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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第八ノ巻
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第八十三話 俺がこの『眼』でこの行燈に新たなる概念を与える、光り輝け行燈よ!!

 ついでに六畳部屋の真ん中には渋い色合いの丸いちゃぶ台が一つと藍色の座布団がいくつか。それと・・・それにあれはどう見ても行燈だよな? 行燈なんて今どきの日本でも―――


第八十三話 俺がこの『眼』でこの行燈に新たなる概念を与える、光り輝け行燈よ!!


「お気に召しましたか、ケンタ?」

「あ、うん―――」

 ここでアイナに『なんだよ、これはっこの和室はっ』なんて別に思わないし、せっかく俺にいろいろと・・・その俺の世話をしてくれるアイナに言う必要もない。俺の実家は剣術をやっていて道場もあるし、そこにある神棚もそうだ。俺にとって和風や和室は見慣れたもので決して嫌いじゃないけれど、でもこのアイナの邸宅の中をいろいろと観て―――ここだけなんで和室?と思ったのは本当だよ。

「実は、日之民のケンタに安心して過ごしてもらえるように、急ごしらえで日之国の住まいに改装したんですっ♪」

 なんかアイナってばうれしそうだ。

「へぇ・・・」

 そういうことか。わざわざ俺のために洋間を和室に改装してくれたんだな。

「そこはもう私が観たゲンゾウ師匠や庵や、アターシャにもいろいろと訊きましてねっ♪」

 まるで、えへへっみたいににこにことしていてアイナは。アターシャにも―――ちらっ、っとアターシャを俺は一瞥すれば―――あっ、その俺の視線に気づいたアターシャと目が合う。

 こくりっ、っとアターシャは一礼する。そして垂れた頭を元に戻すとアターシャは口を開くんだ。

「ケンタ様、―――僭越ながら、わたくしの個人的な伝手を使いまして、父方のツキヤマの本家の者にも日之国の家屋のことを伺いました。人づてですので、もしなにか不備がございましたら遠慮なくお言いつけくださいませ」

 アターシャは自分のお腹の上に両手を重ねてもう一度、ぺこりと頭を下げた。それをよどみなくすぅっと、そして、また頭を上げた。

「うん。そのときは、ね」

 じぃ・・・っ、っと。視線をアターシャから部屋の中に移してさ・・・。いやだってあの立方形で脚が四つついた行燈はどう見ても―――、今どき日本でも中々、行燈は使わないよな・・・。時代劇ならよく行燈は出てくるけど―――あれで火事になったりする場面がちょくちょくあるんだよな・・・、ここも―――いやいやっ縁起でもないこと考えるなよ、俺。

 そっか、まぁでも俺のために日本の和室をいろいろと二人は調べてくれたんだな。ちょとうれしいかも―――、俺のためにってところもあるけどそれだけじゃない。イニーフィネ人の彼女達が日之民・・・いや俺の元居た世界の日本と共通する和風の文化をいろいろと調べてくれたんだぜ?俺の価値観や育った環境を、さ。そりゃうれしいよ。

 今度はへぇ―――なんて気のない返事はしないぞ。

「ありがとな。なんかほんとに俺ん家の和室みたいだな」

 その・・・、俺ん家の和室というのは、失踪する前まで祖父ちゃんが居た部屋のことだけどな。さすがに行燈はその祖父ちゃんの和室にはなかった、でもその代わりレトロ調な電気スタンドがあった。

 今の電気スタンドはLEDで、上に傘もしくは光源があって上部の光源から光が降りてくるように点すよな。でも、祖父ちゃんの部屋にあったレトロ調な照明は違うんだ。台座はこんもりとまるで山の形になった鼈甲(べっこう)色のガラス細工で、そのガラスの山の頂上に電球と豆電球が二つ点いてあった、ように思う。その周りを紙か布かの覆いがしてある、もちろん白熱電球の熱で発火しないように電球とその覆いは充分に距離が取られているんだろうな、そんなレトロ調な照明だったよ。


「アターシャ。次は湯浴みのための湯殿をケンタに」

「かしこまりましたアイナ様。ではケンタ様。続きまして湯殿を案内いたします」

「うん」

 次は風呂場か。


「こちらへ―――」

 そうして俺はアイナとアターシャの二人について行くのだった―――。


・・・・・・

・・・


 ぱたっ、っと俺は廊下で二人と別れて扉を閉めたんだ。さっきまでアイナとアターシャにこの屋敷の案内をされていたんだ。風呂やトイレ、厨房とかを、な。

「―――」

 ようやく暗いのに目が慣れてきたよ。扉のこちらがわ部屋の入り口、土間か玄関と言えばいいのかな?そこに立ってこの薄暗い和室を眺める。明かりは、今は点いていない。

「ふぅ・・・」

 ずいぶんと早いんだな・・・電話の待ち受け画面を見れば、まだ二十一時を過ぎたばかりだ。日本と比べればすいぶんと早い。日の出と共に起き、日が沈めば帰宅するまるで江戸時代の一日みたいだ。

