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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十三ノ巻
396/460

第三百九十六話 進み出す彼の物語、、、二

「修孝おにいちゃん」

 前を向いて自身に背後を見せた修孝にクルシュは背後から話しかけたのだ。

「なんだ?」

「行晃おじいちゃんが、修孝おにいちゃんを捜してたよ? なんか話したいことがあるみたい」

「・・・そうか」

 修孝は、ふぅん、祖父さまが俺になんだろう、と。


「、、、」

 背後よりクルシュは、修孝の背を見詰めた。

 できるだけ、自身の、このもやっとした気持ちが、その己の氣に乗らないようにクルシュは心がけた。この練られた古豪の氣配を修孝はひょっとすると感じ取るやもしれぬ、と思ったからである。


第三百九十六話 進み出す彼の物語、、、二


 カチャカチャ、、、っと食器を洗う修孝。流しに向かい、自身は千歳に背を向け乍ら、自分が食べた朝食の皿を後片付けをする修孝。


 そのような、修孝を見ていた彼女は―――、

「修孝おにいちゃん」

 ―――、背後から修孝に声を掛けた。


 かちゃかちゃ、っと修孝は今しがた洗い終えたお茶碗をはじめとした食器を、清浄な布巾で拭いては拭いて、拭き終わったそれを伏せていく。その作業中である。

「なんだ?」

 修孝は、皿洗い皿拭きの作業中なので、千歳に振り向かずに答えた。

「千歳ね、お腹すいたの。修孝おにいちゃん甘いのっおやつー♪」

 くいくいっ、っと、クルシュは修孝のズボンの裾を軽く引っ張った。


「え?お前、、、あ、いや千歳は―――、」

 修孝は振り返り、

「―――、朝ごはんはまだなのか?」


「ううんっ。千歳はね、もう食べたの♪行晃おじいちゃんと」


 なんだ食べたのか、と修孝は。

「そっか。じゃあちょっと昼まで我慢できるかな? 今食べると昼ごはんがお腹に入らなくなっちゃうぞ?」

 修孝はなるべく優しくその眼差しを緩めて自分の腰よりも低い背丈の千歳に諭すように答えた。


「ううんっ千歳ねっいっぱい食べて大きくなって、早くみやびちゃんみたいな、おっぱいばいんばいんのお胸になりたいのー♪」


 その千歳の言葉で、修孝は美夜妃の胸を想像、、、いや思い出した。

「―――、っ///」

 修孝内心で赤面。

 だが、その心の動揺を、童女である千歳に知られてはならん、と修孝はその気持ちを表情や言葉に出すことはしない。


「それでね、それでね♪大きくなったらね、千歳は修孝おにいちゃんのおよめさんになるのーっ!♪」

 けたけたけたっ♪と、千歳を名乗るクルシュは、まるで本物の童女のように屈託のない笑顔を、無邪気なその言動で修孝に接する。


 修孝はというと、内心乱された心を切り替え、想像していた美夜妃のことを振り払うと、あーはいはいっと、修孝は、千歳に思考を戻した。

 そして、どうせ千歳という子どもが言っていることだからと思う。

「そうだな、千歳が大きくなったらな、考えておこうかな、はは―――」

 修孝は、愛想笑いの笑みを浮かべるのだった。


「―――(むぅ、、、修孝のやつ、また愛想笑いで儂をごまかし稚児扱いしおって・・・。だが、まぁそこもやつのかわゆいところじゃの)」



///



「ふぅ、、、」

 一方の行晃は、かつての弟子達や今の門弟達に、

“今しがた帰郷し、君達と再会したばかりであるのに、皆達と長く触れ合えない”

