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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第九ノ巻
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第九十六話 俺を祖父ちゃんのところに連れて行ってくれっ・・・!!

「ケンタ―――」

 ん? ふぅっ、っとそのアイナの声に俺は顔を上げる。

「アイナ?」

 声の主のアイナを見れば、アイナはじぃっと俺を見つめてて・・・? なんでそんな遠いところを見るような目で俺を見ているんだろう。

「どした、アイナ?」

 だから俺はもう一度アイナに訊いてみたというわけだ―――。

「あ、いえっ」

 アイナに訊き返すように言えば、アイナはその遠いところを見るように俺を見つめる眼差しをやめて、いつもの表情に戻った。


第九十六話 俺を祖父ちゃんのところに連れて行ってくれっ・・・!!


 そんな遠いところを視るような眼で、いったいなにを考えてたんだろ・・・アイナ。 

「・・・」

 俺と同じようにアイナも俺の祖父ちゃんのことを考えてたのかな? それとも、亡くなったというアイナの親父さんのルストロさんだっけか、その人のこととか、アイナのお兄さんのリューステルクさんだったっけ?その亡くなったお兄さんのこととか。その二人のことを思い出して、想っていたのかもしれないな、アイナは・・・。

 だってアイナの眼差しが誰かを想って遠いところを見つめるような、そんな風に俺には見えたから・・・。

「っつ。―――」

 そこでアイナはもう一度、さっき自身の言葉を濁したのを正すようにかわいく咳払いを。そうして彼女は再び口を開く。

「ケンタがケンタのお祖父さまゲンゾウ師匠と最後に会ったのは、いくつのときなんですか?」

 それを訊いてくるってことは、俺の祖父ちゃんのことを考えていたのかな?アイナのやつ。

「・・・」

 俺が祖父ちゃんと最後に会ったときだって? えっとあれは確か―――。ところでアイナはなんでそんなことを知りたいんだろう? ま、いっか。隠すようなことでもないし、それにお互いの小さい頃の話をしたら―――その二人は恋に落ちるなんて聞いたことがある、っ。ちげぇよ、俺とアイナはもう付き合ってるのっ。とっくにお互いの想いを確かめあった仲なんだからな・・・っ。

 っ。俺は恥ずかしくて、そんな、今考えていたことを顔に出さずに、口を開く。

「っつ。あぁ・・・、えっとあれは・・・夏キャンプの一年後のことだったかな、、、俺が小五―――」

「しょうご?」

 きょとんっとアイナはそんなふうな表情になって。あっ『小五』っていう言葉がこっちの世界イニーフィネでは通じないのか。

「えっと十歳だったかな、俺が。あの夏の日、他流試合を見に行くって言って俺の祖父ちゃんってばさ、家宝の刀も一緒に持っていったんだ。で、それから家に帰ってくることなく、それっきり―――」

 俺は、アイナの心を引っ張ってしまわないように、努めて言葉も表情も暗くならないようにしたつもりだ。

「・・・そう、ですか」

 でも、アイナはすこし悲しそうにやや目を伏せ―――、、、やっぱ親父さんやお兄さんのことを考えているのかなぁ、、、アイナ。もしそうだとしたら―――

「っつ」

 ―――アイナの場合は俺と違う。もうアイナの親父さんやお兄さんはこの世にはいない。そのことを考えてるのかなぁ、、、・・・アイナ。

「さびしくはないですか・・・ケンタ―――? 家族が帰ってこないというのは、、、」

 それはアイナ―――、

「・・・っ。―――」

 そうだ、寂しくないと言えば、嘘だ。それをアイナに言うのは―――、ううん。アイナになら、、、。俺は自分の弱み・・・弱みのようなやつを見せてもいいかな、この彼女になら―――。やや、俺はためを置く。

「そう、、、だな・・・うん、アイナ。寂しくないと言えば、嘘かな」

 今この世界における俺の唯一の肉親は祖父ちゃんだけだし・・・。

「―――・・・」

 じぃっ―――っと真正面のアイナは俺を見つめたままだ。なにを考えてるんだろ、アイナ。

「っ・・・!!」

 えっアイナ!! そのときだ、アイナの眼にぐっと力が籠ったのは。じぃっと俺を見つめるアイナのその意志の籠った眼差し。透き通る藍玉のようなとてもきれいな真っ直ぐな眼差しで、そのアイナの眼差しは先ほどまでの、その視線と同じように沈んでいた表情とは全く違っている。

「あの、ケンタ―――っ」

「アイナ?」

 あの、ケンタって、、、アイナは俺に何を言うつもりだ? なにかを決心したかのようなアイナのその強い意志を感じさせる力の籠った眼差しとその表情―――

「―――もし、私の『空間転移』で、、、あっ―――・・・」

 っ。ハタッと、っとアイナ。

「っ・・・!!」

 まるでアイナはなにかいいことを思い付いたように少し目を開く。

「、、、そうでした。私はゲンゾウ師匠のところへ忘れ物を取りに行かないといけないんですっ。もしよろしければ、ケンタも一緒に行きませんか?ゲンゾウ師匠の(いおり)に」

「―――っつ」

 っ―――。アイナに気を遣わせちまったっ。ほんとは先に俺のほうから、『俺を祖父ちゃんのところに連れていってくれ』ってアイナに言わないと、頼まないといけなかったのにっ!! でも、せっかくアイナが俺に気を遣っ―――、ううん、俺の気持ちを汲んでくれたんだっ!! アイナの気遣いに乗っからせてもらおう・・・っ。

「そうだな、そういうことなら一緒に―――っ、、、」

 っつ。―――やっぱダメだ、自分の気持ちに正直に。やっぱ俺の好きなアイナに、、、は正直な気持ちを―――ちゃんと自分の口からお願いしたい・・・!!

