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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十三ノ巻
398/460

第三百九十八話 進み出す彼の物語、、、四

「ほう、、、それは―――。 だが、異能? 修孝お前は未だに異能が目覚めていない、と私は聞いているが・・・」


「いや、俺の異能は、祖父さま、、、―――ううん、いや違うんだ」

 修孝は、訥々と、その言葉の走りの部分はたどたどしいものであったが、


「最初、俺は異能とは思っていなくて・・・。だが、・・・、、、」

 祖父に対して、修孝は、話すうちに頭の中で整理ができてきたのか、すんなりと話せるようになってきたが、でもどこから祖父に話してよいのかそこに戸惑っている様であった。


第三百九十八話 進み出す彼の物語、、、四


 修孝は、祖父行晃からその目を真っ直ぐに見ていた視線を逸らした。

「・・・、、、」

 隠していたことに対してやや後ろめたいのか、それとも、父の儀紹の“他言無用”の言いつけを破って、こうして祖父に話してしまったことが気にかかるのか・・・、、、。



 途中で言葉を止めた修孝に、孫の話の先を促すように、行晃はその口を開く。

「で?修孝よ、お前さんは、父親のその策に。だからお前さん自身の異能を己の野心に使おうとしている儀紹・・・、いや、親父殿に悩んでおるのか?」

 だが、行晃自身にとっては、孫修孝のそれは大変重要なことであった。行晃は話の続きを早く聞きたく、まるで身を乗り出すように、修孝の話の先を促した。


 祖父の姿勢にやや気圧されつつ、修孝は。

「あ、あぁ、、、祖父さま・・・。っ」

 そして、頭の中の悩みごとを改めて考えた修孝は、ますます浮かない顔になり、疲れたから座りたいと思った。

 そうだ席は空いている。

 修孝は、千歳が楽しそうな様子で、ぽりぽりとかりんとうを食べるその横の椅子に腰かけようと思った。



「修孝おにいちゃん?」

 千歳という童女を演じているクルシュは、そのかわいいくりっとした眼差しで興味深そうに、修孝に警戒されるようないつもの不敵な表情は取らず、無邪気を装い修孝に話しかけた。


 クルシュのそれが、その様子が功を奏したのか―――、

「隣ちょっと座らせてもらうな、千歳」

「うんっいいよっ♪修孝おにいちゃんっ♪」

「―――」

 ―――、修孝は無邪気な童女である千歳に気を留めることなく、机を取り囲む木の椅子の一つにその腰を下ろした。



「修孝おにいちゃんもっ、かりんとー食べる?」

 クルシュは、親指と人差し指で摘まんだ黒糖かりんとう一本を修孝の前に差し出した。


 本当は、修孝はあまり気乗りしなかったが、ここで断るのも千歳に悪いような気がして、彼女からかりんとうを一つまみ受け取った。

「・・・、あ、あぁ。ありがとう、千歳」

 修孝は、受け取ったそれ黒糖かりんとうを一本口の中に放り込んだ。


「っ♪」

 にこっ♪―――、っとクルシュは満面の笑みを修孝に零す。そして、クルシュはまた、かりんとうに夢中になる素振りを修孝に見せるのであった。



 さて、貰ったかりんとうを、ごくんと呑みこんだ修孝。

「、、、」

 椅子に座った修孝は考える素振りで、その木の机に肘をつき、顎の前で両手を組み合わせて握った。


 その彼修孝の視線は、思い詰めたようなものであり、また、まるで、ここではないどこか遠くを見つめるような遠い眼差しでもあった。



 孫のその苦悩しているかのような様子を見て、行晃は口を開き―――、

「―――。修孝―――、」

 ―――、行晃が修孝の異能のことを、


 その異能が齎す副作用のようなものに悩んでいるのか?


 それとも、お前さんは、行晃自分自身の息子であり修孝から見れば父に再三に亘って異能を使えと言われているのか?


