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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第八ノ巻
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第八十二話 親元を離れて我が家へようこそ―――歓迎いたしますわ

「あ、でも当時の文字をそのまま使っているわけではありませんよ、ケンタ。時代の経過とともに・・・と言いますか―――」

「ん?」

 アイナは少しためを置く。


第八十二話 親元を離れて我が家へようこそ―――歓迎いたしますわ


「―――えぇ。『世界統一化現象』が終わりこの世界が『五つの世界』になったときに文字の改良も順次行なわれました」

「へぇ」

 あれ?俺ってさっきから『あぁ』とか『へぇ』しか言っていないような・・・。アイナの言う文字の改良、まぁでもそこは日本と一緒か。日本でも『仮名文字』の選別が行なわれたもんな。現文の先生が『さようなら変体仮名』って授業で言ってたな。

「現在使われている『皇国イニーフィネ文字』はそのとき女神様から与えられた文字とは微妙に形が異なりますけどね」

「へぇ・・・」

 アイナは俺にそんな、このイニーフィネという世界の文字を説明してくれたあと、はにかむように―――、それからもう一度視線を自身の手元に戻す。この世界の文字の説明が終わった、でいいんだよな。

 そのアイナの様子を見て、俺も左手に持った電話へと意識を戻した。

「―――」

 他に前にはなかったアプリとか入ってるかな・・・? くくっ・・・いや、つい心の中で笑いが。もしそんなアプリが入ってたら―――いやいやOSごとイニーフィネVerにアップデートされてるかも。もう一度日本で使えるのかな、こいつ。

「―――」

 俺はそんな些細なことを思いながら自分の電話をしげしげと。アイナはアイナで卓上に置いていた電話をふたたび手に取り、画面を指でさわさわ―――たぶん、さっきの翻字(ほんじ)の変更を元に戻しているんだろう。

「「・・・・・・」」

 お互いに自分の電話を触る、そんな俺とアイナの会話が途切れたときだ。


「そろそろ戻るわね」

 アスミナさんだ。アスミナさんの声に俺がそちらに視線を向けたとき、アスミナさんはもう席から立ち上がっていたんだ。

「は、はい。お母様、でしたらお部屋までお見送りを」

 ややっとアイナは自身の電話の操作をやめて立ち上がり、もちろん俺もそうだ。俺は電話を卓上に置いた。アイナはその上品な動きでやおらアスミナさんに近づこうとしたところで、

「大丈夫よ、アイナ」

 アスミナさんはまぁまぁっと手振りも加えて、自身に近づこうとしたアイナをやんわりと優しく制したんだ。

「お母様?」

 アスミナさんはにこりと微笑む。

「えぇ―――」

 まず自分の娘であるアイナに、アターシャに、最後に俺へとその微笑んだ視線を順番に向けて―――

「ケンタさん」

「は、はい・・・っ」

 アスミナさんはやや笑みを失くして真面目な顔になる。そんな真面目にされて急に俺の名前をアスミナさんに呼ばれると、なんかちょっとびびる。

「親元を離れて我が家へようこそ―――」

「っ」

 俺の、日本にいる父さん、母さん―――、俺は両親の元を離れてホームステイといってみてもおかしくないか、この今の状況―――。

此度(こたび)のケンタさんの逗留。このアスミナ、ルストロ=イニーフィネ家の家長として歓迎いたしますわ、ケンタさん」

 アスミナさんはルストロ=イニーフィネ家の家長。って―――・・・、やっぱり俺はこの異世界の皇帝や皇族に認められたってことで・・・合ってるよな―――、だよな?

「―――っ」

 ごくりっ、っと俺は唾液を嚥下した。これからちゃんとその名に恥じないように、俺を認めてくれた人達をがっかりさせないようにちゃんと振る舞わないと・・・っ。

「なにか変に遠慮することなく、自分の家と思って過ごしてくださいね、ケンタさん」

 にこり。っとアスミナさんは、今度は俺にその笑顔を向けたんだ。

「はっ、はい。ありがとうございますっアスミナさんっ」

 あせあせっ―――ちょっとほんとに焦ってしまったぜ・・・。

「ふふっ。―――」

 小さなあたたかいアスミナさんのおとなの笑い声。俺の言葉を聞き終えたアスミナさんが、今度はすぅっ、っとその視線がアイナに移ったのが分かった。


「アイナ。お母さんに気を遣うより、親元を離れたケンタさんが不安にならないよう彼の傍にいてあげて。ね?アイナ」

「は、はい・・・お母様」


「―――」

 なんかめちゃくちゃ気を遣われてるよな、俺。・・・『彼の傍にいてあげて。ね?アイナ』って―――ほんとにもう俺。俺とアイナの仲って親公認ってことだよな。

「―――、―――、・・・」

 そっかー。・・・へへっ、ってそんなことっ、でへへっへへへっ―――

「!!」

 はっ、っとそこで俺は周りに気づいて―――、アイナにアターシャ、アスミナさん。ほっよかった誰も俺のことに気づいてないみたいだ。いやぁ、楽しみだなアイナと木刀で軽く打ち合いとかしてみたいぜっ。祖父ちゃんに会って祖父ちゃんとでもいいけどな。祖父ちゃんなら本気の打ち合い。

 そうそう、えっと―――、アスミナさんはここの食堂に来たときと同じように、給仕服を着た集団を引き連れて、今度は戻っていったんだ。


・・・・・・

・・・


 アターシャが一番先頭を歩き、主人であるアイナを導いて、ついで俺といった様子だ。さすがに電話をいじりながら二人についていくなんてなんか失礼だろ、俺は食堂を出たときにはすでに電話を和装の道着の懐の中に仕舞っている。

「―――・・・」

 そういえばアイナの部屋は二階だったよな。今のところ階段は登っていない。食堂からまっすぐ歩き、廊下を直角に二度曲がり―――今の俺はアターシャとアイナに言われるがままに、俺に(あて)がわれた部屋を二人に案内されているところだ。

 すっ、っと。ん? 止まった?

