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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第七ノ巻
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第七十四話 廃砦での誓い『彼女とお付き合いするなら徹底的にやり通せ』

第七十四話 廃砦での誓い『彼女とお付き合いするなら徹底的にやり通せ』


「―――」

 婚約か―――アイナと。そういえば、前から思っていたことだけどさ、『アイナ』は聴きようによっては日本風だよな。『アイナ』は『愛奈』とも『藍那』とも『愛那』とも聴き取れるしな。俺と結婚して『小剱 愛那』・・・なんちゃって、っ///。バカっ一人で思って、一人でなにてれてるんだよ、俺ってばっ・・・!! わちゃわちゃっ

「―――あ、あの・・・婿殿?」

「え、えっと―――ケンタ?」

「ケンタ様?」

 アスミナさん。アイナ。アターシャだ。

「あっいや・・・っ」

 三人の同じようなきょとんした表情とその視線―――ふおぉおおっ、、、おふぅ俺の心の叫びだ。アイナのお母さんもといアスミナさんに、きょとんとされてしまったぜ。こういうのは最初の印象が肝心なんだ。


「・・・」

 あれアターシャ?

 アターシャはすすっと華麗なその流れるような動きでその椅子の元へ。その椅子とは窓際の―――、俺とアイナは対面に座っていて、この食堂の出入り口の扉は二つ。どっちが上座だろう?分からない。

 つまり、この食堂の中央にある円卓。その円卓の俺の真ん前の椅子にアイナが座っていて、俺から見て右側の前と後ろにその白亜の扉がついていて、アスミナさんは俺の背中側後ろの扉からこの食堂に入ってきた、というわけだ。

 アターシャが無駄な動きと音もなく引いた椅子は俺の左側だ。時計回りにみて、アイナ、誰も座っていない空席、俺、アターシャが引いた窓際の椅子の席になる。

「奥方様、お座りくださいませ」

 アターシャは軽く腰を折り、一礼する。

「いいえ、アターシャちゃん」

 でも、アスミナさんは軽く右手を出し、まるで『座りません』という身振り手振りジェスチャーを示してアターシャに見せた。しかも、アターシャにはちゃん付けでな。

「―――」

 アターシャの視線がさりげなく嫌味ならない程度でアイナを向く。アターシャのその表情と眼差しには特段困ったようなものなんて一切見えないよ? でも、内心では絶対にアイナに助けを求めたんだと、俺はそう思うんだ。

「お母様。お母様が座ってくれないと、アターシャもケンタも席に着くことができません」

「違うの、アイナ。私は貴女やアターシャちゃん、もちろん婿殿も入れてのこの食事会の邪魔をしに来たわけじゃないわ」


「―――」

 邪魔って、、、なんかさびしい。さびしいことを言わないでほしい。

「邪魔などと、私はそんなことを思っていません、お母様」

 ほら、アイナだって俺と同じことを思っているよアスミナさん。表情には出していないけど、きっとアターシャだって。


「ありがとう、アイナ。でも、私がここに来たのは、―――(じぃ―――)」

 何か言いたげで、じぃ―――っ、っと俺の顔を見つめるアスミナさん。

「ん?」

 俺? 思わず右手の人差し指で自分の顔を指してしまった。

「はい。婿殿が目を覚ましたと、アターシャちゃんから報告を受けたからです」

「・・・」

 そうなんだ、と俺はアターシャに視線を移す。アイナもアターシャにその視線を向けた。

「アターシャ貴女が?」

「―――はい、アイナ(こくっ)


「婿殿」

 少し強めにアスミナさんは俺に呼びかける。

「―――、 っ」

 すぅっ―――っと、アスミナさんは頭を下げ、

「―――婿殿・・・いえ、コツルギ=ケンタ様―――」

「っ!!」

 俺が驚いたわけは―――その場に佇んでいたアスミナさんが俺に頭を下げるだけでは止まらず、その膝を絨毯の上に付けたからだ。ドレスは膝の下には巻き込まずふわさっと優雅に、だ。

「お、お母様・・・!?」

「奥方様・・・っ」

 それにはアイナもアターシャもさすがにびっくりしたようで、アイナはその席から立ち上がり、アターシャなんかは、アスミナさんに駆け寄ろうとしたところで―――、

「―――」

 ―――アスミナさんは無言でそれを手振りで制止したんだ。そのせいでアイナとアターシャの動きが止まった。

「コツルギ=ケンタ様―――、」

 俺に、アスミナさんは頭を下げたままで、また身体も俺に向けたままだ。

「公人としてではなく、母として。私の娘を、娘達を―――護ってくれてありがとうございます」

「ァ、アスミナさん・・・いや、俺は、ただ―――」

 俺はただ、当たり前のことをしただけです。だから頭を上げてください―――ってか? ただなりゆきで、俺は未来へと進むただの道筋に沿って正義感でアイナとアターシャを助けただけか? それもあるけど、ここでそれを言うのは軽くて当たり前すぎにならないか? 俺は正直言うと成績もいいほうじゃないし、・・・バカだから、よく分からない。こういうとき、幼馴染の敦司は要領いいやつだし、真は成績も頭の回転も速い―――あいつらならこういうときも機転を利かせて、上手く答えるんだろうな・・・。でも俺は―――

