忠告してその場を去った。

 その後焚間が、

「おい! 宗谷! 何で止めた!」

 宗谷を責める。

「お前は馬鹿か? 焚間。あのまま言えば、銃殺刑は決定的だったぞ……!」

「え? でも、宗谷。事情を話してしまえばいいのじゃ……」

 事情を話せば怒られるが、軍法会議を免れると思った焚間に、宗谷は否を突き付ける。

「それで軍法会議に掛けられ、味方もいないまま始められたら、俺達は銃殺刑だ! あの世行きだよ! 馬鹿!」

 続けて宗谷は言う。

「だから使主教官を巻き込んだんだ! 俺達を弁護する様に……! 極秘事項を話してしまえば、その責任は使主教官にも及ぶからな!」

 ここで今まで黙っていた久糊が、

「なるほど。だから使主教官にもう一機――専用機の持ち主を聞いたんっすね? 失敗してもいいように」

 そう言って、「頭いいな? お前、天才っすよ!」と、宗谷を褒めちぎる。

 そして久糊は、

「それなら安心っすね? こう行こうっすよ」

 廊下を歩き出す。

「ちょっと、待ってくれよ!」

(本当に大丈夫なのか……?)

 焚間は引っ掛かるものがあったっが、結局歩き出した。

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