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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第七ノ巻
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第七十二話 俺がなりたいものは

「―――私はてっきりケンタには妹か弟がいると思っていました」

「そうか? あれ?でも祖父ちゃんから聞いてない?俺が一人っ子ってこと」

「えぇ。ゲンゾウ師匠はそのようなことは言っていませんし、聞いたこともありませんでしたよ?」

「ふ~ん」

 なんでだろ―――祖父ちゃん。


第七十二話 俺がなりたいものは


「あ、解りましたよ、私―――」

 ぱぁっとアイナの顔に花が咲く。お?なにかひらめいたのかな、アイナ。なにが解ったんだろ?

「ん?アイナ?」

「ケンタが一人っ子だからあんなにもゲンゾウ師匠は貴方のことを自慢げに私に・・・―――」

「あぁ、アレだろ?アイナ。俺が優しい孫で、試合相手にも敬意を表すという」

「はい。そう私はゲンゾウ師匠からケンタのことをたくさん聞き及びました。そして自分の跡を継ぐのはケンタしかいないのだ、とも」

「―――」

 確かにそこは間違っていない、と思うし、思いたい。でも―――

「次代の剱聖とか言うやつだろ?」

「はいっ」

 こくりとアイナ、その顔はなんだかうれしそう。

「ねぇ・・・正直そこはぁ・・・って感じかな」

 俺が。俺の実力なんてまだまだ剱聖なんてものの域には達していないぜ。

「??」


「―――」

 ん? なんでそんないまいちみたいに言うの健太、みたいなアイナのそのきょとんとした顔。

「ははは・・・俺なんてまだまだだからだよ、アイナ―――」

 ははは・・・なんて、力のない笑みで俺は苦笑しながら、俺の日本での暮らしや生活、自分の育った街での幼馴染連中との学生生活とか―――もちろん小剱流剣術の鍛錬もやってたよ?そのため俺はなにかの部活にも所属していなかった。父さんは普通のサラリーマンだ。父さんも、今の俺と同じくらいの歳には小剱流剣術をやっていたみたい。でも、今の父さんは剣術はやっていない。芽が出なかったのか、それとも祖父ちゃんの剣術の名声が凄すぎて、父さんはそれで剣術を止めたのか―――

「俺はそこんとこ詳しく父さんには聞いたことないんだけど、なんでも、俺に剣士の夢を託すんだってさ」

「へぇ・・・」

 アイナはこんな俺の話にも(いや)な顔を一つせず、聞いてくれる。ときおり、そのフォークでホタテガイの身を口に入れながらな。でも、ホタテガイの身、丸まま一個を頬張るような食べ方はせず、一口サイズに切り分けながら、ホタテガイの身を上品に咀嚼(そしゃく)する。そして、ときおりその・・・、

「・・・―――」

 ずずずっ、という音も立てずに、上品にその黄金色の棘桃のピューレが入った杯を傾ける。

「なんかその、『父さんの夢を継いでくれよ、健太』ってのはよく言ってたな、俺の父さん」

「・・・」

「まぁ、でも―――もう無理かもな、俺」

 父さんに、俺が小剱流剣術を(ふる)うのはもう見せられそうにないか。

「無理なんてそんなことはありませんよ、ケンタ」

 棘桃ピューレが入った杯をコトンっと円卓の上に置いたアイナ。

「え・・・?」

「このイニーフィネ皇国でも『剣士』という者はいます。ケンタも無理などと言わずにこのイニーフィネ皇国でも剣聖を目指しましょう? ね? 私もケンタを支えますから」

 支えるってありがとうな、アイナ。でもそういう意味じゃなくて。

「あ、いやそういう『無理』じゃなくて―――」

 そういう意味じゃなくて、

「―――父さんの夢、剣士となった俺をもう日本の父さんには見せられないかもな、っていう意味の『無理』だよ」

 アイナはその藍玉のような目を一瞬見開き、そのあとややっとその視線を伏せる。

「―――」

 日本の、元居た世界のことを言ったから、アイナは俺に気を(つか)ったのかも・・・。アイナに気を遣わせたのかも。

「・・・」

 アイナのその眼は深みのある青色で、ほんとに藍玉みたいに―――こんな眼を持った人なんて日本、ううん世界中どこを捜しても見たことがない。そんなアイナの目の色だ。五つの異世界が同居するという、これがイニーフィネか・・・。


「―――ケンタ。もしかして、貴方は元の世界に帰りたい、と?」

 ・・・。アイナ・・・―――

「も、もしケンタ貴方が元のその、日本という場所に戻りたいというのなら、私はその方法を探し―――」

 そわそわと俺の心の不安を掻き立てるそのアイナの表情は―――、アイナきみは無理をして、わざと朗らかに言っていたりするよな。

「いや、それはしなくていいよ、アイナ―――」

 と、俺はアイナに。

「え・・・?」

 本当ですか?のように、そのアイナの表情には懐疑的とまではいかない。でも、ちょっと納得はできない、とか、なんで?というようなアイナの顔色だ。

 俺は努めて朗らかに。

「うん。ははっ、今は元の世界日本での生活はいいよ、俺」

「し、しかし―――いえ、ケンタ・・・」

 複雑な顔。きっと俺が日本に帰ると言えば、アイナはもちろん本気になってその方法を探すだろうし、探してくれるだろう。

「今の俺にはアイナもいてさ、みんなよくしてくれて―――」

 同じく俺の幼馴染達には女の子もいたけど、二人とも天音も美咲も敦司を向いていた。天音は一目で分かる。美咲もああいう風に見えて、俺が見る限りじゃきっと敦司のことが好きだろうって。

