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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第八ノ巻
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第七十九話 料理長のはからいで

「アイナ様、指で摘むのではなく、ちゃんとお皿にお取りくださいませ。はしたのうございますよ」

 とことこと近づいてきたのはアターシャだ。アターシャも、その紅白色の蝦蛄エビもどきの山からひょいひょいっと二、三匹、その左手に持った白い陶器のお皿に、右手に掴んだトングで入れていく。


第七十九話 料理長のはからいで


 そのアターシャが左手で持つお皿はたぶんまだ使われたことない白い白磁のお皿だ。それが紅白まだら色の蝦蛄エビもどきで埋まっていく。

「あら、アターシャ。ごめんあそばせっ♪」

 機嫌がよさそうだな、アイナ。るんるん、っといったその様子で、アイナはくるりっと後ろのアターシャに振り返った。

「アイナ様がお召し上がりになるゾウリジャコの姿揚げをこの白磁のお皿にいくつかお取りいたしました」

「ありがとう、アターシャ。気を遣わせてしまいましたね」


「―――・・・?」

 ゾ、ゾウリジャコ?こいつの名前か、、、この蝦蛄(しゃこ)エビもどきの・・・。ゾウリエビやグソクムシなら聞いたことはあるけど・・・。ゾウリジャコなんて聞き始めだぞ・・・。ゾウリは『草履』で合っているのかな・・・?


「ありがとう、アターシャ」

 アイナは嬉しそうにそのゾウリジャコとかいうこの世界の蝦蛄が盛られたお皿を、アターシャに受け取りに行く。

「いえ。光栄であります、アイナ様」

「―――」

 ふふっ、っという微笑みをアイナはアターシャに返し―――、

「・・・」

 それから俺にその視線を向ける。あ!!これ、また棘桃のジュースのときと同じやつだ。きっとこのゾウリジャコを食べるようにアイナに勧められるやつだ。その前に―――!!

「あ、なんか俺―――日本の、、、あ、いや日之国の海鮮料理を食べてみたいなぁ・・・あははは、なんてな」

 頬なんか引き攣っていないってばっ俺!! エ、エビみたいな彩りのゾウリジャコだっておいしそうじゃねぇかっ。

「そうですか・・・、ゾウリジャコの揚げ物はおいしいのですが・・・」

 しゅん。ってアイナ―――。あっやっちまった・・・、俺。

「・・・っ」

 アイナはしゅんと・・・、俺が見て心持ち元気がなくなった。きっと、ご当地の、このイニーフィネという世界のおいしい料理を俺に紹介したかったに違いない。『郷に入っては郷に従う』っていう日本のことわざをあるし、アイナには少し悪いことをしてしまったなぁ。次からは気を付けよう。よ、よし―――っ。俺は腹を括るぜ・・・!!

 ごくり・・・っと。おそるおそる・・・―――、

「・・・」

 俺は盛られたゾウリジャコの山に右手の指を伸ばし、、、ひょいっぱくっと・・・!!

「・・・、・・・、・・・、」

 あわわわわっ高速噛み噛みッ―――しゃくしゃくしゃくしゃく・・・っ!! こ、甲殻類の素揚げだけあって、食感はしゃくしゃくとしていてエビてんやカニの素揚げに近い。外の殻はかりっと固くて、中身がやわらかい。エビやカニと一緒で脂っこくはなくてあっさり。でも、うま味汁がじゅわっとジューシーだ。

「ありえん・・・っ!!」

 その味は、、、なんだろ・・・これめちゃくちゃ旨い。えびせんべいのような、カニのような甲殻類特有の旨味にも通ずるし、、、とにかく濃厚な魚貝の味だ。見た目に反してゾウリジャコのやつ。

「ゾウリジャコおいしいですよねっケンタ♪」

 もしゃもしゃもしゃっ・・・ごくんっ。―――見た目はちょっと、、、アレだけど。味は旨いぜ、ゾウリジャコ。

「―――あぁっ、ほんと意外だ」

「ふふっ」

 なんかアイナのやつ、まるで自分のことのように嬉しそうだ。

 今度はアターシャ、なんだろ? 俺になにか?

「ん?」

 ごくんっ、っと俺がゾウリジャコを嚥下したそんなとき―――すすっとアターシャが俺に寄って来る。そして、近づきすぎることなく、アターシャはその歩みを止めた。

「ケンタ様。料理長のはからいで日之民のケンタ様のために日之国のお料理を取り揃えております」

 さすが料理長!! その料理長がどんな人かは知らないけどっ。

「まじでっ」

 和食ってことだろ? 寿司かな?丼もの?それともうどんとかそばか?

「アターシャ。そうですね、そのお料理をケンタに出してあげてください」

「かしこまりました、アイナ様。少々お待ちくださいませ、ケンタ様」

 アターシャは俺に一礼をすると、すすっとぐるっと、ヴァイキング形式の料理がずらっと並んでいるこの食卓の反対側まで歩いていき、腰を少し屈めてなにかのお皿をその手に取ったようだった。

 もう一回、アターシャは元来た道を戻るように俺のところに。あ、どんぶり鉢っ。黒いどんぶり鉢の丼ものだっ。

「ケンタ様、どうぞお取りくださいませ」

「先に蓋を取って見てみてもいい?」

 アターシャのその両手には一つの黒い陶器のどんぶり鉢が。大きさはやや大きく、牛丼チェーンのお店の並の大きさよりも大きいどんぶり鉢だ。ただその店のと違うところがあるとすれば、そのどんぶり鉢には木の蓋がしてあるところぐらいかな。ほら?ファミリーレストランに入り注文したときに、その汁物料理に蓋がしてあるのと、それと同じような木の蓋だ。

