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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第八ノ巻
85/460

第八十五話 俺は座して木刀を持ち

 机の傍まで歩いていって俺は木刀をまず手に取った。

「・・・・・・」

 手に馴染むこの心地いい重さ・・・、にぎにぎ・・・ぐっ、っと、そして使い慣れ、使い慣らした、まるで手の平に吸い付くような柄とその手触り、その感触―――

「・・・これで俺、魁斗と―――」

 戦ったんだな―――。あの『黒い魔剣』のようになっていた『聖剣』を振るい、、、ううんそれだけは飽き足らずに『天王黒呪』を発動させた魁斗と―――


第八十五話 俺は座して木刀を持ち


///


『もらったのは俺の台詞だっ魁斗ッ!!小剱流抜刀式―――刃一閃ッ!!』

 ッ゛―――メリメリメリっ、っツ!! 俺が放つ反る木刀のものうち、刃先、帽子―――そして鋩が。魁斗の右脇腹を捉えて―――、ぐぐ、ぐぐぐっ―――めきょ―――ッ

『う゛っ、ぐ・・・っ―――け、健太・・・っ』

 そして、俺の抜刀式の、下から斜め上へと向かう斬撃の威力で魁斗の足が浮く―――。いつのまにか魁斗の身体は木刀の中ほどにあった。

『はぁああああああ―――ッ魁斗ぉおおおおおッ!!』


///


 この木刀で―――、

「―――っ」

 あのときの魁斗との本気の戦いを―――最後まで力を出し切った戦いを、俺はきっと、絶対忘れることはないよ。あぁ、今となったらほんとホッとするよ。ほんとに魁斗に勝てて良かった・・・。

「っ」

 俺、そういえば前から思っていたことなんだけど―――、ほら魁斗の『黒輪』や『黒弾』を『先眼』で先読みしたり、魁斗が隠し持っていた氣導銃を『透視眼』で視抜いたりしたときに―――。

「―――」

 ひょっとして俺―――俺の異能『選眼』って剣士にとってとてもめちゃくちゃ有利な異能なんじゃあ・・・、ってさ。

 例えば『選眼』の異能の一つ『先眼』で、銃を使う相手との刀を用いた近接戦闘でも、相手が剣士であったとしても、その弾道や斬道を見切って相手より有利に戦えないか?

「・・・っ」

 あ、でも・・・

「―――・・・」

 そっか。まぁどっちにしても剣術の腕が立っていないとどのみちダメか。誰か俺と稽古(けいこ)してくれるやつとか、剣術の稽古をつけてくれるやついねぇかな・・・。

「!!」

 あっ、アイナはダメな?じゃれ合う程度ならいつでもアイナと剣術の練習はやりたいけど、、、じゃれ・・・合う・・・―――えっと・・・、うん・・・たぶん途中から―――剣術の練習じゃなくなりそう・・・だもんっ///

「っ///」

 (ばか)っ///俺なに一人で想像してんだよ・・・っ///

「―――っ」

 咳払い。俺からアイナにお願いして、本気の剣術の修練って、もしなったら俺のほうが練習にならねぇよ。だってアイナは、その俺の好きな、大切な人だから―――俺、本気になった木刀をアイナに向けたくねぇよ。好きな大切な人にもし傷を、怪我を、なんて―――・・・考えるだけでそんなのやだよ、俺は。

「~~~~」

 う~ん、気兼ねなく自分自身の腕を高められるほどの本気で打ち合えて―――、『もし俺が怪我をさせても、俺が怪我をしてもいいぜ』って、のとは全然違うけど、俺が本気になって打ち込めるような、そんな人いないかなぁ・・・。まさか、なにも知らないこの異世界で独り武者修行に出るってのはちょっと勘弁したいな。この五世界にどんな相手が居るのかも分からないし、いきなりクロノス級を引いてしまったら、即死だぜ、俺がな。

「・・・・・・・・・」

 なぁ、祖父ちゃん教えてくれよ俺どうしたらいい? 机の側で立ちっぱなしだった俺は、数歩足を後退させて―――そのまま、ぽふっ、っと。俺は木刀を右手に持ったまま、ベッドの端に腰を掛けた。

「・・・祖父ちゃん」

 ベッドに腰を掛けたまま、俺は右手で木刀の柄を握り締めたまま、左手に鋩がくるように木刀を横向けに持ちかえて―――しげしげ。俺は木刀を覗き込むように、それを柄から鋩へとじぃっと見つめた。

 じぃ・・・っと俺の木刀、、、魁斗との激しい戦闘で使いまくったやつ。柄からものうち、鋩へと・・・、特にささくれ立ったところもないか―――っ!!

「っ」

 あった―――この木刀のものうちの後ろのほうに・・・一つの浅い傷だ。たぶんこれ、魁斗の『黒氣鏃』を、

「―――『諦めろ、魁斗―――』って」

 魁斗が撃ってきた『黒氣鏃』の一つを打ち払ったときの傷だよ、これ―――。木刀のものうちに刻まれた鋭利な三角の凹みだもん、きっとそうだ。前にはなかった真新しい傷だし、な。

「―――」

 今度は右手に握ったまま、木刀を立てるようにしげしげっ・・・、と。これが真剣なら綿毛でちょんちょんと刃を手入れするんだろうけど、俺のこいつは木刀だ。

 だから、俺実家の自分の部屋のベッドに座ってこう―――、よくこうして座って、木刀の刀身を、柄から鋩に向けてこう、布越しに刀身を掴んでこするように磨いたっけ―――。

「っ」

 あ!!そういえば、あの使い古した俺のハンカチ―――、確か持ってたはず。俺は紺色の道着の衣嚢(ポケット)に入れていたハンカチを思い出し、立ち上がったんだ。幸いにも紺色の道着なら、この世界に持ってきてる!!

