第六十三話 お前は消えても俺を・・・。
『うん、わかるよ。まぁでもおいおい覚えておけばいいんじゃないかな。あと僕ら日之民は超能力のような『異能』を、月之民は『氣』を、魔法王国イルシオンの民は『魔法』を使えるから』
『超能力を使える? 魁斗お前大丈夫か?』
///
「・・・」
って―――魁斗おまえは。
第六十三話 お前は消えても俺を・・・。
「―――」
あのときの俺はあんな強大な『天王黒呪』なんて異能を魁斗が持っていることを知らなかったし、本人も『あ、いや僕は、その・・・』とかって『天王黒呪』のことを隠していた。もちろんに俺自身に秘められていたこの『選眼』の力も俺は自覚していなかった。俺のこの異能は、俺が魁斗との戦いの中で目覚めたものだ。
しかも、あのときの魁斗あいつは俺に―――。あのときの魁斗の言動を思い出すだけで、腹立たしい―――!!
「ッ」
くそっ・・・魁斗の奴―――ッ!!
『その、日之民の中にも能力が目覚めない、もしくは無能力者も一定数はいるみたいで、僕もそんな感じだよ。ごめん、僕は健太に異能を見せることはできないんだ・・・』
って言っていたのに!! 俺はまざまざと思い出す。あのときの魁斗のあのふざけた態度を―――、思い出すだけでじわじわと怒りが滲み出るよ・・・!!
「ッ゛―――」
『いやぁああああああッアターシャっ・・・―――逃げてぇえええっ従姉さんッ!!』
アイナは日之刀を上段に構え、魁斗の所為でぴくりとも動けないアターシャに向かって、その白刃煌めく日之刀を―――
『僕の書いた筋書はこうさ。乱心したアイナ皇女は、憐れ自らの侍女であり従姉でもあるアターシャ姫を斬り殺し、その後、自らもその刀で後を追うのさっ―――ははっ♪』
あいつはそのときのアイナの様子を見て、へらへらと笑いやがったんだ!! くそ・・・ッ魁斗の奴!!
「ッツ」
ふッ、ふざけるなよ・・・!! なにが無能力者だっ魁斗の奴!!『天王黒呪』なんていう強大な異能を隠し持ってやがったんだよ、魁斗の奴は!! それをアイナに行使して―――ッ!!
『ごめん、僕は健太に異能を見せることはできないんだ・・・』
なにがだよ―――
「―――ッ」
あのとき廃砦で焚火の前にしての魁斗の表情はとても悲しそうな顔をしていたから、俺もそれ以上の突っ込んだ話はしないほうがいい、と思って魁斗に気を遣ってやったのに・・・!! なのにあいつは―――ッ
俺の脳裏を過った光景は―――
///
『『天王黒呪』―――・・・『黯黒呪界―――』
『あっそうそう健太。さっきも言ったけど、僕の『黒印』は人を金縛りにする技じゃないんだ、ほんとはね。『黒印』の真価はね、僕が『黒印』を打った者は僕の意のままに、僕は、『黒印』を打った者を僕の意のままに操れるんだ』
『―――っつ』
『あ、驚いたって顔だねっははっみんなそうなるよねっ♪ とくにカップル向けの技かなって・・・ははっ♪いつも僕はそう思うんだよね♪』
『残念。アイナ=イニーフィナとアターシャ=ツキヤマは僕のタイプじゃないんだ。せっかく『黒印』を刻んだんだけど、仕方ないね。だからここで消えてもらうとするね♪』
///
俺の脳裏を過った光景はこれだ。魁斗の奴はへらへらしながら、アイナとアターシャに―――。魁斗はきっと初めからアイナとアターシャの二人をこの世から消すつもりだったんだよ!!
「く、くそ―――ッ」
ふッざけるなよ・・・魁斗の奴―――ッ!!
「!! 『く、くそッ』?―――、ケ、ケンタ・・・? そ、その―――な、なにか私貴方の気に障るようなことでも―――」
はっ―――、俺声に出ていた?
「っ!!」
はっと、して俺は落としていた自分の視線を上げて、アイナを見る。すると、アイナは―――
「あ、あの・・・っ、私―――」
アイナはその自身の左手を口元にして悲しそうな、すこしだけおどおどしているような顔になっていた。
「っ!!」
ち、違うんだアイナ!! 誤解しないで!!