 そうだ。さっきのアイナとアターシャ・・・その二人と俺のやり取りで―――、俺は唐突にそれを思い出した。

「―――・・・」

 なんか、このイニーフィネという世界では日本と違って過ぎたる謙遜は非礼になるみたいだし、ここはアスミナさんに謙遜するところか? ―――違うかも。

 俺はただ、魁斗がすること、したこと、魁斗がアイナとアターシャに手を出そうとしたことが気に入らなかっただけで。俺は自分の意志でアイナとアターシャを取り戻しただけだ。アスミナさんは、このイニーフィネ皇国の貴人なのに、こんな俺みたいな一介の学生で、アスミナさんは自分の半分も生きていない俺に頭を下げてんだ。アイナを好きなったんだから―――


『アイナとお付き合いするなら徹底的にやり通せ』


「―――っつ」

 唐突に俺は思い出す、あのときの廃砦での、誓い―――

 だから、

「・・・俺はただ、自分の為にやっただけなんっすよ。その・・・『俺のアイナに手を出すな、魁斗』って。もちろんアターシャにも。だから俺、俺がやったことって自分の為にやっただけっす。だから頭を上げてください、アスミナ・・・いやお義母さん―――、っつ!!」

「―――っ」


「っつ」

 あせあせっ!! いやいやっ、なんか調子よく喋っていると、ノッてきてというか、興奮してとっさにアスミナさんに『お義母さん』って言っちまったけど、言ってしまった後からモーレツに恥ずかしくなってくるやつだってこれ!!身体も、背中も、カーッとあつく汗ばんできて―――

 うあぁっ・・・お義母さんなんて追加して言わなくてもよかったかも・・・~~っ。こっぱずかしてアイナの顔もまともに見れねぇよこれ。

「・・・」

 アイナをちらっ・・・っと。

「っ///」

 やっぱり。アスミナさんを―――アイナのお母さんのことを俺が『お義母さん』なんて呼んだら、そうなるよな。俺がアイナを一瞥(いちべつ)すれば、案の定―――アイナは頬を紅らめて、はにかんでいて―――


「・・・」

 アスミナさんはややあって顔をゆっくりと上げてくれたんだ。アスミナさんの手を、こういうときって手を取ったほうがいいのかな・・・。ごめん、わからない。

 俺の一瞬の迷い。 

「奥方様―――」

 膝を戻し、立ち上がろうとしたアスミナさんに、そのときアターシャがその両手を伸ばす。やっぱり、俺はアスミナさんをいたわりその手を持つぐらいはしてもよかったんだ。

「お母様、こちらの席に」

 もちろんアイナも席を離れて、さっと自分の母親に寄る。

「ありがとう、二人とも・・・、―――」

 二人に手を取られて立ち上がったアスミナさんは、―――っと何か言いたげなその様子で俺を見る。ややっとアスミナさんは口を開く。

「―――婿殿・・・いえケンタさん。やはり娘のアイナの見る目は正しかった、ということが解りました」

「―――え?」

 アイナの俺を見る目は正しかったって? にこりっ、っとアスミナさんは俺に微笑みを投げかける。

「えぇケンタさん。―――だって貴方はこんなにも素敵なお方なんですもの」

 す、素敵って・・・よせやい・・・照れるぜ、アスミナさん。

「っ///」

 今度は俺が照れる番じゃねぇか・・・。

「アイナもよかったわ」

「お母様―――、では」

「えぇ、喜んで婿殿を認めましょう。皇帝陛下に引き続き、私もアイナ貴女とケンタさんとの交際と婚約も認めるわ」

 にこりっ。

「お、お母様・・・はい。ありがとうございます・・・」


「―――」

 ん?皇帝陛下に『引き続き』認めるってどういうことだ? すでに、―――アイナの祖父さんのことだよな、皇帝陛下って―――皇帝陛下は俺のことを知っているということか? それでもうすでにアイナの祖父さんは、アイナと俺の婚約を認めてて・・・、いくらアイナが自分自身に掛けた誓いでも、その皇帝陛下が認められない人間と結婚なんてさせられない、だろう。皇帝陛下から見ればアイナは孫娘だ。俺はどこの馬の骨とも知らぬ、しかもこっちから見て異世界の若い男だ。

「―――」

 でも、アイナの祖父である皇帝陛下はすでに俺を認めていて―――

「ケンタさん、どうぞ婿殿もお席に就いてくださいませ」

「っ、あ、はい」

 観れば、アスミナさんもアイナも、もう自分の席に座っていたんだ。


「アターシャちゃん、貴女も食卓に座りなさいね? ね?」

「はい奥方様。ですが、しばしお待ちくださいませ。これらのごちそうを食卓に並べれば、すぐにでも―――」

「もうっ従姉さんったら、そんなのは彼女達給仕に任せればいいのに」

「っつ、アイナ様―――」

「ふふっ」


 アスミナさんに座るようにやんわりと言われたことと、

「―――」

 そのようなアイナとアターシャとアスミナさんのあたたかいやり取りを、俺は見ていると、俺のそんな皇帝陛下アイナの祖父さんに湧いた疑問、それをアイナに訊く、ということもすっかりと霧散していった。

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