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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第八ノ巻
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第八十話 食後の団欒どきに彼女は俺に

 アターシャは―――その四角い薄茶色の角砂糖を一つ入れたティーカップをアイナに、なにも入れなかったティーカップを俺の前にと、順々に置いていく。


第八十話 食後の団欒(だんらん)どきに彼女は俺に


「―――食後のチャイになります。ここにお砂糖と羊乳―――それと、お(たしな)みをおいておりますので、ケンタ様もお好みでお取りくださいませ」

 チャイ? あと、アターシャがお嗜みって言ったのは、それを見ただけで分かる、日本でいうビスケットみたいなお菓子だ。それもいくつかの種類―――これはクッキーみたいな見た目で、こっちの左のお菓子はチーズっぽい見た目だ。もう一つ向こうのお菓子は陶器の小鉢に盛られたアーモンドみたいな果実だ。

 これって、このお菓子って日本でいう御茶うけだよな。

「ありがとな、アターシャ」

「―――」

 にこりっとアターシャは俺に微笑んで、最後に自分のティーカップにそのチャイとかいう茶色の飲み物を注いだ。それからアターシャは静かに自分の席の椅子を引き、音も立てずに上品な仕草でその席に座ったんだ。

「・・・」

 そういえば、アターシャが言ったチャイって? でも、その液体の見た目は本当にお茶・・・お茶といっても緑茶のような色合いじゃなくて麦茶やウーロン茶のような濃い茶色だ。ほんのり紅茶のような赤みがかっているようにも見える。

 ティーカップの持ち手を右手で持ち、口元にそれを引き寄せ―――、、、すぅっ・・・俺はおそるおそるそのカップを口に―――あっ、アイナ。アスミナさんも、アターシャもだ。まずは鼻をくんくんすぅーっとこのチャイとかいう飲み物の匂いを鼻で嗅いでいる。

 どうやらこの仕草をするのが礼儀っぽいっ。

「―――っ」

 あせあせっ、俺もまずこのチャイの匂いを嗅ごう。くんくんっ、ん、その匂いは正真正銘の紅茶かウーロン茶の香りだ。―――それから味は。

「・・・―――ッ」

 すぅ―――っ俺は唇をティーカップの縁に付けチャイを―――ふげッ熱ちちっ!!

「―――っ!!」

 が、我慢しろ、俺。口から噴き出すなよっ、噴いたら下品だろ―――っ!! んくっ・・・こくっ―――ふぅ・・・あぶなかったぁ・・・。ちょっと、ううんけっこう熱かったけど、でも口からチャイを噴き出さずに済んだぞっ!! あぁ、でもほんとにあぶなかった・・・。もうちょっとで真正面のアイナにチャイを噴き掛けるところだったぜ・・・。でも、舌をちょっと火傷したかも、舌の感覚が少しぴりぴり。ま、口の中の火傷だし、すぐに治るだろ。

 でもこのチャイという飲み物はなんかふつーにペットボトルに入って売られているウーロン茶みたいな味だ。その苦味も、僅かに広がるその渋味も―――、そしてこの味も。

「・・・」

 ん?アターシャ?


「っ」

 アターシャは何かに気づいたようにその席から静かに立ち上がり、しずしずと俺の真正面に座るアイナの元へと向かっていく。

「アイナ様、言われた物をお持ちしました。今、よろしいですか?」

「えぇ、かまわないわアターシャ」

 アターシャは布袋をその懐より取り出すと、それを大事そうな手つきでアイナに手わたしたんだ。

「ありがとう、アターシャ」

 アイナはアターシャからその布袋を受け取ると、自らの白いドレスの膝の上へ置くように円卓の下に仕舞った。なんだろう、あの布袋は。大きさはそれほど大きくはない、A4の封筒ほどの大きさで無地であずき色、、、ううん、ややちょっと薄いえんじ色の布袋だ。ちょっと渋めの色だよな。紐で結ぶことで口を閉じるみたい。なんとなく巾着(きんちゃく)袋にも見える。

「・・・」

 アターシャは無言で一礼すると、ふたたび元の自分の席へ―――、えっと俺から見て扉側の右側の席だ。

「―――」

 そんな自分の席に戻ろうとするアターシャと一瞬視線が合う。アターシャはぺこりと俺にも一礼した。

「?」

 なんだったんだろう?今の一瞬の俺へのチラ見と会釈は。ま、いっか。俺はまた、すぅっと付け焼刃の上品さを気取って、匂いを嗅いだあと、チャイに口をつけた。

「―――っ」

 まだちょっと熱い。舌もそのチャイの熱さでジンジンする。やっぱり俺は、と、ティーカップを円卓の上に置いた。お菓子でも食べるか・・・、そういえばアターシャは御茶うけのことを『御嗜み』と言っていたっけ?

「―――ところでケンタ」

「っ」

 それは俺が御茶うけに右手を伸ばそうと思っていたときだ。御茶うけに手を伸ばそうと思って、でもまだ、俺が手を出していないそんなときにアイナから俺に声がかかったというわけだ。アイナはたぶん俺がティーカップを円卓の上に置いたのを見計らって、俺に声をかけたに違いないだろう。

「ん?どしたアイナ?」

 だから俺は、アイナと話しているときに、ぼりぼりと御茶うけを食べたら失礼―――というか、『お菓子を食べながら・・・。ひょっとして彼(俺)は(アイナ)の話をちゃんと聞いているのかな?』っていう印象をアイナに与えてしまいそうで、俺は手を伸ばして御茶うけのお菓子を取るのを止めた。

 ところでケンタ、と俺に切り出してきたアイナのその表情には、なんとしても今言わないとみたいな鬼気迫るというものもなく、言いにくいことを言わないといけないのか・・・、のようなそんな感情も籠っていないよ。ただ、少しうれしいのかも、しれないな、アイナは。その証拠にわずかにその口角が微笑んでいるからな。

「ところでケンタ。お電話を失くしませんでしたか?」

 電話? 電話って俺の? 