 仕切り直しというわけじゃないけれど、俺は一度目を瞑り、、、すぐに―――、さっきのアイナと同じように眼に力を籠めてアイナを見つめる。

「―――頼むアイナ。俺を祖父ちゃんのところに連れて行ってくれっ・・・!!」

「解りました、ケンタ。では、食後昼前はどうでしょう?都合など」

 すんなりと、アイナは即答で、二つ返事で承知してくれた。アイナのいう俺の都合なんてそんな。俺はとくにやることもないし。用事もない。

「うんっ俺はいつでも大丈夫。アイナ」

「はい、ケンタ♪」

 アイナはにこりと微笑む。

「――――――っ」

 俺は祖父ちゃんにもう一度会いたいっ。あの、大好きな祖父ちゃんに―――。なんか俺、昨夜夢に見た気がするんだ、祖父ちゃんの夢を―――、祖父ちゃんのあの懐かしい。夢の内容は忘れても、その夢の雰囲気と気持ちだけはまだ覚えているよ、忘れない。このイニーフィネという五世界に祖父ちゃんが行ってしまったなんて知らずに、『僕』を、家族を棄てたんだって恨んじまったこんな俺だけど―――ついにこのときが、、、祖父ちゃんに再会するときが来たんだ―――っ!! おっと祖父ちゃんと再会だーって舞い上がってたらダメだな。ちゃんとアイナにもお礼を言わないと・・・!!

「祖父ちゃんとこに、、、連れていってくれるなんてありがとな、アイナ―――」

「っ♪」

 にこっ、っとアイナは俺に微笑む―――。なんかすごい、、、うれしい。アイナのおかげで、俺。っ///―――ざわざわって胸があつくなって。とても急に、、、なんかアイナがめちゃくて愛おしくなってきって―――、俺。

「っつ・・・!!」

 こんなにも俺の気持ちを汲んでくれて、俺に尽くしてくれるアイナに俺は逆にアイナに尽くしたか? アイナのために何かしてあげたか?俺。

「―――っつ」

 ほかにも『好きだアイナ』とか『愛しているよアイナ』って言ったことってあったか? いや、ないな。もし、言っていたとしても、それはこんな落ち着いて面と向かっていたときじゃない、と思う。確かに魁斗と戦っていたとき、ほんとにそれは危機的な状況で言ったと思うけれど、こうしてなにかを、飲み物を飲みながら、落ち着いているときには、『口に出すのが恥ずかしい』を理由に、アイナに愛を囁いたことはないよな。

「・・・」

 ァ、アスミナさんがいることを忘れてた。アイナのお母さんのアスミナさんに普通に聞かれるのはさすがにちょっと恥ずかしい。でも、もう俺、自分の気持ちをもう止められそうにないよ。そうだっだったらアイナの傍に行けばいいっ。

「―――っ///」

 い、言うよ、俺。アイナの近くで、耳元で囁くから・・・っ///―――よしっ、

「―――」

 それは俺がアイナに自分の気持ちを囁こうと、席を立とうとしたときだ。席を立って真正面のアイナの傍らまで赴こうとしたときだ。次の言葉を出そうとして口を開こうと思ったまさにそのときだ。

「失礼いたします、ケンタ様」

 っつ・・・タイミングが悪すぎっ。くっ―――、、、。あとにしよ。アイナと二人きりのときに・・・っ。

「っ」

 そんな俺がまさにアイナの席まで行こうとしたときにアターシャが俺のところにやってきたんだ。俺にも、アイナのものと同じチャイを注ぐティーカップを持ってきてくれたみたいだ。まずアターシャは、その左手で白磁のティーカップを取り、右手に持ったその銀色のレトロ調の茶器のつるくびを傾け―――、くくっ、っと。ゆらゆらした湯気とともに赤茶色のチャイが白磁のティーカップに注がれる。

「どうぞ、ケンタ様」

 アターシャはまず、俺の手元にそのティーカップを置く。次に角砂糖だよな?立方体の白いものがいくつか盛られた小皿、その脇に置く。

「―――」

 ―――きれいだよな、そんなアターシャの手指が小皿から離れる。次にアターシャは、その銀色の茶器とセットになったような銀色の小さな杯を円卓の上に置く。銀色の小さな杯の表面に刻まれた意匠は、まるで百円や五十円の裏に刻まれている花の模様に似ている。


「アイナ様、チャイのおかわりはいかがなさいますか?」

「えぇ、いただくわ、アターシャ」

「かしこまりました、アイナ様」

 アターシャはアイナの白磁のティーカップを手に取り、俺のティーカップにチャイを注いだのと同じように手慣れた手つきと仕草でアイナのその白磁のティーカップに、澄んだ赤茶色のチャイを注いでいく―――。チャイが注がれたティーカップをアイナはアターシャから受け取る。すぅっ、とアイナはまずは鼻でその匂いを味わっているみたいだな。


 俺はアイナから視線を外し、手元に。ところで、さっき俺の目の前に置かれた、花の模様の銀色の小さな杯。アターシャが置いたこれは?

「・・・?」

 なにがその銀色の小さな杯の中に入ってたんだ? 覗き込むようにすこし背筋を伸ばしてその中を見れば、白い液体だ。紅茶やコーヒーに足すミルクだ。それが銀色の杯の八分目の辺りまで入っている。ミルクをこのチャイに入れるんだよな。そのミルクか。ミルクティーみたいに。

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