だるまおんな
だるまシチュは、昔「くろみつ堂」というサイトにあった短編が好きでしたね。
立体物の祭典のため中国へきた私は、大量のバッグとキャリーケースを引き連れ宿泊先であるホテルへ向かっていた。
空港から1㎞なら大丈夫だろうと、なめてかかっていたが、中々どうして厳しいものだ。総重量20㎏は伊達じゃない。
半分を過ぎたあたりで流石にこれは厳しい、と休憩を入れることにした。
ちょうど通りの先に、一息付けそうな植え込みのブロックと、テイクアウト専門のファストフード屋が見える。
目をつけていた植え込みに辿り着くなり、荷物を置き、店に急ぐ。一旦座ればしばらく立ち上がることはできないだろう。
急ぎ足で店に来たはいいが、重大な問題に直面してしまう。
――文字が読めない。
事務的・形式的なやりとりと、少しのヒアリングはできるのだが、文字となると別だった。
祭りへの準備も、必要な言葉だけを詰め込んで、後は現地で集合する予定の仲間に頼る腹積もりでいたのだ。これはまいった。
うんうん唸りながらメニューと睨み合うも、読めないものはどうしようもない。
チラッと横目で他のお客が頼むのを見ると、幸運にも、遠目でこの店を確認したときに、食べようと思ったものだったので、同じく指をさし注文を完遂。無事、食糧を確保。
「どっこらせ~」
年より臭い声と共にブロックへ腰かけ、手に持ったファストフードを頬張る。
パリッとした外側と、もちもちした内側の皮、よくわからない葉野菜に包まれる形で配置された、恐らく豚肉と思われる肉汁滴る物体。
――うまい!!!!
パリパリの食感から始まり、モッチリ、シャキシャキ、そして噛み応えのある肉が、歯を、顎を楽しませ、ジュワっと広がる肉汁が舌を喜ばせる。ヒットストップのあるアクションゲームでクリティカルを出した瞬間のような快感が脳を満たす。よもやここまでの食に巡り合えるとは……。
疲れが吹き飛ぶ味とはまさにこのことよ。
しばらくして。
食の快楽を味わい終え、いざホテルへ行かん! と意気軒高に荷物を纏めて気付く。
――何か足りないな?
違和感、休息前にあって今感じない何か。重さだ、肩への負担が足りない。なるほど、なるほどね。
(やられた!!)
おそらくメニューを前にモタモタしていたときに物色されたのだろう、一番長いバッグが無くなっていた。
置き引きである。
すぐさま警察へ連絡……できない。
その手の用意もしていなかったのだ。つくづく見通しが甘い、甘々過ぎて自分を呪いたくなってくる。
渾身の1/2美少女フィギィアだったのに……。
ドッと疲れが戻って来て一気に気力がなくなってしまったが、それでもホテルへは行かなければならない。
それに、祭りはまだ始まってもいないのだ。気落ちしていても仕方がない。
その後、ホテルへ着き仲間と合流した後警察へ連絡。諸々の手続きを済ませその日を終えた。
結局祭典の最終日を迎え、帰国当日になっても行方は分からずじまいだった。
帰国からしばらくして、何気なく見たバズっている呟き動画に驚く。
そこにはあの日盗まれた彼女が四肢をメカに換え、元気に走り踊る姿があった。
(いったいどういうことなのだ?)
すぐさま投稿者へ連絡すると、ネットオークションで見つけて惚れ込み即決で買ったはいいものの、写真ではよくわからなかったが四肢が分裂していたため、折角なので、と謎の前向きさでメカ少女へと改造したらしい。即座にフォローした。
こうして私は新たな友を得た。
盗み出した奴には殺意しか湧かないし、今でも四肢を切断したい気持ちが止まない。
それでも祭典へ行って良かったと、スコープドッグの様な動きを見せるメカ少女を見ながら、私はそう思うのだった――。
みんな、海外旅行の準備はケチらず・怠らず、を心がけようね!
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