第六十四話 語られし、この五世界創世神話 一
第六十四話 語られし、この五世界創世神話 一
「ごはんありがとうな、アイナ。愛してるぜっ」
きらーんっと、俺は朗らかに白い歯を。どうみても俺の冗談交じりって解るよな?
「ケ、ケンタ―――っ/// ・・・わ、私も・・・―――(ごにょごにょ)」
「・・・」
で、でも、あ、あれ? なんかアイナの様子が・・・。
「で、でで、では、その、、、話せば長くなるのですが、私の話に耳を傾けてくださいましね・・・っ」
ぱぁっ、とアイナの顔に紅い花が咲く。
「―――・・・」
あ、お、おう・・・、これアイナの話が長くなるやつだ。まぁ、厭じゃないけどな。
そう、アイナのこの、花が咲いたような笑顔は、魁斗にアイナが俺との婚約宣言をえっへんと語ったときと同じ顔だ。ほら、あのときの、廃砦に俺を迎えに来たアイナが堂々と自信満々に魁斗に、自分の婚約者は俺小剱 健太だ、と宣言したときだ。
「お、おう―――」
少しどころじゃないかもしれない、アイナの話はたぶん長いぞ、俺。
「では、僭越ながら私がこのイニーフィネに伝わる皇国創世神話を語ってみせましょう―――」
俺は軽く会釈するかのように頷く。
「・・・」
俺の頷きを見止めたアイナは、静かに凛と語りだす―――この五世界の創世神話を。
「―――『皇国創建記「女神叙事文」』・・・『優しき彼女はこう言った「そうだ、あの正しき私の子らに、私の叡智を授けよう」と・・・。むかしむかし、この大地には自らをイニーフィネと名乗る人々が豊かではありませんが、幸せに細々と暮らしていました。彼ら彼女らは自分達が住む、この母なる大地に感謝し、『彼女』を大地母神として礼節を尽くして崇め、奉っていました』。・・・なにを隠そう女神フィーネ様へのその祭事を司っていたのが、私達イニーフィネ家の先祖なんですけどね♪」
えっへん、とアイナ。アイナってひょっとして『皇国創建記』とかいう書?を、丸暗記している?すらすらと、アイナはまるで詩を謡うようだったから。
「へぇ・・・」
だったら、もし丸暗記しているならすごいことだよな。そんなころころとした笑みをこぼしたアイナに俺は適当に相槌を打ちながら彼女の話に耳を傾ける。
「『あるとき、空と大地が光り輝いた。母なる大地この惑星の大いなる女神。彼女は女神の姿をとり我らイニーフィネの民の前に降臨したのだ』」
「―――」
アイナの言う『女神』とはきっとあの、俺が魁斗を地球に飛ばすときにその力を貸してくれたあの女の人に違いないよ。最後に、姿を消しつつ『彼女』は俺に薄く微笑んでくれた―――・・・、あの笑顔を俺はきっと忘れることはないさ・・・。
「『そこで大いなる女神は己が名を伝え、己の惑星に住む正しき心を持った我々に叡智の力を授けてくれました―――』」
叡智の力を授けてくれた―――?
「・・・」
その『女神フィーネ』が人々に授けたという叡智の力?って、それがひょっとして異能のことかな? ん、でもまだまだアイナの言葉は続くみたいだし、あとで分からないは訊こう・・・。
「『―――叡智の力とは、すなわち『異能』『氣』『魔法』『科学力』の四つの聖なる智慧と機構とそれらの根源たる『アニムス』。『神の如き叡智の力』。大いなる女神よ、『五つの叡智の力』を授けられた我らは五つの叡智の力を組み合わせ、高度な文明を築き上げ、貴女のために我らは平和な国を興すのだ。女神よ、感謝する。我らは貴女から与えられた『アニムス』を駆使して、『異能』『氣』『魔法』を行使し、高度な『科学力』を組み合わせ電気とアニムスで駆る神機をも手に入れたのだ』しかし、でもですね、ケンタ―――」
すぅっ、っとアイナの声のトーンが落ちてゆく。
「・・・?」
哀しそう?アイナ? でも、アイナは話の途中に。そこでアイナは視線を自身の手元に落としたんだ。声のトーンも明らかに下がった。その視線は哀しそうで、目にも力が入っていないし、その綺麗な眉と眉の間にもわずかだけど、皺のようなものがうっすらと、ほんとにうっすらとだけど眉間に皺が刻まれているんだ。
「その・・・私達イニーフィネ人の祖先は、本当に全てのことを成すことができたため、次第に惑星イニーフィネ・・・つまり大地母神である女神フィーネ様に対する感謝や慈愛も忘れ、人々の心は堕落し、驕ったように振る舞うようになったのです―――」
と、アイナ―――・・・。悲しいことですが・・・、とアイナは続く。
「―――・・・」
「そしてついに彼ら『イニーフィネ帝国』の愚かな人々は、『女神様』を母星をも滅ぼすことが可能な『七基の超兵器』を創造したのです・・・」
愚―――・・・え!?超兵器っ!?
