第六十六話 語られし、この五世界創世神話 三
第六十六話 語られし、この五世界創世神話 三
「そして、『世界統一化現象』より以前の『イニーフィネ』は『古き大イニーフィネ』と呼び、今の五つの異世界が共存する五世界のイニーフィネとは区別します」
「そっか―――・・・」
なんて言えば、いいんだろ、アイナに。『五つの世界』になってよかったな、とかじゃないし、『イデアル』が五世界にしたんじゃねぇか、と言うのも違う。かといって、その『古き大イニーフィネ』が続いていたとしたら、俺とアイナは出会うことはなかっただろうしな。
「・・・」
アイナはどう思っているんだろう。この惑星イニーフィネの世界が、移住者達により『五世界』になったことを。
「私達イニーフィネ人は女神フィーネ様に五つの叡智を与えられた民と云われ、その意味は、『イニーフィネ』という言葉は『限りなく完全』を意味します」
「『限りなく完全』・・・」
「その根拠に私達イニーフィネ人は『アニムス』を根源にして『異能』、『氣』、『魔法』、『機械』の全ての異能種を行使できます・・・。ケンタ貴方は日之民―――」
「らしいな」
そう思う。なぜなら俺が居た日本は中世でもないし、かといって機人なんてものに支配されたところでもない。
「それは私の勘ではなく―――」
「勘ではなく?」
「えぇ。貴方のその『選眼』という異能を目の当たりにした私は―――そうケンタ貴方が日之民であるということを確信しています」
「・・・」
「あのとき『選眼』を限界まで、いいえ、女神フィーネ様のアニムスをも取り込んで行使させた反動で―――」
「俺はぶっ倒れた。ははは・・・」
「っ!! ケンタっ私は笑いごとで言っているのではなくてっ、ですね―――っ」
///
『うぉおおおおおおおあああああああ―――ッ』
両目は痛いってもんじゃないさっ―――だけど、魁斗を地球の日本に飛ばすことができるやつはこの『転眼』を遣える俺しかいない―――はずだ―――ッ!!
見えろ、観えろ、視えろ、見得ろっ、観得ろっ、視得ろっ・・・!! みえろぉおおおおッ!!女神フィーネ様っ俺は―――
『―――魁斗を地球に逆転移できるのなら俺はこの『選眼の力』を失ったっていいッ―――』
///
「ほっ、本当に私はっ」
「魁斗を地球に逆転移できるのなら俺はこの『選眼の力』を失ったっていいってやつだろ?ははっ・・・なんか今更ながらに恥ずかしくってよっ俺っ(わちゃわちゃっ)」
台詞な。なんか思いっきり厨二じゃねぇかっ。
「わっ、笑い事ではありませんよっケンタっ!! 一歩間違えれば貴方は―――・・・ケンタ貴方を喪うなんて、、、私は・・・」
しょぼん―――っ、悲しそうに目を伏せながら、アイナのその言葉も尻すぼみになって消えた。
「―――、・・・、・・・」
じわっ、っとアイナの藍玉のような眼が潤う。
「っ!!」
あっいやっまじかっ!? まじなのかっアイナのやつ―――っ
「いやううんっそれはないない。絶対にそんなことなかったってばっ俺が死ぬなんてさ」
わちゃわちゃっ、あせあせっ、っと俺は。泣かないでアイナっ
「―――(じらぁ)・・・」
じらぁっとジトっとした目のアイナ。ほんとに?信じられません私、なんてことを思ってるのかも、アイナさん。
「なんかうん、そうそう。あのとき俺―――魁斗を殺すなんてそんなこと絶対にしたくなくて、そんなとき女神さまの声が聴こえたんだよな」
そう、魁斗の異能『天王黒呪』を封殺したとき、『聖剣』を拾い上げたとき、その声が『彼女』のものであると確信したんだよ。
「えっ!?ほっ本当ですかっ!!それはケンタっ」
うそっ!?ほんとにっ!?信じられないっ!?みたいな、そんな興奮した様子のアイナは対面の円卓から身を乗り出す。ど、どうしたんだろ?