 そうだあれだ、あのハンカチがあったよ。あっちょうどベッドの向こうに俺の元々の紺の道着がかかってたよな―――、きょろきょろ―――、っと。

 ―――あ・・・思い出した!!

「っ」

 俺もうあのハンカチ持ってねぇや・・・。

///


『~っつ、~、~サーっニャっ、うぅサンっうぐっレッタうぅ・・・うぐっ・・・おれ、はっ、~っこの父をっ・・・!!』

 あーもうっこんなに泣くならチェスターなんかに附いていくなよっあんたっ!! 顔を涙でそんなにぐしゃぐしゃにしてさぁっ。

『・・・あ、ありが、、、とうっ・・・ございっ・・・、サーっ、ひぐっニャをっ・・・、うぐっ、アイナっさま・・・お゛ぉうっ』

 も、もう仕方ないな、もうっ。こんなものしかないけど・・・。と、俺は練習用の和装のままの懐に手を伸ばした。い、いつも木刀の刀身を拭く用のハンカチだけどさ。

『ほ、ほらよっ』

 俺はぶっきらぼうに。

『おぉっ、ずびっ、かたじけないっ』

 うっグランディフェルの鼻水が俺のハンカチにっ!! ひえぇっ涙と混じって透明の糸を引いてっ!!

『い、いやもうそれあんたにあげるから返さなくていいよ、っ』

 うん、鼻水と涙まみれのをっ返されてもかえって俺がこまるかもっ(あせあせっ)・・・!!


『貴方様から戴いたこの手ぬぐいは俺の、一生の宝となりましょうぞ!!』


///


「・・・」 

 俺、思い出したよ・・・、あの木刀を磨くハンカチを、涙ぼろぼろのグランディフェルにあげたんだった・・・。

 見れば―――。でも、あのハンカチの代用になりそうなものはあるよな。あの氣導銃の下に敷かれている白いタオル。俺はベッドから立ち上がり、、、数歩机のほうに。

「―――」

 ゆっくりとした動きで―――ぼ、暴発なんてないよな?この氣導銃。この銃って弾丸を撃つような銃じゃないから暴発はないと思うけど、念のためだ。俺はゆっくりと慎重に左手で氣導銃を持ち上げて、静かに横に置き、右手で折り畳まれた白いタオルを手に取った。

 よし。

「~っ」

 ぽふっと俺はふたたびベッドの端に腰を掛けて―――、行燈の光って意外と情緒あるかも♪ そのぽうっとした柔らかい光はLEDのギラギラと輝く街路灯にくらべれば比較にならないほど心地いい目に優しい光だよな。

「~♪」

 すぅっすっ―――柄から木目に沿って、木の生長に沿って成型された木刀の柄から鋩にかけて俺はタオルで木刀の刀身を包み込むように優しく拭いていく。木目がぴかぴかに、まるで陶器の茶碗のような輝きになれば、重畳だ。


 ふむ―――

「こんなもんかな」

 しげしげと、それから行燈と机の明かりに木刀の刀身が反射するように、腕を動かし木刀の角度を変えてみても、きらーんっぴかぴかっとまるで見違えるようにきれいになったぜ、俺の木刀。

 もっと木刀をぴかぴかにしたいのなら、きめの細かいサンドペーパーがあれば完璧なんだ。でも、それは暇を持て余しているときか、もしくはもっと時間があるときでいいさ。

 なんで俺が自分の木刀にここまで心を致すのか、それは子どもの頃、祖父ちゃんに教えられたからだ。もちろん物を粗末にするな、ってことも言われてそれもある。でも、他にも祖父ちゃんは―――

「ふわぁ」

 ふと、自然に口から漏れ出た欠伸。・・・そろそろ寝るか。眠気が徐々に、まるで這い寄るようにやってくる・・・。

 よっ・・・俺は立ち上がって、机に手を伸ばしてぷちんっぷちんっ、と紐を引っ張れば主球、豆球の順番で机の淡い少し黄味がかったランプのような色合いの、机の照明が消える。そんな感じで俺は机のレトロ調のライトから垂れ下がっている紐を引っ張って机の照明を消した。

「―――」

 ごろんっ。ベッドの掛布団の上に寝転がり、俺は。アイナから貰った新しい今着ているこの渋めの茶色の道着の懐の内ポケットから電話を取り出す。

 今は何時だ・・・? 電話を握って開くと、液晶画面には―――

「っ!?」

 げっもう二十三時を回ってる!? 正確には液晶画面に表示された時間は23時13分だ。ちょっとだらだらし過ぎたかも。

 早く寝よ。風呂を入った後のことだ。明日、アイナと朝食の約束をしたしな。

「・・・」

 もそもそもそ・・・俺はまるでイモムシのようにベッドの掛布団の上を這いまわるように―――だって今ちょうど眠気がきてるし、起き上がるのが、正直面倒くさいんだもん。そういうこときもあるよな?―――掛布団をベッドの下のほうにずらし手で持ち上げて、ごろごろもそもそと布団の中へ入る。

 うわっ、とてもふかふかだ。でも、その割に軽い掛布団だよなぁ。それに敷布団もふかふかで柔らけぇ・・・。少なくとも俺の使い古したベッドの掛布団とは雲泥の差だぜ・・・。

 俺は布団の中に潜り込み、

「っ」

 おっとそうだ、行燈だった。行燈の灯りを消し忘れてたよ・・・。

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