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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十三ノ巻
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第三百九十七話 進み出す彼の物語、、、三

「わーいっっ♪ ありがとうっ修孝おにいちゃんっ大好きーっ♪大きくなったら千歳修孝おにいちゃんのお嫁さんになるー♪」


 またそれ言うこの子、っと、修孝は内心で苦笑い、

「はは。。。」

 千歳のかわいい大胆発言に、修孝は乾いた笑みを浮かべた。ま、この子はまだ子どもだから今だけそんなことを俺に言ってくれるだけ、と修孝は、冗談半分に思って愛想笑いを千歳に向けるだけだった。


第三百九十七話 進み出す彼の物語、、、三


 そんな、修孝と千歳が和気あいあいとしているときだった、ひょっこっと、台所に人の気配を感じ、その誰かがいる気配を感じて、台所にやってきた人物がいた。

 台所にやってきたその人物は、長身の修孝の姿を見とめる。

「こんなところにおったのか、修孝よ。―――、」

 その正体は修孝の祖父行晃である。台所にやって来た行晃は、修孝のその姿を見て、

「―――、まったく私は、お前を捜してほうぼうを這いずりまわったというのに」

 ―――行晃自身は、修孝が剣の修練をしていると思って、屋敷の外と内、二つの道場を歩いてまわったのだ、このようなところで、誰かと油を売っている姿の修孝を見とめて、いい感情になるわけはなく、その眉間にやや皺を寄せて不服の表情になった。


 ここにやって来た祖父の姿に気づいて、そちらを振り向く修孝。祖父の小言を聞き、修孝は祖父の不機嫌な様子を察したのだった。

「祖父さま、、、」


 千歳もすぐに気づき、、、。彼女は千歳の形をしているクルシュはその行晃の不満そうな表情から彼の内心に気づいたのである。

「あっ、行晃おじいちゃんだ。ねっ修孝おにいちゃん・・・♪」

 もちろん千歳は、修孝が行晃に怒られないようにするために、庇う意図もこめて、わざと修孝に声を掛けたのだ。

「あぁ・・・、千歳」



 修孝と楽しげに話し合っていたその人物。その正体が、視界の下のほうに入り、行晃はギョッとした。

 修孝が油を売っている人物が、いや、相手をしていた人物が、自身の主であるクルシュ様だったとは・・・っ!!

 行晃は―――、

「っ、こ、これはっ、主さ、ち、千歳―――」

 ―――、修孝は千歳、、、いや主たるクルシュ様と会っていたのか、と。


「行晃おじいちゃん。修孝おにいちゃんは、千歳と遊んでくれてたのっ怒らないであげてね♪」


 今はまだなにも知識らない孫も一緒にいるのだ、行晃は、極力平静を装って我が主たる千歳、いやその正体はクルシュに答える。

「わ、解った千歳よ」


 にこり、っと、かりんとうが入った金属製の円筒を胸に抱きながら千歳は行晃に笑いかけた。


 修孝は、その千歳の笑みをなにも深く捉えてはいないが、捉えることはできなかったが、千歳の正体を知っている行晃は違った。

「っ♪ 、っ、―――」

 その彼女の笑みは、先ほど修孝にも見せたような、花が咲いたような笑顔ではあるが、行晃はその笑みの深意を受け取ったのだった。



「―――っ、」

 行晃は、大事そうにかりんとうの入った金属製の円い箱を大事そうに抱く千歳から視線を切り、



「♪ ♪ っ♪」

 千歳は鼻歌まじりの上機嫌であり、ここにこの祖父孫二人がいる台所に、陣取るつもり、、、いや、さりげなく自分がいても不自然ではない状況が手に入ったことも彼女の機嫌が良くなった一つである。


 千歳いやクルシュは、ちょこんと台所の椅子に座った。その木の椅子に座れば、台所の床に足の付かない身長で、楽しそうにクルシュは脚をぶらぶらさせながら、それはもう本当に愉しそうに、そして、美味しそうに、しげしげと自身の、かりんとうが入った円い容器を覗き込み始めたのだった。

 かりんとうを頬張りながら実はクルシュは、この祖父孫の会話に聞き耳も立てているのだが。



「さて―――、修孝よ」

 行晃はそのような様子の千歳から視線を切った。そして、行晃は修孝に向き直る。暗に、この場に居る主たる千歳からの指示を受け取った行晃は、修孝の憂いその話を彼から直接聞きだすべく―――、

 修孝は祖父に答える。

「なんですか、祖父さま」

「お前さん、なにか悩みでもあるのではないか」


 ぴたり、、、っと、祖父の言葉に一瞬修孝の動きが止まる。

「―――、誰かに・・・?」



「(!!)」

 一方のクルシュ。楽しそうに足ぶらぶらさせていたが、その動きを止めた。

(行晃のやついきなり訊きよった!!修孝の繊細かもしれぬ心の悩みを!!)