「・・・」

 すぅっとゆっくりっ、前を歩く二人アイナとアターシャのその脚が止まったんだ。くるっ、っとまるでアイナは舞踏を楽しんでいるかのように、ふわっさっとアイナのその長い黒髪と、ドレスの裾が舞う。裾が舞った拍子に、その両手はスカートみたいになっているドレスを上から押さえているよ。

「っ」

 なんかいい。グッとくる。

「ケンタっ♪」

 アイナは身体ごと俺に振り返り―――、ふわさっと―――、そのときくるっと身体ごと振り返った彼女は、まるで舞うように―――・・・

「っ・・・」

 アイナのその烏の濡れ羽色のような艶々したきれいな黒髪が舞った拍子に。そしてもう一つ―――そのアイナの嫌味ならない、俺の鼻をくすぐるほわっとしたわずかないい匂いはアイナが嗜む香水かお香の匂いかな・・・たぶんそうだ。

「ケンタ着きましたよ。ここがケンタのお部屋ですっ」

「・・・お、おう・・・っ」

 そのアイナのちょっと嬉しそうな感情がこもった言葉に俺は、意識をアイナからその廊下の途中にあるその部屋の扉に向けた。早々に意識をその件の部屋に向けたのは、アイナの匂いを嗅いでしまったという、恥ずかしさもあったよ? だって、たとえ好きな人であっても、そんなこと―――初めての、できたばかりの、そして両想いになったばかりの、カレシカノジョの匂いを嗅いでグッときて、内心ドキッとしていたなんて、その当の本人に気づかれたくないってもんだろ?その人に嫌われたらどうしようなんて。

 付き合いの長いお互いの酸いも甘いも知り尽くしたようなカップルなら分からないけど・・・。俺とアイナはまだまだその域には入らないよ。

「うお」

 すっげーっ、なんか立派じゃねぇか。アイナの部屋と同じような豪華な白亜な扉だ。ま、当然、俺が目覚めた部屋、つまりアイナの部屋に俺が案内されるわけはないよな。

「・・・?」

 あれ?アイナの部屋の扉に掛けられていた三つ付いた鍵はこの部屋の扉にはない。鍵の付いていないドアノブが一つだ、でもこれも立派なドアノブには違いないよ。

「ケンタ様。アイナ様がおっしゃったとおり、こちらの部屋がケンタ様のお部屋になります」

 俺のためにこんな立派の部屋を―――

「うん・・・、なんかありがとう」

 アターシャが一歩進み出て、がちゃりっそのドアノブに右手をかける。そのドアノブはまるで日本でいうところの真鍮(しんちゅう)色―――(銅と亜鉛と錫の合金で五円玉のあの金色に輝く青銅のような、もしくは南京錠の黄銅のような)―――で、けっこう大きいまるで博物館かレトロな食べ物屋さんのドアノブのような・・・なんて言ったらいいんだろ?円形の時計回りに回すタイプのドアノブじゃない。がちゃがちゃとした立派なものだ。うん、もちろん真鍮色のドアノブには埃なんてついていないよ。

「―――」

 きっとこの俺の部屋は、アイナの部屋と同じようにふわふわの絨毯が敷かれているんだろうな。それと木のベッドもあって、机もあって間取りもきっと広いんだろうなぁ♪俺の実家の自分の部屋は四畳半だったからさ。もうベッドと机を置いたら狭い狭い。でも、きっとこの部屋は―――。

 わくわくっ、あぁーなんか楽しみになってきたぞ。俺の実家の俺の一人部屋は狭いし、おせじにも綺麗ともいい難いしな。

「どうぞ、ごゆるりとおくつろぎくださいませ、ケンタさま」

 きぃ―――っ、っと僅かな音を立ててアターシャはその扉を自分のほうへと引いた。

「へっ?」

 へっ?なんて思わず言っちゃったよ、俺。扉のとこから俺に見える光景は純和風な和室なんだもん。

「―――っ」

 鼻をくすぐるこの藺草(いぐさ)のいい匂い。この部屋が畳張りだからだ。この和室の広さは見る限りでは六畳だ。向かって奥には襖が見えるから、奥にもう一部屋があるんだろうな。右側には広い窓、窓の大きさは、下は腰ほどの高さから上はたぶん俺の身長より少し高いかな? でも窓には暗色のカーテンが引かれていて外の景色は見えない。

 あっ、いきなり明かりが点いた。

「・・・」

 あとで外を見てみよう。そして視線をもう一度、向かって左側に移す。その左側の奥の襖の色合いは渋い薄茶色で、そうまるで藁半紙(わらばんし)のような色合いの(ふすま)はところどころまるで白い和紙を貼り付けたようなうねうねとした自然体の模様が着いている。

 ついでに六畳部屋の真ん中には渋い色合いの丸いちゃぶ台が一つと藍色の座布団がいくつか。それと・・・それにあれはどう見ても行燈(あんどん)だよな? 行燈なんて今どきの日本でも―――

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