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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第五ノ巻
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第五十一話 『黒印』の真価。黒く呪われし『黒印』を刻まれた者の末路―――

第五十一話 『黒印』の真価。黒く呪われし『黒印』を刻まれた者の末路―――


「そう・・・健太はそんなことを言うんだ。僕もう怒ったよ、健太―――」


「怒った、だと?」

 こっちこそ、約束を反故(ほご)にしてばかりのお前に俺は怒っているぞ。

「そうだよ。健太が卑怯な手で僕から『氣導銃』を奪うからだよ―――」

 どの口が言ってんだよ、なぁ魁斗。

「はぁ?」

 俺がお前の銃を奪っただと? その言葉こそお前にそっくりそのまま返してやりたいよ、俺は。俺はそんな魁斗の身勝手な言い分を聞いて眉間に皺を寄せた。

「ねぇ、健太―――」

「・・・」

 俺は魁斗に無言の視線を送る。すると、すぅっと魁斗はそれまでの感情の籠った口元を改めた。

「健太―――、僕はきみに自分の意志で『イデアル』に入ってほしかったんだけど―――」

「―――いや、それはない」

 俺はきっぱりとそう少し冷たさを含んだ声色で魁斗のその言葉に答えた。

「そっか―――それは悲しいことだね・・・」

 魁斗はがっくりと首を垂れて、だからかな。魁斗が俯いた所為(せい)で、その所為で目元に前髪がかかり、魁斗の視線が見えなくなった。それで俺は魁斗の真意に気づくことができなかったんだよ―――、この時は。

「―――なら仕方ないね、健太」

「あぁ。だから早くアイナとアターシャの『黒印(こくいん)』を解呪しろ、魁斗」

「健太はさっきからそればかりだね」

 ぽつり、と魁斗は小さくその言葉をこぼした。

「悲しいことだね、健太」

「それはお前の気持ちだろ?俺は『イデアル』には絶対に入らないからな」

「違うよ、健太。そういうことじゃないんだ」

 すぅっと魁斗は顔を上げた。

「―――」

 なんだよ、またなにかしようってのか? なんで、俺がそう思ったかと言うと、魁斗の目は力を取り戻したかのように、力強く意志の宿ったものになっていたからだ。まるで、あのときあの俺があの街で生ける屍に脚を掴まれて絶体絶命のときに現れた勇者『結城 魁斗』のような眼差しだったんだ。

「僕はもう健太の意志なんかどうでもよくなったよ」

「はぁ?」

 言っている意味が解らないぞ。ひょっとしてあれか、『天王黒呪』の『黒印』でアイナとアターシャを人質に取っているから、俺を脅迫して『イデアル』に連れ帰るとか、言い出す気か?魁斗の奴―――

(しるし)・・・印章(いんしょう)って知ってる健太?」

「印章?判子のようなものか?」

 なんでそんな話を突然訊くんだ?魁斗は―――

「僕の異能の師匠で表向きはルメリア帝国最高軍行政官(ドゥクス)のラルグス義兄さんがね、僕の『天王黒呪』の能力の一つに『黒印』って名前を付けてくれたんだ」

 ルメリア帝国?まぁ、それはまぁ・・・。それにしてもやっと魁斗の奴、解呪する気になってくれたのか?

「名付け親か?それがどうしたんだよ」

「うん、はは・・・ラルグス義兄さんが言うには、『月之民』の人々は自らの物だと判るように自分だけの印を自分の家畜の身体に書いたり、刻むんだってさ」

 月之民?五世界の一つ中世の領域の人々だっけか・・・。

「つまりあれだね、僕が『黒印』を打った者は(すべか)らく僕の物になるというわけだよ、あの二人もねっははっ♪」

「おいッ」

 つまりアイナとアターシャは『既に自分の物』だから手を出すな、と言いたいのか?魁斗の奴は!!