「!!」
最初は愚かってアイナが自分の先祖のことを『愚か』って言ったことに驚いた!! でもそのすぐあとに、アイナの口から出た言葉―――それのほうがもっと驚いたんだ。母星すなわち女神すらも滅ぼすことができるという―――
「な、『七基の超兵器』って―――!!」
この惑星をも滅ぼす・・・っ『七基の超兵器』っ!?なんだよ、それは・・・っいったいどんな代物だよ!!
「な、なんだよ・・・それは!!」
人類だってそんな兵器は―――!! 俺の脳裏に浮かぶものは―――
「ッ」
いや。あるとすれば、あれだ―――。落とされた、あの・・・あんなものぐらいだ。
「はい―――」
すぅ・・・、アイナはその目を静かに閉じる。
しばらくして、ほんの数秒後ふたたび目を開くと、アイナは。
「はい―――、それらは今現在―――その大半が失われておりまして。そ、その、私もその『七基の超兵器』なるものをこの目で見たことはなく、、、し、仔細も・・・。すみません・・・ケンタ」
「あ、いや・・・?」
ん? アイナは俺の目から横に視線に逸らしたんだよ。
「・・・・・・」
アイナの、俺が気になる彼女のその態度―――。ひょっとしてアイナはなにか知っているのか? ・・・いや、まぁいいか。無理やり迫ってアイナから訊き出したくないし、そんなことはするものでもないか・・・。
「その、失われた『七基の超兵器』のことを後代では、『禁忌の古代兵器』ダークアーティファクトと。―――今のイニーフィネ皇国ではそう呼びます」
「禁忌・・・『禁忌の古代兵器』―――」
禁忌って・・・それ以上の言葉を俺は失った。アイナが言う―――今は失われた七基の超兵器―――・・・、『禁忌の古代兵器』っていう、その名前の嫌な響き、絶対やばそうなものだよ。しかも、あの女神フィーネが悲しんだっていう超兵器―――なんかやばさだけをびんびんと感じる・・・。
「『煉獄』・・・」
ぼそぼそ?アイナ?
「??」
アイナがなにやら呟いたその言葉は俺の耳には小さすぎてよく聞こえなかった。しかも、そのアイナの表情は、視線を落として眉間の皺も隠そうともしないんだぜ? なにかアイナは考え込んでいるかのような、影を感じさせる顔だったから。それはついさっきの、俺から視線を逸らしたときのアイナの表情によく似ていたんだ。
「アイナどうかしたのか?」
訊いた。やっぱり気になるだろ、自分の彼女がこんな哀しそうで、暗い顔をしていたらさ。心配するだろ、ふつうの感覚ならさっ。
「い、いえ、ケンタ―――っ。私は大丈夫ですっ、ふふっありがとうございます」
アイナは軽く咳払い。それでその暗い表情も霧散する。あぁ・・・少し悲しい。
「・・・」
アイナのその笑顔・・・気を遣われたんだ、きっと。アイナは言葉を濁した、それぐらい解るさ。いったいどんな兵器なんだ、の俺の問いにも曖昧にして答えてくれてないし、アイナは自分で呟いたその『煉獄』というなにかも。―――俺にはそれを言う必要がない、と、そうアイナが判断したのかもしれないのなら。
「・・・」
それともアイナはほんとに詳細は知らない、とか? それならアイナに問いただすように訊く必要はないか。アイナだって言いたくないこともあるもんな。俺だって子どもの頃に試合に負けて泣きじゃくっていた、とか、子どもの頃、下校途中に急に差し込んできて大きいのが行きたくなって、公園の奥の木が生い茂る叢で―――・・・なんてことアイナに言いたくないもん。そんな俺の恥ずかしいことと、アイナのじゃあ次元が違うかもしれないけど。
別にアイナを疑っているわけじゃないよ。でも、ほかの例えば、アターシャなら知っているのかな―――、アイナが躊躇うように言葉を濁した『七基の超兵器』を―――、知りたくないというのなら、それは嘘だよ。俺だって知れるものなら―――
「『女神叙事文』の続き、よろしいですよね?ケンタ?」
っ!!あせあせっ。気づかれて・・・ないよな? か、顔には出すなよ。俺はなるべく平静を装う。
「あぁ―――」
頷いた俺を見とめ、アイナはにこりと、再び口を開ける。その笑顔が少しつらい。
「―――『おぉ我らは極める、この神の如き五つの叡智を。我らはこの大地の、海の、空の―――惑星の隅から隅まで征き尽し、この神器『七基の超兵器』をもってこの惑星を制するのだ』、と。