第四十六話 『天王黒呪』。発動―――死に至る漆黒の球体『黒輪』
第四十六話 『天王黒呪』。発動―――死に至る漆黒の球体『黒輪』
「いくよ、健太。発動―――『天王黒呪』―――・・・」
魁斗の構える左手からどす黒い煤煙のようなゆらゆらとしたアニムスが出現する。でもそれは、俺の眼の前で徐々に姿を変え、煤煙が纏まっていき渦巻くような球体になった。
「―――・・・」
その様子を見ていてとても不思議な球体だ。魁斗の左手の掌の中に真っ黒い球体が収まっていて―――えっと、つまり魁斗が左手で握っているその真っ黒い球体、その表面はまるで写真で見た木星の大気をモノクロにしてさらに黒くしたようなものに似ていた。球体の中で黒い煤煙のようなものが不規則にゆらゆらとさせながら、それが自転するように回転しているんだ・・・
「ッツ」
大きくなっていく・・・ッ!? それが、その黒い煤煙のように渦巻く漆黒の球体は、徐々にだんだんと魁斗の掌の中で大きくなっていく―――。
「いくねっ健太―――っ♪僕の必殺技―――」
うそだろ・・・、最初は野球の球ぐらいの大きさだったのに・・・えっ!? えっもうバスケットボール並みの大きさになりやがったッ!!
「『天王黒呪』―――『黒輪』ッ!!」
あいつっまじで『あれ』を俺に放つつもりだッ。この眼で視ているとなぜだか、そうすると解ったんだ。あれは魁斗の異能『天王黒呪』の真っ黒いアニムスを純粋に凝縮した途轍もない威力をはらんだ氣の塊だ―――!!
「―――ッ!!」
くっ・・・!! 俺目がけて飛んできやがる。そのまるで黒い煤煙を球体にしたような物体は魁斗の左手を放れ、ううん、魁斗は左手の向きを真逆にして腕を勢いよく前に出し、掌に収まっていた『黒輪』を俺めがけて放ったんだっ・・・!!
こんなもの当たらなければ―――、避けてしまえばいい。放たれた弾丸や砲弾と同じで一直線もしくは僅かな放物線を描いて俺に飛んでくる代物らしい。だったらこんな魁斗の『黒輪』なんて避けるのは簡単だ。
それに避けられるだけの充分な距離はあるぞっ魁斗・・・ッ。俺が十年近く剣術で培ってきた運動神経を舐めるなよっ!! ダンッ、魁斗がその左手から放った『黒輪』を俺は地面を蹴ることで左に避け―――ざざざざっと俺は靴底を擦らせ―――。俺が避けた『黒輪』は俺の身体すれすれを掠めて飛んでいく・・・、そして魁斗の黒いアニムスを凝縮して途轍もない威力の『黒輪』は後方へと消えていく・・・。
「ッ!!」
ドウッ、とその直後―――、『黒輪』は後方で大爆発を熾し―――、そ、そんなッ・・・―――!! う、うそだろっ嘘だといってくれよッ!!
アイナッ!! アターシャッ!! そこにいるはずのアイナやアターシャ、それにクロノスもグランディフェルまで跡形もなくその漆黒の爆風で消し飛ばし―――・・・
「え・・・っ」
視界が一瞬だけ、まるでピンボケのようにぶれて―――俺・・・いったいどうしたんだろう・・・。なにを見ていたんだ? ひょっとして幻でも見ていた・・・のか?
だって、まだ魁斗はあの『黒輪』を左手の掌から放っていない―――。なのに、俺―――なんで俺、いったい俺は何を視ていたんだ・・・?
「!!」
その俺が視ていたその光景は、あの魁斗が左手から放った『黒輪』を避けた先の光景を・・・。えっまさか・・・でもたぶん俺の異能って―――『透視』じゃないのか・・・?