「僕だけがアイナ=イニーフィナとアターシャ=ツキヤマに触れる権利があるんだ。健太きみは僕の物であるアイナ=イニーフィナの身体と心に触れる権限はないし、彼女を連れ帰る権利もないよ。もし無理に彼女達を連れ帰ろうとするならば―――それは僕の物を強奪したことになるんだよ。健太も嫌でしょ?自分が飼っているにゃんこやわんこを誰かに盗まれたらさっ。それと同じだよ、今の僕の気持ちはさっ♪」

「ッ」

 こ、こいつ―――ッ言わせておけば・・・!! カランコロンっと俺が右手に持っていた木刀が地面に落ちた。ダンっと俺は地面を踏み締め―――ッ

「魁斗ッ・・・―――!!」

 俺は力を籠めた右手を開き―――魁斗の白装束の制服のような襟首部分を思い切り掴む。そして・・・ググッ―――俺は右腕、右肩、考えられる全ての身体の部分に力を籠めて、右手に思い切り力を籠めて、掴んだ右拳を白装束に捻じ込む勢いでググッと魁斗を襟首から持ち上げたんだ―――ッ!!

「てめぇ・・・―――ッ アイナがッアターシャがッ誰のものだと―――ッ!! 二人をお前のペット扱いすんじゃねぇよッ!!」

 そして魁斗の脚が浮く―――。

「ぐ、ぐるじいよ・・・けん、た―――、僕・・・な、なにか間違ったこと・・・言ったかな・・・?」

 ッツ・・・!! なんなんだ。なんなんだこいつ。なんなんだこいつのこの理論は、この考え方は・・・!!

「このままお前を失神させたら、解呪されるよな!!なぁっ魁斗・・・ッ!!」

「い、いや―――っ」

 魁斗は苦しそうな、でも苦しそうな顔でも薄く笑みを浮かべたんだ。そんな魁斗の不敵な眼差しの視線が合った。

「そ、それは無理だね、・・・健太。僕が・・・気を失っても・・・僕の『天王黒呪』は・・・そんな、(やわ)じゃ・・・ないよ」

「―――」

 じゃあ・・・まさか―――ここで、こいつを、幼馴染だった魁斗を―――、いや、いくらなんでも、できれば俺は『そう』したくない―――

「健太が、なにを考えているか僕には解るよ・・・、でも無駄だよ、健太。僕がたとえ死んでも―――、僕が・・・解呪の意志を遺さない限り・・・僕の残留思念はずっと・・・ううん永遠じゃない・・・かもしれないけど―――ずっと遺り続けるんだ・・・」

「―――っつ」

 な、なにを言ってやがる・・・魁斗の奴・・・ふー、ふー、ふー、っと深呼吸―――落ち着け、俺―――、

「ざ、残念・・・だったかい、健太・・・ははっ」

「・・・」

 落ち着け、落ち着け、落ち着け・・・俺。魁斗の戯言に耳を傾けるな。聞くな。動揺するな。たとえこのままそうなったとしても、きっとこんなファンタジーな五世界だぜ、きっと賢者みたいな人がいて、魁斗の『天王黒呪』の呪いを解けることがきっとできるはずだ。

「く、苦しいからそろそろ・・・下してくれるかい・・・僕の一番の友達健太・・・はは・・・」

「てめぇっなにが一番の友達だッ」

「そうだね・・・ごめん―――僕の一番の幼馴染で・・・一番の親友の健太・・・だったね・・・はは・・・また、お泊り会を・・・しようね・・・きみの・・・家の道場で・・・さ」

「―――ッ」

 本当にこいつは他人の気持ちを(ないがし)ろにし、逆撫でするのには、特級の才能があるかもしれない。ググ―――魁斗は殺したくない。でも、だったらこのままこいつをおとして、失神させてやろうか・・・?