「あ、うん。そういえば―――」

 俺が自分の電話を取り出して確認したのは、確かあの、あの街で生ける屍達から逃げる途中に立ち寄ったあの空家が最後だったんだよな。もうすでに電池切れを起こしていて液晶画面は真っ黒だったやつ。それから魁斗と一緒に廃砦で焚火を(おこ)したときにも、まだ道着のポケットの中に入っていたはずだ、俺の電話。

 そこから、魁斗とドンパチやってそれからは自分の電話のことを意識しなくなった。というか、電話を意識する余裕がなくなったんだ。そして、今は持っていない。電話以外にも俺が持っていた木刀も、魁斗から取り返した誰かの氣導銃も同じだ。

「・・・―――」

 にこりっとアイナは微笑んでから、その両手を円卓の机の下、自身の膝の上に。ひょいっとアイナが円卓の下から、机の上に取り出すのは―――、

「あ・・・、―――」

 あの、あれだ。さっきアイナが、アターシャから受け取ったあのえんじ色の布袋だ・・・。まるで巾着袋のそれを、アイナは大事そうにしながら静かに円卓の上に置いた。アイナのこの屋敷の絨毯もえんじ色だし、ひょっとしてえんじ色が好きなのかも、アイナ。

「どうぞ、ケンタ。これを―――」

 すっ、っとアイナは右手を以ってゆっくりと、えんじ色の巾着袋を真正面の俺に、まるで円卓の上を滑らすようにして、そのえんじ色の巾着袋を俺によこしてくる。

 俺も右手を伸ばして、えんじ色の巾着袋を掴むと手元に引き寄せた。えっと、、、アイナは俺にくれるのかな?この巾着袋を?

「これは・・・?え?アイナ?」

 俺の目の前にはえんじ色の巾着袋。その袋の口には蝶々結びで紐が結ばれていて、袋の口にはちゃんと封がされているぜ。

「その袋を開けて中の物を取り出してください、ケンタ」

 アイナから俺への贈り物だと?

「・・・」

 な、なにが入ってるんだ?どきどきっ。ひょっとして―――、俺はアイナに言われるままに巾着袋の口を縛る紐を解き、その中に手を入れた。

「―――?」

 これは? なにやら固くて、四角くて・・・板だなこれは。それにその大きさにして少し重い。俺はそれを掴んだ右手を袋の中から出し―――

「あ、俺の電話―――・・・」

 そうだ、それは見紛(みまが)うことなき俺の電話だ。その形、カバーも。アイナが持っていたのか、俺の電話。俺、魁斗と戦ったときに電話を落としていたのかな?

「あの。使えるかどうか、いろいろと自身で確かめてみてください」

 使えるかどうか?

「―――」

 俺はアイナに言われるままにその長方形の電話を手元に持っていき、カバーを生徒手帳のように開いて―――しげしげっ―――、

「ん? ちょっときれいになってる?」

 カバーは、ほら汚れとかほつれとかな、その俺が持っていたままだ。でも確かに、電話の本体は、その液晶画面とかも新品みたくつるつるになっていてめちゃくちゃ綺麗にまるで、新品に交換したような見た目になっていたんだよ。

 アイナきみが直してくれたのか? 俺がアイナを見返すと、アイナは。

「ふふっ、ケンタ」

 ―――にやっ、っと、まるでしてやったりのようなアイナはそんな少しいたずらっ気のあるような笑みを浮かべた。

「っ」

 アイナのこのいたずらっ気のある笑みもまたかわいくて―――俺っ///

「えぇ、あの『黯き天王カイト』との戦いで画面が割れてしまったのでしょうか? 画面に罅が入っていましたので、こちらで修理させていただきました」

 罅が入ってた? アイナが言ったあの戦いってのは、俺が魁斗と戦った盛大なケンカのことだろう。そのときに、たぶん割れた画面を直してくれたんだ。だって俺の電話の画面は、罅なんて入ってなかったんだもん。

「あ、うん。ありがとな、アイナ」

「いえいえ。さ、それより早く電源を点けてみてください、ケンタ」

「・・・」

 アイナってばさっきからやけに急かすように俺のこの電話を、まるで俺に、電話を早く見て、使ってって言っているみたいだ。ま、いいか。

 側面を軽く押し、電源を点けてみようと。日本で使っていたこの電話がこっちの異世界であるイニーフィネで使えるなんて―――思えないんだけど。俺は握るように電話の端にある電源を押さえた。

「っ」

 おっ久しぶりの電話の待ち受け画面だ。ちょっとなつかしいぜ。待ち受け画面を見れば今はちょうど十八時を過ぎた23分か。つづいてついつーいっと俺は指先で、日常の仕草で呼び出し画面を右に、真ん中、左と開いて―――。

「―――え?」

 なにこれ? 呼び出し画面のアプリのアイコン―――、角が丸い四角いアイコン画像はそのままなんだけど、アイコンと一緒に表示されている文字は、俺が今まで生きてきて、一度も見たこともないような文字なんですけど・・・?

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