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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第九ノ巻
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第九十七話 私の兄は塩派のようです

 俺はアイナから視線を外し、手元に。ところで、さっき俺の目の前に置かれた、花の模様の銀色の小さな杯。アターシャが置いたこれは?

「・・・?」

 なにがその銀色の小さな杯の中に入ってたんだ? 覗き込むようにすこし背筋を伸ばしてその中を見れば、白い液体だ。紅茶やコーヒーに足すミルクだ。それが銀色の杯の八分目の辺りまで入っている。ミルクをこのチャイに入れるんだよな。そのミルクか。ミルクティーみたいに。


第九十七話 私の兄は塩派のようです


「~♪」

 ミルクティーなんかもまたいいかも。真冬の寒い日に、、、学校帰りに途中の自販機で買って飲むあたたかいミルクティーって、ほんとになんであんなにおいしいんだろうな。真冬の寒い身体にじぃんと染み渡るような、あたたかいおいしい、心地いい甘さ。

「・・・ミルクか」

 このチャイにミルクを入れてミルクティーにしようかなぁ。

 よし、そうしよう♪ 俺はミルクの入った銀色の杯に手を伸ばす。

「チャイにバターもまた乙なものですよ、ケンタ様」

「バターか、それもなんかおいしそうだな、アターシャ」

 そういえば、寒い地域で飲み物にバターを入れるって聞いたことがあるような・・・。

「はい。そうそう先ほどの話なのですが、ケンタ様」

 アターシャ、先ほどの話?それは俺がミルクの杯を手に取り、それを手元に寄せたときだ。先ほど話なのですがって、アターシャは俺になにかあるみたいだ。

「アターシャ?」

「私は『塩』もしくは『塩』を基調とした調味料を、ケンタ様がその目玉焼きにかけると想像していました」

 あぁ、あの、目玉焼きは何派か、という話の続きか。

「俺が塩?アターシャ」

 こくりっ、って頷くアターシャ。

「はい。私の兄は―――」

「・・・」

 兄って、アターシャってお兄さんがいるんだ。そこでアターシャはややじとっと視線でその目を細める。アターシャのこんな感情の乗った表情を見るのは初めてかもしれない。俺ちょっとうれしい。アターシャがアイナだけではなく、俺にもこんな感情を見せてくれるなんて。

「以前の兄は、確かに醤油をよく用いていたのですが、先日アイナ様に休暇を頂きました折、実家に戻って羽を伸ばす私に長々と兄は―――『塩だよ、塩。塩こそが食材の香りを失わない至高の調味料だと、そうは思わないかい?我がかわいい妹達よ』から始まる、自分自身の解釈の講釈を延々と私達に垂れ―――、おっと失礼致しました、兄は自身の思いの丈を篤く私達に述べていましたので、てっきりケンタ様も目玉焼きには塩をかけるものだと思っておりました」

 講釈を延々と垂れ―――って妹のアターシャはそう言うけど、理屈っぽい人なのかな、アターシャのお兄さんって。

「ふ、ふぅん、そうなんだ。塩好きなんだアターシャのお兄さん・・・」

「はい。そんな兄は、私の自慢の兄でございますよ、ケンタ様―――ふふっ」

 ふふっ、って最後にアターシャは屈託のないきれいな笑みをこぼす。お、おふぅっ―――気のせいだ、気の所為に決まってるっ。

「―――っ」

 アターシャの『ふふっ』という声が、乾いた()めた笑い声のように、、、そのように感じたのは俺の気のせいだ、きっと。きっと、アイナのお兄さんのリューステルクさんだっけか、その人と同じようにアターシャのお兄さんもきっと妹想いのとてもいい人だよ。

 俺はミルクが入った銀の杯を手に取る。銀の杯を傾けくくっ、っと白いミルクをその注ぎ口から、チャイが入ったティーカップに注いでいく。ふわふわっと乳白色のミルクが、チャイの赤茶色の中に沈んでいき、それからふわっと白が底から湧きあがる。ぽちょんっ、っと俺は小さなトングで角砂糖を一つ落とせば赤茶と白のマーブル色は、それはもういつものミルクティー色に。

 すぅっ、っとおそるおそる昨日はかなり熱かったらな、このチャイ。だから今度の俺は慎重にティーカップを口につけた。 

「っ」

 うん。渋みを少し感じるけれど、控えめの甘さでおいしい。でも、なんでお茶請けに羊羹(ようかん)が? たぶん日之国から取り寄せたものだろうな。口が寂しくなった俺は、お茶請けの羊羹に手を伸ばす。食べやすいように、小さなフォークが置かれていて、これを使えばいいんだな。

 すっ、小さなフォークの尖端が羊羹の中に―――それを、ぱくっ。

「~♪」

 甘くて美味しい。控えめの餡子の甘さと、そのしっとりさ。ほんとに食感からして羊羹そのものだ。


「おっとアイナ様―――、そのようにゆるりとお過ごしになられて、よろしいのですか?」

「アターシャ?」

「はい、アイナ様。あと十五分ほどで九時になろうか、というところです」

「そうですね、アターシャ従姉さん。早く支度をしなければなりませんね―――、ケンタと共に行く準備を」

 えっへんと自身に満々にアイナはアターシャにも言ってくれる。

「♪」

 お、さっそくアイナ。俺を祖父ちゃんのとこに連れていってくれる準備だな。

「ケンタ様と共に?・・・あの、、、アイナ様?」

 羊羹を食べながら、俺が視線を上げれば―――、

「ん?」

 アイナとアターシャが見つめ合っている? 俺は、これまでやり取りを観てきて彼女達の間にはなにか、以心伝心のようなものを感じるときもままあるんけど、今はなんでかな?アターシャがその顔を、表情をきょとんさせているんだ。―――少なくとも俺にはそんな風に見えるんだけど?

