第四十七話 僕がきみに敗ける・・・? そんなことありえないよっ!!
第四十七話 僕がきみに敗ける・・・? そんなことありえないよっ!!
二つの『黒輪』の軌道とその威力―――お前のやろうとしている全ての行動が俺にはすっかり視えているんだよ・・・っ。
魁斗は左腕左手を振りかぶって、左の黒輪があと三秒後に俺の足元に―――
「ふッ―――」
跳ねれば、俺の身体の位置が空中になって魁斗の放つ右の『黒輪』の的になる!! だから俺は―――左に避け―――
「あははっ健太それじゃあ、僕の左の『黒輪』の直撃―――えっ!?」
「ッ」
―――左に避けるふりをして、ダンッと地面を蹴り、そのまま魁斗に突っ込む。もちろん鞘付き木刀を小剱流の抜刀式で、いつでも木刀の一閃を魁斗に放つことができる。
「わわっ!!ちょっと待ってよ、健太っ」
俺には魁斗がこれから行おうとする全ての行動を視て判っている。だからといって慢心するなよ、俺。魁斗をバカにするな。魁斗をなめるな。祖父ちゃんも言ってだろ、己の油断と慢心が自分で自分の足を掬うんだ。
「・・・」
焦っている、魁斗のやつ。これから魁斗は自分が慌てているふりをして、その様子を俺に見せて―――右手の『黒輪』を右腕の動きに従って薙ぐように振りかぶる。だから俺は魁斗の右腕の動きとは逆の―――。魁斗との今の距離は約三メートル―――。
「っつ」
今だっ。膝を屈め―――ダンッっと!!俺は右に体幹ずらすふりを。
「もらったよっ健太ッ!!『天王黒呪』―――『黒輪』―――ッ!! えっちょっ健太ぁ!?」
そんな素っ頓狂な声も、そんな表情もすぐに俺が終わらせてやるよッ、魁斗―――!!
「もらったのは俺の台詞だっ魁斗ッ!!」
右に逸らした体幹を瞬時に左に戻し―――、ふっ案の定向かい合う魁斗の右腕の動きとは逆向きの動きになるんだ、今の俺の動きは。右の『黒輪』は俺の動きとは反対向きに飛んでいき―――あさってのほうで、ううん遠くの廃砦の城壁に当たって黒い煤けた氣を巻き上げ大爆発―――!!
そして、両手がお留守になった魁斗―――一方俺は左手で鞘付き木刀の鞘を握り締め、右手は木刀の柄にあり―――
もらった!!
「小剱流抜刀式―――」
俺の身体は己の力みが強すぎて震えていたんだ。俺が二つの『黒輪』を避け、魁斗が慌てたその瞬間だった。時間にして僅か数秒―――。お前はアイナをその黒い異能『黒呪』で苦しめた。アターシャも、そして義兄として慕っていたはずの仲間のクロノスにまで、その『黒印』とかいうやつを。
だからお前に加減なんかしてやるかよッ―――魁斗ッ。
ほんとは嫌に決まっている、幼馴染の魁斗に手を上げるなんてさ。でも、俺は友達だった『結城 魁斗』を―――許さない。
「っツ」
七人の幼馴染の一人。子どもの頃はみんなでつるんでいっぱいいっぱいいろんなことをして遊んだ。七人の一人は魁斗で、俺はかつての友を木刀で打つ。しこたま打ち付けるんだ・・・!!
俺は自身の力みを見計らい、木刀を鞘から解き放つ―――
「―――刃一閃ッ!!」
ッ゛―――メリメリメリっ、メリっツ!! 俺が放つ反る木刀のものうち、刃先、帽子―――そして鋩が。魁斗の右脇腹を捉えて―――、ぐぐ、ぐぐぐっ―――めきょ―――ッ
「う゛っ、ぐ・・・っ―――け、健太・・・っ」
そして、俺の抜刀式の、下から斜め上へと向かう斬撃の威力で魁斗の足が浮く―――。いつのまにか魁斗の身体は木刀の中ほどにあった。
「はぁああああああ―――ッ魁斗ぉおおおおおッ!!」
左手もっ。俺は鞘を握っていた左手を右手の手前に沿えるようにして柄を持ち、まるでホームランを打つときのように、ダッと前に出した右脚にさらに力を籠め―――そのまま魁斗を木刀に乗せて振り抜いた―――ッ!!