「―――それに、アイナと別れたくねぇし、俺―――」

 でも、こんな人は、アイナのように一途に俺を好いてくれる人なんて、世界中探したってきっとどこにもいないってば。

「っ」

 アイナは俺の言葉に驚いたみたいだ、その藍玉のような目が驚いたように少し大きくなったから。

 それにアイナの、アイナがさっき言った―――、

「『剣士』だよ、アイナ」

「剣士?それが・・・、はい。では、ケンタはこのイニーフィネ皇国で剣士を目指すということですか?」

 一瞬きょとんとさせたアイナだったけど、なにかが自分の中でつながったらしい。

「それはもちろん。俺は剣術をやめないよ、アイナ。俺がそのさ、思ったのはこのイニーフィネっていう世界では『剣士』っていう職業?みたいなのがあるのかなって」

 あのクロノスのような。

「はい。ケンタがおっしゃられた『剣士』―――、という者達はこのイニーフィネ皇国において存在しますよ―――っ♪」

「っつ」

 っ、かわいい―――。にこっ、っとアイナは言葉に最後に微笑んだ。そのかわいい笑みのことだよ。

 まじか。ほんとにそんな、日本では江戸時代までで終わった『剣士』というそれを生業(なりわい)にしている人達が日常的に存在するのか。

 えっでも待てよ。剣客?用心棒?にしても剣士っていうのは、刀や剣を持って戦う人のことだよな? なにと戦うんだ? いやいや人だろ。まさか『辻斬り』や『斬り捨てごめん』なんて、いくらなんでもそれはまずい。ダメだろ、そんなことをする奴なんて、ただの犯罪者だ。

 とにかく俺はこのイニーフィネにおける剣士のことをよく知らない。

「なぁ、アイナ訊きたいことがあるんだけど―――」

 はい、っとアイナは俺の質問に会釈する。

「―――アイナも真剣を持ってたよな? そこんとこどうなってんだ?」

「どうなっている?、とは?ケンタ」

 きょとんと、『剣士』と言ったら当たり前に刀剣を持っているじゃない?とでも、アイナはそう思っているのかな? そんなきょとんした顔のアイナだ。

「いやほら、俺が元居た日本にはもう剣士なんてものはなくなってるし、登録とかいろいろとないのか? 俺に手取り足取り教えてくれ、先輩剣士アイナ師匠♪」

 アイナは自分のことを剣士だと言っていたはずだから、俺も軽くおどけたようにアイナのことを『師匠♪』って言ってみたよ。

「し、師匠って―――///っ」

 アイナは俺の言葉にちょっと恥ずかしそうな顔を見せた。まるで『な、なにを言ってるんですかっもう』みたいな、そんな感じだ。

「い、いいでしょう。わ、我が弟子よ」

「お?」

 おっ、アイナのやつノッてくれたぜ。


「「!!」」

 こんこん、っと、そんなとき俺達がじゃれ合っていると、扉を叩く音が。

「アイナ様、ケンタ様―――御加減はいかがですか?」

 この声は―――。扉をこんこんと叩いた音のすぐあとに聴こえたこの女の人の声はアターシャの声だ。

 俺の対面のアイナの視線も食堂の扉へ、

「えぇ、かまわないわ―――アターシャ」

「では、失礼いたします」


「・・・」

 おっ、やっと主菜か。いったいどんな海鮮料理が運ばれてくるんだろうな、魚かな貝料理かな―――楽しみだ。わくわくと俺はくるりっと頸を後ろに回した。すると―――


 きぃ・・・っと扉がわずかな音を立てる。

「お待たせして申し訳ありません、アイナ様」

 そして、そこでアターシャは腰を折り、一礼。食堂の開き戸の扉が完全に開いたところで―――、

「・・・」

 あっ、扉の向こう側の赤の絨毯のところにさっきの手押しの台車が見える。それも二、三台は見える。その台車の上には所狭しといろいろなお皿や、水差しとかが並べられていて―――でもお皿の上に盛られた料理と言っても、なにかカパって蓋をするドーム型の銀色の金属の(かぶ)せがしてあってその中は見えない。あの金属のボウルを反対に向けたようなドーム状の銀色のものってなんて言う名前なんだろうな・・・。

 それと給仕服姿の何人かのメイドさんも。彼女達の服装はアターシャの服装とよく似ているものの、みんながみんな同じ装いだ。髪型もみんなよく似ている。少なくともアターシャのような長い髪じゃない。でも、あの()は元々長い髪かな?あの娘は頭の後ろでその髪は結われているみたいだ。

 なんでだろ、アターシャだけがあの下した長い髪なのは―――。ちょっとそれを俺は疑問に思った。

「ん?」

 そんなアターシャは、すすっと食堂の俺から見て、向かって左側に立った。もちろん、アターシャは扉のドアノブを押さえたままな。そこへ、メイドさんの一人が無言で『代わります』といった仕草で、それをアターシャに伝えると、それに気づいたアターシャがその娘に扉を預けたんだ。

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