 アイナは俺の真正面に座ったままアターシャを見つめ、かたやアターシャはそのアイナの傍らに侍ったまま、困惑気味にそのアイナの意志の籠った視線を受け止めている。


「アターシャ、今からケンタと共に日之国のゲンゾウ師匠の庵に向かいます。ですので、公務の件ですが、またもう少し日程を先に延ばすことはできますか?」

「ァ、アイナ様・・・、また御戯れを―――」

「冗談ではなく、それをなんとかお願いします、アターシャ」

「―――、―――・・・っ」


「―――?」

 アターシャが小さい声で『んぅ』って思慮深く唸ったんだよ。それにアイナが言った『コームのけん』ってなんだ?

「っ!!」

 あっもしかして『コーム』っていう名前の剣のことか? わくわくっ、もしそうなら『コーム』ってイニーフィネの言葉でなんて意味なんだろう? 祖父ちゃんに会ったあとはその件の『コームの剣』も見てみてぇぜ・・・!!


「・・・アイナ様―――」


 わくわくするぜっ!! よしっ訊くぞ、アイナとアターシャに。

「なぁ二人とも―――」

「「・・・」」

 アイナとアターシャの目線が俺を向く。

「その『コームの剣』って?」

 俺の予想では、反りがあるようなサーベルのような剣じゃなくて、直剣のようなイメージだよ。あの女神フィーネの聖剣のような形状をした剣な。

 だから俺は二人に、真正面で席に座ったままのアイナとその傍らに侍るアターシャに訊いてみた。

「公務の件ですか?ケンタ」

 コームの剣!! おっ!!やっぱアイナが言ったとおりコームってイニーフィネの言葉みたいだ。 

「コーム、、、っていったい―――」

 イニーフィネの言葉でどんな意味なんだろう? もっと詳しく訊いてみるか?アイナに。え、っと―――。

「公務ですか?」

「おうっ、俺に教えてくれアイナっ・・・!!」

 ぐいぐい、訊くぜ。

「え、えぇ、ケンタ。まず皇都に赴きまして、お祖父様である皇帝陛下にご挨拶。えぇっとそれから皇都東地区にあるフィーネ教会主教座施療院への慰問と―――」

 コ、コーム違い・・・お、おふぅ―――、、、。俺の勘違いじゃねぇか・・・、は、はずかしい。

「っ」

 やっべー『コーム』っていう剣ってどんな名剣なんだ?すごいのか? なんて二人に訊かなくてよかったぁ・・・。はっ恥ずかしいっ・・・///。

 な、なるほど・・・コームじゃなくて、こうむ、公務ね。つまり、『コームの剣』じゃなくて『公務の件』な。

「―――施療院への慰問が終われば私、フィーネ教会大司祭さまとの会談が年内に控えておりまして、その会談の場での質問、意見交換に先だって事前にお互いの見識、見解のすり合わせを行なう大事な予行演習がありましてねっ―――ふふっ」

 にこっ、っとまではいっていないけど、アイナが苦笑いのようなはにかみを俺に見せてくれる。

「お、おう・・・」

「それが終わればですね、次は臣民の方々と共に、一緒に執り行う収穫祭も控えていまして―――」

 うん、アイナはこの世界の皇女さまだったっ。大変そうだなぁ、アイナ。

「―――」

 アイナの公務って慰問に意見交換に、収穫祭か・・・。こんなにもいっぱいいろいろあるんだなぁ―――って―――ん?でも、公務ってこんなにも多いものなのかな?

「それ、その公務って全部アイナがやるのか?」

「っ」

 ふふっ、ってアイナ。なんか辛そうとかしんどそうなんて微塵も感じさせない顔だ。むしろアイナは俺の言葉を聞き、すこし誇らしげに、自信あふれるにこやかな顔になったんだ。それからアイナは口を開く。

「はい、ケンタ♪」

 そんな簡単に『はい』って。

「つらいとかはないの?」

「いえいえ、つらいなんてとんでもありませんよ、ケンタ。私にとって公務というものは、とても遣り甲斐のあるものですよ」

「・・・」

 えっと、さっきアイナの祖父さんへの挨拶から、施療院への慰問、それからアイナはなんて言ってったっけ? えっと大司祭との意見交換と収穫祭の主催だったかな?

「とくに収穫祭など、私達皇族も臣民の方々にまじり、かれらと共に五つの穀物を収穫するのですが―――」

 アイナが言った収穫祭ってのは、どちらかと言えば神事のようなことだったんだ。簡単に言えば、収穫した作物のうち出来栄えのいい選ばれたものを、、、その―――魁斗との戦いのときに俺に、いや俺達にその力を貸してくれた女神フィーネに捧げ、女神フィーネに五穀豊穣を感謝するような、なんか神事というか(まつりごと)のようなものだったよ。

「へぇ・・・、そうなんだあの女神様に」

「はいケンタ♪」

 でもさ、よく考えたらその収穫祭以外にも多いよな、そのアイナの公務。俺の勝手なイメージだけど『公務』ってのは、、、ほんとに俺の素人考えだけど―――、公務っていうものは、デスクワークか、もしくは式典とかでの挨拶回りだけかと思ってたんだよな。

 うん。挨拶だけを行なうような―――、たとえば文化祭や大会の挨拶にやって来るどこかのお偉いさんの祝辞。俺達学生への『ねぎらい』と『みなさんよくがんばりました』といったような言葉を述べにくるような。

 アイナの『公務』もてっきりデスクワークかそういうものと、思っていたよ、俺―――。

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