どさっ。ごろごろごろ・・・。魁斗は数メートル投げ出されてそのまま受け身も取れず、どさっと地面に投げ出され、ごろごろといくらか回転して廃砦の中庭のような荒れ果てた地面の上で動かなくなったんだ。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
くそっ思いのほか力を使った、のか? なんかとても疲れたぜ・・・。たのむ魁斗、動くなよ。これで終わってくれ・・・!!
ぴくっ。
「っつ」
魁斗の右手が動いたんだよ。俺だって今持てる小剱流の剣術を出し切ったはずだ。魁斗の奴もそう挑発してきたしさ。ちょっとやりすぎたかも、とは思ったけど。
「ひ、ひどいよ、健太・・・思いっきり・・・思いっきり友達の僕を殴ったでしょっその木刀でっ・・・?」
むくり。いッ!!あれを喰らって、肋骨をいってもまだこんなにも動けるのか!?
「っつ。か、魁斗・・・!!」
魁斗は左手で俺の木刀のものうちが先ず入った右脇腹を抑えながら、むくりと立ち上がったんだよ。俺もそれなりに本気で、木刀で思い切り打ち付けたはずだ。確実に肋骨は折れた、か、もしくは罅が入っているはずなのに・・・!!
「うぅ・・・ねぇ、健太ひどいよ・・・」
「っつ・・・!!」
ふぅ、ふぅっと俺は疲れたような荒い息を吐きつつ、自身の内心の動揺を必死に隠すので精一杯だった。
「お、お前だって本気で俺を殺そうとしただろ。っで、勝負はついたよな。俺の勝ちだな、魁斗」
「―――・・・」
お前まだ納得してないだろ、その顔。魁斗は本当に悔しそうな顔を見せて唇を噛んだ。だから肯くこともないし、負けを認める言葉も発しなかった。でも、明らかに誰がどう見ても俺の勝ちだ。
「早くアイナとアターシャを解呪しろ、魁斗」
「やだよ・・・そんなの!!」
「魁斗お前いい加減約束を守れよ!!」
「まだだよ、健太。僕は諦めないっ僕はまだ戦えるよ・・・っ!!」
しつこい。そんな痛そうな顔で右脇腹を左手で押さえたままで言っても説得力のかけらもないぞ、魁斗の奴―――。さっさと自分の敗けを認めろ、ほんとに往生際の悪いやつだぜ。でもいいように言えば、諦めが悪く、これがこの心こそが不撓不屈の精神なのかもしれない・・・。
よろよろ・・・。魁斗はよろよろとした力の入っていない、動きでその場に立ち上がり、まだあいつなにかを、最後の悪足掻きをするつもりだっ!!