 と、そのかりんとうを摘んだ指も一瞬止め、ややっと一つ摘んだかりんとうを食んだ。



「いや、誰かに訊いたわけではないよ?修孝。修孝よ、お前さん、、、剣を揮っているときだ、時折なにか思い詰めたような顔をしているのでな。いつもそのような折は―――、」


「っつ」


「―――、気づいておるか修孝よ。そのように思い詰めたような顔をしているときのお前さんの剣筋はいつものキレがない」


「、、、そうか。祖父さまにも」

 祖父にも見破られたか、と修孝は思った。野添碓水に続きこれで、自身の心の動きを知られた人物は二人目である。


「この私の見立てでは、修孝お前の刃は焦っておる。なにか、修孝よ、ここ数日のことだ、お前さんの心を焦らすなにかがあったのではないか?

「・・・」

 ・・・。

 修孝は、その通りと、まるで祖父の言葉を肯定するように、己の視線を足元に落とした。



「―――・・・」

 密かにクルシュは、嬉々としてかりんとうを食べ頬張りつつ、聞き耳を立てて、自身の子孫であるこの二人の会話を、その様子を窺っている。

 足の付かない椅子に座っているが、もう、その小さな両脚はぶらぶらさせていない。



「・・・まぁ、修孝よ、お前はまだ若い。多くの悩み事はあろうて、だが、私はこれでもお前さんより三倍は長く生きている。話してくれれば、私は祖父として孫のお前さんの悩みの解決の役に立てるかもしれん」


 自分の祖父の、自分に対する気遣いと心遣い、それを受け―――、

「―――・・・」

 ―――、修孝の心が揺れて、頑ななものから柔らかくなっていく。自身でも、心の持ちよう、変化に気づいている修孝ではある。


 祖父ならば、己の悩みをちゃんと聞いてくれるかもしれない。そして、ちゃんと現に祖父は自分に向き合ってくれている。


 父のように、その部下である野添碓水による言伝だけで、

『悪い輩に気を付けろ、自身の異能を他言するなよ、修孝』

 で、済まそうとせずに。

 自分のことを『預言書』代わりにしようとする魂胆が見え見えの父と違い、この祖父は。



「修孝がこの私に、心に秘めている事を話してくれれば、祖父として、剣の師としてお前さんの―――」

 行晃は、もう少し孫を押してみるかと思って、言葉を話したときだった。


 修孝は祖父の言葉が、祖父が話し終えるまえにその口を開く。

「祖父さま。親父は俺のこの異能を、自身がのし上がるためにだけに、使うつもりなのかもしれない」

 意を決し、修孝はその軽くなった口を開いた。


 修孝自身気づいている、父儀紹は、上昇志向の強い人物であるということを。そして、自身の予知夢の異能を、父は己の私利私欲のために使おうとしているということも。

 父儀紹は、この目の前にいる祖父行晃から家督を継いで以降、のし上がりたいという思考をますます強くしているのが、傍から見ていてより顕著になってきているということも。



 修孝の独白。その言葉を聞いて、きょとんとした表情に行晃はなった。行晃は、てっきりまだ修孝の異能は目覚めていない、と思っていたからである。

 それを修孝本人の口から、俺の異能は目覚めた、既に目覚めている、と訊いたからである。

「ほう、、、それは―――。 だが、異能? 修孝お前は未だに異能が目覚めていない、と私は聞いているが・・・」


「いや、俺の異能は、祖父さま、、、―――ううん、いや違うんだ」

 修孝は、訥々と、その言葉の走りの部分はたどたどしいものであったが、


「最初、俺は異能とは思っていなくて・・・。だが、・・・、、、」

 祖父に対して、修孝は、話すうちに頭の中で整理ができてきたのか、すんなりと話せるようになってきたが、でもどこから祖父に話してよいのかそこに戸惑っている様であった―――。

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