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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第六ノ巻
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第五十七話 目覚めた俺が見たものは

第五十七話 目覚めた俺が見たものは


 心地いい・・・。この目が覚めるまでの、ふわふわゆるゆるとした寝ているようで起きているような夢見心地の感覚がここちいい。

 あぁ・・・浮くように・・・水底から―――。白河夜船(しらかわよふね)の熟眠から俺はゆっくりとまどろむように浮上する―――

 あぁ・・・俺はもうすぐ目が覚めるんだろうなぁ・・・。起きたらまた学校か・・・―――敦司や真、美咲・・・幼馴染達との他愛のない学校での生活がまた今日も始めるんだ―――

「・・・、んっ・・・」

 ゆっくりと俺は目を開き―――んっうぅ・・・まぶしいなぁ、この白が―――。

「んっ・・・」

 俺は自分の部屋のベッドで目が覚め―――ん? やけに低い天井だな? 目が徐々に白に慣れていく。ちょっと閉塞感を覚える・・・。俺の部屋ってこんなに狭かったかな・・・?

 きょろきょろ・・・、俺はベッドの四方をきょろきょろと見回して、

「・・・」

 ・・・そっか、ベッドの周り・・・ベッドの柵に沿って、四方がレースのカーテンみたいになってるんだ・・・。レースのカーテン越しにその向こう側までうっすらと透けて見える。

「・・・?」

 でもここは―――? この部屋は、こんな部屋と、俺が寝ているこのベッドは、俺のベッドじゃない・・・。


「―――ッツ!!」

 ッ―――。俺の頭の中をまるでフラッシュバックするように、そのときの思いとその光景が、その場面がパッパッパッパッと瞬間的に脳裏に蘇り―――


『―――・・・一つ貴方に訊きたいことがあります。その容貌とその装いから見るに貴方は日之民ですね?日之民の貴方が、なぜこのような場所にいるのですか?』

 それはあの街でアイナと初めて出会ったとき。俺はこの五世界という異世界で、凛々しいあの少女と出会った。

『っ。そ、それではケンタっ私と一緒に来てくださいますねっ? ケンタ貴方に紹介したい方々いるのですっ』

 俺が『アイナ』という彼女の名前を呼んだとき。

『アイナ―――きみが愛おしい』、と。

 アイナの耳元で囁いた俺の告白―――、

『っつ―――///』


 彼女アイナは恥ずかしそうな笑みをその顔に浮かべてはにかんだんだ。


 アイナ―――っ・・・!!

「――――――っ」


///


 そして、、、あいつ―――ッ

「ッツ」

 魁斗―――。それはアイナとの甘いひと時を思い出しながらも寝起きのぼうっとした夢見心地の俺の頭を一瞬で覚醒させるには充分な記憶だった。あの幼馴染で友達だった魁斗との戦い―――それが、はっきりくっきりと俺の頭の中でその光景が蘇る―――!!

 そう魁斗と俺は、五つの世界が同居するこのイニーフィネという異世界で再会したんだ―――。

「―――ッツ!!」

 いやらしくにやけた顔で、さも自信たっぷりに―――幼馴染のあいつは、

『僕の書いた筋書はこうさ。乱心したアイナ皇女は、憐れ自らの侍女であり従姉でもあるアターシャ姫を斬り殺し、その後、自らもその刀で後を追うのさっ―――ははっ♪』


『す、すい・・・すいません、ケンタ―――私・・・もう・・・意識が・・・はっきりと―――しません・・・』

 色褪せていったアイナのあの綺麗な藍玉のような色をした両目の虹彩―――

『―――ア、アイナ・・・っ・・・そ、そんなっちょっ待っ!!』

 魁斗に意識と意志を奪われたアイナは自分の頸筋にその日之刀の白刃を添え当てて

『―――お、お前・・・!!なんで・・・なんで、アイナにここまでする必要があるんだッ・・・答えろっ魁斗ッ!! 答えろよぉおおおオオオッ!!』

『なんでそんなに怒ってるの?健太。怒るようなことってあったっけ? あ~あそれより、興ざめだよ。まさか、グラン義兄さんが庇うなんてさぁ―――最初からこうしておけばよかったんだ』


