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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第九ノ巻
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第九十九話 日之国へ

「・・・・・・」

 いやでも、もし、アイナが言ったその公務を、数日で全部やれって言うんなら、アイナを働かせすぎじゃない? 休む暇、寝る暇を充分に与えないなんて労働基準法違反だぜ?

「―――」

 アイナに援護射撃だぜ。アイナを働かせすぎじゃない? じぃっ―――、俺はアイナの傍らに立つアターシャに訴えかけるように、―――そんな視線でアターシャを見つめてみた。



第九十九話 日之国へ


 そんな俺にアターシャは一礼。

「ケンタ様。これを言うのは貴方様に対して失礼に当たるということは、このアターシャ充分承知でございますが、このアターシャめのお言葉をどうかお耳にお入れくださいませ」

 う、訴えかけ返しっ。こ、今度は俺に訴えかけるようなアターシャの、、、目力が、っていうか眼差しが強いっ。もちろんアターシャのだよ?

「・・・う、うん」

「まずアイナ様は皇国の皇女で在らせられます。アイナ様の御登壇(ごとうだん)を一日千秋の思いで待ちわびている臣民の方々も多くおられます。それにも係わらず最近のアイナ様は、まるで御自身の公務を投げ出さんとしているかのように、日之国のゲンゾウさまのところに剣術を乞われに行かれることも多く、ここ一、二年多くの公務を滞らせてまいりました。さらにケンタ様が現れた件でアイナ様は自身の公務を軒並み順延させ―――、これを私の口に出すのは(はばか)られますが、敢えて言わせてもらいます、事実上の、、、『ずる休み』です。アイナ様が順延させた公務日程の調整、先方との調整なども執り行うこの私めの気苦労を、どうかお察しくださいませケンタ様。お願い致します」

 アターシャの間接的なアイナへの説教かと思ったら、アターシャから俺へのお願い、、、ううん、半分愚痴のような・・・。苦労してんだな、アターシャも・・・。それに俺のことを、俺の所為でアイナが公務を滞らせてるって言われたら、・・・俺なにも、『アイナを働かせすぎじゃない?』なんて言い返せねぇよ。公務っていうものが大切なことぐらい俺にだって解るし。

「お、おう・・・、、、アターシャさん。・・・でもちょっと俺、アイナが心配かな、、、激務で」

 でも、ふぅっ、っとアターシャの顔が柔らかくなる。

「ケンタ様、そのような難しい顔をしていただいてこのアターシャ、アイナ様の侍女長として大変嬉しく思います」

 難しい顔をしていただいてありがとう?だってアターシャ?

「え?」

「ケンタ様はアイナ様を、アイナ様のお立場とお気持ちをよくお考えいただいているのですね」

 っつ、ちょっとはずかしいぜ。

「あ。いや俺は―――そ、んな」

 俺はアイナの公務ってはっきり言ってどんなのか分からないから。でも心労っていうか、きっと気疲れもするだろうし、大変だよな。いろんなとこを訪問して、会談してって、収穫祭という祭りでも実際に身体も動かすみたいだし、アイナは。

 でも俺は、ほんとにふつうの学生だし、家も幼馴染の真と違って、確かにずっと昔から続く剣術の家系だよ?でもそれでも、俺ん家は庶民だもん。そんな全国各地への慰問とか・・・、俺は剣術大会の遠征以外で、そんな全国各地へ遠出を今までしたことがないから、ほんとのところアイナのしんどさやつらさとかは全然解らないけど・・・。

「ケンタ様からアイナ様の公務のことで、すこしでもアイナ様に進言してもらえることができれば、このアターシャ―――」

 なに、をアターシャ。

「―――え」

 アイナに、『ちゃんと日程を組んで公務をして』とかって俺に言わせるつもりか?アターシャってば。

「ちょっと待ってください、アターシャっケンタを貴女の味方に引き込むつもりですか?」

 おうっ今度はアイナ。

「いえ、アイナ様そのようなつもりはこのアターシャこれっぽっちもなく―――」

「っ!!」

 ちらっ。ってアターシャさんは俺に? アターシャは澄ました顔でその視線を俺に向ける。

「―――そうですよねケンタ様?」

 うぉっアターシャってば最後に俺にこうふるのっ!?

「うぇっ俺!?」

 めちゃくちゃ答えづらいんですが・・・。


「なるほど―――そういう、、、。ですが、そうはいきませんよ、従姉さん。くっっ、これだけは持ち出したくなったのですが、仕方ありませんね―――従姉さん」

 くっ、なんて、両目と口角をゆがめてほんとに苦しそうにアイナ。アイナはちょっと大げさと言ってもいいぐらいに歯噛みをしたんだ。

「アイナ様、、、なにを・・・?」

「あのときの、、、誓いの御言葉をお忘れになられたのですか・・・? 従姉上(あねうえ)

「―――っ」


 っ。アターシャ―――、ぴくっ、ってアターシャはわずかに身体を強張らせた?