 アイナは『おやすみなさい、ケンタ』と、アターシャは『おやすみなさいませ、ケンタ様』と言ってついさっきこの俺に宛がわれた部屋の扉の前で、おやすみの挨拶をしたばかりだ。

 この部屋は照明を点けていないせいで暗い。さっきまでアイナとアターシャの三人で歩いていた廊下の柱には、昼間に見たアンティーク調のその燭台に光が点っていたから別段暗くなかったけどね。アターシャが言うには、完全消灯が二十二時だそうで柱の燭台の光量が七割減するそうだ。常夜灯。

『消灯時間は原則二十二時と決められております。しかし当屋敷で賀宴(がえん)や、また国を挙げて、もろびとこぞっての催し物が各街々で行なわれる場合に限り、その日はその原則に当てはまりません』って、アターシャは。こっちの世界イニーフィネの『催し物』って日本で言う正月やクリスマスのような日のことらしい―――。アターシャの説明を横で聞きつつ、相槌を打つアイナも別段、普段通りで、特に変わった顔色でもなかった。俺だけだ、『うそっ寝るの早っ!?』って内心思っていたのは。イニーフィネの人々ってだいたいみんなそれぐらいの時間に寝るのが普通らしい、アイナやアターシャが言うには。そう言えば、夕食も時間が少し早い気がしたしな。

「日本との文化の違いだな」

 ―――この屋敷って二十二時に寝るの!?早っ、っと俺はそう思ったけど、口には出さなかった。俺は、アイナ同様にアターシャのその説明を聞きながら適当に頷いただけだ。


 部屋の入り口、玄関のように設えられた土間で靴を脱ぐ。俺が脱ぐのは、ずっと履いてきたあの白い上履きな。俺は靴を脱ぎ畳の上に上がったところで視界に入るのは、―――あの、アイナとアターシャにこの部屋を案内されたときに見つけたあの行燈だ。

「―――」

 あそこの行燈・・・。部屋は暗いし、少し扉が開こう。きぃっと少しだけスリットのように扉を開く。まだ、消灯時間になっていないから、廊下からすぅっと一条の光がこの和室に入ってくる。

「これ、どうやって点けるんだ?」

 廊下からの一条の光で薄明るくなったこの和室。しげしげっ、っと俺は『それ』を見て、それだけにとどまらず俺はその行燈を、自分の袂に引き寄せるように手に取った。

 左に、右に、最後に底を見て、、、あれ?ないぞ。

「コードなんてどこにもないよな?」

 その行燈には電気コードのようなものは一切付いていないんだぜ? じゃあ充電式? いやいやそんな感じでもない。まさか直接、本当に昔の行燈のように火を、火種に点けて燃やすのか? そんな危ないことはしないだろう―――、石油ストーブじゃあるまいし。アイナかアターシャにこの行燈の点け方を訊いておけばよかった。

 ちぇっどうすればいいんだ―――この照明、あ―――、照明で思い出した。

「あ、そういえば―――」

 そういえば、と―――そこで俺は唐突に思い出す。

『え、えっと・・・ケ、ケンタのお察しのとおりこの照明は電気とアニムスで―――、えと詳しく説明しますと、このイニーフィネでは大気中に在るアニムスは『マナ』と呼ぶのですが、この燭台はそのマナを取り込み、光に変える魔導回路と送電による電気回路によって灯火を点す仕組みなっておりまして。つまりですね、すっすみませんっうまく説明できませんが、ケンタ、、、この燭台は日之国で言うハイブリッド車のようなものですっ』

 ってアイナがあのとき―――食堂に向かう途中に、燭台ばかり気にしてわき見をしていた俺が足を滑らせて階段から落ちそうになったときだ―――俺に説明をしてくれた。

 それともう一つ―――、隧道(トンネル)の途中で。

『この灯りはあれだよ、僕のアニムスを―――そのなんて言ったらいいのかな。アニムスを燃料にして明かりに変換する照明器具だよ。イニーフィネ皇国の魔法科学力と日之国日夲の技術を合わせて造られた照明器具って言った方がいいかな』

「―――っ」

 あいつ魁斗もそんなことを言っていた―――、あの生ける屍が徘徊するあの街から地下隧道を通って逃げるときに。魁斗の奴、そんな灯りの点け方ぐらい俺に教えとけよ。それから逝け―――おっと違う違う、―――帰れよ・・・ったく。

 なるほど―――、、、。すぅっっと俺は眼を瞑り、両手でその行燈を胸に抱くようにして、、、念じるんだ。むむむむ―――行燈よ、俺が氣を送るから灯りを点せぇえええっ―――ってか?

「―――」

 なんて、まさか、そう氣を送りこむにように念じれば灯りが点るとか? そんなまさかなっ―――

 ちょ、ちょっと恥ずかしい・・・っ///

「あ、灯りよ。つ、点けぇええ・・・」

 ぼそぼそっ、っと声だけは控え目に、でも心の中では、俺がこの『眼』でこの行燈に新たなる概念を与える、光り輝け行燈よ!!―――うおぉおおおおおおっ点きやがれぇえええッ!!―――って、、、あ、あせあせっ。

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