「よせよ、魁斗。お前・・・たぶん、たぶんお前の肋骨に罅が入ってる。だからもうよせよ―――。いい加減自分の敗けを認めろよ・・・ッ!!」
「っく―――僕は、僕は」
成長した魁斗がとてもひどいやつになっていて、袂を別って敵になってお互い戦って、俺は魁斗に完全に勝ったはずだ。
アイナはこんなばか魁斗に異能で『黒い呪い』をかけられて、俺はほんとに辛くて、悲しくて・・・それなのに。俺は魁斗に勝っても、魁斗本人は敗けを認めず一向に『黒印』を解いてくれる様子もないし。
「ッ!!」
お、おい魁斗、おまえ―――肋骨は痛まないのかよ!? 魁斗は身体を後ろに反らして仰け反った。両腕を掲げ―――、右腕右手と、左腕の肋骨の上に痛々しく摩っていたその左手を外し、その魁斗の両腕は、まるで時計の『十時十分』と同じ角度だ。
魁斗はそのような体勢で両腕をめいいっぱい天へと伸ばし、仰け反った。
「僕のほうが健太きみよりも絶対強いんだっ!! 僕はこの異世界イニーフィネで導師さんとサナ義母さんに拾われて『イデアル』になっていろんなことを。ほんとにいろんな戦場を駆け巡り、義兄さん義姉さん達と一緒にいろんな死線を越えてきたんだよッ!!」
「魁斗・・・」
やっぱこんな魁斗になったのは、したのは『イデアル』かよ・・・っ。
「僕は子どもの頃にこの異世界にやって来たんだッ、健太きみや敦司、真みたいにぬくぬくと日本の家庭で育ってきたわけじゃないッ!! 僕は、僕はこの異能が覚醒して、僕を呑みこもうとする『黒呪』の力に抗って、それから救ってくれたラルグス義兄さん、僕に集団戦を教えてくれたロベリア義姉さん、僕に剣技を教えてくれたクロノス義兄さん、グラン義兄さん、チェスター義兄さん。僕に『イデアル』のことや、この『五世界』のなんたるかを教えてくれたクルシュ養母さん、ナナ義姉さん、アリサ義姉さん・・・。僕はみんなのおかげで救われたんだよっ!! 僕はみんなと一緒にこのイニーフィネ『五世界』中を駆け巡り、死線という死線を越え―――!! こんな五つの世界が同居するくそくらえな惑星イニーフィネの『五世界』で僕は十歳から今まで生きてきたっ!! そんな僕が健太きみより弱いわけがないんだっ!! このイニーフィネ『五世界』に来たばかりの健太に『天王黒呪』を使う僕が敗ける・・・? そんなことありえないよっ健太。必ず健太きみを『イデアル』にして、今度は僕がきみにこの『五世界』の何たるかを、『イデアル』のことをきみに教えてあげるんだッ!!」
「―――」
怖い。まじで怖いよ、魁斗の奴。どれだけの執念だよ。
「アイナ=イニーフィナッ僕はお前を赦さないッ!! 『黒印』で縛っているけど、聴こえるはずだよっ僕の声がっ!!」
なッお前!! 魁斗お前―――
「ッツ・・・!!」
やっぱりそこに帰結するんだな、魁斗。お前の中ではそれが根幹部分なんだな。
「この世界で唯一僕の幼馴染、僕の子どもの頃を知る唯一無二の存在である健太を奪った、アイナ=イニーフィナ。ははっ♪僕はきみをこの手で―――」
シュラっと。魁斗はなんだか、感情が昂ぶったのかもしれない。その白銀に輝く剣を鞘からシュラっシャーっと抜いたんだ。
「やめろッ魁斗・・・!!」
アイナ達に矛先が向かわないようにする。してやる!!
「け、健太・・・とめないでよ」
ぎゅっ、俺は両方の拳を握り締める。
「お前。俺に言ったよな? 俺が勝っても負けてもアイナ達は解放するってな・・・。俺はまだお前に負けてもないし、お前は俺に勝てたか? だったら相手が違うぜ、お前の相手はアイナじゃなくて俺だろ? なぁ魁斗」
「―――ッ」
くるり。魁斗は俺に凄惨な笑みを向けながら、くるりと身体も俺に向けたんだ。
「続きやろうぜ?魁斗。 お前まだ納得してないんだろ?その顔。いつまで泣いてんだよ、『泣き虫魁斗』・・・!!」
「ッつ・・・いいよ。いいねぇ、健太、この異世界で僕のそのあだ名を知る人がいるっていうのはさぁっ。観客はアイナ=イニーフィナとツキヤマ=アターシャ、そしてクロノス義兄さんとグラン義兄さんさ。さぁ、心行くまでやろう健太。健太の心が折れるまでさぁっ!!」