「っ」

 そっ・・・と俺は目を閉じた。俺は右手の指数本を静かにゆっくりと閉じた自分の右目にもっていった。

 俺は泣きじゃくる魁斗をこの『転眼』で日本に転送させたんだ、この俺の両眼に宿ったこの『選眼』という異能で。

『い、いやだ、僕は、僕はっ!! お、お願いだから・・・や、やめてよ、健太っ!!』

『さらば結城、お前は己の道を征け―――』

『け、健太―――?なんでさっ、うぅっ・・・なんでっ・・・ヒックっ・・・そんなっ・・・うっくっ僕をっ・・・ヒグっ・・・笑うん・・・だよ・・・っ!?』

『―――俺は、この世界で生きてゆく、からさ―――』

『っ健太ぁああああああああっ!!』

『結城―――っ達者で暮らせよ・・・、・・・じゃあな』


///


 と、俺は『選眼』という異能の一つ『転眼』を発動させ、幼馴染だった魁斗を地球に転送したんだ―――。その所為で俺はアニムスを使い果たして―――・・・。


///


『―――うっ・・・』

 し、視界が・・・かすむ―――っ。身体に・・・力が入らねぇ―――、俺の身体から・・・ち、力が・・・抜けていく・・・

『あぁ・・・俺は―――ア・・・イナ―――、アター・・・、シャ―――ごめん・・・』

 俺めちゃくちゃ眠いわ・・・ちょっと休む、な―――。


「―――」

 って倒れたんだっけ・・・。だから、ここはイニーフィネという異世界で・・・間違っても俺の部屋ではない。


 一度閉じていた両眼をゆっくりと開く。あれは架空でも空想でも幻想でもなく、現実に起きたことなんだ―――。

「っ」

 アイナ―――。それで俺の寝起きの意識は完全に醒めた。

「そっか・・・」 

 取りあえず身体を起こそうかな・・・。眠気がすっかりと覚めて眠気の感じなくなった俺は、ゆるゆるとその上体をベッドの上で起こす。

 上体を起こしてみれば、自分の置かれている状況ぐらいはすぐに解る。アニムスを使い果たして気を失った俺はたぶんアイナとアターシャに運ばれて今はどこかの・・・ううん、周りを見れば、今の俺が置かれた状況を見れば、それだけでここがどこだか解るよ。

「・・・」

 きっとアイナの家だ。俺はアイナの家の一室にいる。きっと、この部屋はアイナの自室に違いない。だって―――

 透き通るような白を基調とした寝台、しかも天蓋付きの。やけに低いなぁ、と感じた天井はこの天蓋だったんだ。いわゆるお姫さまベッドだ。

 紅真珠のような色合いとつやつやとした光沢のある淡い赤色で清潔感たっぷりの掛布団と敷布団―――。さわさわ―――さすさす。俺は右手で敷布団を撫でてみました。おふぅっ・・・すげぇ。

「っ」

 ふわふわ―――、ふかふか―――、や、柔らけぇ~~~。この柔らかい、手と指で圧せば跳ね返すこの布団の感触、高級そうなこの布団の生地と色合い。俺の部屋にある簡素ベッドの布団と比べるのも失礼だなぁ。なにせ俺のベッドの布団は子どもの頃から使っているから、汗とか涎?とかで、なんか小汚くなってたし・・・。


「~~~~っ」

 それにこのベッドからは、ほわわぁ~んと・・・―――ほのかな何がしかのいい匂いがするんだよ。これはいったいなんの匂いだ?っと、俺は布団の中に潜り込む。誰かが急に来たから寝たふりというわけじゃないよ? 俺は頭から掛け布団を被るような格好になったわけだ。このほわわぁ~んとしたいい匂いの正体を探るためだ。

 周りは布団の中で、視界は真っ暗だぜ・・・!!

「―――(くんくんくん)・・・」

 ふへぇ・・・~。―――なんか布団から漂ってくるいい匂い。それがさっきからずっとほのかに漂っていて―――香水?お香? それともアイナの体臭―――

「っ!!」

 って、俺は変態かっ!! わちゃわちゃっ―――冷静なれ健太。冷静になるんだ、俺。

「・・・―――」

 しばし・・・俺は思案し、今しがた得た情報を元に―――・・・はっ!!

「っ!!」

 そ、そうだった!!これは俗にいう姫さまベッドだ。そして今の俺はまさにそんな、たぶんアイナのベッドに俺は寝かされている―――、ということだ!!

「・・・?」

 あ、あれ?誰かいる―――?

「っ」

 ふと、誰かの気配を感じて、俺がなんとなしにそこへ視線を向けたときだ。そこは俺が寝かされていた天蓋付きのお姫さまベッドの、俺から見て右側―――、閉じられた薄いレースのカーテンの向こう側にうっすらと透けて見える彼女の姿―――。

「アィ―――」

 もちろん、彼女とはアイナだ。でも、俺の彼女の名を呼ぶ声は尻すぼみで消える。だって、アイナは―――

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ―――」

 アイナの息継ぎの呼吸で規則正しく上下に動く彼女の上半身。

「―――っつ」

 思わず彼女の名前を口に出しそうになって―――俺は慌てて口を(つぐ)んだんだ。だって今のアイナは俺の天蓋付きのベッドの右隣で、椅子に腰かけたままで、すぅすぅと寝息を立てていたからだ。


「―――」

 そぉっと―――アイナを起こさないように、俺はカーテンを勢いよく開けたときに出るカーテンレールのシャーッっという大きな音を出さないように気を付けながら、ゆっくりそろぉりっと、そぉっと慎重に天蓋付き姫さまベッドのレースのカーテンを開いていった。

 これで薄暗くしていたうすい布生地で作られたレースのカーテンがなくなった。目の前の木の椅子に座っているのは正真正銘のアイナだった。

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