「ちっ違うってアイナ!! 違うからアイナっ、アイナに言ったんじゃなくてっ―――ごめんっアイナ(あせあせっ)!! そうじゃなくてっ魁斗のことだってっ!! あいつのことを思い出してさっ―――(あせあせっ)」
と、俺はアイナに、俺が『く、くそ―――ッ』とつい口をついて言ってしまった、言葉の真意を釈明をすることになってしまったんだ―――、くそっ結城の奴、お前は消えても俺を縛り続けるんだな・・・。
・・・
・・・・・・
「つまり、ケンタ貴方が識っているこの五世界、イニーフィネの『異能』に関する知識はあの、ユーキ=カイトから語られたことだけなのですね?」
「あぁ、うん。まぁそうなるかな・・・」
ふぅ、なんとか収まったぜ。さっきまで俺がアイナにしていた『く、くそ―――ッ』の釈明のことだ。それと同時に、俺は廃砦の焚火のときに魁斗から聞かされた、この五世界イニーフィネの『異能』の話の内容をアイナに話し終えたところだ。日之民は『超能力』で、月之民は『氣』、魔法の民イルシオン人はその名の通り『魔法』、それとアニムスや電気がエネルギー源のネオポリスの『機人』―――そして、四種全ての異能種を行使できるアイナ達イニーフィネ人。
「ユーキ=カイトがケンタ貴方に語ったとされるその異能の話には特段虚偽の内容は含まれてはいないようですね・・・」
しょぼーん、がっかり。期待外れのような、そんなちょっと残念そうなアイナ。アイナの今の表情はそれだ。
「へぇ・・・あいつの話がなぁ・・・」
あいつの話がほんとのことだったなんて―――。あいつとはもちろん魁斗のことだ。もし、魁斗の話の内容が事実と違っていたとしたら、意気揚々自信満々にどやっ、とこの俺にこの五世界イニーフィネの『異能』を語るアイナのその様子が、簡単に想像できるよ。
あ・・・ひょっとしてアイナは自ら俺にこの『五世界の異能』のことを教えたかったのかもな・・・。でもでも魁斗のことだから、俺にちょっとでも嘘を教えているのかと疑ってしまったぜ。魁斗の奴―――イニーフィネの異能に関することは、嘘じゃなかったのか。
「しかし、ユーキ=カイトがケンタ貴方語ったとされる惑星イニーフィネ、五世界の話の内容には決定的に欠けているところがありましたよ」
アイナは円卓の上で重ねていた両手の、右手だけを組み替え、その右手を自身の左腕の肘にもっていった。つまりは姿勢を変え、その表情もちょっと残念そうなものから、真面目な顔に切りかえた。そんなにアイナに俺は問う。
「欠けているところ?」
やっぱりな、あいつ・・・。
「はい」
「―――」
あいつなにか俺に隠していた・・・というか、俺に話さなかったことがあったのか・・・。少なくとも俺が魁斗から話された、『話の内容』をアイナは俺を介して又聞きし、彼女アイナは、内容に欠けている、魁斗の話には瑕疵がある、そう思ったってことだろ?
「それは、欠けているところというのは、ですね。我々イニーフィネ人に伝わる皇国の創世神話です。ユーキ=カイトがイニーフィネ創世神話をケンタにわざと語らなかったのか、それとも知らなかったのか、それは私には判りません。ですが、この『創世神話』を知らずしてこの五世界の異能を語ることはできないでしょう」
彼女はそう凛とした声色で言った。
「・・・そうなんだ」
創世神話か・・・、日本にもあったな、日本神話。
「すみません、ケンタ―――」
「?」
すみません? 俺はアイナの顔を、目を改めて見る。アイナの『すみません』とはどういうことだ?
「すみません、ケンタ貴方の口を潤わせる飲み物もなく―――、やはり、その、少し長話になりますので、食後の団欒のときにお話したほうがよろしいでしょうか・・・?」
飲み物、そういうことか。おずおず、と。アイナは俺の様子を、顔色を窺うように、そんなことを言う。そんな気を遣わなくてもいいのに、俺はそれぐらいのことで怒ったり、不満に思ったりしないよ?アイナ。
「いや、ううん大丈夫だよ、アイナ。それより俺はアイナのほうが興味あるかな?」
話な。もちろんアイナが話す、話してくれるこのイニーフィネという五世界の創世神話の話のことだよ。にこっ、っと俺は笑顔をアイナに向けた。
「っつ―――///」
「ん?」
あれ?どうしたんだアイナのやつ、そんなにはにかんで。ま、いっか。俺にも異能が目覚めた、もう俺は無関係ではいられないんだ。
ほんとは少しお腹すいているし、喉も乾いてるけどな。どっちみちアターシャが持ってきてくれる料理を今しばらく待たないといけないもんな。だったらアイナの話でも聞きながら、例の海鮮料理を待ったほうがいいし。
「ごはんありがとうな、アイナ。愛してるぜっ」
きらーんっと、俺は朗らかに白い歯を。どうみても俺の冗談交じりって解るよな?
「ケ、ケンタ―――っ/// ・・・わ、私も・・・―――(ごにょごにょ)」
「・・・」
で、でも、あ、あれ? なんかアイナの様子が・・・。
「で、でで、では、その、、、話せば長くなるのですが、私の話に耳を傾けてくださいましね・・・っ」
ぱぁっ、とアイナの顔に紅い花が咲く。