アイナは円卓にその両手の手の平を置き、半歩上半身を前に、円卓に身を乗り出して、胸を円卓の上に―――
「っ!?」
うっ、ダメっ白を基調にところどころ青の装飾がされたアイナの綺麗なドレス。その恰好でアイナは―――。そんなアイナの胸元ばかりを見るんじゃない、俺っ。
「そっそれはっいったいどのようなっ。どのようにケンタは女神様の声が聴こえたのですか!?」
はわわわっみたいな?そんなに、アイナがこんなにも慌てるなんて・・・。
「あっうん。御神託って言うのか? あのとき地面に『聖剣』の鋩を納めなさい、そうすれば私は貴方に『御加護』を与えることができますっていう『彼女』の声が聴こえてきてさ」
「―――っ」
はぁっというアイナの声なき声だ。アイナは黙して、でもその顔は驚きに目を見開いていて。
「ひょっとして、アイナ―――」
じぃっと俺はアイナを見つめて。
「ケ、ケンタ・・・?」
ううん、これは確信だ。俺がアイナに覚える確信だ。俺はアイナをじぃっと見つめ、それを今から本人に訊くために俺は言葉をやめない。
「アイナも聴こえてたんだろ?女神フィーネの声が。俺はもう聴こえないけど」
あのときのことを、俺は思い出す。アイナの『それ』を『その言葉』を訊いて女神フィーネ様は、にこりと微笑んだんだよ。俺にはそれがなぜだか、まるで頭の中に浮かび上がるかのように視えたんだ。
アイナの『その言葉』とは、あのとき―――
///
『ケンタっ私も微力ですが。女神フィーネ様っ―――私もアニムスを託し、貴女のアニムスを引き受けますから、お願いですっケンタの『選眼』は安堵してくださいませっ』
『アイナ―――っ!!』
『私も、私も微力ですがケンタ様とアイナ様に同意致します』
すぅっとアターシャの手が俺の左肩に止まるように触れる。
『アターシャっまでっ!!』
俺には、アイナとアターシャ二人の祈りを聞き届けてくれたかのように、女神フィーネがにこりとその口角を吊り上げたような気がしたんだ。本当に不思議な感覚だけど、その女神フィーネの口元だけが視えたような気がしたんだよ。
///
きっとあのアイナの言葉は、『女神フィーネ』の声が聴こえていないと、喋ることができない内容の言葉だ。もしかしてアターシャも『女神フィーネ』の言葉が聴こえているのかもしれない。でも、今はアイナだ。
「は、はい・・・聴こえていました」
「やっぱり、アイナも聴こえたんだな。・・・でも、なんなんだろうな、あの声って」
俺も突然聴こえたんだよなぁ―――魁斗のようなヤバい奴をこの『五世界』に解き放ちたくない、そんなことをしたくない。でも、無慈悲にも殺したくもない。だったら転送もしくは逆転移と概念づけてなぞらえた『転眼』を行使するしかないって、地球に日本に俺達幼馴染が育った街に魁斗を戻してやるのが、一番いいと考え思ったときに、ううん、もっと前から、あの黒に染まってゆく『聖剣』を視たときに、だ。そのときにはまだ『声』のようなしっかりと感知できるものじゃなかったけど。
しっかりと『声』もしくは『お告げ』として聴こえたのは、聴こえるようになったのは、あのクロノスのおかげでこの『眼』の既存の概念を棄てたときだ。
「私の場合は、ケンタ貴方のそれと違っていまして・・・」
「ん?ひょっとしてアイナってふつうに女神様と話ができるとか?」
「・・・はい。実は―――・・・」
すぅ、っと後ろへ。アイナは円卓に乗り出していた上半身を椅子の背凭れに戻す。
「っ」
おうっ、それはすごいこと・・・なのか―――?
「おまたせ致しました」
「「アターシャ―――・・・っ!?」」
俺とアイナの声が見事に重なる。
「息はぴったりでございますね、アイナ様、ケンタ様。私はうれしく思います」
給仕服を着たアターシャは一礼を、お腹の上で両手を重ね合わせてその括れた腰をきれいな動作で折って戻した。
「「っ」」」
そして、俺とアイナは視線を合わせる。アターシャの言葉の所為かもな、ちょっとむずがゆい。
「んんっ―――」
顔を上げていたアターシャは右拳を口元で作り、軽い咳払い。
「失礼を致しました。扉を叩いても、鈴を鳴らしても返事がありませんでしたので、無礼を承知で上がらせていただきました」
「いいえ、かまわないわ、アターシャ。少し話に集中していたようです。ケンタ貴方もよろしいですよね?」
円卓の対面で、にこっとアイナは俺に微笑んだんだ―――。
///
つらつらつら・・・
「―――あぁ、あのあとは四人での食事会だったな」
今からそこだ。俺がイニーフィネで食べた初めての五世界料理のところだよ、もう少しでな。ま、まさかあんなものをイニーフィネの人々が常食にしているなんて思わなかったな。
思わず笑みが。
「くくくっ」
あれを日本に持って帰ったらぜったいに、その手の取材が殺到すると思うな。それと今、思うことだけど、その『食材』をもし俺が元居た世界、日本に持ち帰ったら、大金を払ってでも『俺も、私も欲しいっ』っていう人達もたぶんでてくると思うんだよ―――。
『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷編-第六ノ巻」』―――完。