「いくねっ健太―――っ♪ 僕の必殺技『天王黒呪』―――『黒輪』ッ!!」
おっとッ!! 考えるな、後にしろっ、すぐにあの強大で強力な威力を秘めた『黒輪』が俺に飛んでくるはずだ。
「ッ!!」
あいつっ『またあれ』を俺に放つつもりだッ。あれは魁斗の異能『天王黒呪』の真っ黒いアニムスを純粋に凝縮した漆黒の球体だ。途轍もない威力をはらんだ、触れればそれだけで大爆発を熾して弾け飛ぶ氣の塊だ―――!!
「―――ッ!!」
くっ・・・!! 本当にあのとき視えた光景と寸分違わない。だからかな、俺が突如白昼夢のように視た先ほどの光景はきっと先読みで視た僅か先の未来の光景だ―――。
「そうか・・・やっと解ったよ、俺―――」
俺目がけて飛んでくる魁斗の『黒輪』―――黒い煤煙を球体にしたようなアニムスの塊は魁斗の左手を放れ、ううん、魁斗は左手の向きを真逆にして腕を勢いよく前に出し、掌に収まっていた『黒輪』を俺めがけて放とうとっ・・・!!
「必ず変えてやる―――」
―――俺がこの『眼』で視たあの数秒後の未来の光景をなッ!!
このまま俺がこの場にいたままだと、後ろにいるアイナ達に『あれ』が当たるんだッ・・・!! 識ってるぞ、魁斗ッ俺はこの先の光景を視たんだ。このまま俺が魁斗の『黒輪』を避ければ、後ろのアイナとアターシャ、それとクロノスとグランディフェルをも巻き込んで、漆黒の爆風で全てを消し飛ばすってなっ!! 直撃すれば『黒輪』は周囲にお前のアニムスを撒き散らして大爆発で全て消し飛ばす―――。お前にとっての邪魔者を全て漆黒の爆風で跡形もなく消し飛ばす―――、それこそお前の狙いなんじゃねぇの?
やらせねぇ・・・!! そんなことやらせるかよ・・・ッ―――魁斗!!
「ッ!!」
ダッッ、っと俺はとにかく必死だった。アイナ達を移動できないのだったら、とにかく俺が動くしかないッ。俺は立っていた場所の地面を勢いよく蹴った。
「こっちだッ魁斗ッ俺はここにいるぞッ」
俺はアイナ達へ直線上となる、今立っている場所からすぐに退避した。どこでもいい、俺自身が囮になって魁斗を誘導する!! とにかく今は動けないアイナ達に危害が及ばないようにすることが先決だッ。
「ははっ健太ってばっ今度は鬼ごっこかい? それともドッジボール? いいよ、健太―――」
っつ魁斗のやろう・・・調子に乗りやがってッ!!
「!!」
そんな子どものときよく遊んだような遊びとはわけが違う。当たれば大怪我どころじゃすまされない、この『黒輪』はこの世から生命の灯を、その真っ黒な爆風で全て消し飛ばしてしまうものだ。
「久しぶりに遊ぼうよ、僕とね―――っ!!」
いや魁斗は左手の向きを真逆に変えて俺めがけて、その左の掌に収まっていた『黒輪』を放った。黒い煤煙のようなアニムスを球体にして放つ漆黒の『黒輪』は魁斗の左手を放れ―――、ざざっと俺は横滑り。身体の進む向きをそれまでの、魁斗から見て水平から直角に変えた。これで俺を狙いやすくなっただろ、魁斗?さぁ、やれ。俺に放ってみやがれッ魁斗ッ!!