「!!」

 でも、今のアターシャの表情の変化は絶対俺の見間違いなんかじゃない―――。アターシャの表情がアイナのその『従姉上』の言葉で一瞬、動揺するかのように崩れたんだよ。

「っ」

 知らないことだ。きっと俺の知らないことで、だよ、アターシャがぴくって動揺をしたのは。俺が知らない昔二人の間で起きたであろうことを。アイナはそれを交渉材料にして、アターシャに向かって喋っているんだ。


「それに従姉さん、私はなにも公務をずる休みしているというわけではありませんっ。私にとって、、、公務は―――」

 すぅっ、っとアイナは一瞬目蓋を閉じて、、、またすぐに目を開く。アイナは意志の籠った眼差しで、

「―――公務というものは私自身が果たすべき使命であると考えています。祖父である陛下から私に与えられた公務は必ずこなします、いえ、これまでも必ずこなしてきました。従姉上、『公務の合間にチェスターを追うこと』それは陛下にお赦しをいただいていることでありませんでしたか?アターシャ従姉さん」

「ァ、アイナ様っ」

 またアターシャのあの顔、、、悔しさをわずかに滲ませるその表情―――。

「私がゲンゾウ師匠に剣技を乞うこととケンタのことを優先させること―――」


「―――?」 

 いったいどういうことだ?アイナ。

「・・・」

 アイナが言うアイナ自身の命題『チェスターを追うこと』とアイナが『俺の祖父ちゃんに剣技を教えてもらうこと』は、前に聞いたチェスターとかいう奴と戦うためだ。『ゲンゾウ師匠に剣技を乞うこと』と『チェスターを追うこと』が同列だってことは解る。

「?」

 その二つと『俺のことを優先させること』も同列だって?


「―――ケンタのことを優先させること、それは私達の祖父である『陛下からお赦しをいただいている事』に連なりませんか?従姉さん」

「ァ、アイナ様・・・し、しかし―――、皇国の臣民の方々は私達に敬慕の情を向け、(おもん)み、あたたかい目を向けてくださいます。そのような臣民の方々と触れ合う良き機会をアイナ様自らの手で削ぐということは、このアターシャ如何(いかが)なものかと思っております」


「っ」

 つまりアイナは『俺のことを優先させること』すらも自分の内に―――。アイナ自身の命題に―――俺のことまでそこに含めているってことか・・・!!

 アイナの人生設計にすでに俺が―――、、、っつ俺―――さぼって、怠けていたらダメだ。アイナはこの五世界イニーフィネ皇国の皇女。だから俺はもっと―――っ、アイナの傍にいて恥ずかしくないような人間に、アイナが俺のことを誇ってくれるような人間になる―――っ!!ならないとッ!!


「なにもアターシャ。私は臣民の方々と触れ合う機会を削ぐとは言っておりません」

「アイナ様・・・でしたら―――」

「でも、従姉さん。私は、、、幼い頃に生き別れになったというケンタをゲンゾウ師匠のもとへ、、、ただ私は二人を引き合わせたいだけなのです」

「っつ」

 アイナ―――きみは俺のそんなことを気にして、、、いたのか。それで、大切な公務まで後回しにして、、、でもそれでアターシャと、、、つらい。傍で見ていてつらい。俺はアイナに公務のほうを優先してもらいたい。言ったらアイナに嫌われるかも、ちょっとぎくしゃくしちゃうかもしれないけれど。

 その公務がひと段落すれば―――、アイナとの時間はできるんだ。もし、ぎくしゃくしても俺はその時間でアイナとの仲を必ず取り戻すッ―――!!

 考えろ、頭ごなしに『公務をしてくれよ』、なんて言わずにもっとやんわりした言葉で。考えろ―――、考えろ―――、考えるんだ、俺―――。

「―――、―――、―――・・・っ!!」

 そうだ―――こうしようっ、これしかないっ!! 実際、俺もアイナと、その、、、け、結婚して、たぶんだけど将来、アイナと一緒に公務をこなすときが来るんだろうし。

「ッ」

 言うよ。『俺を優先してくれるのはとても嬉しいけど、さきに公務を終わらせて、、、ううん、やっぱ祖父ちゃんなんてあとでいいから、あんなの。それより俺は公務をこなすアイナの凛々しい姿を間近で見てみたいかな。なぁアイナ』なんて、俺そんな感じに言うから、それをアイナに、アターシャに。

「―――ァ」

 俺がまさに『アイナ』、と本人に呼びかけようとしたときだ。でも―――現実は違ってて、俺は言えなかったんだ、その言葉を。

「「「っ!!」」」」

 俺達三人の視線が―――俺、すでに席から立っていたアイナ、そのアイナの傍らに侍るアターシャの視線がそちらへ、かたっと椅子をいわせたその人に集中する。

「―――」

 すっ、っとその音の主―――アスミナさんはゆっくりと、でもだらだらとしたようなゆっくりとした動きじゃなくて、余裕を感じさせるその気品を感じるようなゆるりとした動きでその場に立った。


//////


 つらつらつらつら―――、来たかついに『これ』を記すときが。いや、記さなければならない大きなこと―――それはまだいくつかある。

「―――っ」

 一つ目はすでに『第九ノ巻』で記した俺の祖父小剱 愿造(げんぞう)との再会までのいきさつだ。まずは『第十ノ巻』で祖父との再会を記そうか―――。


『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷編-第九ノ巻」』―――完。

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