 と修孝に訊こうとしたときだ。



 修孝のほうが先にその口を開く。

「祖父さま。俺の話を聞いてくれるか?」


「うん、うむ聞こう、いや聞かせてくれ修孝」

 行晃は肯いた。

 その表情はふざけるようなところも、めんどうくさそうなところもなく、意志の籠った祖父の優しい目だった。

「・・・半月ほど前のことだったか。俺はある夢を視たんだ」


「夢?」

 行晃は、孫修孝に訊き返した。


「あぁ。夢だ祖父さま、不思議な夢だった。赤。ゆらゆらと波打つように、俺の視界一面が真っ赤に染まっている夢」

「赤、、、。血か・・・?」

 行晃は、ゆらゆらと波打つ一面、真っ赤に染まる、と修孝より聞いて、すぐに血を連想した。


「いや、それもあるかもだけど、違う。火だ、祖父さま、俺が視るのは紅蓮の炎の夢だったんだ」


「炎・・・っ!!」

 行晃は目を見開いた。

 修孝の異能が、火炎能力者だと言うのかっ!!と言った具合だ。孫が火炎の異能者だと聞いて喜びと共に畏怖しているかもしれぬ、行晃は。


「(っ!!)」

 もちろん『千歳』として振る舞うクルシュも、かりんとうを弄りながら、修孝から『紅蓮の炎』と聞いて内心驚いていた。


「火炎能力者か・・・っお前さんは、修孝ッ!!」

 興奮気味の行晃。


「(焔じゃとッ!!)」

 内心で驚いているクルシュ。



 驚く行晃達とは対照的に、修孝はその表情をきょとんとさせた。

「・・・はい?祖父さま?俺が火炎能力者?」

 だが、修孝は、自身の視る夢で頭がいっぱいになっており、修孝は、祖父行晃の内心を、彼が心の中で想っている事に気づかなったのだ。



 一方で行晃は、孫の疑問符の表情を見て腑に落ちなかった。

「いやだから修孝その、お前さんは、火炎能力者なのだろう?」

「え?俺が?火炎能力者だって?なぜ?」

「―――」



 お互いの齟齬。会話と意思疎通がうまいこといっていない孫修孝と祖父行晃。


 そんな折―――、多角的に修孝の話を整理できた者が一名いた。

「修孝おにいちゃん、火を出せるの? 発火能力者なの?すごーいっ♪」

 その者は、齢千歳を悠に越える老巧な者。その正体はクルシュ=イニーフィナ。

 彼女はかりんとうを弄る手を止めて、すぐ脇に腰を掛けている修孝を見上げて、童女らしく無邪気な表情と態度を装って、修孝に話しかけたのだ。


「いや。俺は火なんか出せないよ、千歳」

「えーっ違うのぉ?修孝おにいちゃん」

「あぁ。俺はおにいちゃんは、ただ夢で、・・・その、なんだ、火事の夢を見ただけだよ、それも未来に起こる大火事の夢、、、かな」

「、、、。ふ~ん、火事の夢かー」

 千歳・・・いやクルシュは、

(未来じゃと?)

 と、修孝の言葉を聞き、その無邪気な童女の表情とは裏腹に、『修孝の異能』について深く熟考するのであった。


「あぁ、そうだよ千歳」

 修孝は肯いた。



「、夢・・・、火事の夢とな修孝」


 火炎能力者という誤解は解け、夢と返され、こくりと、修孝は祖父に肯いた。


 修孝はその、かつては重かったが、今は軽くなったその口を開く。

「日に日に赤く燃える炎が鮮明になっていく、そんな夢を見続けるんだ、祖父さま。―――、ここ日下の街が燃えている夢をな、祖父さま。・・・人々は焼け死に、赤々と紅蓮の炎に舐められ、覆い尽くされる、日下の街。そんな悪夢だ」


「・・・―――っ」

「―――っつ」

 行晃の目が揺れる。そして、それは黒糖かりんとうを食むクルシュも、行晃と同様だった。



「俺が初めてそんな夢を見たのは、三週間ほど前だったかな・・・。初めは、赤々と炎が燃える、ただの火の夢だった。でも、祖父さま日を追うごとに、俺が見る火の夢は、鮮明になっていったんだ。一週間ほどが経ったとき、俺は、その夢が火事の夢であるということを悟り―――、」


 修孝は夢の出来事を、過去の夢を辿るように、その内容を思い起こしてゆく。


「―――、俺は、毎夜見る夢が・・・。日に日に鮮明になっていく夢の光景が、燃える日下の街であるということを理解したとき―――、」


 修孝は言葉を選びつつ、


「―――、俺が毎夜見るこの鮮明な夢は、ひょっとすると・・・、正夢かもしれんとそう思ったんだ。えと、、、祖父さまが千歳を連れて帰ってきた頃ぐらいだったかな―――、」


 話乍ら修孝はその視線を机上に落とした。


「―――、そのときにはもう、俺が視る火事の夢の場所がここ日下の街ということを、、、。燃える街、この屋敷も何もかもが燃えて焦土に・・・。そして、ついに俺は、その大火の正体が、戦火であることを夢の中で知った。俺のこの『予知夢』の異能で未来を視得る限り、、、―――境界を越え、近々攻めてくると思う、チェスター第二皇子率いるイニーフィネ皇国軍が、この俺達の日下国に」


 修孝は、長々と話した言葉を切って、その口元を厳しく一文字に締めた―――。

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