「疾っ・・・!!」
だが、俺の眼にはお前の放つ『黒輪』の軌道なんて丸視えなんだよ・・・ッ。俺と魁斗との距離は目測にしてたぶんバスの長さぐらいだ。『黒輪』は進行方向の後方にゆらゆらとした黒い尾を噴きながら、その軌道を揺らぐことなく俺目がけて一直線に飛来する。
俺は身体を、上半身を右に傾けることで俺は易々と魁斗の放った『黒輪』を避け、―――チリっ。ん?なんの音だ。その音はまるで髪の毛を焼いた、もしくは焼けてしまったときに出る音と似ている音だった。音の出どころは俺のすぐ近く―――そこを辿って見れば。
「っつ・・・ッ」
避けたとき、もうちょっと距離をとっておけばよかったかもしれないッ。充分、ちゃんと『黒輪』を避けたはずだったのに、それでも、『黒輪』のアニムスが放つ熱や効果の威力が及ぶ範囲内だったようだ。俺の練習用の和装が一部、黒くくすんだように変色していたんだ―――、くそ・・・俺の一張羅をダメにしやがって、魁斗の奴。
でも、悠長に服の破れを気にしている場合じゃない。俺はすぐに視線を上げ、前にいる魁斗に視線を戻したとき。
「魁斗―――」
「あれ・・・?なんで?」
魁斗は俺の目の前で『あれ?どうして、『黒輪』が(俺に)当たらなかったの?』みたいな、きょとんとしたそんな様子で首をかしげていた。そんなもん簡単に喰らうかよ・・・っ、視たら解るじゃねぇか、お前の『黒輪』の規格外のめちゃくちゃな威力とその軌道ぐらいはよ。
「―――ッ」
ドンッ、ドウッ、っとその直後、後方で大きな爆発音―――ほんとに視線を僅かに左奥に持っていけば―――
「!!」
う、うそだろ・・・―――塔が、塔が跡形もなく消し飛んでるなんてッ!! それは、その塔は俺が朝に用を足した煉瓦と石造りの小さな塔だ。小さな塔と言っても、俺が住んでいた日本の建物と比べたら、そんなに小さな塔でもないと思うんだ。
魁斗が左手から放った『黒輪』はたぶん、そのまま俺の後方を飛び続けて、俺が朝に用を足した小さな塔に直撃したんだろう。
「―――・・・」
あいつ魁斗の奴、本気で俺のことを殺しにかかっているんだな・・・。あんな威力の『黒輪』を放ちやがったのが、その証拠だ。だったら俺も遠慮なく―――本気でやってやる。
「まだまだあるよっ健太―――!!」
魁斗―――あのバカっ・・・。
「!!」
俺は魁斗のバカみたいな楽しそうな大声で意識を眼前にもどした。すると今度の魁斗は楽しそうな顔で両腕を仰々しく前に出していた。
「ッつ」
魁斗の両手、左手右手の掌の中には黒い煤煙のような二つの漆黒の球体―――さっき俺に向かって放った『黒輪』だ・・・ッ。それが両手に二つも―――、っつ眼が。そのとき俺の眼が疼いた―――
「・・・―――っ」
――――――、そうか視えた。魁斗が放った。あの『黒輪』は、―――、―――、―――、その放つであろう場面―――放ったときの魁斗の様子―――、魁斗の両手から放れて―――、俺へと到達する距離と時間、その『黒輪』の軌道―――とか他にも、それがパッ、パッ、パッ、パッとコマ送りのような映像で視えて繋がり、それが俺の頭で、俺自身がまるで体験し、記憶した思い出のように流れていくんだ。不思議な感覚だよ。
俺がこの眼で魁斗の動きとか『黒輪』を識りたいから、それでよく視ようと思って、視るだけで―――ほんとにすぐ先の事が視えるんだ。なんでだろう?理由は解らない。俺が魁斗の内ポケットの中の拳銃を見つけたときの『透視』とはなんか感覚が違う気がする。
「『黒輪』をいっぱいお見舞いしてあげるから、こんなもので死なないでねっ、健太!!」
無駄だ、魁斗―――。いっぱいお見舞い?違うな、お前の狙いは『数を撃てば当たる』じゃないよな?
「――――――」
視えるんだよ、解るんだよ、俺には。お前の攻撃するタイミング。まず左手にある少し威力を落とした『黒輪』を俺の脚の辺りに放ち、俺の行動を牽制―――その次に右手の『黒輪』を最短距離で水平に放つんだよなぁ、魁斗。角度はまっすぐで、当たる場所は俺の腹の辺りか?
二つの『黒輪』の軌道とその威力―――お前のやろうとしている全ての行動が俺にはすっかり視えているんだよ・・・っ。