 アターシャのその両手にそのどんぶり鉢。俺はおもむろにその木の蓋に右手を伸ばした。

「よろしいかと、ケンタ様」

 どんな海鮮丼だろ、なに丼かな?和食だろ。カニ飯?タコ飯?マグロの鉄火丼かな?それともシラス丼かな―――わくわくっ。親指と人差し指中指で蓋の取っ手を摘まみ、―――かぱっ。

「―――」

 わー。白いご飯の上にアンモナイトが殻を横にして寝てるぅー。でもたれの匂いは、本当においしそうな出汁醤油ベースだよ、これ。たぶん、これこのアンモナイトには火が通されているに違いない。アンモナイトはタコ飯の天ぷらタコさんのように、ちーんと白ごはんの上で横に寝ていて、その身には、殻ごとおいしそうな赤茶色がかった黒い出汁醤油が衣の上から掛けられているんだ。

 アイナも俺の傍までやって来る。

「巻角ダコのタコ飯ですねっ。きっとおいしいですよケンタっ♪」

「お、おうっ!!」

 ふふっ、っと屈託のない笑みでアイナは。アンモナイトのおいしさはさっきの料理で知っているさ。きっと普通のタコ飯より貝の味が効いていておいしいに決まってる。

「私は、こちらのエビフライに魚貝ソースと、貝のパスタを取りましたよ?―――ほらっ」

 見てみてぇっと嬉々としてアイナは俺にそのトレイを見せてくれる。日本でもよくあるような黄金色のサクサクっとした衣に包まれたエビフライに淡い色をしたタルタルソースのようなとろっとしたソースがかかってある。そして、アイナの貝のパスタなんか、小麦色の麺がてらてらとしていてめちゃくちゃ旨そうだ。貝の形はアサリに近くて、その貝の匂いも食欲をそそる。

 アイナのトレイ皿には、そのエビフライと貝のパスタの他に、さっきのゾウリエビも一緒だ。

 見た目があれなゾウリエビも含めて―――、

「―――ふつうに旨そうだな」

 すっげぇ普通の、旨そうなごはんじゃねぇか―――。普通の料理もあるのか、この異世界・・・。

「アイナ様。脂ものをお摂りになられるときは、お野菜も御一緒にお取りくださいませ」

「え、えぇ、そうね。アターシャ」

「赤茄子ときゅうりのサラダでございます、アイナ様」

「ありがとう、アターシャ」


「―――」

 普通。アターシャがそのトングでひょいひょいっと別のお皿に取っていくものは、とくに変わったところのない普通の生のトマトときゅうりのサラダだ。

 俺も二人アイナとアターシャのその様子を見て、このアンモナイト飯に合うものは・・・っと。そうだ、茹でた海藻にでもしようかな、っと。

 ずらっと並ぶヴァイキング形式の料理を見れば、ふつうの海鮮パスタもあるよな? あっちのはふつうのタコの足のぶつ切り料理だぜ? 話に聞いた棘桃や珍妙なゾウリエビの姿揚げ、アンモナイト飯、ベレムナイトを見たから、てっきりこのイニーフィネにはそんな料理ばかりと思ってたぜ・・・。うんうん、先入観で見るのはよくない、な。



・・・・・・

・・・


 アターシャが戻って来た。

「皆さま方、遅くなり申し訳ありませんでした」

 宴もたけなわに終わり、食べ終えたお皿が次々と給仕係に下げられたあとだ。円卓もしっかりと拭かれている。アターシャは給仕服の子達と円卓を片付けたあと、いったん席を辞し、ふたたびその手押し台車を押しながら、この食堂に戻ってきたというわけだ。

 ふぅーもう、俺もお腹はいっぱい。満腹満腹。いろいろな海鮮料理を御馳走になった。やっぱり俺にインパクトを与えたのは、アンモナイト飯とあのゾウリジャコだ。さすがに『海サソリの塩辛』とかいう珍味は遠慮してしまった、、、。アスミナさんはふつーにそれを食べてたけど・・・。毒はないのかな?海サソリ・・・。


「――――――」

 食堂の窓から外を見る限り―――、もうすっかり日も傾いて、赤焼けの夕方といった頃だよ。この俺のために催してくれた快気祝いは食事にしては長く、パーティーにしては短かったかもしれない。

 一般的に見て、日本だと、この辺りの時間から夕食といっても差し支えないんじゃないかな。今の正確な時間は分からない。俺が持っていた自分の電話はいったいどこにいったんだろう? あの廃砦で魁斗と焚火に当たっていたときには、確かにまだ道着の中にあったはずなのに・・・。

「食後のお楽しみになります」


「っ」

 アターシャのその声で俺は我に返ったんだ。

「奥方様―――」

 アターシャはその白い陶器のティーカップをまずアスミナさんに。ちらっと見えたそのティーカップの中身は濃い赤茶色の液体が入ってる。

「アイナ様、ケンタ様」

 そして、次にくくっ、っとその茶器の口からまた白い陶器のティーカップに液体を注いでいく。その、アターシャが右手に持つ茶器は目を奪われるかのような濃い青色、つまり藍色の(うわぐすり)で色付けされている。その藍色をベースに、白で唐草模様か、葉っぱ模様が描かれている。藍色の茶器からその白いティーカップに注がれる液体。一目瞭然だ。その赤茶色の液体は紅茶かな。俺のところまで漂ってくる匂いも紅茶の香りだし。

 アターシャは―――その四角い薄茶色の角砂糖を一つ入れたティーカップをアイナに、なにも入れなかったティーカップを俺の前にと、順々に置いていく。

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