 そこのところに、尤もらしく聞こえる適当な理由を挙げて、その場を辞して、孫の修孝捜しに戻った。


 日下邸の外のほうの道場は行った、弟子達の歓迎を受けた。


 日下家の者が己の鍛錬に使う内々の日下宗家だけの道場にも行った、目的の修孝はそこにもいなかった。



「、、、」

 はてさて、我が孫はどこにいったのやら、と行晃は、自身と主であるクルシュ(千歳)と寝泊りをしている離に一度戻り、だが、修孝も自身の主もその離におらず、

「今日は、学び舎は休みのはずだ・・・」

 まだ寝ておるのか? と、行晃は思った。孫の修孝は自身の部屋を持っており、きっと本人もそこにいるだろう、と思って行晃は母屋へと向かった。



///



 一方の修孝はまだ千歳と一緒に台所にいた。千歳が言った―――、

『千歳ね、お腹すいたの。修孝おにいちゃん甘いのっおやつー♪』

 ―――、の、そのおやつ探しである。



 ごそごそ、っと、修孝は棚や引き出しを開けて内容物を確かめるようにまさぐる。

「おかきか。仕方ない、千歳―――、」

 修孝は、台所のものの配置場所をあまり知らないが、そこの棚から、目当てのものを見つけ出した。

「―――、これぐらいかな」

 修孝は、筒のような形状の金属の缶に入ったおかきを手に取った。


「ううん、修孝おにいちゃんっそれあまくないおかきだよーっ。千歳あまいのが食べたいのー」

「・・・」

 違うのか・・・やれやれ、っと、修孝は、棚の真ん中辺り、元の場所におかきを戻した。


 たんっ♪、っと、千歳は、修孝のすぐ脇に、軽快に飛び跳ねてやってきた。

 千歳は右手を上に伸ばして、人差し指で、棚の上のほうを指し示す。

「修孝おにいちゃんっあれー、っ、っ、とってーっ♪」

 ぴょんぴょんっ♪

 ふぁさふぁさ、、、っと、ぴょんぴょん跳ぶ千歳の、その彼女の亜麻色の長い髪が上下に揺れた。



「千歳はね、あれっあのあまいの食べたいー♪ 修孝おにいちゃんっ取ってーっ。千歳届かないー♪」


 背の低いおおよそ修孝の腰ほどの背丈の千歳は修孝を見上げながら、一方で千歳の指の向く先、そこにももう一つの金属製の円筒の形状をした缶が置かれてあった。

 修孝の視線が、千歳の指差す棚の上部を、その金属の缶に向いた。

「あれか?」


「うん♪」


「かりんとうか、、、」

「修孝おにいちゃんっそれっ♪」


 それは、甘いおかし。

 ネコのふんがその由来の、表面に黒糖や砂糖が塗され、もしくは覆われた固くて甘い嗜好品である。


 修孝は、千歳が手を伸ばしても取れない高さにあるその円筒形の金属の缶を取ってあげた。千歳を肩車してやって取らせてあげてももいいが、もし、万が一、千歳を頭上から落としてしまっては一大事である。

「ほら、千歳」

 修孝は、千歳の頭の高さに、自身の視線が来るようにしゃがんであげて、千歳にそのかりんとうが入った金属の缶を渡してあげた。


「わーいっ♪ ありがとーっ♪ 千歳、修孝おにいちゃんだい好きー!!」

 ぎゅっ、っと、千歳は嬉々とした表情で、その小さな身体のその胸元に銀色の缶を、大事そうに抱いた。


「そうか、、、ははっ」

 あぁきっとこの子が好きなのは俺ではなく、かりんとうだろ、と修孝は内心で苦笑交じりだ。


「~~~っ ~~~っ!!」

 う~んっ ふんぬっ!!

 ぷるぷると千歳の身体は、自身の渾身の力、力みに震える。


 千歳は修孝から渡されたかりんとうの入った金属の円筒を、その小さな身体に備わった力で、その力を両手両腕、、、いや体全体に力を入れて、かりんとうが入った金属缶の蓋を握りを開けようとしたが、如何せん、童女の肉体のその力では力不足であり、缶の蓋を開くことができなかった。


 もっとも、千歳は、己のその古豪たる練り込まれた氣力を揮えば、この程度の金属製の円筒など容易に開けることができたであろうが。

 それどころか、古強者のその氣を籠めて握り締めれば、両腕を使い挟み込めば、かりんとうの入った金属製の円筒などいとも簡単にへこみ潰れるであろう。

 しょぼん、、、と、千歳は己の物理的な力のなさに意気消沈。

「・・・、、、」



「、、、」

 そのような千歳の本当に残念そうな様子を観た修孝。そっと、進み出た。

「かしてみな千歳、俺が開けてやる」


 わーいっっ♪

「うんっっ♪」

 修孝からの申し出に千歳の顔に、ぱぁっ、っと花が咲く。



 満面の笑みの千歳からそのかりんとうが入った金属製の円筒を受け取った修孝。

「ふむ、、、―――、」

 修孝は、その円筒の感触をなんとなく確かめたあと―――、きゅっ、ぽんっ、っと、いとも簡単にかりんとうの容器を開けて見せた。

「―――、ほら千歳」

 っと修孝は、笑顔をなるべく心がけ、千歳にそのかりんとうの入った金属製の円筒を渡した。

「わーいっっ♪ ありがとうっ修孝おにいちゃんっ大好きーっ♪大きくなったら千歳修孝おにいちゃんのお嫁さんになるー♪」


 またそれ言うこの子、っと、修孝は内心で苦笑い、

「はは。。。」

 千歳のかわいい大胆発言に、修孝は乾いた笑みを浮かべた。ま、この子はまだ子どもだから今だけそんなことを俺に言ってくれるだけ、と修孝は、冗談半分に思って愛想笑いを千歳に向けるだけだった―――。

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