「ぐ、ぐる゛・・・じい・・・よ、健太―――でも、健太に一つ言わなきゃ―――僕の『黒印』の真の力は・・・健太が・・・思っているような『人を金縛りにするような呪い』じゃないんだ・・・」

「ッ」

 くそ、耳を傾けたくないのに。魁斗の言葉が俺の耳にしぜんと入ってくる―――。

「け、健太。ほら僕の襟首を・・・掴んでいる・・・場合じゃないよ?」

「―――」

「ほら、見なよ。・・・彼女達の様子を、さ」

「―――、―――」

 こいつの言葉を信じたらだめだ。俺がアイナ達を振り返って、俺が魁斗から目を離した隙になにをしてくるか分かったものじゃない。

「ふ、二人に、・・・振り返って、あげないの?健太? せ、せっかく僕がアイナ=イニーフィナの口だけは解呪して上げたのに」

「―――え?」


「わ、私の身体が勝手にッ!?」

 そんなアイナの声が俺の耳に聴こえたのは、俺がアイナ達に振り向いたのと、ほぼ同時のことだったんだ。

 ずるり―――、と力の抜けた俺の右手から魁斗がずるりと落ちた。落ちた、というよりは握力と腕力を抜いた俺の右手から魁斗が滑り落ちた、と言ったほうがいいのかもしれない。

「―――すぅ・・・っ。はぁっはぁっはぁっ・・・く、苦しかったぁ・・・健太ひどいよ、本気で親友の僕のことを、絞め上げようとしたでしょっ!!」

「―――」

 どうでもいい、魁斗のことなんて。

「ァ、アイナ・・・―――??」

 だって変なんだよ、アイナの様子が。ほら―――アイナはぷるぷると震える両手を、左手は日之刀の鞘に、そして右手はその日之刀の柄に掛けたんだよ・・・? なんで?なんで?それじゃあまるで誰かを―――ううん、誰かなんて解っている、目の前で固まっているアターシャをまるで袈裟懸(けさが)けに一刀両断しようとしているみたいで―――。

「あっそうそう健太。さっきも言ったけど、僕の『黒印』は人を金縛りにする技じゃないんだ、ほんとはね。『黒印』の真価はね、僕が『黒印』を打った者は僕の意のままに、僕は、『黒印』を打った者を僕の意のままに操れるんだ」

「―――っつ」

「あ、驚いたって顔だねっははっみんなそうなるよねっ♪ とくにカップル向けの技かなって・・・ははっ♪いつも僕はそう思うんだよね♪」


 じゃ、じゃ今のアイナはくそったれな魁斗の意のままに操られて? それでアターシャを・・・―――!!


「いやぁああああっ逃げてッ!! 逃げてッアターシャ―――」


「―――、―――、―――」

 な、なんてことを・・・、アイナはすぅっとその鞘から白銀に輝く日之刀を抜き―――


「残念。アイナ=イニーフィナとアターシャ=ツキヤマは僕のタイプじゃないんだ。せっかく『黒印』を刻んだんだけど、仕方ないね。だからここで消えてもらうとするね♪」

 ッ、魁斗のそのふざけた言葉に俺は我に返り―――

「―――ッ!!」

 グッと俺は握り締めた右拳を振りかぶり、魁斗の顔目がけて―――

「僕を殴るより、今は彼女達のことが気にならないの?健太。そんなんじゃあアイナ=イニーフィナがかわいそうだよね」

「ッ!!」

 ハッとして、ほんとに癪なことだけど、俺は魁斗の言葉でハッと気が付いた。ダンっと俺は地を蹴り―――

「―――!!」

 違う!!違う!!違う!! 俺は魁斗にそう言われたからじゃない。それは断じて違う、そう思いたい。

「―――アイナ・・・っ!!」

 早く。速く。疾く。アイナの元に行かないと、駆けよらないと。

「ッ!!」

 ガクンッとでも俺はなにかに足を取られ―――膝からまるでなにか足を掴まれたかのように、本当にガクンっと膝から崩れ落ちた―――・・・。

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